上 下
64 / 313
第一章 巻き込まれたその日は『一粒万倍日』

1-64 お祭りへの期待

しおりを挟む
 洋服屋でかなり時間を食ったので、お楽しみの食堂でご飯を食べるのにちょうどいい時間になった。フォミオには採寸が終わったら来いと言っておいたが、時間がかかっているようだ。

 今までかつてないような注文だからなあ、親父さんももう『ああでもないこうでもないモード』なのだろう。

「先に食べていようか、その後でお店の方を覗きに行こう。もういい時間だからね」
「お腹ぺこぺこー」
「ご飯食べるのですー」

 村の大通りの向こうから、ゲイルさんが歩いてきて手を上げて挨拶してくれた。

「やあ、お陰様で無事に会合は終わったよ。もう夏になったからね。秋の収穫祭を二つの村で一緒にやれないかという話をしていたのさ。この辺境は街に比べて催しも少ないし、合同で少し賑やかにやれないものかとね」

「へえ、それは面白いですね」
 そいつはまた、異世界飯のデビューには相応しいイベントじゃないか。

 砂糖は持っている。蜂がよく飛んでいるのは見かけるので、ハチミツもどこかにはありそうだ。フォミオにはお菓子作りなどでいろいろ活躍してもらうとしよう。

 何か音楽を用意できないものだろうか。オルゴールは複雑すぎて村の鍛冶屋さんにはまず作れないだろうなあ。

 何かの楽器を作って、みんなで地球の曲でも演奏するか、いっそ盆踊りでもいいかもしれん。ああ料理は麺料理なんかもいいかもな、今度うどんでも試作用に打ってみるか。

 うちには無敵のフォミオ君がいるのだから、どんな料理でも材料さえあればなんとかしてくれるはずだ。

 いっそ、村で夏祭りをお試し開催してみるのもどうだろう。こっちの村の人も招待して見てもらうのだ。

 魔王退治なんかしているよりは、その方がよっぽど気が利いている。どこかでトウモロコシを栽培していないものかな、やっぱり祭りには焼きトウモロコシは欲しいところだ。フォミオに頼んで、薪式の屋台も作らせてみるかな。

 そうだ、水風船を作ろう。お祭りのヨーヨーという奴だ。『ゴム風船』を開発しよう。実は天然ゴムの主成分と同じ物を入手する事が俺には可能だ。

 それは植物が呼吸する時に微量だが排出されるのだ。天然ゴムというのは、それを大量に生成する植物がゴムの木として呼ばれ、樹液として液体の天然ゴムを採集できるようになっているのだ。

 システム的に普通の植物も生成しているはずなのだが、本来はただのプロセス上の都合で発生するもので、植物がわざわざ蓄える必要はない。そして確か人間の呼気の中にも含まれる。

 だが問題はそれが微量の気体として排出されるものなので、確保するのは相当難しいし、砂糖なんかと同じで元がそのような微量な物だとなあ。

 そこまで考えて俺は、はたと気が付いたのだ。ゴムあるじゃん。パンツのゴム、そして財布に忍ばせた『コンドーム』もラッテクス製だった。何しろ別名、『ゴム』と呼ばれるような製品なのだから。

 こんなところじゃあ、まったく使い道がないんで存在そのものを忘れていた。う、硫化が必要なゴムという物質である限りは、こいつらにも確か硫黄も含まれていたんだよなあ。

 まあ微量だから取り出しが困難だったかもしれないが。いっそ、コンドームをそのまま水風船にするか、いや膨らませた時に丸くないと駄目だな。

 ロケット風船遊びはできるんだが、うっかりとおチビさん達にあれで遊ばせておいて、後でカイザにそれが何なのかがバレたなんていったらぶち殺されそうだ。まあゴム関連はまた、おいおいに考えて試してみよう。

「これ美味しいよねえ」
「うまうまなのですー」

 今日のランチメニューはお嬢様方にも大好評のようだった。女将さんも初めての可愛いお客さんに向けて、にこにこして言ってくれる。

「そうかいそうかい、気に入ってもらえたのかい。それはよかったことだ」

 本日、女将さんが出してくれたメニューは、ランチコース。まずスープは野菜の浮いた肉スープだった。そして香りの高い野草と村で栽培した葉野菜のサラダだ。

 塩と食用オイルに何か刻んだ野菜を入れた調味オイルがかかっている。僅かだが何かの香辛料のような物が入っているようだ。それからいつものパンと、メインディッシュの鳥の香味焼きだ。

 それから店先で軽く悲鳴が上がった。ああ、やっと来たな。俺は奴を迎えにいった。
「おお、採寸は終わったのかい」

「ええ、今終わりやしたが、どうやら村の方を驚かしてしまったようでやして」
 見るとびっくりしたような村人達が数人若干遠巻きにしていた。

「ああ、すいません。彼は俺の従者でフォミオです。別に恐ろしい者ではありません、体はちょっと人よりも大きいですがね」

「ちょっと?」
「うん、ちょっと!」
 俺は笑顔のサムズアップで力強く言い切った。

 世の中には力押しする方がいい事もあるのだ。女将さんの店もなんとか中に入れるので、頭に気をつけるように言ってフォミオを店の中に招いたが、女将さんは陽気な声で出迎えてくれた。

「おやおや、これはまた大きな人がきたね。さあさあ中へ入ってやっとくれ」

 こうしてフォミオも女将さんの店にめでたく客として認められたのであった。めでたし、めでたし。

 なんというかね、うちの従者にここで料理を学ばせないでどうするという話なのだ。

 それから、とにかく皆で隣村ツアーを楽しみまくって、終いにはついに轟沈した幼女様方を韋駄天壱号に積み込んで、俺達一行は御土産と共に焼き締めパン村へと凱旋したのであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ
ファンタジー
大陸の端に存在する小国、ボーンネル。 バラバラとなったこの国で少女ジンは多くの仲間とともに建物を建て、新たな仲間を集め、国を立て直す。 そして同時にジンを中心にして世界の歯車は動き出そうとしていた。 これはいずれ一国の王となる少女の物語。

わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝
ファンタジー
「てめぇらに、最低のファンタジーをお見舞いしてやるから、覚悟しな」 異世界ノットガルドを魔王の脅威から救うためにと送り込まれた若者たち。 その数八十名。 のはずが、フタを開けてみれば三千人ってどういうこと? 女神からの恩恵であるギフトと、世界の壁を越えた際に発現するスキル。 二つの異能を武器に全員が勇者として戦うことに。 しかし実際に行ってみたら、なにやら雲行きが……。 混迷する異世界の地に、諸事情につき一番最後に降り立った天野凛音。 残り物のギフトとしょぼいスキルが合わさる時、最凶ヒロインが爆誕する! うっかりヤバい女を迎え入れてしまったノットガルドに、明日はあるのか。 「とりあえず殺る。そして漁る。だってモノに罪はないもの」 それが天野凛音のポリシー。 ないない尽くしの渇いた大地。 わりとヘビーな戦いの荒野をザクザク突き進む。 ハチャメチャ、むちゃくちゃ、ヒロイックファンタジー。 ここに開幕。

ロルスの鍵

ふゆのこみち
ファンタジー
田舎の小さな村で暮らしていた少年・キサラ。彼の生涯は村の中で終わるはずだったが、地上に現れたという魔王の噂をきっかけに旅立ちを迎える。 自身に呪いがかけられていると聞かされたキサラが頼ったのは……魔王だった。 最弱の主人公が最強の魔王と出会い、自分が何者なのかを知る話。 ※現在一話から修正、本編再構築中(58話まで改稿済み) ※視点切り替え多め ※小説家になろうさん、カクヨムさんにも同じ物を掲載しています。 ※転載、複製禁止

ひめてん~姫と天使と悪魔と猫~

こーちゃ
ファンタジー
 *処女作です。  ゲームとアニメ鑑賞が趣味の35歳のおっさん。  ある日古本屋で買った胡散臭い本により、美少女魔法使いユーキとして異世界に転移してしまったおっさん。  だがある時おっさんだった頃の記憶は偽物で、元々この魔法世界に実在する本物の女の子なのでは? という疑惑が出て来る。  果たして、本当のユーキはおっさんなのか? 美少女なのか? こんなタイトルで引かれていないか?  そんな魔法少女ユーキと愉快な仲間達による、楽しくて時に激しい冒険コミカルファンタジーです。  *今まで小説という物を全く書いた事がありませんが、見よう見まねで楽しんで書いてます。色々感想ご意見等頂けると、とても参考になります。

聖剣如きがフォークに勝てると思ったか 〜秘伝の継承に失敗したからと家を追い出されたけど最強なので問題なし〜

農民
ファンタジー
魔創具という、特殊な道具を瞬時に生み出すことができる秘術がある魔法の世界。 公爵家の嫡男であるアルフレッド。日本で生きていた過去を思い出した少年は、自由に生きたいと思いながらも貴族の責務を果たすために真剣に生きていた。 貴族の責務。そのためにアルフレッドは物語の悪役貴族といったような振る舞いをし、他者を虐げていたのだが、それがいけなかった。 魔創具の秘術によって、家門の当主が引き継ぐ武器である『トライデント』を生成しようとするが、儀式を邪魔されてしまい、失敗。結果として、アルフレッドが生み出す魔創具は『フォーク』になってしまった。 そんなものでは当主に相応しくないと家を追い出されることとなり……。 ※一応「ざまぁ」を目指して書くけど、ちょっとズレた感じになるかもしれません。

駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ

壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。 幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。 「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」 泣きじゃくる彼女に、彼は言った。 「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」 「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」 そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。 ※2019年10月、完結しました。 ※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。

ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー?~

Red
ファンタジー
綿貫真司、16歳。養護施設出身という事を覗けば、何処にでもいるごく普通の高校生だ。 ある日、いつもと変わらない日常を送っていたはずの真司だが、目覚めたら異世界にいた。 一般的な高校生の真司としては、ラノベなどで良くある、異世界に転移されたという事を理解するが、異世界転移ものにありがちな「チートスキル」らしきものがない事に項垂れる。  しかし、ない物ねだりをしても仕方がないという事で、前向きに生きていこうと思った矢先、|金銀虹彩《ヘテロクロミア》を持つ少女、エルに出会い、望んでもいないのにトラブルに巻き込まれていく。 その後、自分が1000万人に1人いるかいないか、といわれる全属性持ちだという事を知るが、この世界では、属性が多ければ良いという事ではないらしいと告げられる。 その言葉を裏付けるかのように、実際に真司が使えたのは各種初級魔法程度だった。 折角チートっぽい能力が……と項垂れる真司に追い打ちをかけるかの様に、目覚めたチート能力が空間魔法。 人族で使えたのは伝説の大魔導師のみと言うこの魔法。 期待に胸を躍らせる真司だが、魔力消費量が半端ないくせに、転移は1M程度、斬り裂く力は10㎝程度の傷をつけるだけ……何とか実用に耐えそうなのは収納のみと言うショボさ。 平和ボケした日本で育った一介の高校生が国家規模の陰謀に巻き込まれる。  このしょぼい空間魔法で乗り越えることが出来るのか?

処理中です...