53 / 313
第一章 巻き込まれたその日は『一粒万倍日』
1-53 使える奴
しおりを挟む
それから、奴を家の中に連れていったのだが、それを見て子供達がまた大喜びだった。フォミオってなんかユーモラスな顔をしているしな。
「わあい、お客様だ」
「違うぞ、アリシャ。今日からこいつは俺の仲間だ。しかし、この家は天井が高くて助かるな。フォミオ、家は壊さないように気をつけてくれ。そっと歩かないと底が抜けるかもしれん」
「はい、カズホ様」
そのうちにこいつの住む小屋でも作らせんといかんかな。悪いが自分で作ってもらおう。材料はあれこれと俺が収納しているもので。荒城にあったパーツを使えば、カイザの家よりも豪華になるかも。
「なあ、カイザ。こいつに引かせられるような車はないかな。アリシャが隣村へ行きたがっているんだが」
「そいつに車を引かせるというのか、うーむ」
しかし、何かを期待するかのようなアリシャのキラキラした瞳が愛娘ビームを発しながらカイザのそれを撃つ。それに姉のマーシャも参戦した。
「じーっ」
「じーーっ」
「「じいいい」」
「わかった、わかった」
とうとう根負けした娘馬鹿のスキル持ちが苦笑し、仕方なく口を開く。
「納屋に昔使っていた台車がある、あれを修理すれば使えるかもしれん。後で見てやろう」
「「やったーー」」
「あ、修理ならお任せください。その手の雑用なら、あっしはお手の物ですので」
なんだそりゃあ、魔物のくせに。まあ助かるんだけどさ。俺は呆れて聞いてみた。
「お前、諜報で一体何をやっていたんだ?」
「ああ、諜報の前は雑用をしていやした。その前は雑兵でやんしたが、あまりにも役に立たないので送り返されやして、雑用係におりやした。
そして、現場で人が足りないという事で、なんだか知りませんが特技を買われて諜報に呼ばれたと。
しかし、よりにもよって、あの残忍な事でもって鳴る魔王軍の中でも、嫌われ者の中の嫌われ者、残虐王ザムザの下につけられるとは。あそこで人手が足りないというのは、あいつに次々と意味もなく殺されたからに決まってやすんで」
うわあ、どんな軍なんだよ。規律とか、そういうものを決めていないの?
「なんだ、お前の特技って」
「これでやんす」
そう言って奴は、ポワンっとまるで空間に消えていくかのような感じで姿を消した。
「ありゃあ」
こいつって案外と危険な奴だったのか?
俺は奴がいた場所を手で探ったが、もうそこにはいなかった。だが、カイザは何もない場所を手で軽くポンっと叩いた。すると、そこから軽い気の抜けたような声音が漏れた。
「ありゃあ、カイザの旦那ってば凄いっすねえ」
「ああ、いる事さえわかっていればこんなものは軽いもんだ。しかし、こいつが間諜なのだと? まあその図体なら、そうでもないと諜報として役には立たないわけだが」
「えへん、あたしにもわかるよ」
「う、俺はわからなかったなあ」
熊の時もそうだったけど、今もエレがいてくれないと気配を消してくる相手とかには完全に無防備なんだわ、俺って。
「お前も魔王軍じゃそう役に立たなかったかもしれないが、俺の助手だと凄く役に立ちそうだな」
「嬉しいです~。魔物だってねー、役立たずって言われるのが辛いっすからね。あと人間の言葉がよくわかるのも買われてたっすよ。結構比較的に人間には近しい姿でやすしね。まあ少なくとも、蟷螂頭のザムザよりは」
まあ蟷螂と比べちゃあな。こいつも図体がもう少し小さければ人間っぽい感じになるんだが、それを言ったらパワーがスポイルされてしまって、車を引いたり、その他あれこれやらせたりするためのメリットが減っちまうからな。
「ねー、フォミオちゃん。車ー」
「早くー」
さっそく幼女の召使として愛されている、うちの助手。あのう、そいつは俺の助手であって、早く対ザムザ兵器である強力火薬を開発させたいのですが。だが奴も言った。
「かしこまりやした、お嬢様方。お名前は」
「マーシャです」
「アリシャだよ」
「では納屋までご案内いただけやすか、マーシャ様、アリシャ様」
おそらく生まれて初めてだろう様付けにされて恭しくお嬢様扱いされたので大喜びの幼女軍団。
このフォミオ、最底辺の下っ端だっただけあって意外と世渡りが上手いな。この家の一番のツボを一撃でついているのは見事としか言いようがない。俺も見習わないといかん。
しかし、魔物のくせに妙に人間くさい奴だ。人間によって名前を与えられた影響もあるのかもしれない。
両側の手に子供達にぶら下がられて、ほぼ公園の遊具に成り下がった俺の従者兼助手。まあ子供達があんなに喜んでいるんだから別にいいんだけれども。
「じゃあ、彼はお嬢様方の執事兼、この家の下男も兼ねてという事で」
言葉もなく苦笑を浮かべ、手をひらひらさせるカイザ。
駄目だって言っても、子供達が泣き喚くだけだからなあ。そうだ、今度こいつに何かの遊具を作らせてみるか。丸太系なら材料には事欠かないし。ああ、こいつのうちもそれで作らせるか。この図体だものな。
「わあい、お客様だ」
「違うぞ、アリシャ。今日からこいつは俺の仲間だ。しかし、この家は天井が高くて助かるな。フォミオ、家は壊さないように気をつけてくれ。そっと歩かないと底が抜けるかもしれん」
「はい、カズホ様」
そのうちにこいつの住む小屋でも作らせんといかんかな。悪いが自分で作ってもらおう。材料はあれこれと俺が収納しているもので。荒城にあったパーツを使えば、カイザの家よりも豪華になるかも。
「なあ、カイザ。こいつに引かせられるような車はないかな。アリシャが隣村へ行きたがっているんだが」
「そいつに車を引かせるというのか、うーむ」
しかし、何かを期待するかのようなアリシャのキラキラした瞳が愛娘ビームを発しながらカイザのそれを撃つ。それに姉のマーシャも参戦した。
「じーっ」
「じーーっ」
「「じいいい」」
「わかった、わかった」
とうとう根負けした娘馬鹿のスキル持ちが苦笑し、仕方なく口を開く。
「納屋に昔使っていた台車がある、あれを修理すれば使えるかもしれん。後で見てやろう」
「「やったーー」」
「あ、修理ならお任せください。その手の雑用なら、あっしはお手の物ですので」
なんだそりゃあ、魔物のくせに。まあ助かるんだけどさ。俺は呆れて聞いてみた。
「お前、諜報で一体何をやっていたんだ?」
「ああ、諜報の前は雑用をしていやした。その前は雑兵でやんしたが、あまりにも役に立たないので送り返されやして、雑用係におりやした。
そして、現場で人が足りないという事で、なんだか知りませんが特技を買われて諜報に呼ばれたと。
しかし、よりにもよって、あの残忍な事でもって鳴る魔王軍の中でも、嫌われ者の中の嫌われ者、残虐王ザムザの下につけられるとは。あそこで人手が足りないというのは、あいつに次々と意味もなく殺されたからに決まってやすんで」
うわあ、どんな軍なんだよ。規律とか、そういうものを決めていないの?
「なんだ、お前の特技って」
「これでやんす」
そう言って奴は、ポワンっとまるで空間に消えていくかのような感じで姿を消した。
「ありゃあ」
こいつって案外と危険な奴だったのか?
俺は奴がいた場所を手で探ったが、もうそこにはいなかった。だが、カイザは何もない場所を手で軽くポンっと叩いた。すると、そこから軽い気の抜けたような声音が漏れた。
「ありゃあ、カイザの旦那ってば凄いっすねえ」
「ああ、いる事さえわかっていればこんなものは軽いもんだ。しかし、こいつが間諜なのだと? まあその図体なら、そうでもないと諜報として役には立たないわけだが」
「えへん、あたしにもわかるよ」
「う、俺はわからなかったなあ」
熊の時もそうだったけど、今もエレがいてくれないと気配を消してくる相手とかには完全に無防備なんだわ、俺って。
「お前も魔王軍じゃそう役に立たなかったかもしれないが、俺の助手だと凄く役に立ちそうだな」
「嬉しいです~。魔物だってねー、役立たずって言われるのが辛いっすからね。あと人間の言葉がよくわかるのも買われてたっすよ。結構比較的に人間には近しい姿でやすしね。まあ少なくとも、蟷螂頭のザムザよりは」
まあ蟷螂と比べちゃあな。こいつも図体がもう少し小さければ人間っぽい感じになるんだが、それを言ったらパワーがスポイルされてしまって、車を引いたり、その他あれこれやらせたりするためのメリットが減っちまうからな。
「ねー、フォミオちゃん。車ー」
「早くー」
さっそく幼女の召使として愛されている、うちの助手。あのう、そいつは俺の助手であって、早く対ザムザ兵器である強力火薬を開発させたいのですが。だが奴も言った。
「かしこまりやした、お嬢様方。お名前は」
「マーシャです」
「アリシャだよ」
「では納屋までご案内いただけやすか、マーシャ様、アリシャ様」
おそらく生まれて初めてだろう様付けにされて恭しくお嬢様扱いされたので大喜びの幼女軍団。
このフォミオ、最底辺の下っ端だっただけあって意外と世渡りが上手いな。この家の一番のツボを一撃でついているのは見事としか言いようがない。俺も見習わないといかん。
しかし、魔物のくせに妙に人間くさい奴だ。人間によって名前を与えられた影響もあるのかもしれない。
両側の手に子供達にぶら下がられて、ほぼ公園の遊具に成り下がった俺の従者兼助手。まあ子供達があんなに喜んでいるんだから別にいいんだけれども。
「じゃあ、彼はお嬢様方の執事兼、この家の下男も兼ねてという事で」
言葉もなく苦笑を浮かべ、手をひらひらさせるカイザ。
駄目だって言っても、子供達が泣き喚くだけだからなあ。そうだ、今度こいつに何かの遊具を作らせてみるか。丸太系なら材料には事欠かないし。ああ、こいつのうちもそれで作らせるか。この図体だものな。
80
お気に入りに追加
343
あなたにおすすめの小説

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️

外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる
名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。
冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。
味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。
死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる