151 / 313
第二章 はずれスキルの冒険者
2-78 宴の終わり
しおりを挟む
逃げたくても逃げられない、永遠とも思える時間を止めもさされずに嬲られるだけの怪物群。
勇者達はとうに、安全な陽彩選人の陣に引き上げて一緒に守られており、全員もれなく所在無げにしている。
俺を思いっきり馬鹿にしていた連中も、茫然としてこのあまりにも無慈悲な戦いに目を向けており、また俺の方をチラチラと見上げていた、街で俺と出会ったあのヤンキー連中は、こそこそと他の連中の後ろに隠れようとしている。
「男子三日会わざれば刮目して見よ。昔の諺っていい事を言うわよね」
「まったくだ、THE LONGESTWAY ROUND IS THE NEARESTWAY HOME.とでもいうのかな。一番遠い道が一番の近道さ」
「いや、それちょっと違わなくない?」
だが、ミールは俺の眷属達の手によって滅びまでの遠い道を歩かされていた。
もう面倒なので、ザムザ達に魔核や素材はどんどん目の前に運ばせていた。
そして、巣に拾得物を運び込む蟻の行列のように彼らは並び、俺はそれをまるで収穫を捧げられる王のように受け取り、次々と収納していった。
討伐中の眷属どもも、まるで死にかけの獲物を無慈悲に解体して巣へと運び込む蟻の群れの如くであった。
片一方の魔人ザムザは蟻じゃなくて蟷螂なんだけどな。永遠とも思える収穫祭を退屈に感じたものか、泉がこんな事を言い出した。
「ねえ思うんだけどさ、あたしらもう宙に浮いている必要ないんじゃないのかな」
「あーそれ。それは俺が下の連中と顔を合わせたくないだけ。どうせ王国関係者からは口煩い事を言われるに決まっているし、あの俺を見下していた腐れヤンキーや威張ったおっさんなんかの顔も見たくねえの!」
「ああ、そういやそうだったね。わかった、空中でデートしていましょ。いいけど、なんかお腹が空かない? もうお昼だし、今度デートの時にどうかと思ってサンドイッチを作って収納に仕舞っておいたのよ」
「お、いいねえ。うわ、美味しそうじゃん」
「へっへえ、今こういうのが王都ではやりなのよ。ローストビーフ風のお肉とたっぷりの葉野菜を挟んで、この流行りのソースをね」
俺は泉に食べさせてもらって評してみた。
「うん、美味い。このパン、もしかして勇者がパン屋に作らせてる? 外国資本の高級ホテルのサンドイッチ用パンみたいにしっとりして柔らかいな。それにこのソースは、もしかしてグレービーソースなのか?」
「そうそう、お肉料理の万能ソースよー。実はこれ、あの坪根濔さんが作らせているのよ」
「なんと! 坪根濔の姐御、すげえなあ。うーん、美味い!」
だが、この無限のデスマーチも、やはり永遠とはいかなかったようだ。
「ねえ、一穂」
「ん、何?」
俺は美味しい空中ランチを終えて、上等な陶器製の器に注いでもらったお茶へと進んでいたのだが、泉に声をかけられたので胃袋に集中していた血液を少し頭に戻す格好となった。
「あれ見て、なんか様子が変だわ」
「どれ。あ、本当だ」
ミールの奴め、なんだか少し縮んでいるような? 俺の気のせいだろうか。それに数もさっきより減りだして、見た目も動きも何かこう弱々しい気がする。
「これは、まさか! いかん、ザムザ、ゲンダス、少し手加減を。そいつもう死にそうだぞ」
『いいから、さっさと魔獣を討伐しろよ、一人だけ飯まで食っていやがって』という視線の対空砲火の嵐は無視して俺は焦りまくっていた。
この無限魔獣牧場を失う事を俺は本当に恐れていた。だが、エレは冷徹な宣告をしてきた。
「カズホ、もう終いにしな。あいつもう完全に弱っているから死に物狂いで包囲から逃げるよ。今度は姿を現さずに、残った分身もろとも地中からゲリラ戦略に出るから、王都が壊滅する。もう散々素材も疑似魔核も手にしただろう。そろそろ勇者としての務めを果たすんだね」
「チッ、なんて忌々しい奴だ、このくらいの攻撃で参るとは軟弱者め。ちったあ、うちのザムザを見習えや。仕方がねえ、まだ遊びに連れてこないうちにこの王都が灰になったら、あのチビ達に怒られちまいそうだし。眷属ども、まず分身を全部狩れ。本体を先にやると分身は消えちまうそうだから」
そして弱っていた百体ほどの分身の群れは残らず八つ裂きになった。俺の言いつけ通りに大きな破片に切り刻まれて。そして残った本体が最期に言い残した。
「おのれっ、このハズレ勇者めが。だが忘れるな、我は四天王の中では最弱なりっ」
そしてその言葉を最後に蠅か雲霞のように群がった俺の眷属達の手により、奴の甲殻の色同様の真っ黒な巨大魔核が抉りだされて、恭しく差し出す眷属から俺に捧げられた。
そして、こいつの装備は『地突』で、地面に潜る時に頭に装着する物らしい。
こいつの魔核から得た情報によると、それの素材は奴の甲殻よりはるかに頑丈な物で、地面に潜る時に装着するようだ。
こいつを加工したら神の杖を遥かに超える究極の大気圏突入投下槍の出来上がりだな。それは暫定で『ミールの杖』とでも呼んでおくかね。
勇者達はとうに、安全な陽彩選人の陣に引き上げて一緒に守られており、全員もれなく所在無げにしている。
俺を思いっきり馬鹿にしていた連中も、茫然としてこのあまりにも無慈悲な戦いに目を向けており、また俺の方をチラチラと見上げていた、街で俺と出会ったあのヤンキー連中は、こそこそと他の連中の後ろに隠れようとしている。
「男子三日会わざれば刮目して見よ。昔の諺っていい事を言うわよね」
「まったくだ、THE LONGESTWAY ROUND IS THE NEARESTWAY HOME.とでもいうのかな。一番遠い道が一番の近道さ」
「いや、それちょっと違わなくない?」
だが、ミールは俺の眷属達の手によって滅びまでの遠い道を歩かされていた。
もう面倒なので、ザムザ達に魔核や素材はどんどん目の前に運ばせていた。
そして、巣に拾得物を運び込む蟻の行列のように彼らは並び、俺はそれをまるで収穫を捧げられる王のように受け取り、次々と収納していった。
討伐中の眷属どもも、まるで死にかけの獲物を無慈悲に解体して巣へと運び込む蟻の群れの如くであった。
片一方の魔人ザムザは蟻じゃなくて蟷螂なんだけどな。永遠とも思える収穫祭を退屈に感じたものか、泉がこんな事を言い出した。
「ねえ思うんだけどさ、あたしらもう宙に浮いている必要ないんじゃないのかな」
「あーそれ。それは俺が下の連中と顔を合わせたくないだけ。どうせ王国関係者からは口煩い事を言われるに決まっているし、あの俺を見下していた腐れヤンキーや威張ったおっさんなんかの顔も見たくねえの!」
「ああ、そういやそうだったね。わかった、空中でデートしていましょ。いいけど、なんかお腹が空かない? もうお昼だし、今度デートの時にどうかと思ってサンドイッチを作って収納に仕舞っておいたのよ」
「お、いいねえ。うわ、美味しそうじゃん」
「へっへえ、今こういうのが王都ではやりなのよ。ローストビーフ風のお肉とたっぷりの葉野菜を挟んで、この流行りのソースをね」
俺は泉に食べさせてもらって評してみた。
「うん、美味い。このパン、もしかして勇者がパン屋に作らせてる? 外国資本の高級ホテルのサンドイッチ用パンみたいにしっとりして柔らかいな。それにこのソースは、もしかしてグレービーソースなのか?」
「そうそう、お肉料理の万能ソースよー。実はこれ、あの坪根濔さんが作らせているのよ」
「なんと! 坪根濔の姐御、すげえなあ。うーん、美味い!」
だが、この無限のデスマーチも、やはり永遠とはいかなかったようだ。
「ねえ、一穂」
「ん、何?」
俺は美味しい空中ランチを終えて、上等な陶器製の器に注いでもらったお茶へと進んでいたのだが、泉に声をかけられたので胃袋に集中していた血液を少し頭に戻す格好となった。
「あれ見て、なんか様子が変だわ」
「どれ。あ、本当だ」
ミールの奴め、なんだか少し縮んでいるような? 俺の気のせいだろうか。それに数もさっきより減りだして、見た目も動きも何かこう弱々しい気がする。
「これは、まさか! いかん、ザムザ、ゲンダス、少し手加減を。そいつもう死にそうだぞ」
『いいから、さっさと魔獣を討伐しろよ、一人だけ飯まで食っていやがって』という視線の対空砲火の嵐は無視して俺は焦りまくっていた。
この無限魔獣牧場を失う事を俺は本当に恐れていた。だが、エレは冷徹な宣告をしてきた。
「カズホ、もう終いにしな。あいつもう完全に弱っているから死に物狂いで包囲から逃げるよ。今度は姿を現さずに、残った分身もろとも地中からゲリラ戦略に出るから、王都が壊滅する。もう散々素材も疑似魔核も手にしただろう。そろそろ勇者としての務めを果たすんだね」
「チッ、なんて忌々しい奴だ、このくらいの攻撃で参るとは軟弱者め。ちったあ、うちのザムザを見習えや。仕方がねえ、まだ遊びに連れてこないうちにこの王都が灰になったら、あのチビ達に怒られちまいそうだし。眷属ども、まず分身を全部狩れ。本体を先にやると分身は消えちまうそうだから」
そして弱っていた百体ほどの分身の群れは残らず八つ裂きになった。俺の言いつけ通りに大きな破片に切り刻まれて。そして残った本体が最期に言い残した。
「おのれっ、このハズレ勇者めが。だが忘れるな、我は四天王の中では最弱なりっ」
そしてその言葉を最後に蠅か雲霞のように群がった俺の眷属達の手により、奴の甲殻の色同様の真っ黒な巨大魔核が抉りだされて、恭しく差し出す眷属から俺に捧げられた。
そして、こいつの装備は『地突』で、地面に潜る時に頭に装着する物らしい。
こいつの魔核から得た情報によると、それの素材は奴の甲殻よりはるかに頑丈な物で、地面に潜る時に装着するようだ。
こいつを加工したら神の杖を遥かに超える究極の大気圏突入投下槍の出来上がりだな。それは暫定で『ミールの杖』とでも呼んでおくかね。
41
お気に入りに追加
343
あなたにおすすめの小説

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️

S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる