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第二章 はずれスキルの冒険者
2-71 勇者の本懐 スキル『本日一粒万倍日』
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そして朝がやってきた。俺は座ってチビ達を抱いたまま毛布を被った状態だ。そのままの格好で三人で寝てしまったらしい。
嵐はまだ吹きすさんでいるが、夕べほどではない。しかし、すぐに止む気配はない。
「ねえ、お父さんは?」
「さあ、どこか見回っているのかもしれないな。怪我とかしなければいいんだが」
「嵐、早く止まないかなあ」
「ああ、早く止むといいな」
それから、お昼御飯は女将さんのカナッペで済ませて、一日まんじりともせずに過ごしたが、やがて夕方になって嵐は止んだ。
俺は日が傾いた中で、子供達と一緒に家の外へ出て、フォミオが建てていた小屋で彼を呼んだ。
「フォミオー」
「はいはい、いやあこれまた凄い嵐でやんしたねー。ほら、うちの小屋も屋根が飛んでしまいやした~」
「なにー!」
「嘘ですよー。まだ屋根はついていませんでしたので」
「ああ、そういやそうだったな。うっかり引っかかってしまった~」
俺達の主従コントに子供達も少し強張っていた顔が和らいだ。さすがはフォミオだな、この心遣いが憎い。
「ところで、御用は?」
「ああ、ちょっと子供達を預かっていてくれ。カイザもまだ戻っていないから。少し気がかりな事があるんだ」
「了解しやした。あまり遅くなられるようでやしたら、子供達には先に御飯を」
「ああ、頼むよ」
「いってらっしゃーい」
「しゃーい」
俺は子供達に手を振り、その場で飛空のスキルを使ってみせた。カイザが帰ってこないのは、もしや!
「なんて事だ……これは」
悪い事に、俺の予想は当たってしまっていた。村の畑は壊滅状態だった。
なんというか、ほぼ全滅である。なぎ倒され、吹きとばされ、そこに倒れ伏す麦穂はほぼ天然脱穀状態だ。
少しばかり倒れずに踏ん張っている根性のある麦穂が散見される程度だ。これはもはや村祭りどころではない、へたをすると辺境に飢饉が起こりかねないクライシスだった。
魔王軍と相対する人間の王国に、そこまで対応できるだろうか。ただでさえ、この王国は勇者関連で財政を圧迫されているのではないか、こいつはマズイ。
村の人間も総出で走り回っている。そして、カイザもゲイルさんと一緒に深刻な話をしているようだった。俺は更に高度を上げていったが、周辺の村々もすべて駄目そうだった。
「地方丸ごとやられたか。こいつはもう試してみるしかなさそうだな」
俺はやや困難なミッションに眉を顰めるしかなかったのだが、諦めてカイザの元へと降下したが、奴が慌てていた。
「うお、お前なのか。空から来たから魔人かと思って驚いたぞ」
「へ、異世界の勇者を舐めるなよ。カイザ、ちょっと付き合え。俺の本当の力を見せてやろう」
「なんだと?」
だが俺は有無を言わさずに奴を肩抱きにして飛び上がった。
「うわわわ、何をする、カズホ」
「お前は王国の役人として、これを見届けないといけない。さあ、その眼に焼きつけろ、この国の現状を。そして、今この国の民の心を脅かす惨状を」
俺は飛空のスキルでカイザを守りながら上昇していく。黄昏の落日の刻を前に、カイザもそれを見届けた。
惑星の丸みを激しく感じられるほどに十分に高度を取ったので、枯れた畑の暴風被害地区をすべて地平線までに収める事ができた。
麦のなぎ倒された畑は、この高さからでも色は変わって見え、それはカイザにもよく理解できたようだった。
「ううっ。全滅だ、見事なまでに広大な畑が壊滅している。こ、これはえらい事になるぞ」
青ざめるカイザに向かって、俺は満面の笑みを浮かべながら言い放った。
「初めてやるんだから失敗しても悪く思うなよ。俺の名は麦野一穂、この黄金の季節を彩るこの一つ一つの麦の穂、それが俺の名の意味だ。
そして、俺のスキル名は『本日一粒万倍日』 一粒の種が撒かれて万の粒となって還るという意味だ。
では行くぞ、スキル『本日一粒万倍日』発動、この地方の嵐でやられた畑、それらを全て復元せよ。一粒万倍せよ、一穂を万穂とせよ。
どこの畑にも、この暴風嵐にも耐えきって決して折れない一穂がいるだろう。この俺のように!
それらの雄々しき英姿に報いよ、我がスキル。その彼らの心に魂に。そして不屈の命の光を称えよ。一粒万倍、一穂万倍、これぞ勇者麦野一穂の真の力なり!」
スキル発動に驚愕するカイザと発動者である俺を包み込むように、その暖かい真っ白な霊光は遥か足元のこの村の畑を中心に発し、そして三百六十度広がっていき、『高空で回転する俺の視界の中にある地平線まで』の全ての畑へと命の耀きは満ちた。
世界は祈りの虹彩に包まれて、そして黄金の福音がスキルの行き渡る範囲の世界を隅々まで満たしていった。
へえ、今日のスキルの効果は俺の念が籠ったものか、いつもとは異なり、また何か物凄いレバレッジがかかっているんじゃないのか。
もしかしたら高高度から発動したので、スキルの効果も届く範囲が増大して拡大したのかもしれないな。
「なあ、カイザ。世界でもっとも美しい光景だと思わないか。麦穂が頭垂れる黄金の麦野って奴はよ」
「こ、こ、これは!」
「一面の麦野、一面の麦野、一面の麦野、黄金の海に世界は満ちた。これぞ我がスキル『本日一粒万倍日』の神髄、其は万年豊作相当にして我が名に由来持つ、勇者麦野一穂の本懐なり!」
この辺境に村人達の歓喜の声が響き渡る。
美しい夕暮れの紅陽に彩られた村々には黄金の麦波が大地の詩を謡っていた。
その命の歓喜に満ちた美しい光景を、俺とカイザは地上数キロメートルの高さから、お互いに口を開く事もない沈黙の宴の中で、いつまでも見守っていた。
嵐はまだ吹きすさんでいるが、夕べほどではない。しかし、すぐに止む気配はない。
「ねえ、お父さんは?」
「さあ、どこか見回っているのかもしれないな。怪我とかしなければいいんだが」
「嵐、早く止まないかなあ」
「ああ、早く止むといいな」
それから、お昼御飯は女将さんのカナッペで済ませて、一日まんじりともせずに過ごしたが、やがて夕方になって嵐は止んだ。
俺は日が傾いた中で、子供達と一緒に家の外へ出て、フォミオが建てていた小屋で彼を呼んだ。
「フォミオー」
「はいはい、いやあこれまた凄い嵐でやんしたねー。ほら、うちの小屋も屋根が飛んでしまいやした~」
「なにー!」
「嘘ですよー。まだ屋根はついていませんでしたので」
「ああ、そういやそうだったな。うっかり引っかかってしまった~」
俺達の主従コントに子供達も少し強張っていた顔が和らいだ。さすがはフォミオだな、この心遣いが憎い。
「ところで、御用は?」
「ああ、ちょっと子供達を預かっていてくれ。カイザもまだ戻っていないから。少し気がかりな事があるんだ」
「了解しやした。あまり遅くなられるようでやしたら、子供達には先に御飯を」
「ああ、頼むよ」
「いってらっしゃーい」
「しゃーい」
俺は子供達に手を振り、その場で飛空のスキルを使ってみせた。カイザが帰ってこないのは、もしや!
「なんて事だ……これは」
悪い事に、俺の予想は当たってしまっていた。村の畑は壊滅状態だった。
なんというか、ほぼ全滅である。なぎ倒され、吹きとばされ、そこに倒れ伏す麦穂はほぼ天然脱穀状態だ。
少しばかり倒れずに踏ん張っている根性のある麦穂が散見される程度だ。これはもはや村祭りどころではない、へたをすると辺境に飢饉が起こりかねないクライシスだった。
魔王軍と相対する人間の王国に、そこまで対応できるだろうか。ただでさえ、この王国は勇者関連で財政を圧迫されているのではないか、こいつはマズイ。
村の人間も総出で走り回っている。そして、カイザもゲイルさんと一緒に深刻な話をしているようだった。俺は更に高度を上げていったが、周辺の村々もすべて駄目そうだった。
「地方丸ごとやられたか。こいつはもう試してみるしかなさそうだな」
俺はやや困難なミッションに眉を顰めるしかなかったのだが、諦めてカイザの元へと降下したが、奴が慌てていた。
「うお、お前なのか。空から来たから魔人かと思って驚いたぞ」
「へ、異世界の勇者を舐めるなよ。カイザ、ちょっと付き合え。俺の本当の力を見せてやろう」
「なんだと?」
だが俺は有無を言わさずに奴を肩抱きにして飛び上がった。
「うわわわ、何をする、カズホ」
「お前は王国の役人として、これを見届けないといけない。さあ、その眼に焼きつけろ、この国の現状を。そして、今この国の民の心を脅かす惨状を」
俺は飛空のスキルでカイザを守りながら上昇していく。黄昏の落日の刻を前に、カイザもそれを見届けた。
惑星の丸みを激しく感じられるほどに十分に高度を取ったので、枯れた畑の暴風被害地区をすべて地平線までに収める事ができた。
麦のなぎ倒された畑は、この高さからでも色は変わって見え、それはカイザにもよく理解できたようだった。
「ううっ。全滅だ、見事なまでに広大な畑が壊滅している。こ、これはえらい事になるぞ」
青ざめるカイザに向かって、俺は満面の笑みを浮かべながら言い放った。
「初めてやるんだから失敗しても悪く思うなよ。俺の名は麦野一穂、この黄金の季節を彩るこの一つ一つの麦の穂、それが俺の名の意味だ。
そして、俺のスキル名は『本日一粒万倍日』 一粒の種が撒かれて万の粒となって還るという意味だ。
では行くぞ、スキル『本日一粒万倍日』発動、この地方の嵐でやられた畑、それらを全て復元せよ。一粒万倍せよ、一穂を万穂とせよ。
どこの畑にも、この暴風嵐にも耐えきって決して折れない一穂がいるだろう。この俺のように!
それらの雄々しき英姿に報いよ、我がスキル。その彼らの心に魂に。そして不屈の命の光を称えよ。一粒万倍、一穂万倍、これぞ勇者麦野一穂の真の力なり!」
スキル発動に驚愕するカイザと発動者である俺を包み込むように、その暖かい真っ白な霊光は遥か足元のこの村の畑を中心に発し、そして三百六十度広がっていき、『高空で回転する俺の視界の中にある地平線まで』の全ての畑へと命の耀きは満ちた。
世界は祈りの虹彩に包まれて、そして黄金の福音がスキルの行き渡る範囲の世界を隅々まで満たしていった。
へえ、今日のスキルの効果は俺の念が籠ったものか、いつもとは異なり、また何か物凄いレバレッジがかかっているんじゃないのか。
もしかしたら高高度から発動したので、スキルの効果も届く範囲が増大して拡大したのかもしれないな。
「なあ、カイザ。世界でもっとも美しい光景だと思わないか。麦穂が頭垂れる黄金の麦野って奴はよ」
「こ、こ、これは!」
「一面の麦野、一面の麦野、一面の麦野、黄金の海に世界は満ちた。これぞ我がスキル『本日一粒万倍日』の神髄、其は万年豊作相当にして我が名に由来持つ、勇者麦野一穂の本懐なり!」
この辺境に村人達の歓喜の声が響き渡る。
美しい夕暮れの紅陽に彩られた村々には黄金の麦波が大地の詩を謡っていた。
その命の歓喜に満ちた美しい光景を、俺とカイザは地上数キロメートルの高さから、お互いに口を開く事もない沈黙の宴の中で、いつまでも見守っていた。
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