上 下
40 / 313
第一章 巻き込まれたその日は『一粒万倍日』

1-40 御土産

しおりを挟む
「お帰りー、カズホ」
「お帰りなのー」

 帰った俺を出迎えてくれたのは、丸太小屋の入り口にある手すり付きのデッキに齧りついていた、御土産の期待に目を輝かせているお子様達だった。

 もしかして、ずっと待っていたのか? まあ俺も村で似たような事をやっていたけどな。

 こうやって本職のやっている事を見させていただくと実に子供みたいな真似だから、女将さんにも笑われるわけだな。

「ただいまー」
 だが、彼女達はさっそく俺の肩口に注目していた。

 そしてアリシャが叫んでパタパタと足音を立てながら、ドップラー効果を伴って駆けていき大はしゃぎで父親を呼びに行った。

「お父さんー、カズホおじちゃんが羽虫の人を連れてきたよー」

「羽虫の人……」
 あまりといえばあまりの言われ様に、憮然とした表情でそれを見送ったエレ。

「ははは、言い得て妙だなあ」
「えー、ひどいな、カズホ」
 だが幼女様はもう一人いらっしゃったので質問が飛んできた。

「森の妖精さん?」
「ああごめん、うちらってそういうメルヘンなものじゃあなくって一介の精霊なんですわ」

「えーと、それはどう違うんだ?」
 幼女のメルヘンな質問に対して、我々はメルヘンな存在ではないと無茶な主張する精霊さんに訊いてみた。

「なんというか、うちらのようなフェアリースタイルの精霊は確かに存在するものだけど、同じように羽根を生やした人型の妖精は童話の中に出てくる想像上の存在だから」

「似たようなものだろ! それ、どう見たってモデルはお前らだ」
 その童話とやらの挿絵は見た事がないが、どうせこいつに瓜二つなのに決まっている。

「いやいや、森の妖精さんは君の世界で言うところのネッシーや雪男と同じ架空のものだから。精霊はなんというのかなあ、コモドオオトカゲとか化石が残っている恐竜とかそういう確かな証拠のある実在の存在なの。うーん、そういう異世界地球風の表現もなんだなあ」

「まあいいんだけどさ。ネッシーだろうがティラノザウルスだろうが、どっちみち俺に加護をくれないだろうからなあ、俺としてはこの世界の精霊の方がずっといいよ」

「あんた、実利一本で可愛くないわね」

「しょうがないだろ。こんな世界なら加護の一つくらいは欲しいわい。呼び出した本人である王様の加護はないんだからよ」

「もう、それを言うなら庇護でしょうに」

 そんな俺達のやりとりを、何かの作業中だったとみえて厚地の布でできたエプロンをしたまま末娘に引っ張ってこられていたカイザが見ていた。

 なんだかマイホームパパさんみたいで可愛いよな。カイザは俺よりも少し年上のはずなのだが。

「おいおい、今度は何を連れてきたんだ。何かおかしな者と関わっているんじゃないんだろうな」
「おかしな者ねえ。その目で確かめてみなよ。今日一番の御土産さ」

 そう言って俺は掌に載せたエレを奴の目の前に突き出してやった。奴は大きく眼を見開いて言った。

「その空の掌がどうかしたのか?」
「あらっ」
 俺とエレ、それに子供達が全員ずっこけた。

「お父さん、森の妖精さんが見えないの⁉」
「羽虫の人、とっても可愛いのーっ」

「いや、私こう見えましても一応はありがたい精霊なるものなのですがね~」
「へー、カイザって、見張りのためにいる役人なのに、そいつらの姿が見えないんだ」

 それを聞いて焦りまくるカイザ、もはや裸の王様と化しているな。よし、弄ろう。

「知ってるか? カイザ。俺の国では聖なる精霊が見えないのは正直でない者、不信心な人間とかなんだぜー」

「きゃあ、お父さん、それはすっごく大変」
「大変なのー」

 上の奴は父親弄りなのがわかっていて参加しているな。下の方はよくわかっていないが、なんか楽しいので参加しているだけだ。困惑したカイザが狼狽えて叫ぶ。

「い、いるのか、そこに精霊が」

 そして、つかつかとというか、単に飛んでいってカイザのおでこにデコピンを食らわすエレ。そしてデコピン連打。必要な時だけ一方的に物理効果を与えられるなんて反則だなあ。

 だが一見ヘナチョコに見えるそれはピンポイントで効いているようだ。さては精密に痛点を狙って突いているな、さすがは神秘の力を持つ精霊の仕事だぜ。

「あいたっ、いたたっ。なんだ、虫か⁉ なんか知らんが絶妙に痛いぞ」
「やれやれ、お父さんったら」
「あははは」

 アリシャはその普段は絶対に見せてくれないだろう父親のユーモラスな姿を見て、ケタケタと大笑いしている。エレの奴もなんだか非常に楽しそうだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

処理中です...