上 下
88 / 313
第二章 はずれスキルの冒険者

2-15 精霊さんとおやつ談議

しおりを挟む
 楽しい祭りの余韻を残しつつ、俺は村人達に見送られて街へ向かって出発した。

「楽しかったなあ、お祭り。フォミオ、今度綿菓子機を作ろう。あれの加熱する部分を薪を燃やす釜で作れるかなあ。薪だと火力が強すぎるような気がするし」

「綿菓子?」
 ショウが聞き咎めて尋ねてきた。さすが商人だけあって、いい勘してるね。

「ああ、そういうお菓子があってな。綿飴ともいってな、まるで真っ白な綿とか空に浮かぶ雲みたいな形をしたお菓子なのさ。色付きの物もあるから綺麗だぞ。こっちの世界には多分ないだろうな。砂糖の塊みたいな巨大な菓子だから、子供に大人気なんだぜ」

「はあ、まあやってみやすか。よくわからないでやんすけど」
「さあフォミオ、今すぐそいつを作るんだ」

「だからエレ、加熱部分が簡単に作れないんだよ。機構も複雑なものじゃあないが、適切に作らないとうまくできないだろうから、何回も試作が必要だろうよ」

 こいつめ、俺の頭の中から綿菓子のイメージと味や食感を持ち出して、やきもきしていやがるな。焦ったって、そう簡単にはできやしないんだよ。

 りんご飴とか綿菓子は確かアメリカから入ってきたんじゃないんだろうか。そういや、りんご飴くらいなら作れそうだな、りんごがこの世界にあればの話だが。バナナもあればチョコバナナは作れそうだ。

「ええい、なぜリンゴやバナナをこっちに持ってこない、このハズレ勇者め」
「アホか、なんで俺が会社帰りにそんな物を抱えていないといけないんだよ」

 だが仕方がない、こいつで試してみるか。モームの実、日本で言うところのスモモだ。こいつは自生している野生の物だが、日本の品種で言うと『タイヨウ』に近いのではないだろうか。

 完熟させると酸味が抜けるので甘くなるタイプだ。その控えめな味わいがとてもよい果実なのだが、この手の加工にはあまり向いていない気もするのだ。

 ここではリンゴと同様酸味がある方がよいので、完熟していないタイプをスモモ飴に使い、完熟した方をバナナのように甘い物同士を合わせるチョコスモモにしてみる事にした。

 次の休憩には、フォミオの屋台で湯煎にかけたチョコと、別で鼈甲飴を作り、スモモ飴とチョコスモモを試作してみた。

 うーん、やはり味はかなり淡い。スモモも何もないところでは素晴らしい御馳走に思えたが、こうして地球的な味覚として加工してみると今一つだった。

 さすがにリンゴ飴のようにはいかないか。やはり、あれも数ある果物の中からわざわざ酸味の強いリンゴを使う事には訳があるという事だ。

 まあとりあえずの代用品というところだな。リンゴ飴は祭りには綿菓子と並んで欠かせない代物だろうからショウにはリンゴをよく探してもらうとしよう。

「そらよ」
 ショウも新商品とあっては、試さざるを得ない。

 むろん、フォミオにも遠慮なくやってもらう。一人だけ重労働をしているから一番美味しく感じるだろうな。

「うわ、コレどっちもいけるじゃないの」

 本物のリンゴ飴を食べた事のないエレからしたら物珍しく感じるのだろう。多分、村人からも肯定的な意見が聞けそうだな。

「ああ、組合せを間違えると悲惨な物が出来上がるけどな。最近じゃチョコイチゴなんかも多いよ。イチゴならどこかにありそうなものだが、あれに使うのは品種改良されたイチゴだから、野生のベリーだと難しいかもな。あれはジャムにしたりタルトにしたりなんかすると美味しいかも」

「くー、早くイチゴの改良をしなさいよ!」

「あのなあ、無理を言うな。俺はイチゴ農家の人間じゃないんだ。いやイチゴ農家の人にだって品種改良なんて難しいわい。できたって何年も何十年もかかるもんなのさ」

 ショウは真剣な目をしながら両手で食べ比べていたが、思わず唸っていた。

「うーん、美味しい。十分に美味しいのですが、片やあなたしか持っていないチョコで、片や高級品の砂糖、しかも上物を煮詰めた超高価な飴が原料ですかー、凄い商品ですが、商売にするのはきつそうですねえ」

「ははっ、お前も商魂逞しいよな。まあ、そういう事だ。収納袋を仕入れたら、今度から珍しい果物とか見つけたら仕入れてくれ。何かうまく加工すると、採算の取れる商品が作れるかもしれないな」

「ああ、いいですね。また探してみましょう」

 もともと昔は甘味と言えば果物から取ったので菓子と字を書くのだろう。果物からの加工品は大いに期待している。

 フルーツやドライフルーツ各種集めて、フルーツケーキやフルーツクッキーとか作りたいんだよね。おお、そういえばチョコチップのクッキーなんかもできそうじゃないか。

「早く作ろう」
「だー、だから材料がまだないんだよ。チョコチップクッキーや、普通のパウンドケーキはまた作りたいな。あと卵もどこかで仕入れたい」

「さっきの村では普通に卵も手に入りますよ。この先でも手に入りますから。やはり卵を生産して商売のペースにしている村などでないと卵は手に入りにくいです。ベンリ村ではそういう形では作っていませんので」

「そうか、そういや女将さんも卵料理は出してくれなかったな」

「ええ、個人で卵を生産している方も中にはいますが、市場には出回らずに周辺で消費されてしまいますので」

 村へ帰ったら鳥でも飼うか。生きた鳥は収納には入れられないので、今回みたいな時に荷馬車に乗せて持って帰るといいかもしれないな。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった

盛平
ファンタジー
 パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。  神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。  パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。  ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。    

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

処理中です...