上 下
111 / 313
第二章 はずれスキルの冒険者

2-38 歓迎会

しおりを挟む
「はいはい、そこのフルチン冒険者ども! もう料理ができたから、机の上からおりなさーい。あと、これ以降の狼藉は許さないわよ。この勇者青山泉の名にかけて、たった今からこの場所はフルチン禁止ですからね!」

 パンパン、パンパンと、裸踊りに夢中な冒険者(自分の彼氏含む)を追い立てるように両手を鳴らしながら、厨房からワゴンに載せた料理の数々を押してきたフォミオとショウを引き連れて泉がやってきた。

「そのフルチン野郎の中に、お前の彼氏である勇者カズホも混ざっているんだがな」

「はいはい、そこ文句を言わなあい。今更この歳で、彼氏のフルチンに動揺するほど、おぼこ娘じゃありませんので大丈夫よ。

 いいからお前ら、生きたまま皮を剝かれたくなかったら一匹残らず今すぐ服を着ろ。そして、そこの蟷螂頭。足でぐりぐりと踏まれてハリガネ虫をケツから吐き出す羽目になりたくないんだったら、あんたもね」

 ビシっと、主の彼女に指を差され、大人しく服を着始める元魔王軍の魔将軍。

「おお、おお、怖いねえ、女勇者さんは」
「よくあんな怖い女とつきあっているもんだな」

 そして首を竦めてボヤきながら服を着て、料理にかぶりつく冒険者達。俺はそれを楽しく眺めながら、傍らの男に訊いてみた。

「パウル、お前って東部のなんとかいう地方の出身なんだって?」

「ああ、ムアンだ。もう随分と帰っていないな。ああ懐かしい、そこにあるのはムアン名物のムアン・ソーセージじゃないか。熱々で嬉しくなるな。

 こいつがまた美味いんだ。お、ムアン料理の代名詞とも言われた、このムアン・マスタードもあるぞ。いいねえ、やっぱりピリっとくる本場のこいつがなくっちゃよ」

 懐かしい故郷の味に、堅物そうなこの男も思わず顔が綻んだようだ。

「ほら全裸野郎ども、はいどうぞ」

 泉は手慣れたように、先程までの裸男祭りは銀河の果ての出来事であったかのようになかった事にして、お酒を注いで回っていた。

「いやー、さすが勇者はこの程度の事には動じないな」
 俺が褒めると、泉は笑い飛ばして酒を注いでくれた。

「へへん、こう見えても綺麗処の受付嬢ですからね。何かあると忘年会とか、偉い人のいそうなところには連れていかれちゃうんだ。まあ、あの痴態に慣れていればね。あんたこそ、さすが元営業。男芸者っぷりが堂にいっているじゃないのさ」

「ふ、この程度やれなくっちゃ、辺境の勇者も営業社員も務まらねえんだよ、ひゃっはー!」

「まあ、実際にその二つを見事にこなして兼ねているアンタにそう言われちゃ、納得せずにはおれないけどね」

 だが、不屈がソーセージにブスリと、武骨な丈夫なだけが取り柄ですといった趣のフォークを突き立てながら訊いてきた。

「お前は冒険者となって何がやりたいのだ?」

「いや、特に何も」
「なにい?」

「ああ、ギルマスに誘われたから来ちゃったけど、以前は試験や条件が面倒そうなんでパスするつもりだった。なってみたいという気持ちは激しくあったんだがな。

 今、俺の目の前にいる面倒そうな奴のせいで、特別枠のはずだったのに試験っぽい感じになっちまったんだが。第一、俺はこの街の住人じゃあないから、毎日出勤はできないぞ」

 不屈、パウルは呆れたような顔で、まるでフランクフルトのように太いソーセージにガブリと齧りつき、グイっと酒で飲み下した。

「じゃあ、ギルマスはどうやってお前に連絡を付けるつもりなんだ?」
「さー、そんな事はギルマスに訊けよ。なんか考えくらいあるんだろう」

「相変わらず適当だな、あのギルマスは。まあいい、お前の村まで早馬でも飛ばせばすぐに着く」
「でも途中の村に替えの馬なんているのか?」

「何を言っている。そんな物は回復魔法で癒すのに決まっているだろう。人間様の方が休憩しないと持たないからな。何故その程度の事も知らん。って、そういやお前は勇者なんだったな。勇者の国ではどうしているんだ?」

 回復魔法か、フォミオがいないのだったら頑張って習得して馬の練習でもするんだが、馬は乗り慣れていないと落馬事故が怖い。

 回復魔法は欲しい気もするな、ポーションよりもあれこれと使い勝手がよさそうだ。

 俺もその鉄板皿に乗ってジュウジュウとまだ音を立てているムアン名物とやらにフォークを伸ばして突き刺すと、ムアン・マスタードをたっぷりと上に乗せてから説明してやった。

「そうだな。俺の村からここまで二百キロ。移動するのなら通常は電車、そのくらい離れていたら高速鉄道を使うのが一般的じゃないか。

 新幹線も昔は東京大阪間しかなかったが、今は南北にぐいっと伸びてる。あまり離れていると飛行機になるが、東京名古屋間くらいなら飛行機も海外へ行く時の乗り継ぎくらいしか使わないな。

 ああ、リニヤ中央新幹線に乗って見たかったなあ。あれで出張に行くのが夢だったのによ。他に都市間長距離移動は夜行バスという手もあるが、あれはキツイので俺は使わない。

 昔は夜行列車というものもあったが、高速鉄道の新幹線や高速道路の普及に伴ってすたれてしまったな。

 まあ自由にあちこち行きたいというのであれば、高速道路に乗って車でお出かけか。俺は車を持っていないから、現地でレンタカーかな。

 あと同じ地域内なら地下鉄での移動が便利だし、その他の細かいところは市バスだな。俺は仕事で回る先は近場が殆どなので地下鉄と市バス、後は僻地に行く時や荷物がある時は営業車使用といったところだな。

 出張は基本新幹線だ。あと連絡は電話、今は主にスマホかな。自分のスマホもあるが、俺は営業職だったから、会社からもビジネス用の物を一つ支給されていたよ」

「うーん、お前が何を言っているのか、まったくわからん」

「当り前だ、この世界には何一つない代物よ。そもそも、俺の世界で馬なんかに乗れるのは一部の、金を持っていてさらに馬に興味のある特別な奴だけだ。

 あと馬車なんて酔狂な物には大金持ちだって乗っていやいないさ。あれこそ観光用の代物だ。うちの人力車と同様にな」

 生憎な事に、うちの人力車は観光用ではなくて、これしかないというメインの交通手段なのだが。おチビさん達にとってはアトラクション的な要素もあるな。

「そうか、よくわからんが勇者の国は便利そうだな」

 俺は冒険者どもが地下鉄やバス、新幹線や高速道路などで現場に向かう光景を想像して、少し酒を吹いてしまった。

「だが、ザムザ1が手に入ったので、空を行く事も可能になった。まあ基本は一人乗りなのだがな」

「羨ましい事だな。俺達は基本的に馬での移動だ。冒険者に回復魔法は必須だぞ」

「へえ、俺にも覚えられるかな」
「まあ、やってみろ」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった

盛平
ファンタジー
 パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。  神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。  パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。  ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。    

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

処理中です...