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第二章 はずれスキルの冒険者

2-35 冒険者試験?

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「では二人に課題を与える」
「待った」

 課題の説明が始まる前に、さっそく当の本人である俺から物言いがついたのでギルマスが意外そうな顔で訊き返してきた。

「なんだ、お前さんの方から何か提案でもあるのかね?」

「いや、提案じゃあなくて要望ね。俺、まだデートの途中で、まだこれから晩御飯と、あとお泊りコースが残っているんで」

 冒険者どもも、面白そうな流れになってきたため比較的に俺には好意的で、皆で口笛吹いたり指を鳴らしたりして盛大に冷やかしてくれているので、俺も泉を抱き寄せてもう一方の手を振り、剽軽に挨拶してみた。

「こらこらこらこら」
 真っ赤になって抵抗する泉にチュウの真似事をして、その場を盛り上げる。

 この集団ではノリの良さは歓迎されるとみたのだが、どうやら正解だったようだ。酒飲んで騒ぐのは好きそうな連中だしなあ。

 だが、『不屈』は静かにこう言ってきた。
「お前の要望とは」

 チッ、ノリが悪いなあ、こいつは案外と堅物で融通が利かない奴なのかもしれない。俺としては、そういう奴も別に嫌いじゃないんだよ。

 その分は頼りになるし信頼もできるから、仕事の相棒にするならば、はっきり言って大歓迎なのさ。

「ああ、だからスピード決着でケリがつく課題にしてほしいんだ。村にここの御土産が待ち遠しくて仕方がない子供を二人も置いてきていてさー。明日には帰らなくちゃいけなくってね。

 まだ御土産もちょっと買い足りないところなんだ。もう少し何か御土産にはインパクトが欲しいところなんだよな」

 これには相手が呆れるかもと思ったが、『不屈』からは意外と冷静にこう言われた。

「いいだろう。俺も本来ならこのような事に構っている場合ではないのでな。望むところだ」

 おっと、冒険者さんはお忙しいようだ。まあ魔物相手のプロ集団だそうだもの、このご時世では忙しいのも無理はないよな。

 俺だって、素人の分際で魔物とはしょっちゅう接敵しているくらいなのだ。ここの連中は俺とは違い、ここへは専門のビジネスとして一般人からも仕事として持ち込まれてくるのだから。

 そしてギルマスが課題を発表した。
「それではこうしよう。ここから王都まで行って、その証として何か『美味い物』を持ち帰る事。早く帰って来た奴が勝ちだ」

 またしても冒険者の間に爆笑が渦巻いた。そんな勝負で、冒険者が勇者に叶うはずもない。

 そして怪訝そうな顔で俺とギルマスを交互に眺めている不屈。スピード決着と言った端から、ギルマスがこのような事を言い出したもので。

「はい、ギルマス」
「なんだね、カズホ」

「そこにいる俺の眷属は使ってもいい?」
「ああ、別にかま……」

「いいわけがねえだろう」
 不屈の奴は、さっそく文句をつけた。

 事態の推移をみるにつけ、奴も何かこう機嫌が急降下しているようだ。

「あ、そう。じゃあギルマス、俺がまだデートの途中だっていう主張は認められるんだっけ。泉も一緒でいい?」

「ああ、それは別に構わないが」
「不屈、お前は?」

「ふ、女連れのハンデを自ら背負うか。余裕だな、勇者。別に構わないぜ」
 話の流れがよくわかっていない、不屈ことパウルはそう嘯いた。

 お前こそ、王都までどれだけかかると思っているのか。絶対に自分の足で走っていくつもりなのに違いあるめえ。

「そうか。じゃあ戻れ、ザムザ1、ゲンダス1」

 俺は光りながらその姿を消して、魔核の状態で手元に戻って来た彼らをパシっと両手で受け止めてから、軽く手首を振って収納すると、恋人に向かってこう言った。

「じゃあ、泉。だっこして」

 周りはまたもや爆笑し、怪訝そうな顔の不屈、そしてニヤついているギルマスは、話の流れからもう泉の飛空の能力に目星がついているのだろう。

 さすがはこの一癖も二癖もありそうな連中の大将をやっているだけの事はある。

「もう、しょうがないわねえ。ところでそこのアンタ」
「なんだ?」

 泉に声をかけられて、真ん前で笑っていた黒づくめの上下に、また漆黒のマントを羽織った魔道士風のそいつも首を傾げた。

「冒険者って、王都の土産なら何がいいのかしらね」

「俺はサンダの肉だな。あのブランド牛肉は人気過ぎて手に入るかどうかもわからないが、出来れば分厚いビーフステーキといこうじゃないか」

 彼は一方的に自分の好みを主張してみせたが、何故か先程の筋肉男からも注文が入った。

「そうだな。俺はシグナ王国の酒がいい。あそこの酒なら何でもいいぞ。格言にもいう。シグナの雫にハズレ無しとな」

「そうそう、あれはいいよねえ」
 何か重厚そうな感じのさっき泉に声をかけられた魔道士っぽい感じの男がそう言った。

 生憎と買い出し係の俺はハズレ勇者なのだが。もう自分からリクエストする事にした。

「他には?」
 もうみんな段々と先の話がわかってきたとみえて遠慮なく注文が入りだした。

「マグラ豚だな。皮付きのスパイス煮込みがあれば、なおもよし」
 ブランドポークの豚角煮か。その味付けが気になるな、おそらく醤油系じゃああるまい。

「皆、せっかく王都まで買い出しに行くのだから、アグーシャのイモを頼まないでどうするというのだ」

「おー、アグーシャ」
「やっぱり王都といえばアグーシャだな」
「俺は揚げイモで!」

「俺はアグーシャイモのすり身を揚げたイモ煎餅と、あとはそうだな。王都名物アニラ横丁のアデッサの森特産のバーラ鳥の蒸し煮なんかどうだ」
「いいねえ」

 もはや、冒険者試験とは何の関係もない世界へと突入していた。不屈の野郎が、なんだこれはみたいな顔をしていて、この展開についてこれていない。

 不器用な奴め。また俺はそういう奴も嫌いじゃないから困ったものなのだが。

「泉、全部手に入るかな」

「任せといてよ。女の子はみんな、結構食道楽だからね。もしわからなかったら彼女達にも応援を頼めばいいわよ」

「よーし、じゃあ買い物デート第二弾といくか!」
「じゃあ、皆さんいってきまーす」

 そう言って泉は俺を抱きしめたまま、飛行のスキルを発揮し、眼鏡のおじさんが気を利かせてもうドアのところにいて、開けてくれながら見送ってくれた。

「気をつけていってらっしゃい」
「いってきまーす」

「不屈、いえパウルは王国東部ムアンの出身なので、あのあたりの食い物があれば、すぐに機嫌は直りますよ」

「ありがとう、えーと」
「私はここのサブマスでジョナサンです。よろしくお願いしますね、カズホさん」

「いってきます、ジョナサンさん」

 というわけで試験はもう俺の勝ちなので、彼女に抱っこされながら『俺の歓迎会』の買い出しに行くのであった。

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