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第二章 はずれスキルの冒険者
2-4 ライスがナイスなランチタイム
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「やあ、女将さん。ショウはまだ来ていないかい」
「そろそろ来る時間だよ。おや、マーシャにアリシャ、今日は凄くおめかしだね」
俺が用意した足の長い子供用の椅子の上に立ち、ハイテンション幼女軍団が叫んでいた。
「今日は素敵ドライブの日なの」
「なの~」
この世界にドライブという単語は存在しないので、首を傾げている女将さん。いつか本物の車でドライブにでも行ってみたいもんだ。
異世界の素敵な美女でも助手席に乗せて。だが、きっとその時も、この幼女達をチャイルドシートに詰め込んでのドライブに違いない。
いやそれでも別にいいっちゃあいいんだけどなあ。どうせその場合も助手席に座っているのは、美女ではなく彼女達のお父さんなのに決まっている。
せめてそこは宗篤姉妹で、両手に花といきたいところだ。彼女達は今頃何をしているだろう。無事に精霊には会えたかな。
チョコを持たせておいたせいで奴らからは思いっきり匂うので、精霊の群れにむしられまくりかもしれんが。
お姉ちゃんの方なら車の免許は持っていそうだし、美女の助手席に乗せてもらうのも、そう悪いものではないのだ。そんな妄想をしているところに、ようやくショウがやってきた。
「ただいま、カズホさん」
ただいまときたもんだ。
どうやら、こいつも段々とここがホームベースになっていきつつあるようだ。まあ俺という、行商人にとって滅多にいないような気前のいいスポンサーがいる場所だからね。
「やあ、お帰り。首尾はどうだった」
だが奴は少し微妙な顔をしてみせた。おや、何かあったのかな。
「ええ、概ね悪くない結果だったのですが、一部問題がありまして」
「へえ。まあ話は食事しながらにしよう、お腹が空いているだろう」
「空いているのです」
「のですー」
君達には聞いていないよ、お嬢様方。
大体もう食卓についているんだろうが。お腹を空かせた幼女達が催促しているので、女将さんも笑って支度を始めてくれた。
料理は基本的に親父さんの領分だ。お袋の味というか、親父の味の店であった。そのせいか、あまり店の方には顔を出さないので顔は殆ど見た事がない。
朴訥で無口な人だが、いつも笑顔で、比較的愛想のいい人なので料理にも人柄がよく出ている。なんというか、口にすると何故かホッとするような味で、俺にとっては非常に好ましい。
「ほうら、今日のランチはこいつだよー」
そして出してもらったのは、なんとリゾットだ。
要は俺のフリーズドライ米を使って、ここの自慢のシチューと合わせてもらったものなのだ。ついでにお湯をかけて戻した御飯の見本も出してもらった。
「へえ、変わった食べ物ですね」
「あつ、でも美味しいー」
「はふう、ふううー」
子供達も、ふうふうしながら上手に食べていた。ショウは戻した御飯と、形を確認してもらうために出してやった乾燥した米を見比べていた。
「これがコメですか」
「ああ、基本的に麦と似たような感じに実る穀物だが、こちらの方が実もずっしりとしていて重い感じがするな。
こいつは特殊な加工品で、一度調理して水分を飛ばしたものなので、軽いけれども。こうやって形を保ったまま調理するのが普通だ。
水田といって、浅い池のような感じの畑に浅く水を張ったような場所で作られるが、普通に畑で作られる陸稲というものもある。何か心当たりはないか。
この世界には麦があるのだから、米だって同じように普及しているだろう。こいつは単位面積あたりの収穫量が多い作物なんでなあ、どこかに米があってもまったく不思議はない。
どちらかといえば南方の気候の暖かい地帯で作られるものだ。品種を改良すれば北方面でも育つのだが、原産国は南の方面の国で、雨がよく降る場所のはずだ」
「うーん、コメですか。僕自身は聞いた事がないですね。これじゃあ駄目なんですか?」
「こいつは生の米じゃあない、即席ライスの素だ。本物の米が欲しいんだ、炊きたてが食べられる、美味しいお米が!」
俺の妙に情熱の籠った熱弁に面食らいながらも、ショウはリゾットを味わいつつ頷いてくれた。
「では、今度行ったらそういう物がないか、聞いてみますね。一応サンプルでこれをいただいていっていいでしょうか」
「じゃあ、こっちのオニギリのパック、丸ごと持っていけよ。これは乾燥させた食品なんで湿気ると駄目になるから」
彼は不思議そうに、その派手なプラスチック包装に包まれた非常備蓄用のお湯を注いで作るオニギリセットを手に取って眺めた。まあ、こいつは日本でだって割と不思議に思うような商品なんだがな。
「そろそろ来る時間だよ。おや、マーシャにアリシャ、今日は凄くおめかしだね」
俺が用意した足の長い子供用の椅子の上に立ち、ハイテンション幼女軍団が叫んでいた。
「今日は素敵ドライブの日なの」
「なの~」
この世界にドライブという単語は存在しないので、首を傾げている女将さん。いつか本物の車でドライブにでも行ってみたいもんだ。
異世界の素敵な美女でも助手席に乗せて。だが、きっとその時も、この幼女達をチャイルドシートに詰め込んでのドライブに違いない。
いやそれでも別にいいっちゃあいいんだけどなあ。どうせその場合も助手席に座っているのは、美女ではなく彼女達のお父さんなのに決まっている。
せめてそこは宗篤姉妹で、両手に花といきたいところだ。彼女達は今頃何をしているだろう。無事に精霊には会えたかな。
チョコを持たせておいたせいで奴らからは思いっきり匂うので、精霊の群れにむしられまくりかもしれんが。
お姉ちゃんの方なら車の免許は持っていそうだし、美女の助手席に乗せてもらうのも、そう悪いものではないのだ。そんな妄想をしているところに、ようやくショウがやってきた。
「ただいま、カズホさん」
ただいまときたもんだ。
どうやら、こいつも段々とここがホームベースになっていきつつあるようだ。まあ俺という、行商人にとって滅多にいないような気前のいいスポンサーがいる場所だからね。
「やあ、お帰り。首尾はどうだった」
だが奴は少し微妙な顔をしてみせた。おや、何かあったのかな。
「ええ、概ね悪くない結果だったのですが、一部問題がありまして」
「へえ。まあ話は食事しながらにしよう、お腹が空いているだろう」
「空いているのです」
「のですー」
君達には聞いていないよ、お嬢様方。
大体もう食卓についているんだろうが。お腹を空かせた幼女達が催促しているので、女将さんも笑って支度を始めてくれた。
料理は基本的に親父さんの領分だ。お袋の味というか、親父の味の店であった。そのせいか、あまり店の方には顔を出さないので顔は殆ど見た事がない。
朴訥で無口な人だが、いつも笑顔で、比較的愛想のいい人なので料理にも人柄がよく出ている。なんというか、口にすると何故かホッとするような味で、俺にとっては非常に好ましい。
「ほうら、今日のランチはこいつだよー」
そして出してもらったのは、なんとリゾットだ。
要は俺のフリーズドライ米を使って、ここの自慢のシチューと合わせてもらったものなのだ。ついでにお湯をかけて戻した御飯の見本も出してもらった。
「へえ、変わった食べ物ですね」
「あつ、でも美味しいー」
「はふう、ふううー」
子供達も、ふうふうしながら上手に食べていた。ショウは戻した御飯と、形を確認してもらうために出してやった乾燥した米を見比べていた。
「これがコメですか」
「ああ、基本的に麦と似たような感じに実る穀物だが、こちらの方が実もずっしりとしていて重い感じがするな。
こいつは特殊な加工品で、一度調理して水分を飛ばしたものなので、軽いけれども。こうやって形を保ったまま調理するのが普通だ。
水田といって、浅い池のような感じの畑に浅く水を張ったような場所で作られるが、普通に畑で作られる陸稲というものもある。何か心当たりはないか。
この世界には麦があるのだから、米だって同じように普及しているだろう。こいつは単位面積あたりの収穫量が多い作物なんでなあ、どこかに米があってもまったく不思議はない。
どちらかといえば南方の気候の暖かい地帯で作られるものだ。品種を改良すれば北方面でも育つのだが、原産国は南の方面の国で、雨がよく降る場所のはずだ」
「うーん、コメですか。僕自身は聞いた事がないですね。これじゃあ駄目なんですか?」
「こいつは生の米じゃあない、即席ライスの素だ。本物の米が欲しいんだ、炊きたてが食べられる、美味しいお米が!」
俺の妙に情熱の籠った熱弁に面食らいながらも、ショウはリゾットを味わいつつ頷いてくれた。
「では、今度行ったらそういう物がないか、聞いてみますね。一応サンプルでこれをいただいていっていいでしょうか」
「じゃあ、こっちのオニギリのパック、丸ごと持っていけよ。これは乾燥させた食品なんで湿気ると駄目になるから」
彼は不思議そうに、その派手なプラスチック包装に包まれた非常備蓄用のお湯を注いで作るオニギリセットを手に取って眺めた。まあ、こいつは日本でだって割と不思議に思うような商品なんだがな。
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