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第一章 巻き込まれたその日は『一粒万倍日』
1-55 村内にて
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しばらく、そのなりで村中を練り歩いていたので、村の人が皆びっくりしていた。そんなピシっとした格好の一家は、この村開闢以来見た事がなかったのだろう。
「おい、今度は何事だ、カイザ」
おや、さっそくゲイルさんに見つかったね。この人は村長の息子なので村に異変が起きると非常に目聡い。
これは笑っちまうな。カイザの奴は王国の正規の役人のくせに、ピシっとした格好をすると次期村長から村に異変有りとして突っ込みがいただけるんだ。
「あ、いや。別にどうという事はないんだが、ちょっと服を新調したものでな。家族でお散歩だ」
どうやら、俺とエレとフォミオは家族のうちに入れていただけるものらしい。おっと、そういえば。
「フォミオ、また今度でいいからエレの服を作ってくれ。翅が邪魔になるから上手に着せられる工夫をしてな」
フィギュアのような木彫りのマネキンを作らせて、それをモデル代わりに研究してもらってもいいとも思っている。
村のやや古風な欧州風な農夫スタイルのおばさん達がやってきて、皆が口々に子供達を褒めた。
「あら、格好いいじゃない、二人とも」
「そうそう。男みたいな恰好だけれど、格好良くて可愛いわよ」
「でも畑仕事や薪拾いには向かないわねえ」
生憎とこのスーツって奴は、昔は工場の作業服みたいな物だったんだぜ。だが口々に褒めそやし、頭を撫でてもらえるので二人はもう有頂天だ。
誰もカイザを褒めないのがまた笑える。いつものワイルドな山男風の格好と比べて違和感ありまくりだからなあ。
カイザはイケメンだし、別に似合っていないとかいう訳じゃあなくて、「十分似合っているのだけれど、なんだかなあ」という感じに見られているのだ。
「お父さん、楽しい~」
「楽しいの~」
「そ、そうか、よかったな」
「さあ、これくらいにして帰ろうぜ。荷馬車はできたが、あれに座席を取り付けたいな。藁の荷台に揺られていくのもいいが」
「だが荷物も載せたいだろうし、あのままでもいいんじゃないのか?」
「それもそうだな」
「いつお隣村まで行くの?」
「あー、それはもうちょい先だ。まだ頼んでおいたブーツが出来上がっていないだろうし、先にやっておきたい事があるんでな」
「ふうん」
またしてもチビ二人がちょっとご不満そうな様子だったが、今度は父親が頭を撫でていた。
もちろんやってみたいのは新火薬の精製だ。今の感じだと割と燃えるだけになってしまうかもしれない。燃焼速度を上げるのだ。
銃の発射用の火薬でも火薬自体に細かい種類があるし、その成型具合や大きさによって燃焼速度がまったく違う。威力を高めるために材料を練って成型し乾燥させ刻むのだ。
俺の場合は追加で硝石を作る必要がないのが助かる。最初に硝石集め人ソルトピーター・マンをやるだけで済んだ。おかげ様で村人達からは、希代の奇人変人の称号はいただいてしまったのだが。
ヨーロッパでもそうであったらしいのだが、ソルトピーターこと硝石は日本では天然資源として産出しない上に、主な輸入先であった中国からの輸入も途絶えた鎖国時代の日本では、あれこれと製法が考えられていた。
江戸時代には『入鉄炮出女』と言われる諸藩による謀反防止のための交通政策で銃は幕府によって取り締まられていたはずだが、多くの藩では火薬生産を重要な政策として定め、そのための硝石生産が試みられていた。
文献などによれば効率がいいのははおそらく糞尿小屋の中に硝石丘でも作ってやればいいのだろうが、生憎な事に俺はスキルのおかげでそのような真似はしないで済んだ。
あれも硝石ができるまで四~五年はかかるらしいし、第一あれの非常に不衛生そうな作業をやると、こっちの精神が病んでしまいそうだ。今なら文句言わずにやってくれそうな従者がいるんだけどね。
かなり昔のやり方だけど、簡単な方法で黒色火薬を作ってみる。昔の火薬は硝石七十五パーセント、硫黄十パーセント、木炭十五パーセントと言われているが、配合によりいろいろと燃焼速度も異なるようなので色々な配合で作ることとする。
とりあえずは硝石を水で煮てから木炭粉を混ぜてかき混ぜる。水分の具合とか見ながら臼へ移して冷めないうちに搗(つ)き、冷ましてから硫黄を加えてまた細かい粉末になるまで搗く。
そして生渋を加えて餅のようになったら取り出して平たく伸ばす。この生渋というのは渋柿から作る代物で日本にしかなかったはずなのだが、何故かこの村には不思議と存在するのは、多分昔に召喚された日本人が作ったのだろう。
まさか魔王本人が作ったものじゃないのだろうな。奴も俺と同じように城に捨てられてたりして。
ここでは主に薬として使っているらしいが、発酵させているので凄い匂いだ。現代日本人なら、召喚されてきても絶対にこのような物はわざわざ作らないだろうな。召喚の儀式自体も久しぶりだったらしいし。
火薬の原料を全部混ぜて水に溶かして煮たりして、そいつを板に張り付けて乾燥させるだけのやり方があるらしいが、せっかく存在していたので生渋を有意義に使わせてもらった。別にそれで爆発力が上がるわけではないかと思うのだが気分で。
もちろんやっているのはフォミオだ。俺は怖くてそこまでできない。
念のため、厚手の長い革手袋で両腕全体をカバーし、収納の力ではぎ取った熊の毛皮をフォミオが上手に鞣して作った足までカバーしてくれる耐爆エプロンと溶接用みたいなごついマスクで臨んだ。
まるで魔物革全身鎧のようだ。あとはフォビオの魔物としての耐久性に賭けよう。一応例の初級のヒールポーションは用意してあるのだが。あれの効果をスキルで万倍化すれば、なんとか?
俺の指示通り、少量ずついろいろな配合で火薬を作っていき、板の上に成型しては乾燥していく。
今のところ爆発事故は無いが、これは多分、調合スキル持ちのフォミオが器用にやってのけているだけだと思うので、俺がやったら危ないかもしれないので、自信が無いから自分ではやりたくないな。
「おい、今度は何事だ、カイザ」
おや、さっそくゲイルさんに見つかったね。この人は村長の息子なので村に異変が起きると非常に目聡い。
これは笑っちまうな。カイザの奴は王国の正規の役人のくせに、ピシっとした格好をすると次期村長から村に異変有りとして突っ込みがいただけるんだ。
「あ、いや。別にどうという事はないんだが、ちょっと服を新調したものでな。家族でお散歩だ」
どうやら、俺とエレとフォミオは家族のうちに入れていただけるものらしい。おっと、そういえば。
「フォミオ、また今度でいいからエレの服を作ってくれ。翅が邪魔になるから上手に着せられる工夫をしてな」
フィギュアのような木彫りのマネキンを作らせて、それをモデル代わりに研究してもらってもいいとも思っている。
村のやや古風な欧州風な農夫スタイルのおばさん達がやってきて、皆が口々に子供達を褒めた。
「あら、格好いいじゃない、二人とも」
「そうそう。男みたいな恰好だけれど、格好良くて可愛いわよ」
「でも畑仕事や薪拾いには向かないわねえ」
生憎とこのスーツって奴は、昔は工場の作業服みたいな物だったんだぜ。だが口々に褒めそやし、頭を撫でてもらえるので二人はもう有頂天だ。
誰もカイザを褒めないのがまた笑える。いつものワイルドな山男風の格好と比べて違和感ありまくりだからなあ。
カイザはイケメンだし、別に似合っていないとかいう訳じゃあなくて、「十分似合っているのだけれど、なんだかなあ」という感じに見られているのだ。
「お父さん、楽しい~」
「楽しいの~」
「そ、そうか、よかったな」
「さあ、これくらいにして帰ろうぜ。荷馬車はできたが、あれに座席を取り付けたいな。藁の荷台に揺られていくのもいいが」
「だが荷物も載せたいだろうし、あのままでもいいんじゃないのか?」
「それもそうだな」
「いつお隣村まで行くの?」
「あー、それはもうちょい先だ。まだ頼んでおいたブーツが出来上がっていないだろうし、先にやっておきたい事があるんでな」
「ふうん」
またしてもチビ二人がちょっとご不満そうな様子だったが、今度は父親が頭を撫でていた。
もちろんやってみたいのは新火薬の精製だ。今の感じだと割と燃えるだけになってしまうかもしれない。燃焼速度を上げるのだ。
銃の発射用の火薬でも火薬自体に細かい種類があるし、その成型具合や大きさによって燃焼速度がまったく違う。威力を高めるために材料を練って成型し乾燥させ刻むのだ。
俺の場合は追加で硝石を作る必要がないのが助かる。最初に硝石集め人ソルトピーター・マンをやるだけで済んだ。おかげ様で村人達からは、希代の奇人変人の称号はいただいてしまったのだが。
ヨーロッパでもそうであったらしいのだが、ソルトピーターこと硝石は日本では天然資源として産出しない上に、主な輸入先であった中国からの輸入も途絶えた鎖国時代の日本では、あれこれと製法が考えられていた。
江戸時代には『入鉄炮出女』と言われる諸藩による謀反防止のための交通政策で銃は幕府によって取り締まられていたはずだが、多くの藩では火薬生産を重要な政策として定め、そのための硝石生産が試みられていた。
文献などによれば効率がいいのははおそらく糞尿小屋の中に硝石丘でも作ってやればいいのだろうが、生憎な事に俺はスキルのおかげでそのような真似はしないで済んだ。
あれも硝石ができるまで四~五年はかかるらしいし、第一あれの非常に不衛生そうな作業をやると、こっちの精神が病んでしまいそうだ。今なら文句言わずにやってくれそうな従者がいるんだけどね。
かなり昔のやり方だけど、簡単な方法で黒色火薬を作ってみる。昔の火薬は硝石七十五パーセント、硫黄十パーセント、木炭十五パーセントと言われているが、配合によりいろいろと燃焼速度も異なるようなので色々な配合で作ることとする。
とりあえずは硝石を水で煮てから木炭粉を混ぜてかき混ぜる。水分の具合とか見ながら臼へ移して冷めないうちに搗(つ)き、冷ましてから硫黄を加えてまた細かい粉末になるまで搗く。
そして生渋を加えて餅のようになったら取り出して平たく伸ばす。この生渋というのは渋柿から作る代物で日本にしかなかったはずなのだが、何故かこの村には不思議と存在するのは、多分昔に召喚された日本人が作ったのだろう。
まさか魔王本人が作ったものじゃないのだろうな。奴も俺と同じように城に捨てられてたりして。
ここでは主に薬として使っているらしいが、発酵させているので凄い匂いだ。現代日本人なら、召喚されてきても絶対にこのような物はわざわざ作らないだろうな。召喚の儀式自体も久しぶりだったらしいし。
火薬の原料を全部混ぜて水に溶かして煮たりして、そいつを板に張り付けて乾燥させるだけのやり方があるらしいが、せっかく存在していたので生渋を有意義に使わせてもらった。別にそれで爆発力が上がるわけではないかと思うのだが気分で。
もちろんやっているのはフォミオだ。俺は怖くてそこまでできない。
念のため、厚手の長い革手袋で両腕全体をカバーし、収納の力ではぎ取った熊の毛皮をフォミオが上手に鞣して作った足までカバーしてくれる耐爆エプロンと溶接用みたいなごついマスクで臨んだ。
まるで魔物革全身鎧のようだ。あとはフォビオの魔物としての耐久性に賭けよう。一応例の初級のヒールポーションは用意してあるのだが。あれの効果をスキルで万倍化すれば、なんとか?
俺の指示通り、少量ずついろいろな配合で火薬を作っていき、板の上に成型しては乾燥していく。
今のところ爆発事故は無いが、これは多分、調合スキル持ちのフォミオが器用にやってのけているだけだと思うので、俺がやったら危ないかもしれないので、自信が無いから自分ではやりたくないな。
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