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第二章 はずれスキルの冒険者

2-48 九尾の勇者

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 それから、もう一つのゲンダス魔核を取り出して、魔核ホルダーに嵌め込んだ。

「こいつも、パッと見の能力しか見せてもらっていないのだが、実際に使ったらどんな感じなのかねえ」

 そして、俺は両手から水鞭を放ってみた。日本の水鞭に打たれて、あたりの岩場が砕けて弾け飛んだ。

「おっと、こいつもなかなか威力が高いな」
 俺は例の九尾のようなウォーターブレードを引っ張り出した。

 うおお、何かすげえ尻尾が生えてきちゃったぜ。半径三十メートルは伸びたし、まだまだ広がるんだから。

「なあ、エレ。これ、ちょっとばかり、お洒落じゃねえ?」
「アホっ」

「ええっ、つれねえなあ。まあいいや、ほうれほれ」

 俺の『素敵尻尾』が唸りを上げて回転し、後方の岩石が一気に砕かれて、結構ただの岩くれが山ほど発掘できた。まるで人間削岩機だなあ、おもしれえ!

「ちなみに、この岩の中に何か有用な成分がないものかな」
 ちょっと鑑定してみたら、なんと成分にタングステンが大量に含まれていた!

「ヤベえ、何か軍事転用できそうなすげえ元素が発見された!」

 確かこれって米軍の超衛星兵器『神の杖』なんかにも使われる耐熱性の高い『大気圏突破素材』じゃなかったか?

 強力な砲弾なんかにも使われていたような気がするが。こいつでメテオレインの進化版であるタングステン・メテオレインが作れそう。

 さしずめ『神の雨』ってところか。俺は全ての岩からタングステンを目視元素収納して、ホクホクだった。

「これが地球だったら、キログラムあたりの相場はどれくらいだっけ、これ全部で幾らの値段がつくのかなあ~。お宝、お宝」

 そういう狸の皮勘定を妄想するだけでも実に楽しい。

「さて、一通りの訓練は終了したし、帰るとするかあ。だいぶ、のんびりしちゃったから、もしかするとあいつらは先に着いてるかもなあ」

 俺は再び大空の覇者となり、果て無き蒼穹と無限の雲海航路を支配した。

 やがて、あっという間にビトーを通り越し、懐かしい村々が見えてきた。以前は、あそこまで辿り着くのにも苦労したものなのだが。

 まったくゲンダスさまさまだぜ、魔人復活には特殊な魔術式というか、そもそも人間には扱えないものなのではないだろうか。

 場合によっては、魔核となり果てた魔人自らが復活を果たす事もあるのだろうが、勇者の持つ強力な収納の結界の中では奴らも手も足もでないようだ。

 魔力だけで復活させられるならば、俺達召喚勇者の手で復活させられないはずはない。どれだけ魔力を注ごうが、あれはピクリとも反応しなかったのだ。

 今は俺も魔核の力を手にしたので、自力で魔人復活を行なうのも不可能ではないのかもしれない。

「おっ、ショウとフォミオだ。もう村に到着せんばかりだな」

 俺はぐっと低空飛行で近づいて、速度を落として彼らに声をかけた。

 速度を荷馬車に同調させても墜落しないのは飛空スキルのいいところだ。ホバー状態にすれば、レビテーションの代わりにもできる。

 あー、これを利用したエアカーとか作れないものかなあ。いっちょ試してみるか。

「よおっ、早かったな」
「うわっ、びっくりしたー。なんだ、カズホさんか。いきなり空中から声をかけないでくださいよ~」

「はっは、悪い悪い」
 ショウは、かなりの速度で走らせている荷馬車の上で態勢を崩して慌てていた。

「お帰りなさい、カズホ様」
「ああ、ただいま。凄い速さで走れるんだな」

「あはは、今日は子供が乗ってやせんから、速度チャレンジという事で。ただ、街道が整備されていないと、やはり厳しいでやんす。道中、たまにあまりにも酷い悪路の場合は仕方がなく路面を整備してやんしたが、それでも二泊でここまで来られやしたよ」

「へえ、たいしたもんだ。是非街道の整備も、そのうちにしておきたいもんだ」

「それよりも、カズホさんは空を飛べるようになったんですね」

「ああ、ザムザをというか、ザムザ魔核をネームドの眷属化したので、その力を俺も使えるらしい。こいつは最高さ」

「そうですか、それはまた。空を飛べるのは実に羨ましいですね。僕も街道を延々と歩いていると、時々大空を飛ぶ鳥が羨ましくなることがありあます。この季節なんかは、まさにそうですね」

「なあに、ザムザ1に抱っこしてもらえれば、お前さんを王都へ緊急輸送する事も可能だ。あ、ちょっと止まってくれよ」

「うーん、ザムザ1ですか……1ねえ」

 ショウが意味深に呟いたが、俺はにこにこするに留めた。本当に聡い青年だ、しかし決して余計な事は言わない有能さも持ち合わせる、まさに右腕として頼りにすべき男であった。

 俺が命じてフォミオが速やかに荷馬車を停車させたので、俺は例の通信子機宝珠を手渡した。

「こいつは伝説の魔道具で、俺が持つ親機の宝寿と連絡ができる通信の魔道具だ。これは収納に入れておかないでくれ。中に入れてあると時間停止というか、強制的に機能を停止してしまうので通信不能なんだ。これは数に限りがあるから、こいつだけは絶対に無くさないように」

 ショウが目を丸くして、俺から手渡された三センチ大の小さな白いクリスタルのような手の中のそれを見つめていた。

「フォミオ、お前にも渡しておく。それと、こいつを首から下げて落とさないようにできるホルダーを作ってくれ。全部で十個だ。あ、俺の大きいサイズの親機の分も頼む」

 そして、俺の透明な五センチ大の親機も渡しておいた。

「かしこまりました。一番丈夫な素材で、少々乱暴に扱っても落ちないようにしておきやす」
「うん、任せた。いつもありがとう」

「いえいえ」
「じゃあ、帰るか」

 もう村も見えてきたので、俺は荷馬車の上に乗って、フォミオの気合の乗った走りを一緒に楽しむ事にした。
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