73 / 313
第一章 巻き込まれたその日は『一粒万倍日』
1-73 しばしの別れ
しおりを挟む
あれからすぐに様子見がてらに戻って来た、まだおっかなびっくりだったフォミオに頼んで村まで無事に帰還した。
俺のメテオレインのせいか、少し怪我をしていたのでポーションをつけてやったら魔物にもちゃんと効くようでよかった。
きっと俺という主を見捨て切れずに逃げるのを躊躇っていたのだろう、愛い奴め。ああ、あの時に無理して自爆なんかしなくてよかったぜ。まったく無意味な死に方をするところだったわ。
そしてカイザの家に帰った俺達を出迎えてくれたのは、例によって若干退屈におかされた感じの幼女様方だった。
「お父さん、おとうさーん。お姉ちゃんだ、超かわいいお姉ちゃんが二人も来たよー」
またしてもアリシャが駈け出していって叫んでいた。あっはっは、しょうこりもないなあ、でもこれはさすがに無理なんじゃないのかなあ。
「なんだ、なんだい。またさっきは凄い爆発なんかが立て続けにあって現場を調べに行かなくちゃいけないんだが。ん、お姉ちゃんだと?」
怪訝そうな顔をしながら、剣や背嚢などの装備を整えた格好で出てきたカイザは、そこに黒髪黒目の女性が二人もいるのを見て、事の成り行きを察したようだった。
「さきほどの騒ぎはあなた方の仕業なので?」
「いえ、それは概ね、そこの麦野さんが」
「は、やっぱりそうだったか」
そしてまた妙に得心したと言いたいような顔をするカイザ。あのなあ、ふざけるなよ。あのザムザが来ていやがったんだぞ。
「お父さん、それよりも頑張ってお姉ちゃんを口説かないと!」
「え? ああいや、この人達はな」
困って頭をかいている、やや甲斐性の足りないお父さんの様子に、俺も笑ってアリシャの頭を撫でてやった。
もう新しいお母さんが欲しくて堪らないので必死で訴える幼女様、本当に可愛らしいな。マーシャの方はもう少し落ち着いて様子を見ている。そして俺は無慈悲に宣告してやった。
「この人達はすぐ旅に出ないといけないんだから無理だ、お前達には優しいフォミオママがいてくれるだろう」
「ちぇえー!」
「また駄目だったか、ざんねーん!」
そして俺達は楽な服装に着替えて、さっそくお菓子の製作にとりかかった。もちろんフォミオも一緒で、面倒な泡立てとかはみんなフォミオがやってくれるので、あっという間に出来上がっていく。
マーシャとアリシャもちょろちょろと、お手伝いなんだかお邪魔なんだかよくわからない真似をしている。
そして楽しくお菓子パーティをして過ごし、それは奇しくもまるでこれから旅立つ二人の壮行会のようだった。
そして、その翌日の朝。
「麦野さん、本当にお世話になっちゃったわね。エレも加護をくれてありがとう。この先の旅路に少し希望が持てたわ」
エレも新しいお菓子と引き換えだったので、非常に機嫌よく答える。基本的にこいつら精霊は現金な連中なのだ。
「そいつがあると、他の精霊から見ても目印になるからね。おまけに、その堪らない匂いのチョコがあるんだから絶対にどこかで他の精霊と会えるよ。
会えたらチョコと引き換えに、必ず加護をもらっておくようにするといいよ。加護の数が多い方が信用も高いから向こうも安心してくれるはずさ。保証人は多い方がいいからね」
なるほどなあ、納得の説明だった。俺やチビ達はすでにそうなんだな。
「いやなんの。こっちこそ、命を助けてもらったからな。物資が足りなくなったら、またいつでも補給に来てくれ。また何か有用な物があれば仕入れておこう。
もしかすると用足しに出かけてたり旅に出てたりするかもしれんが、ここが俺のホームだ。いくらかの物資は収納の魔道具が手に入ったら、そこのカイザにも渡しておくから。
もし日本に帰れそうだったら俺も呼びに来てくれよな。俺も手掛かりを探しに行こうと思ったんだが、すっかり村に根が生えちまってな。でもまあ王都まで一度は行ってみたいもんだ。きっと大都会ではあれこれといい物があるんだろうなあ」
「わかった、約束する。うん、王都はなかなかの物だったよ。きっと麦野さんの欲しいものがあるはず。飛んで連れていってあげたいくらいだけど、何しろ王国からも追われる身だから王都はごめんだわ。それにいつも佳人ちゃんを抱えて飛んでいるんだしね」
「はは、違いないよ。それに俺もあまり大っぴらに王都に行くのはどうもな。絶対に歓迎されないに決まっているだろうから」
それに俺を小馬鹿にする奴が何人もいるはずだから、連中と顔を合わせたくはないんだ。
こうして帰り道探索は他力本願というか、無情にも俺と同じく見事にはぐれ勇者となった宗篤姉妹に任せて、俺は当座の間は異世界生活を満喫する事にした。
あれから俺が異世界から持ち込んだ紙のインク部分だけを収納して白紙の紙を作り、それからフォミオが作ってくれた日記帳に異世界のあれこれを『異世界満喫日記』として記すのだった。
もちろん、子供達もそれに参加して見事にお絵描き帳というか異世界絵日記になってしまっていたのだが、それもまた楽しいもんだ。と、日記には書いておこう。
俺のメテオレインのせいか、少し怪我をしていたのでポーションをつけてやったら魔物にもちゃんと効くようでよかった。
きっと俺という主を見捨て切れずに逃げるのを躊躇っていたのだろう、愛い奴め。ああ、あの時に無理して自爆なんかしなくてよかったぜ。まったく無意味な死に方をするところだったわ。
そしてカイザの家に帰った俺達を出迎えてくれたのは、例によって若干退屈におかされた感じの幼女様方だった。
「お父さん、おとうさーん。お姉ちゃんだ、超かわいいお姉ちゃんが二人も来たよー」
またしてもアリシャが駈け出していって叫んでいた。あっはっは、しょうこりもないなあ、でもこれはさすがに無理なんじゃないのかなあ。
「なんだ、なんだい。またさっきは凄い爆発なんかが立て続けにあって現場を調べに行かなくちゃいけないんだが。ん、お姉ちゃんだと?」
怪訝そうな顔をしながら、剣や背嚢などの装備を整えた格好で出てきたカイザは、そこに黒髪黒目の女性が二人もいるのを見て、事の成り行きを察したようだった。
「さきほどの騒ぎはあなた方の仕業なので?」
「いえ、それは概ね、そこの麦野さんが」
「は、やっぱりそうだったか」
そしてまた妙に得心したと言いたいような顔をするカイザ。あのなあ、ふざけるなよ。あのザムザが来ていやがったんだぞ。
「お父さん、それよりも頑張ってお姉ちゃんを口説かないと!」
「え? ああいや、この人達はな」
困って頭をかいている、やや甲斐性の足りないお父さんの様子に、俺も笑ってアリシャの頭を撫でてやった。
もう新しいお母さんが欲しくて堪らないので必死で訴える幼女様、本当に可愛らしいな。マーシャの方はもう少し落ち着いて様子を見ている。そして俺は無慈悲に宣告してやった。
「この人達はすぐ旅に出ないといけないんだから無理だ、お前達には優しいフォミオママがいてくれるだろう」
「ちぇえー!」
「また駄目だったか、ざんねーん!」
そして俺達は楽な服装に着替えて、さっそくお菓子の製作にとりかかった。もちろんフォミオも一緒で、面倒な泡立てとかはみんなフォミオがやってくれるので、あっという間に出来上がっていく。
マーシャとアリシャもちょろちょろと、お手伝いなんだかお邪魔なんだかよくわからない真似をしている。
そして楽しくお菓子パーティをして過ごし、それは奇しくもまるでこれから旅立つ二人の壮行会のようだった。
そして、その翌日の朝。
「麦野さん、本当にお世話になっちゃったわね。エレも加護をくれてありがとう。この先の旅路に少し希望が持てたわ」
エレも新しいお菓子と引き換えだったので、非常に機嫌よく答える。基本的にこいつら精霊は現金な連中なのだ。
「そいつがあると、他の精霊から見ても目印になるからね。おまけに、その堪らない匂いのチョコがあるんだから絶対にどこかで他の精霊と会えるよ。
会えたらチョコと引き換えに、必ず加護をもらっておくようにするといいよ。加護の数が多い方が信用も高いから向こうも安心してくれるはずさ。保証人は多い方がいいからね」
なるほどなあ、納得の説明だった。俺やチビ達はすでにそうなんだな。
「いやなんの。こっちこそ、命を助けてもらったからな。物資が足りなくなったら、またいつでも補給に来てくれ。また何か有用な物があれば仕入れておこう。
もしかすると用足しに出かけてたり旅に出てたりするかもしれんが、ここが俺のホームだ。いくらかの物資は収納の魔道具が手に入ったら、そこのカイザにも渡しておくから。
もし日本に帰れそうだったら俺も呼びに来てくれよな。俺も手掛かりを探しに行こうと思ったんだが、すっかり村に根が生えちまってな。でもまあ王都まで一度は行ってみたいもんだ。きっと大都会ではあれこれといい物があるんだろうなあ」
「わかった、約束する。うん、王都はなかなかの物だったよ。きっと麦野さんの欲しいものがあるはず。飛んで連れていってあげたいくらいだけど、何しろ王国からも追われる身だから王都はごめんだわ。それにいつも佳人ちゃんを抱えて飛んでいるんだしね」
「はは、違いないよ。それに俺もあまり大っぴらに王都に行くのはどうもな。絶対に歓迎されないに決まっているだろうから」
それに俺を小馬鹿にする奴が何人もいるはずだから、連中と顔を合わせたくはないんだ。
こうして帰り道探索は他力本願というか、無情にも俺と同じく見事にはぐれ勇者となった宗篤姉妹に任せて、俺は当座の間は異世界生活を満喫する事にした。
あれから俺が異世界から持ち込んだ紙のインク部分だけを収納して白紙の紙を作り、それからフォミオが作ってくれた日記帳に異世界のあれこれを『異世界満喫日記』として記すのだった。
もちろん、子供達もそれに参加して見事にお絵描き帳というか異世界絵日記になってしまっていたのだが、それもまた楽しいもんだ。と、日記には書いておこう。
18
お気に入りに追加
279
あなたにおすすめの小説
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった
盛平
ファンタジー
パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。
神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。
パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。
ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる