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第二章 はずれスキルの冒険者
2-10 ユーモ村の子供達
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俺は鉄板で塞いである穴の縁にしゃがみこんで、外から驚かさないように子供達にそっと声をかけた。
「おーい、大丈夫か。魔物は全て倒したから安心しろ。今外に出してやるからな。いきなり明るくなるから眩しいぞ、ちょっと目を瞑っていろ」
そして俺は鉄板を収納してはずし、子供達は暗黒に満ちた囚われの世界から陽光眩しい、彼らが生まれ落ちた輝く世界に帰還し祝福された。
そして、足元から収納で盛られた土に自動的にエレベーションされて地上に盛り上がったので目を白黒させている。
「お、おじさんは誰?」
う、そう言ったのはもう十歳くらいの子なんだけど、やっぱり二十七歳はおじさんだよな。
結婚して小学生の子供がいたっておかしくない歳なんだから。だが、その隣にいた八歳くらいの女の子が、すかさず彼の脇腹を突いて言ってくれた。
「しっ、アルったら、助けてくれたお兄さんにおじさんなんて言っちゃ駄目! あの、お兄さん。助けてくださってありがとうございます。私はエリーゼです」
俺はちょっとにこにこして二人の頭を撫でてやった。やっぱり、お兄さん呼ばわりの方が嬉しいものなのだ。年下の女の子に窘められて頭をかいている男の子の周りに皆も寄って来た。
「あの凶悪な蜂を前にして立ち向かうなんて、アルはやっぱり勇気があるなあ。さすがは僕らのリーダーだよ」
「フェルも格好良かったよ」
フェルと呼ばれた、やはり十歳くらいに見える少年は無口なのか、ただニコッと笑ってその子の頭を優しく撫でつけた。
駆け寄ってきた仲間の子供達に、リーダー格の子供達は笑顔を向けて、まだ怯えた感じの抜けない年少の子供達の頭を撫でた。そして、そのうちの一人が聞いてきた。
「ねえ、オジ、じゃなかった、お兄さん」
いいんだよ、おじさんでも。だが言い直してくれるところにとても好感が持てるな。
「なんだい」
「お兄さんは魔法使いなの?」
可愛く小首をかしげている金髪の女の子はマーシャと同じくらいの年恰好か。
「いや違うよ。あれこれスキルを使って戦っていただけさ。あまり手強い相手だと戦えないが、蜂は数こそ多いものの、一匹一匹は弱いからどうってことはないさ。
あの針は厄介だからなあ、あの分厚い鉄板にあれほど突き立てるとは。金属鎧を着た騎士でも、あの数でこられちゃあ一溜まりもないな」
子供達は目を丸くしてそれに耳を傾けたが、アルと呼ばれた少年は不安そうにあたりを見渡した。
「ねえ、あの蜂はもう現れないのですか」
「ああ、多分な。あの蜂を生み出していたネスト、蜂の巣は見ただろう? あれは俺が回収し、他の蜂は俺が残らず倒して回収したから大丈夫だ。
俺は前にあれよりも大きなネストを退治した事がある。あれ以来、そこでも魔物は湧いていないから今回も大丈夫だろう。多分原因はわかっているからもう湧かないはずだ」
「原因?」
「ああ、多分王国でやった儀式が原因だろうから、もう心配はないはずだ」
すると少年は考えていたが、フェルと呼ばれた無口そうなもう一人のリーダー格と思われる少年が口を開いた。
「それは王様が喧伝していた勇者召喚の事?」
「ああ、そうだ。村の子供がよく知っているな」
「王様はうちの村にも泊まっていったから。おつきの兵士様や神官様がそう話してくれたよ。帰りにも泊まっていったけど、あなたと同じような勇者と同じ黒髪黒目の人達がたくさん一緒でした。もしかして、あなたも勇者様なのですか」
「ん? あ、ああ、まあ連中と一緒にこの世界に来たんだがなあ」
ハズレ勇者なので捨てられましたとは、今俺が救出してのけたばかりの、この子達の前でだけは非常に言い辛い。
この子達にとって俺は英雄でなければならんのだから。俺は目を泳がせ加減で台詞も次第にトーンが下がってしまったが、いやここは子供達のためにも勇士として相応しくふるまおうではないか。
「あはははは。お、俺は秘密兵器なのさ。こういう事もあろうかと、一人で後詰めを命じられていた遊撃の戦士なんだ。いやあ、君達を助けられて本当によかったよー」
我ながら、いけしゃあしゃあとよく言うなあとは思いつつ。途端に子供達の尊敬の眼差しが俺に集中する。
う、そんな純真な目で見ないでくれ、胸が痛すぎる。この村、もう二度と来れない気がするな。王様が御泊りに選ぶくらいなので、いい村なんだろうから気になるのだが。
「ありがとうございます、勇者様。どうか、村へお越しください。きっと歓迎されますから」
「ああ、今連れが村へ報せに行っているからな。お前達、穴へ落としてしまったが怪我はないか、村まで歩けるか。駄目なら俺の従者を呼ぶが」
「あ、大丈夫です」
でもよく見ると、膝を擦りむいたり、あちこち細かい怪我をしていたりしているようだ。
「お前ら、じゃあ並んでおくれ。怪我の治療をしよう」
大概の子は掠り傷なので初級ポーションで足りたが、アルとフェルは蜂と直接対峙していたため、よく見ると酷く怪我をしていたので中級ポーションを使っておいた。
子供達はポーション初体験らしく、その効能に思いっきりはしゃいでいた。アル達も目を丸くして自分の怪我が癒されるのを目撃していた。
「さあ、村へ行こうか」
俺は子供達に元気が出るようにキャラメルを配給しておいた。
思わぬお菓子との巡り合いに、子供達にとっては魔物の群れと遭遇して命を永らえた事と相まって、幼き日の忘れようもない記念日となっただろう。
「おーい、大丈夫か。魔物は全て倒したから安心しろ。今外に出してやるからな。いきなり明るくなるから眩しいぞ、ちょっと目を瞑っていろ」
そして俺は鉄板を収納してはずし、子供達は暗黒に満ちた囚われの世界から陽光眩しい、彼らが生まれ落ちた輝く世界に帰還し祝福された。
そして、足元から収納で盛られた土に自動的にエレベーションされて地上に盛り上がったので目を白黒させている。
「お、おじさんは誰?」
う、そう言ったのはもう十歳くらいの子なんだけど、やっぱり二十七歳はおじさんだよな。
結婚して小学生の子供がいたっておかしくない歳なんだから。だが、その隣にいた八歳くらいの女の子が、すかさず彼の脇腹を突いて言ってくれた。
「しっ、アルったら、助けてくれたお兄さんにおじさんなんて言っちゃ駄目! あの、お兄さん。助けてくださってありがとうございます。私はエリーゼです」
俺はちょっとにこにこして二人の頭を撫でてやった。やっぱり、お兄さん呼ばわりの方が嬉しいものなのだ。年下の女の子に窘められて頭をかいている男の子の周りに皆も寄って来た。
「あの凶悪な蜂を前にして立ち向かうなんて、アルはやっぱり勇気があるなあ。さすがは僕らのリーダーだよ」
「フェルも格好良かったよ」
フェルと呼ばれた、やはり十歳くらいに見える少年は無口なのか、ただニコッと笑ってその子の頭を優しく撫でつけた。
駆け寄ってきた仲間の子供達に、リーダー格の子供達は笑顔を向けて、まだ怯えた感じの抜けない年少の子供達の頭を撫でた。そして、そのうちの一人が聞いてきた。
「ねえ、オジ、じゃなかった、お兄さん」
いいんだよ、おじさんでも。だが言い直してくれるところにとても好感が持てるな。
「なんだい」
「お兄さんは魔法使いなの?」
可愛く小首をかしげている金髪の女の子はマーシャと同じくらいの年恰好か。
「いや違うよ。あれこれスキルを使って戦っていただけさ。あまり手強い相手だと戦えないが、蜂は数こそ多いものの、一匹一匹は弱いからどうってことはないさ。
あの針は厄介だからなあ、あの分厚い鉄板にあれほど突き立てるとは。金属鎧を着た騎士でも、あの数でこられちゃあ一溜まりもないな」
子供達は目を丸くしてそれに耳を傾けたが、アルと呼ばれた少年は不安そうにあたりを見渡した。
「ねえ、あの蜂はもう現れないのですか」
「ああ、多分な。あの蜂を生み出していたネスト、蜂の巣は見ただろう? あれは俺が回収し、他の蜂は俺が残らず倒して回収したから大丈夫だ。
俺は前にあれよりも大きなネストを退治した事がある。あれ以来、そこでも魔物は湧いていないから今回も大丈夫だろう。多分原因はわかっているからもう湧かないはずだ」
「原因?」
「ああ、多分王国でやった儀式が原因だろうから、もう心配はないはずだ」
すると少年は考えていたが、フェルと呼ばれた無口そうなもう一人のリーダー格と思われる少年が口を開いた。
「それは王様が喧伝していた勇者召喚の事?」
「ああ、そうだ。村の子供がよく知っているな」
「王様はうちの村にも泊まっていったから。おつきの兵士様や神官様がそう話してくれたよ。帰りにも泊まっていったけど、あなたと同じような勇者と同じ黒髪黒目の人達がたくさん一緒でした。もしかして、あなたも勇者様なのですか」
「ん? あ、ああ、まあ連中と一緒にこの世界に来たんだがなあ」
ハズレ勇者なので捨てられましたとは、今俺が救出してのけたばかりの、この子達の前でだけは非常に言い辛い。
この子達にとって俺は英雄でなければならんのだから。俺は目を泳がせ加減で台詞も次第にトーンが下がってしまったが、いやここは子供達のためにも勇士として相応しくふるまおうではないか。
「あはははは。お、俺は秘密兵器なのさ。こういう事もあろうかと、一人で後詰めを命じられていた遊撃の戦士なんだ。いやあ、君達を助けられて本当によかったよー」
我ながら、いけしゃあしゃあとよく言うなあとは思いつつ。途端に子供達の尊敬の眼差しが俺に集中する。
う、そんな純真な目で見ないでくれ、胸が痛すぎる。この村、もう二度と来れない気がするな。王様が御泊りに選ぶくらいなので、いい村なんだろうから気になるのだが。
「ありがとうございます、勇者様。どうか、村へお越しください。きっと歓迎されますから」
「ああ、今連れが村へ報せに行っているからな。お前達、穴へ落としてしまったが怪我はないか、村まで歩けるか。駄目なら俺の従者を呼ぶが」
「あ、大丈夫です」
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子供達はポーション初体験らしく、その効能に思いっきりはしゃいでいた。アル達も目を丸くして自分の怪我が癒されるのを目撃していた。
「さあ、村へ行こうか」
俺は子供達に元気が出るようにキャラメルを配給しておいた。
思わぬお菓子との巡り合いに、子供達にとっては魔物の群れと遭遇して命を永らえた事と相まって、幼き日の忘れようもない記念日となっただろう。
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