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第二章 はずれスキルの冒険者
2-39 回復魔法
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「いいか、カズホ。回復魔法というのはだな、こうして」
パウロの奴は、まるでナントカ波を出すかのように両手で構え、はーっと気合と共にナニカを押し出した。それは仄かな光を伴って冒険者達に襲い掛かった。
「ブホウっ」
それが命中した誰かが妙な声を出して酒を噴いた。おいおい、大丈夫なのか、それは。
「むほっ、なんだか不思議と体調がいいな。ようし、今日はとことん飲むぞー」
「とまあ、こんな感じだ」
なんだそりゃあ。さては仕事よりもそういう使い方をする事が多いのだな。だが、それを見ていたフランコが近寄ってきてチッチッチッという感じに人差し指を振った。
「違うぞ、カズホ。回復魔法はこうやって使うんだ、体で覚えろ」
そう言うなり、いきなり俺に人差し指を『突き刺した』
「ぐはあ、いきなり何をしやがる」
そして奴はニヤリと笑って『血塗れ』の人差し指を俺の眼前に見せつけた。
くそう、それがもし中指だったりしたら、お返しに服の中へ導火線に火の付いた炸裂弾をお見舞いしてやるところだ。
服をまくり上げて傷口を見たら、まるで銃弾で撃たれたかのような感じになっていた。いや銃で撃たれた事など一度もないけれどな。
こいつめ、なんて指をしていやがるのだ。俺はいつかテレビで見た、中国の何かの達人で指を鍛えまくって、指先で堅い冬瓜などを穴だらけにできる人を思い出した。
あいつらも、このフランコみたいな感じにニヤリって笑うんだよなあ。くそう、無茶苦茶にいてえぞ。今まで魔物相手にだって負傷した事はないのだが。
「きゃあ、一穂、大丈夫!?」
「馬鹿、そんな物を人前で見せるな、俺は大丈夫だから!」
泉が慌てて気が動転したらしく『エリクサー』を取り出したので、俺は慌ててそれを収納した。
「いや俺は特に見てはいないが、さすがは勇者だ。面白そうな物を持っているな」
「言っておくがこれ、国家機密だからな、他言は無用だ」
どちらかというと、『国家への機密』なのだが。
奴はクックックと悪漢っぽく笑うと、見なかった事にしてくれたようだ。
「ごっめーん、つい慌てちゃって。でも本当に大丈夫?」
俺はそっと、さっきのエリクサーを泉の手に握らせて微笑んだ。
「大丈夫さ、ほら」
すると、みるみるうちに傷口が塞がっていき、そしてまるで何もなかったかのように元の傷一つない俺の脇腹があった。
「それが回復魔法だ」
「うーん、しかし痛すぎるぞ、回復魔法め。だが、なんとなく魔法というか、こいつを発動するための魔力の流れだけは覚わったような気もするな」
そして、近くで楽しそうに見物していた黒の上下の布製の服を着込んだ男が言った。
「あはは、そいつの教え方はスパルタなんだ。まあお蔭で、誰でもすぐに覚えられるのだが。魔法を通して自分や他者を癒すという基本は同じだからな。それを食らった奴は、その痛みの記憶に使う度に顔を顰めちまうから、自分でもっといいやり方を開発するのさ。ほら、こんな風にな」
そしてその男は目の前で両手を合わせ、まるで忍者が印を結ぶかのように素早く手を動かして、何かのよくわからない文言を唱えていた。
その割と奇天烈な装束と相まって、まるで本物の忍者みたいだな。そしてポワっと体を光らせると、少し恍惚な表情になって、また宴会に戻っていった。
そして例の真っ黒な魔道士っぽい装束の男は、やおら呪文を唱え始めた。お、やっとまともな回復魔法の登場なのか?
「深淵なるものよ、神聖にして敬謙なるものよ。我に潜みし、果て無き力、紫魂の聖光は闇を照らし光の真名に包まれん」
「おー、なんとなくスゲエ呪文っぽい。これはもしかして凄い回復魔法?」
「でも中二っぽいけど、君はああいうの好きそうね」
だが奴の様子が少し変だった。少し呂律が回らない感じで、呪文を唱えっぱなしなのだ。
「なんだあ?」
「無限の慈悲途切れる事なかれ、天の祈り地を照らし、魔なる物鎮めん。雷光真魔撃滅破邪光滅神明……」
「長い」
「意味不明だし。なんか魔物討伐とか邪霊鎮魂みたいな呪文になってきてるよ」
だが、事務所にいた例の秘書らしき女性がやってきて言った。
「彼はお酒に弱くてね。でも宴会は好きなの。こうなると一日中やっているからねえ。そら、ハリー。ヒール!」
彼は一瞬にして正気に返ったようだ。
「は! 俺は一体何を」
そしてお仲間に呼ばれていってまた酒を飲まされて、再び変な呪文っぽいものを唱えていた。
「彼も魔道士としては凄く優秀なんだけどね。人呼んでドランク・ハリーよ」
まるで44マグナムを早撃ちするあの方みたいな二つ名だな。ドランクって、あの魔道士の人は飲むんじゃなくて飲めないんだろうに。
こいつの場合は、飛ぶのは弾じゃなくって中二的で意味のない魔法の呪文かゲロの二択しかないんだろうがなあ。俺は彼女の真似をして唱えてみた。
「ヒール」
回復をかけた相手は泉だ。彼女は少し疲れていた感じの顔色だったのだが、みるみるうちによくなっていった。
「うわ、回復魔法凄い。いやあ、さっきから立ちっぱなしでさあ。あたし、座ってばかりの受付嬢をしていたじゃない。あまり立ち仕事には慣れていないから、もう足がパンパン。あたしも回復魔法を覚えよう。ねえコツは」
「あー、一応栄養ドリンクとか湿布とか? そういうイメージを込めて呪文唱えたというか、魔法名みたいなのを適当に唱えただけなんだけど」
「マジ?」
「ああ、そういう事が魔法の極意なんですよ。勇者さんは強力な魔力と相まって、自分の国のあれこれ発達した物を思い浮かべて、それに呼応するような魔法を強力に使いこなされるようです」
うっわ、まさか核兵器なんかをイメージした魔法を作った奴はいないんだろうな。頼むからそういう魔法を使うのなら他所でやってくれ。できれば放射能は抜きでね。
パウロの奴は、まるでナントカ波を出すかのように両手で構え、はーっと気合と共にナニカを押し出した。それは仄かな光を伴って冒険者達に襲い掛かった。
「ブホウっ」
それが命中した誰かが妙な声を出して酒を噴いた。おいおい、大丈夫なのか、それは。
「むほっ、なんだか不思議と体調がいいな。ようし、今日はとことん飲むぞー」
「とまあ、こんな感じだ」
なんだそりゃあ。さては仕事よりもそういう使い方をする事が多いのだな。だが、それを見ていたフランコが近寄ってきてチッチッチッという感じに人差し指を振った。
「違うぞ、カズホ。回復魔法はこうやって使うんだ、体で覚えろ」
そう言うなり、いきなり俺に人差し指を『突き刺した』
「ぐはあ、いきなり何をしやがる」
そして奴はニヤリと笑って『血塗れ』の人差し指を俺の眼前に見せつけた。
くそう、それがもし中指だったりしたら、お返しに服の中へ導火線に火の付いた炸裂弾をお見舞いしてやるところだ。
服をまくり上げて傷口を見たら、まるで銃弾で撃たれたかのような感じになっていた。いや銃で撃たれた事など一度もないけれどな。
こいつめ、なんて指をしていやがるのだ。俺はいつかテレビで見た、中国の何かの達人で指を鍛えまくって、指先で堅い冬瓜などを穴だらけにできる人を思い出した。
あいつらも、このフランコみたいな感じにニヤリって笑うんだよなあ。くそう、無茶苦茶にいてえぞ。今まで魔物相手にだって負傷した事はないのだが。
「きゃあ、一穂、大丈夫!?」
「馬鹿、そんな物を人前で見せるな、俺は大丈夫だから!」
泉が慌てて気が動転したらしく『エリクサー』を取り出したので、俺は慌ててそれを収納した。
「いや俺は特に見てはいないが、さすがは勇者だ。面白そうな物を持っているな」
「言っておくがこれ、国家機密だからな、他言は無用だ」
どちらかというと、『国家への機密』なのだが。
奴はクックックと悪漢っぽく笑うと、見なかった事にしてくれたようだ。
「ごっめーん、つい慌てちゃって。でも本当に大丈夫?」
俺はそっと、さっきのエリクサーを泉の手に握らせて微笑んだ。
「大丈夫さ、ほら」
すると、みるみるうちに傷口が塞がっていき、そしてまるで何もなかったかのように元の傷一つない俺の脇腹があった。
「それが回復魔法だ」
「うーん、しかし痛すぎるぞ、回復魔法め。だが、なんとなく魔法というか、こいつを発動するための魔力の流れだけは覚わったような気もするな」
そして、近くで楽しそうに見物していた黒の上下の布製の服を着込んだ男が言った。
「あはは、そいつの教え方はスパルタなんだ。まあお蔭で、誰でもすぐに覚えられるのだが。魔法を通して自分や他者を癒すという基本は同じだからな。それを食らった奴は、その痛みの記憶に使う度に顔を顰めちまうから、自分でもっといいやり方を開発するのさ。ほら、こんな風にな」
そしてその男は目の前で両手を合わせ、まるで忍者が印を結ぶかのように素早く手を動かして、何かのよくわからない文言を唱えていた。
その割と奇天烈な装束と相まって、まるで本物の忍者みたいだな。そしてポワっと体を光らせると、少し恍惚な表情になって、また宴会に戻っていった。
そして例の真っ黒な魔道士っぽい装束の男は、やおら呪文を唱え始めた。お、やっとまともな回復魔法の登場なのか?
「深淵なるものよ、神聖にして敬謙なるものよ。我に潜みし、果て無き力、紫魂の聖光は闇を照らし光の真名に包まれん」
「おー、なんとなくスゲエ呪文っぽい。これはもしかして凄い回復魔法?」
「でも中二っぽいけど、君はああいうの好きそうね」
だが奴の様子が少し変だった。少し呂律が回らない感じで、呪文を唱えっぱなしなのだ。
「なんだあ?」
「無限の慈悲途切れる事なかれ、天の祈り地を照らし、魔なる物鎮めん。雷光真魔撃滅破邪光滅神明……」
「長い」
「意味不明だし。なんか魔物討伐とか邪霊鎮魂みたいな呪文になってきてるよ」
だが、事務所にいた例の秘書らしき女性がやってきて言った。
「彼はお酒に弱くてね。でも宴会は好きなの。こうなると一日中やっているからねえ。そら、ハリー。ヒール!」
彼は一瞬にして正気に返ったようだ。
「は! 俺は一体何を」
そしてお仲間に呼ばれていってまた酒を飲まされて、再び変な呪文っぽいものを唱えていた。
「彼も魔道士としては凄く優秀なんだけどね。人呼んでドランク・ハリーよ」
まるで44マグナムを早撃ちするあの方みたいな二つ名だな。ドランクって、あの魔道士の人は飲むんじゃなくて飲めないんだろうに。
こいつの場合は、飛ぶのは弾じゃなくって中二的で意味のない魔法の呪文かゲロの二択しかないんだろうがなあ。俺は彼女の真似をして唱えてみた。
「ヒール」
回復をかけた相手は泉だ。彼女は少し疲れていた感じの顔色だったのだが、みるみるうちによくなっていった。
「うわ、回復魔法凄い。いやあ、さっきから立ちっぱなしでさあ。あたし、座ってばかりの受付嬢をしていたじゃない。あまり立ち仕事には慣れていないから、もう足がパンパン。あたしも回復魔法を覚えよう。ねえコツは」
「あー、一応栄養ドリンクとか湿布とか? そういうイメージを込めて呪文唱えたというか、魔法名みたいなのを適当に唱えただけなんだけど」
「マジ?」
「ああ、そういう事が魔法の極意なんですよ。勇者さんは強力な魔力と相まって、自分の国のあれこれ発達した物を思い浮かべて、それに呼応するような魔法を強力に使いこなされるようです」
うっわ、まさか核兵器なんかをイメージした魔法を作った奴はいないんだろうな。頼むからそういう魔法を使うのなら他所でやってくれ。できれば放射能は抜きでね。
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