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第三章 時を埋める季節

3-9 出立の準備

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「いってらっしゃーい」
「しゃーい」

「気をつけてな、カズホ」
「ああ、もちろんだ。いってきます」

「カズホ様、いってらっしゃいやし」

「おう、留守中は頼んだよ。ゲイルさんから何か頼まれるような事があったら、できる範囲で聞いてやってくれ。あとベンリ村へ行く見習いの子供達も頼むな。何かあったら宝珠で連絡をくれ。ダンジョンの中で宝珠が使えるかどうかもよくわからんのだが」

「お任せを」
「じゃあ、いってくる」

 留守中を戦闘以外では万全に頼りになるこの従者に一任し、俺はビトーまで行くために、子供達へ見せるような感じにふんわりと回りながらゆっくりと飛び上がった。

 高く飛んだ空からでもあの子達がまだ手を振ってくれているのがわかる。

 俺は大空をソニックブームで長大に切り裂き、あっという間にビトーの街へと舞い降りた。
「よし、到着と」

 俺は皮の服とブーツという気楽な格好で冒険者ギルド・オフィスへと入っていった。ロビーには、なんともう全員が武装して集合していた。

「遅いぞ、カズホ」
「ええっ、まだ早い時間だろう」

 時計も持っていないくせによく言うわ。今度時計を作らせてみるか、この世界の時刻に合わせて。

 俺はクォーツの他にも機械式の時計を付けていたからな。王都の職人ならやれるのではないだろうか。

「冒険者なら、仕事当日は夜明けに集合が基本だ」
「聞いてねえよ、そんな説明は」

「ちっ、ギルマスめ。新人にそんな事も説明していないのか」

 そして痺れを切らしたお姫様が切り出した。

「もうそんなハズレ勇者に構っていないで出発しましょう。あの小生意気な兄上どもと、私を軽んじる父上、そして私を袖にしたあの馬鹿勇者を見返してやるのですっ」

 ああ、もう本音を隠すつもりは欠片もないようだな。
「なあ、君はあの勇者陽彩がそんなにお気に入りなのかい?」

「そんな訳がないでしょう~。あんなひょろっとしてパッとしない小僧なんか。大国のパリっとしたロマンスグレーの王様の第七夫人くらいに収まった方がまだマシですわー。王女たる者がコケにされたのが我慢できないだけですわ」

 ああ陽彩の奴、とうとう唯一の取り柄である背の高さまでディスられているじゃないか。まあ、相手は超美少女のお姫様でランクの違いが明らか過ぎるだからな。

 頑張って仲間の女子高生でもくどけよ。あれだって十分にランクの違いがあるので困難なミッションなのだが。

 それにしても王女め、やけに第七に拘っているな。どうやら自分が第七王女である事に対して相当コンプレックスを感じているらしい。

「まあ、お前ら。そう急ぐ仕事でもない。というか、いつまでかかるかわからんような仕事なのだ。

 パウロ、リーダーのお前にこいつを渡しておこう。時を計る魔導具だ。ダンジョンの中は場所によっては明るかったり暗かったり、時間の流れをうまく計れない。そいつが最大で一ヶ月を越える前に帰還しろ」

 それを聞いて少し慌てるビジョー王女。
「しかしギルマス、それでは私の使命が果たせません」

「ビジョー王女よ、それが王国と我々ビトーの冒険者ギルドが合意して交わした契約だ。たとえ王族といえども、それについての異論は認めない」

 そうギルマスから宣告されて唇を噛み締めて黙ってしまった姫に向かって、俺は高笑った。

「はっはー、生憎な事にそこのお姫様の都合はともかくとして、俺はどうしてもそこに行かなくちゃならないんだ。どんな反則をしてでも、そこへ行くぜ。

 俺は王国の宝物なんかに用はねえ。ダンジョンのどこかにいるはずの大精霊ノームとやらに、どうしても会わなくっちゃいけないんだ!」

 それに一ヶ月を越えると、もう冬の気配が近づくので、その前に王都へ連れていかないとチビどもが煩いのに決まっている。

「まあいいのだけれど、それなら頑張ってクリアしてくれ。ギルドとしても割のいい仕事だから完遂したいし、また王国からの信用にも関わるのでね」

 パリっとした格好はしていても、中身は特級の腕利き冒険者であるギルマスは、俺がいなければ自分がチームを率いたのではないだろうか。ここ一番といった感じの仕事なのだから。

「カズホ、上の倉庫に用意した荷物を運んでくれ」
 パウルに言われて案内された倉庫へ行ったら、そこには物凄い大量の物資が山積みになっていた。

「おい、やけに荷物が多くないか?」
「ああ、大半はお姫様用の物資さ」

「ああ、なるほど」
「早くおし、この荷物持ち勇者」

「あっはっは、へいへい」
 そして一瞬にして仕舞い込むと、全員に向かって言った。

「さあ行こうぜ、ダンジョンへ。初めての冒険の始まりだ」
「気楽だな、お前。ダンジョンは舐めるとヤバイぞ」

「まあ、こいつがいるとかなり助かるはずさ」
「頑張れよっ、荷物持ち勇者」

 なんだかんだ言って、全員Sランク冒険者なのだから余裕そうだな。俺の気楽な掛け声に一番顔が引き攣っているのは当然の事ながら、あの残念姫だった。
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