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第三章 時を埋める季節

3-22 ロッククライミング・パーティ

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 いつ果てるかもよくわからない、長い、永いトンネル。

 パウロとフランコは疲れる素振りも見せずに、グイグイとその天国へと続くかのような、縦向きトンネル式の羅生門を登って行った。

 こんな物を作って人に押し付けるような奴は、まさに鬼、羅刹といってもいいだろう。生憎な事に、そいつは滅多に拝めない貴重な存在である大精霊様という奴であったのだが。

 そして業腹な事にこの門を抜けない事には次のステージには決して辿り着けないのだから。

 筋肉男のフランコに、まるで赤ん坊を体の前にくくりつけるための抱っこ紐でくくったかのような感じにされて運ばれていくナナは、もう所在無げという他はない。

 あるいは飼い主の幼女に大人しく抱かれて前にブランっとぶら下がるしか能がない、達観したかの如くの瞳をした猫のようなものだ。

「この状況で、水とか上から降ってこないといいなあ」

「やめろ、シャーリー。大精霊は俺達の会話など当り前のように聞いているんだろう。リクエストに応えてくれたりしたら、どうするつもりだ」

 パウルは窘めたが、シャーリーは首を竦めて言った。
「それくらい、向こうがやる気なら言わなくてもやってくるわよ」

 ナナことビジョー王女と同じく、まるで救援ヘリコプターからホイストで吊られて救助される遭難者のようにザムザ2に括り付けられているだけという、このような状況下ではいかに史上最年少のSランク冒険者である彼女でさえも他にそうできる事もないような状態だ。

「まあ、ここってそういうベタな手法じゃなくて、ちょっとひねくれたやり方で来る方が多いんじゃないのか。多分、普通のダンジョンって魔物みたいな奴らが主力だよなあ」

 同じくザムザ4と一緒に括られている俺もボヤく。竪穴の中は狭いのでザムザの動きを阻害しないように、また竪穴を登るべく両手を自由にさせようと思ったら必然のスタイルだったので、皆お揃いの無様な格好なのだ。

「ああそうだ。あの地蜘蛛のような、トラップの一部になっているような魔物しか出てこないなんて、もうダンジョンでもなんでもないぞ」

 そのように文句を奏でる奴は、無論同じくザムザ5に括られてしまっているハリーだ。

「お前ら、そういう事で文句を言うのはやめろ。それこそ、『魔物が出なくて物足りないのなら出すか』とか言われかねんぞ。今は魔物が出ないので楽できているんだからな」

 ただのクライミング中の斤量と成り果てた、冴えない表情の姫をパパが赤ん坊を抱っこするようなスタイルで、軽快に上っていくフランコも窘める。

 こいつって、すげえ体力しているな。もう何十メートルも、へたをするともう桁一つ上の距離を登ったはずだというのに。

 これは別に雪山登山のためのパーティじゃないんだからな。いや、これこそまさしくロッククライミング・アンフィニ。

 括られた奴らは、ほぼビバークでもするかのようなスタイルだった。いっそ蓑虫のように寝袋に包まって寝ていた方が有意義だったかもしれん。だが、エレが警告を放った。

「ね、カズホ。何かが来るよ、少なくとも水攻めじゃあないな」
「本当だ。おい、みんな何かが上から来るみたいだぞ、何か音がしないか」

 他の皆も気づいたのか、上を見上げていたが、出口の光も見えないような状況なのでよくわからない。

「え、え? 何が来るのです?」
 だが、他の皆は緊張して耳をそばだてていたので、それに対する返答はなかった。

「これは……このハム音は、まさか!」
「いかん、お前ら。これは蜂の大群だぞ」

「えー、この身動きも碌にできないような状況でかあ。ザムザ1、風魔法で吹き散らせ」

 そして猛き風は吹かれたのだが、おそらく無限大の物量が投入されているのだろう。鴉蜂ではないのだが、スズメバチっぽい感じの奴が押し寄せてきた。

 ほとんどは砕かれた死骸なのだが、そうではない隙間を縫ってやってきた者が、襲撃してきた。

「アイタ!」
 真っ先に刺されたのは、当然の事ながら、あのお間抜け姫だった。

 冒険者などではないので当り前といえば当り前なのだが。そして姫を庇わざるを得ないフランコの場合、それ以降は自分が刺されっぱなしだ。

 仕方がないので、収納持ちで無限大の回復薬在庫がある俺が、メインの回復役を務めた。みんな、ロッククライミング中なので暢気にヒールなどを唱えている場合じゃない。

 俺は収納からポーションの中身を取り出して、上から垂れ流していた。中には死にかけていた魔物蜂がポーションで復活して、そいつに差されていた奴もいるが、そんな事を気にしている場合じゃない。

 ザムザを除いたメンバーの中では後詰めをしていたハリーが大声で警告を発した。
「おい、蜂が下からも来るぞ。ヤバイ、物量で押し潰される」

「ザムザ8・9・10。下の蜂を潰せ!」
 そして、俺は上から落ちてくる蜂の残骸と、下に溜まって押し上げられてくる残骸を収容して、パーティが押し潰されるのをなんとか防いだ。

「なんてひでえ探索だ! 初ダンジョンがこれかよ!」

「カズホ、文句を言っている暇があったら、上の残骸を収納で片付けろ。もうそろそろ、俺の顔が埋まってしまいそうだ」

 これにはパウルもさすがに閉口している感じだ。皆、細かい蜂の粉に塗れてえらい有様だった。下からもハリーの悲鳴が上がってくる。

「カズホ、こっちも蜂の死骸や粉に埋もれちまう。なんとかしてくれ」

「ど畜生~。上からも下からもブロックが攻めてくる二方向ブロック崩しなのかよ!」

 そして、ぎゃあぎゃあ、ひいひいと喚き散らしながらも死に物狂いで蜂を掻き分けて進み、ふいに俺達は竪穴を無事に抜けて地底の岩肌を持ったダンジョン洞窟の床へと、ふいごのような息をしながら寝そべる事に成功したのだった。
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