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第三章 時を埋める季節

3-18 忠義なる者の力

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「さあ、また何かトラップがあるかもしれないから隊列を崩すなよ」

 さっきのような事があったので、俺は念のために姫の前にもザムザ2を出しておいた。いざという時には絶対防御の力で姫を守るのだ。

 元々、この王女を守る目的でザムザ1を出しておいたのに、先頭を任せねばならなくなっているので。

 念のため、最後尾もザムザ3に任せたので、総勢九名の大所帯になってしまった。まあ、前後のザムザは分断されたとしても、やられてしまったりする事はなく、後から追いついてくるだろう。

 人数を増やしたので真ん中で切られるのが怖いのだが。ここのダンジョンの中は妙に明るくて戸惑った。

 他のダンジョンは必ずしもそうではないらしくて、照明の魔道具をギルドから支給されていたのだが、今のところは特に灯りは必要ないようだ。

「なあ、ナナ」
「何よ、ハズレ」

 彼女が第七王女なので、俺は奴にナナというニックネームを進呈し、奴は相変わらず俺をハズレと呼んだ。

「ナナは、勇者の国である日本じゃ可愛い女の子の名前という事になっているんだがな。宝物庫で何をいただいてくる予定なんだ?

 そいつは嵩張るものなのか? 大きな物体で、しかも俺の収納に入らないような特性をもった厄介な代物だと困るのだが。

 何しろ、王家の欲しがる対魔王対策品だし、宝物庫にあるという事は、そういう妙な物品の可能性があるんだよな」

「う、ううん。んーと」
 何か急に、ナナの奴は挙動不審な受け答えになった。

「なんだよ。まさかお前、ここまで来ておいて、実は何を受取ってくればいいのか聞いていないとか言うんじゃないだろうな。子供の使いかよ」

「あー、物は何かというか、名前や何をする物なのかという事はわかっているんだけど、それがどんな形をしていてその大きさがどれくらいのものなのかとか、収納に弾かれるような性質なのかまではわからないわ。

 何しろ、昔の文献にあったものなんだし。私も親から言われて、お使いでここまで来ちゃっただけなんですもの」

「うおっ、なんだそれは。まあそれは別にいいんだが、どんな物なんだ? 差支えがないのなら、一応心構えとして聞いておきたいのだが。俺がそいつの運搬係なんだぜ」

「それは機密なの。王家秘伝の物なのだから。まあ、どうしようもなくて知れてしまうなら仕方がないのだけれど、そうそう言いふらす事はできないわ。

 大精霊に会えれば、私の血を捧げれば約定に従い、一回につき一つならば宝物を渡してくれるはずよ」

「はん、どうせ勇者陽彩に使わせるような物なんだろう。この前、王都の召喚勇者達も魔獣相手にボコ負けだったから当然の話だな。まあそれならそれでいいさ」

「ふふ、自分が貰えなくて悔しいの? 悔しいのね、悔しいんでしょう、このハズレ」

「べ、別に。だって、俺は別にそんな物が無くったって魔人と戦えるんだし、SSSランクの冒険者なんだし」

 こいつもだいぶ弄ってやったので、事あるごとに、こんな感じにつっかかってくるな。まあ、道中これくらいの楽しみは欲しいものだ。

「さあ行くぞ、お前達。まだまだ先は長そうだしな」

「そうねえ、一筋縄ではいきそうもないダンジョンだわ。殺傷力よりもダンジョン製作者のお楽しみ方向に極振りしているんじゃないのかな」

 両親から天賦の才を与えられたスーパー冒険者シャーリーもそのように感じているようだった。そう言いつつ、俺達はダンジョンへと足を踏み入れていくのだった。

 踏み入れたはいいのだが、そこで足が止まってしまった。なんというか、物理的にね。

「うお、足が動かん。なんだ、これは」
「俺の怪力でも足を引き剥がせん」

「あちゃあ、床に張られたトラップゾーンね。先頭の人間が踏むと、パーティ丸ごと動けなくなるもののようよ。でも何の前触れが何もなかったわよ。私の知覚を胡麻化すとはやるわね、大精霊」

「く、なんだこいつは。体が動かんぞ。あらゆる魔法を試しているが、解除できん」

 Sランク魔道士のハリーが呻くが、脂汗を流すだけでピクリとも動けないようだ。まあ大精霊なんてものが相手じゃあ、勇者だろうが魔道士だろうが、さすがに分が悪いよな。

「エレ、なんなんだ、これは」
「これはもしかして、ノームのような地精霊のよく使う得意の地縛りかな」

 俺はじたばたしていたが、ザムザ達は平然としていて言い放った。
「主よ、これは精霊の能力で作られたトラップではない。そこに潜んでいる魔物の能力よ」

「来るぞ、皆の者」
「これは面白い術を使う。我らザムザ軍団を、こうも綺麗に地面に縫い留めるとはな」

 それを聞いて焦るメンバー、いくら強くても身動きもできずに齧られてしまえばどうする事もできない。

「おい、なんとかしろ、ザムザ達」
「「「心得た」」」

 そして前方の壁にあった窪みに、長細く張り付いていた白い大きな袋の中から、のそっと現れたのは凶悪で巨大な前足と顎を持ったもの、それは巨大な地蜘蛛であった。

 よく見てみれば、あれまさしく地蜘蛛の巣じゃねえか、ふざけやがって。

 さてはこいつめ、大精霊の眷属か何かなのだろうか。いやに術が強力で、のっけから大ピンチじゃねえか。

 その図体は通路全面をほぼ塞ぐような、小型トラックほどもある怪物であった。地縛りならぬ地蜘蛛縛りかよ。

「うわ、地下ダンジョンに巣食う怪物としては、これまたベタな奴が来やがったもんだ。う、動けん!」

「シャーリー、ハリー、魔法で叩け!」
 パウルの指示が飛んだが、二人は身動きもできずに苦悶するだけだった。

「ごめん、あたしも魔法が使えないわ。凶悪なスキルね、これは体だけでなくマインドまで縛るものだわ」

「俺も駄目だ。カズホ、なんとかしてくれ」

 この状態では収納した武器は使い辛い。落下武器は高さが足りないから簡単に弾かれそうだし、メテオレインや火薬なんか使ったら、うちのメンバーが無事には済みそうもない。

 一人だけなら絶対防御のスキル頼みで自爆攻撃もやってのけられるのだが。そして今、俺は魔核魔法も放てない状態のようだ。反則だろう、これは。大精霊め、宝物を渡す気あるのかよ!

 しかし、ザムザ達の腕から放たれた風魔法の刃は奴をザクザクに刻んでみせた。
「おお、やるなあ。この状態で魔法スキルを使えるとは、あの力は魔人には通用しないのか」

 だが平然と涼しい顔でこう答えるザムザ1。
「いや? 縛られてはいたが、そこは気合でなんとでもするのだ。主の命であったのでな」

 恐るべし、魔人魂。さすがは魔王軍一の忠義者とまで言われていた奴だけの事はあるな。

 かつては、このような凄まじいド根性魔人の忠誠が魔王に向けられていたのだ。それは王国も勇者召喚くらいしたくもなるというものだろう。
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