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第三章 時を埋める季節

3-3 忠節の騎士

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「やあ、騎士カイザどの、これは御久しい」

 何故か部屋へ入っていくなり、ギルマスは用があったはずの俺ではなく、たまたまおチビ達の保護者として、付き合いで一緒に来ただけのカイザに挨拶をした。

「あれ、二人とも知り合いだったの?」

「ああ、二人とも元は貴族の子弟だったからな、王都時代の知り合いさ。今はしがない辺境の騎士と、向こうは冒険者ギルドのギルマスだ」

 そういや、カイザに通信の宝珠を見せた時に、ここのギルマスの事を知っているような口ぶりだったな。

 おチビ達は、そんな彼らをしたからきょときょとしながら見上げていた。ギルマスはそんな子供達を優し気に見下ろしながら声をかける。

「やあ、君達がカイザの子供達だね。ビトーの街へようこそ」
「こんにちは!」

「なの~」
 もう。まるで二人で一組みたい挨拶だな、今度ちゃんとした奴を教えるか。

「よく来たね、カズホ。もうすぐ仕事に呼ぼうと思っていたのだが、君の方から来てくれるとは。それに、よもやカイザ殿を連れてきているとはな」

 何か意味深な事を言っているギルマス。
「ねえ、二人はどういうお知り合い?」

「彼は王都アイクル侯爵家の跡取りだったが、王命を拝して辺境での任務へ一介の騎士として旅立った。

 それは強制ではなく断る事もできたが、彼はそれを受けて任務に赴いた。誰もやりたがらないような仕事だし、必要なのかどうかもよくわからん仕事だ。

 前任者の、島流しのように置き去りになった引退した伯爵の監視官は高齢が祟り現地で亡くなった。

 王は早くから勇者召喚も念頭に置かれていたのだろう。アルフェイムの地に何かあってはと、頼りになる者をアルフェイムに置いておきたかったのだ。

 アイクル家は、ちょうど家督を継がねばならぬ大切な時期だったが、それは弟に譲りカイザ殿は家を出た。

 まあ、結果的にその甲斐はあったというわけだが、その事はおそらくアイクル家からは快く思われておらんのだろうな」

 ギルマスは俺の方へチラリと一瞥をくれ、カイザに慈愛の表情を振り向けた。

 俺は思わずカイザを見た。武骨で自分の風体などにはあまり気を遣わず、忠義で子煩悩で俺のような者にまで気を配ってくれる、自ら野に埋もれる事を選んだ男。

 王都にいれば、侯爵家の当主であれたものを。忠義でないのは他の連中も同じなので、断っても特にペナルティなどないはずだが。

 カイザはともかくとして、おチビさん達が不憫だな~。まあ元気いっぱい楽しくやっているようだが、王都と焼き締めパン村と、どっちの生活がよかったのかねえ。だがカイザは言ったのだ。

「まあ、そういう君とても、公爵家の一員でありながら跡継ぎの兄が犯した身に覚えのない罪を被り、王都から大人しく追放されたのではないか。

 証拠は握っていたから告発する事もできたものを。あのロクデナシの跡継ぎ殿は今頃どうしていらっしゃる事か」

「え、それはどういう事?」
 カイザは顔を顰め、ギルマスもそれに応えるかのように苦笑した。

「彼、ドレイクはな、非常に立派な人物であり他家からの信頼も大きかった。だが、彼は公爵家の三男に過ぎなかったのだ。

 次男は病弱でな、フランツェス公爵家は嫡男をそのまま後継においた。多くの貴族も王家の方も嘆いたが、家の決定には部外者も口は挟めん。

 王も彼に公爵家を継いでほしかったのだろうよ。公爵家というのは、王家に何かあった時には成り代わって国を治めねばならぬ。

 フランツェス公爵家はその筆頭公爵家であり、当然我が王としては立派な人物に担ってほしいだろうさ。

 だが、実際には生憎とそうはならなかったというよくある話だ。そして、大人しく黙って罪を被った彼に与えられた職は、ここのギルドマスターだった」

「うわあ、じゃあ今ここにいる三人って!」
 全員もれなく追放されたり、冷や飯を食わされたりしている人間ばかりじゃないか~!

 俺の顔を見て再度自嘲の笑みを浮かべる二人。そして、一緒に部屋にやってきた幹部冒険者達も言った。

「最初はな、カズホ。元は公爵家の子弟と聞き、どんな優男が都から堕ちてきたかと、冒険者達も小馬鹿にしていたんだがな」

 ニヤニヤしながら話を切り出したのはほかならぬパウルだ。続けて筋肉男のフランコが、悪そうに、くっくっくと笑いながら言った。

「それがなかなかどうして。ギルマスは荒ぶる俺達に向かって、男前の笑顔でこう言ったもんさ。

『どうした、お前達も男なのだろう。新しく赴任した上司に体で挨拶をしなさい。全員、纏めてな』

 そりゃあもう俺達としては狂喜したよ。こんなに話のわかりそうな上司が来てくれたとは。前の野郎が上前をはねるだけの悪党だったんでなあ。それまたもう全力でいかせていただいたもんだ」

「ところがなんとまあ、何が起きたかよくわからないまま、俺達全員が床にキスする羽目になっていたのさ。

 後で聞いたら、このドレイク様と来た日には文武両道で、剣に体術、魔法に魔道具を使いこなし、王都において他に並ぶ物なしの傑物ときたもんだ。

 ついた二つ名は『隻腕ドレイク』、つまり誰が相手だろうと片腕で十分ってな。実際に俺達は全員でかかっておきながら、彼に両手を使わせる事ができなかったのさ。

 ギルマスは次期騎士団長として王国騎士団からも渇望されていたのだという話なのになあ。それを聞いた俺達も、皆で涙したもんだ。

 今は魔王との戦いで劣勢の王国軍も苦しい所だが、まあ今更返せといっても、うちの大将を王都へは絶対に返さないぜ」

 今日は素面のドランク・ハリーが話を締めくくった。

「この王国……何やってんの。本当にあの王様も気苦労が絶えねえな」
 もしかして、あの焼き締めパンは王様にとっては精神安定剤みたいな物なんじゃないの。

「いや今現在、その王の気苦労を更に増やしている人間が紛れもなくお前なのだが」

「それがまた、よりによって私のギルドに所属する事になろうとはな」

 そこの都落ち二人組が何気に酷い事を言っているな。特にギルマス、俺ってあんたに誘われたから、ここのギルドに来たんだよね⁉

「そしてな」
 と更に続きを話し出したパウル。

「あの歓迎の裸踊りなんだが、『俺は王都を追放された、この身一つ以外は何も残ってない男だ。こんな感じにな。お前達、どうかこれから裸一貫の付き合いでよろしく頼む』と、今まで着ていた豪奢な服を脱ぎ捨てて、テーブルに上ったギルマスはそのまま踊ったもんさ。

 当時はもう半ばヤケだったのかもしれんがね。もちろん、俺達もそいつに乗った。というわけで、あれはギルマス直伝の、仲間になった奴との恒例の挨拶なのだ。

 あれが踊れねえ軟弱者に、うちのギルドの敷居は跨がせねえぞ。カズホ、お前は間違いなく合格だあ!」

「そ、それは知らなかった‼ だが、小さな子供の前でだけは、絶対にそいつはやらせんからな!」
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