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第二章 はずれスキルの冒険者
2-22 交渉
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「ああ、あんたは確か麦野だっけ」
「ああ、ゴメン。君の名前は忘れちゃった。あの焼き締めパンのインパクトが大きくって」
まったく、激しく好みの女の子だと言うのになんという不覚だ。それがこの世界へやってきて以来一番の心残りというか、なんというか。
「ああ、いいよいいよ。あたしは受付嬢をしていたから、人の名前と顔を覚えるのは特別得意なのよ。
あの状況だものね、自分を入れて六十人も赤の他人がいたんだから、無理もないわよ。あたしは青山泉、今二十三歳なの。呼び方は泉の呼び捨てでいいよ、あんたは下の名前なんだったっけ」
「一穂だよ、麦野一穂。今二十七歳だ。今にして思えば、この平凡な名が全てを現わしていたのかもしれん」
「ああ、そうそう。勇者カズホだっけ、今ここの街中で評判みたいだね、何のこっちゃ」
「おい、ちゃんとザムザは宗篤姉妹が倒した事になっているんだろうな。一応は俺もやりあったんだけど、まったく歯が立つ相手じゃなかったんだが。
あのスキルは反則過ぎるだろうが。ほぼ采女ちゃんの能力を踏襲している上に攻撃力も別であるんだろう?
俺の攻撃を全部綺麗に受け流して余裕で高笑いしていやがったんで、野郎の能力は全部見ていなかったんだけど、あいつはヤバ過ぎるぜ。よくアイツとやりあって生きていたもんだな、俺」
「そりゃあ、魔将軍なんて呼ばれていた奴なんだもん。あれを倒しちゃうなんて、さすがは最強勇者の宗篤姉妹だわ、半端ないなあ。
まあ、かくいうあたしだってアレの相手をするは絶対に御免よ~。碌な死に方できそうにないんだもん。あいつ、残虐に人間をいたぶるので有名なんだから。あたしのスキルは飛行のみだけど、あいつも空飛ぶし」
まあ飛行スキルだって俺を抱えて童話の鷹と亀みたいに高いところから落とされたら一巻の終わりだ。
どうやらこの美女を怒らせるような展開は無事に回避できたようだった。この子は性格もさばさばしているみたいで、ますます俺の好みだなあ。
「ああ、そうそう。飛行スキルは采女ちゃん以外では、勇者の中じゃああんただけだったよな。まあアイツは蟷螂なんだもん、空くらいは飛ぶよね。まるで死神も同然だった」
思い出してもゾッとするぜ。ザムザの野郎が生真面目に粛々と勇者殲滅を行うタイプだったのならば、俺は今頃こうしてこの子と話してなんかいられなかっただろう。
「お陰様で偵察任務専任みたいなもんよ。あと買い出しが便利な能力だから、しょっちゅう仲間から頼まれるの。今日も半分はそれよ。まあそれは役得も多いんだけどね」
なるほど、それでこのビトーにいるのか。でもこんな可愛い子と会話が弾んで嬉しいぜ、異世界の神様ありがとう、この出会いに感謝します。
「あー、おほん。勇者様同士が再会を喜ぶのはよろしいんじゃが、そろそろ商売の話をせんかね?」
何かこう年老いた魔女としか表現のしようがないようなお方がカウンターにお座りになって、手を組み合わせていた。
また服装もわざとそうしているのだろうというような魔女っぽいスタイルだ。
うっ、これがこの店の主人か、ごうつくばりっぽいオーラがプンプンと漂っている気がする。泉が俺に何か言いたそうな顔をしていたが、一体何だろう。
「こんにちは、おばば様」
そう言ってショウが帽子を取って頭を下げたので、俺も倣っておいた。
だが何故か泉はブスっとして仁王立ちで腰に両手を当てて突っ立っている。
「あんたら、ここへ何をしにきたのか知らないけれど、気をつけた方がいいわよ。その婆さんったら、ガメツ過ぎてマジで腹が立つから。こっちは王様が編成した勇者部隊から、わざわざ買いに来ているっていうのに、まったくもう」
それを聞いてショウが笑って彼女を窘めた。
「まあまあ美しいお嬢さん、こういうところでは、それなりのやり方というか流儀というものがあるのですよ。お久しぶりです、おばば様。いえ、高名なる【錬金の伝道】マーリン師よ」
おおっ、何か凄い中二ネーム来たっ。こちら、なんか凄いお方っぽいぞ。
俺のわくわく顔にチラっと目線を走らせて、マーリン師は「ひゃっひゃっひゃっ」と笑って、むすっとしたままの彼女に言葉を投げかけた。
「嬢ちゃんや、まだまだ青いのう。そこのショウを見習うとよいぞ。そやつは若いのになかなか見上げたものじゃ、そっちの男の勇者もなかなかのものとみたがの」
「どうせ、私は青山ですよーだ」
「はは、まあまあ。俺は営業職でししたから、人とこうして話して交渉する仕事をしていましたのでね。今はこのショウに任せておりますが、その辺りもまあ餅は餅屋という事で。
ねえ、彼はなかなかの物でしょう? こういう人間を部下に持てば、世界中どこでも仕事が上手くいきそうだ。俺も元の職業柄、彼の事は常に褒めざるを得ませんね」
「ほっほっほっ」
彼女はまた体をのけぞらせ気味に楽し気に一頻り笑うと、眼光鋭くこう切り出した。
「では本題に入ろうか。お前様は今日の品に幾ら出す」
これはまたストレートにきたものだな。だが交渉なら任せろ、こう見えてプロなんだぜ。
「あいにくと時価の品物でございますので、相場がございません。それでは取引のためのお見積りをお願いいたします」
「はて、お見積りとは」
「相手にどれだけのお金を要求するかという希望を記した書簡でございます。それを見て発注するかどうか、この場合は購入するか決めるという事ですね。あ、よろしければ現物を見せていただけますか」
マーリン師は再び皺だらけの顔を歪めて嬉々たる笑みを見せると、カウンターの上に二つの小瓶を置いてくれた。
それらは俺が持っている中級のポーションよりもさらに色が濃く、鑑定すると二種類の上級ポーションに間違いはなかった。
「確かに、品物に間違いはありません。ぜひともお譲りくださいませ」
「それではもう二種類の上級ポーションはいかかがかえ」
そして見せてくれた物は、なんと上級マジックポーションと上級の状態異常回復薬だった。
「ああ、ゴメン。君の名前は忘れちゃった。あの焼き締めパンのインパクトが大きくって」
まったく、激しく好みの女の子だと言うのになんという不覚だ。それがこの世界へやってきて以来一番の心残りというか、なんというか。
「ああ、いいよいいよ。あたしは受付嬢をしていたから、人の名前と顔を覚えるのは特別得意なのよ。
あの状況だものね、自分を入れて六十人も赤の他人がいたんだから、無理もないわよ。あたしは青山泉、今二十三歳なの。呼び方は泉の呼び捨てでいいよ、あんたは下の名前なんだったっけ」
「一穂だよ、麦野一穂。今二十七歳だ。今にして思えば、この平凡な名が全てを現わしていたのかもしれん」
「ああ、そうそう。勇者カズホだっけ、今ここの街中で評判みたいだね、何のこっちゃ」
「おい、ちゃんとザムザは宗篤姉妹が倒した事になっているんだろうな。一応は俺もやりあったんだけど、まったく歯が立つ相手じゃなかったんだが。
あのスキルは反則過ぎるだろうが。ほぼ采女ちゃんの能力を踏襲している上に攻撃力も別であるんだろう?
俺の攻撃を全部綺麗に受け流して余裕で高笑いしていやがったんで、野郎の能力は全部見ていなかったんだけど、あいつはヤバ過ぎるぜ。よくアイツとやりあって生きていたもんだな、俺」
「そりゃあ、魔将軍なんて呼ばれていた奴なんだもん。あれを倒しちゃうなんて、さすがは最強勇者の宗篤姉妹だわ、半端ないなあ。
まあ、かくいうあたしだってアレの相手をするは絶対に御免よ~。碌な死に方できそうにないんだもん。あいつ、残虐に人間をいたぶるので有名なんだから。あたしのスキルは飛行のみだけど、あいつも空飛ぶし」
まあ飛行スキルだって俺を抱えて童話の鷹と亀みたいに高いところから落とされたら一巻の終わりだ。
どうやらこの美女を怒らせるような展開は無事に回避できたようだった。この子は性格もさばさばしているみたいで、ますます俺の好みだなあ。
「ああ、そうそう。飛行スキルは采女ちゃん以外では、勇者の中じゃああんただけだったよな。まあアイツは蟷螂なんだもん、空くらいは飛ぶよね。まるで死神も同然だった」
思い出してもゾッとするぜ。ザムザの野郎が生真面目に粛々と勇者殲滅を行うタイプだったのならば、俺は今頃こうしてこの子と話してなんかいられなかっただろう。
「お陰様で偵察任務専任みたいなもんよ。あと買い出しが便利な能力だから、しょっちゅう仲間から頼まれるの。今日も半分はそれよ。まあそれは役得も多いんだけどね」
なるほど、それでこのビトーにいるのか。でもこんな可愛い子と会話が弾んで嬉しいぜ、異世界の神様ありがとう、この出会いに感謝します。
「あー、おほん。勇者様同士が再会を喜ぶのはよろしいんじゃが、そろそろ商売の話をせんかね?」
何かこう年老いた魔女としか表現のしようがないようなお方がカウンターにお座りになって、手を組み合わせていた。
また服装もわざとそうしているのだろうというような魔女っぽいスタイルだ。
うっ、これがこの店の主人か、ごうつくばりっぽいオーラがプンプンと漂っている気がする。泉が俺に何か言いたそうな顔をしていたが、一体何だろう。
「こんにちは、おばば様」
そう言ってショウが帽子を取って頭を下げたので、俺も倣っておいた。
だが何故か泉はブスっとして仁王立ちで腰に両手を当てて突っ立っている。
「あんたら、ここへ何をしにきたのか知らないけれど、気をつけた方がいいわよ。その婆さんったら、ガメツ過ぎてマジで腹が立つから。こっちは王様が編成した勇者部隊から、わざわざ買いに来ているっていうのに、まったくもう」
それを聞いてショウが笑って彼女を窘めた。
「まあまあ美しいお嬢さん、こういうところでは、それなりのやり方というか流儀というものがあるのですよ。お久しぶりです、おばば様。いえ、高名なる【錬金の伝道】マーリン師よ」
おおっ、何か凄い中二ネーム来たっ。こちら、なんか凄いお方っぽいぞ。
俺のわくわく顔にチラっと目線を走らせて、マーリン師は「ひゃっひゃっひゃっ」と笑って、むすっとしたままの彼女に言葉を投げかけた。
「嬢ちゃんや、まだまだ青いのう。そこのショウを見習うとよいぞ。そやつは若いのになかなか見上げたものじゃ、そっちの男の勇者もなかなかのものとみたがの」
「どうせ、私は青山ですよーだ」
「はは、まあまあ。俺は営業職でししたから、人とこうして話して交渉する仕事をしていましたのでね。今はこのショウに任せておりますが、その辺りもまあ餅は餅屋という事で。
ねえ、彼はなかなかの物でしょう? こういう人間を部下に持てば、世界中どこでも仕事が上手くいきそうだ。俺も元の職業柄、彼の事は常に褒めざるを得ませんね」
「ほっほっほっ」
彼女はまた体をのけぞらせ気味に楽し気に一頻り笑うと、眼光鋭くこう切り出した。
「では本題に入ろうか。お前様は今日の品に幾ら出す」
これはまたストレートにきたものだな。だが交渉なら任せろ、こう見えてプロなんだぜ。
「あいにくと時価の品物でございますので、相場がございません。それでは取引のためのお見積りをお願いいたします」
「はて、お見積りとは」
「相手にどれだけのお金を要求するかという希望を記した書簡でございます。それを見て発注するかどうか、この場合は購入するか決めるという事ですね。あ、よろしければ現物を見せていただけますか」
マーリン師は再び皺だらけの顔を歪めて嬉々たる笑みを見せると、カウンターの上に二つの小瓶を置いてくれた。
それらは俺が持っている中級のポーションよりもさらに色が濃く、鑑定すると二種類の上級ポーションに間違いはなかった。
「確かに、品物に間違いはありません。ぜひともお譲りくださいませ」
「それではもう二種類の上級ポーションはいかかがかえ」
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