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第一章 巻き込まれたその日は『一粒万倍日』
1-32 いたの⁉
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宿屋の部屋で、木造りの粗末なベッドの上に座り込んで戦利品を広げて、にこにこしている俺。
まずは靴からだ。一足だけ銀貨五枚払って先に貰ってきたのだ。日本で履く物とはちょっと違うのだが、なかなか悪くはない革靴だ。
大昔に廃城に捨てられていて半分腐ったような靴をずっと履いていたからな。
それはもう廃棄処分というか、朽ちていなかっただけ奇跡というような物だったのだ。まあ、あれがあって本当に助かったのだけれども。
そして、お店で買ったお土産品だ。なんとそれは子供向けの絵本だった。
古い、羊皮紙に書かれた物で、中身は本当にチャチなのだが銀貨五枚の値段だった。
日本でいえば専門書並みの高さだが、これでも貴族の家が売り払った、ただ同然のがらくた市の中から傷み具合がマシそうな物を行商人が持ってきた物を委託販売しているのだ。
大変だな、行商人も。その苦労を労って、銀貨五枚のところを七枚で買わせていただいた。どうせ、スキルで増やした金だしな。
「物好きだね、あんたも。でも嬉しいね。せっかく持ってきてくれたんだから置いておいたけど、村の人間は読み書きも碌にできないのだから全然売れなくてね。
せっかく、こんな絵本なんてまず売れないような物を辺境の子供のためにわざわざ持ってきてくれたのに申し訳ないと思っていたところなんだ。しかも高く買ってくれてありがとう、彼も喜ぶよ」
「そうですか、いい仕事をしている人はちゃんと報われないとね。今度その人に会ったら礼を言っておいてくださいな」
「ああ、そいつなら明日来るから、それまで村にいちゃあどうだい」
「へえ、それなら会ってみたいな、そういう人には」
「じゃあ、それまで部屋は使っていていいからね。どうせ、明日の客もそいつくらいのもんだ」
そう言って少々恰幅のいい体付きの女将さんは、両手を腰にやると陽気にカラカラと笑っていた。
あとはお店で焼いたお菓子だ。簡単な物だけどクッキーのような焼き菓子は村人が御茶をしにきた時のお茶請けらしい。
ここのパンと同じようにご主人の謹製だ。特別なオーブンがあるらしい。ここが村内で喫茶店の役割も果たしているのか。
それと、最後の二個だった砂糖菓子の飴を獲得した。砂糖菓子は村では貴重品に入るらしい。なんと一個五百円相当で、二個で銀貨一枚もした。
生憎な事に俺の自家製の飴が完成するのは当分先のようだ。ここの楓の木の糖度は低くて、とてもまともな砂糖は作れないので原料レベルでもう駄目なのだ。
ここで買える飴は結構遠くの街で作られたものなのだという。高価だし、一旦在庫が切れるとなかなか届かないそうだ。辺境の村の子供達のために飴売りをする人生も悪くはないかもなあ。
そこへ突然声がした。
「ふうん、いいなあ、飴」
「誰だ⁉」
振り向いたが誰もいない。あれえ、気のせいだったのかなあ。俺は疲れているのかもしれない。無理もない、ここのところ荒野を歩き詰めだったからなあ。畜生、風呂に入りたいぜ。
「どこ見てんのさ、ここだってば、こっちこっち」
慌てて声のする方へ首を曲げたら、俺の右肩にはなんと昼間見た妖精のような奴が鎮座ましていた。
なんだあ、こいつって人間の言葉を喋れるのか。いや、それよりもいつから一緒にいたんだよ。俺の脳裏には、あの気配を消して襲ってきた三日月グリズリーの凶悪な顔が目に浮かんでいた。
「あははは。失礼しちゃうわね。いくら何でもアレと一緒にしないでよ。人間なんか襲ったりはしないよ。むしろあなたみたいな人とは仲良くしたいのですが。ねえ、異世界から召喚された勇者さん」
こいつ、俺の正体(本当は違うが)を知っているとは。それに心を読まれたのか。いつから部屋にいやがったのだ⁉
「いやね、召喚魔法が使われて物凄い魔力の流れがあったわけじゃあないですか。あたし達精霊はそういう物に目がないんで現場に駆け付けたわけですよ。
今頃、あの勇者の一行にはあたしの仲間がくっついていってるんじゃないかしら。勇者はいろいろな意味で美味しいからなあ。
もう誰かがあの勇者の少年をゲットしたのかしら、いや本当に羨ましい。それでね、出遅れたあたしが行った時にはもう石化したハズレ勇者しかいなくて、本当にがっかりだったのよ」
全部見ていやがったのか、こいつう。しかも、なんと砦からついてきていやがったのか。俺はもう宿屋のベッドに腰かけたままプルプル震える事しかできなかった。
「だーっ、ふざけるなあ。それが一体何をしに来やがったんだ。ご指摘の通り、見事なハズレ勇者っぷりですが、それが何か!」
「まあまあ。あんたについて、何か気になる感じだったのよね。なんというか精霊の嗅覚に引っかかるというかさ。収納の中からいい匂いがする気がするの」
「はあ?」
なんだこいつ。収納に仕舞った物体の匂いがわかるのだと⁉ そんな馬鹿な。まあ俺だって収納というものにそんなに詳しい訳ではないのだが。
「もしかして、これの事か?」
俺はスモモを取り出した。
「そいつも美味しそうだね。でもそれじゃあないの。あんたがこの世界に持ち込んだ物よ」
「あ」
そうだった。俺は残業の時とか、帰りに腹が減った時なんかに摘まむようにお菓子なんかを鞄に入れておく癖があったのだ。
あまりの事態にすっかり存在すら忘れていたぜ。焼き締めパンのインパクトがあまりにも大きすぎたのさ。
鞄を取り出してみると、精霊のチビが肩から降りて寄って来て、被り付きで見ている。その中にはチョコが入っていたのだから。
といっても、お洒落なチョコなどではない、なんというか非常食向けのように板チョコが箱の中にびっしりと何十枚か詰まっているタイプだ。
あとは、一箱に四個入った有名な栄養補給食品だが、これも非常袋の中身に推奨されるような奴だった。
あともう一つはタルトっぽいお菓子だが、実は有名なクラッカーで五年保存可能な災害用クラッカーとしても推奨されているクラッカーのクランチクラッカータルトという奴だ。
「あうう、俺ってば無意識のうちに鞄の中身を非常食で固めているのか。仕事の時に齧るようにという事で無意識にそうしているのかな。
俺の社畜精神がこのようなところに輝いていたとは。確かに携帯食としては、もうこの上ないチョイスなのだがなあ。
あとキャンデーもあるじゃないか。雪山遭難で威力を発揮しそうだ。あ、何故かお湯をかけるとオニギリになる非常食が二種類も入っているぞ。一体、何を考えていたんだろうか、俺。
でも箱のティッシュが入っているのはありがたいな。ポケットティッシュも入ってらあ。そういう物がなくて本当に困っていたんだ」
そういや、こっちへ来る前の日に会社帰りにパチンコへ行って貰った景品のお菓子がそのままだったんだ。
こいつが匂いの素だったのか、最後の日は残業せずに帰ろうとしたから入れっぱなしで忘れていたぜ。
キャラメルだの、ラムネだのという駄菓子系の物もパチンコの余り玉で貰ってあるんだった。まあ仕事用の鞄に入れてあった奴だからな。
そういう意味においては悪くない選択であったと言えるな。あとポカリスエットと緑茶のペットボトルも入っていた。
うーん、外回りの最中に熱中症で倒れそうだとか思っていたのだろうか。気温もかなり高くなってきていたので、会社でも外回りの際は水分補給に気を付けるように言われていたからな。
何かの景品でもらったと思われる箱ティッシュを、何故会社の鞄に入れて持ち歩いていたのかがマジで不明だった。日本でも日頃からテンパっていたんだね、俺。
まずは靴からだ。一足だけ銀貨五枚払って先に貰ってきたのだ。日本で履く物とはちょっと違うのだが、なかなか悪くはない革靴だ。
大昔に廃城に捨てられていて半分腐ったような靴をずっと履いていたからな。
それはもう廃棄処分というか、朽ちていなかっただけ奇跡というような物だったのだ。まあ、あれがあって本当に助かったのだけれども。
そして、お店で買ったお土産品だ。なんとそれは子供向けの絵本だった。
古い、羊皮紙に書かれた物で、中身は本当にチャチなのだが銀貨五枚の値段だった。
日本でいえば専門書並みの高さだが、これでも貴族の家が売り払った、ただ同然のがらくた市の中から傷み具合がマシそうな物を行商人が持ってきた物を委託販売しているのだ。
大変だな、行商人も。その苦労を労って、銀貨五枚のところを七枚で買わせていただいた。どうせ、スキルで増やした金だしな。
「物好きだね、あんたも。でも嬉しいね。せっかく持ってきてくれたんだから置いておいたけど、村の人間は読み書きも碌にできないのだから全然売れなくてね。
せっかく、こんな絵本なんてまず売れないような物を辺境の子供のためにわざわざ持ってきてくれたのに申し訳ないと思っていたところなんだ。しかも高く買ってくれてありがとう、彼も喜ぶよ」
「そうですか、いい仕事をしている人はちゃんと報われないとね。今度その人に会ったら礼を言っておいてくださいな」
「ああ、そいつなら明日来るから、それまで村にいちゃあどうだい」
「へえ、それなら会ってみたいな、そういう人には」
「じゃあ、それまで部屋は使っていていいからね。どうせ、明日の客もそいつくらいのもんだ」
そう言って少々恰幅のいい体付きの女将さんは、両手を腰にやると陽気にカラカラと笑っていた。
あとはお店で焼いたお菓子だ。簡単な物だけどクッキーのような焼き菓子は村人が御茶をしにきた時のお茶請けらしい。
ここのパンと同じようにご主人の謹製だ。特別なオーブンがあるらしい。ここが村内で喫茶店の役割も果たしているのか。
それと、最後の二個だった砂糖菓子の飴を獲得した。砂糖菓子は村では貴重品に入るらしい。なんと一個五百円相当で、二個で銀貨一枚もした。
生憎な事に俺の自家製の飴が完成するのは当分先のようだ。ここの楓の木の糖度は低くて、とてもまともな砂糖は作れないので原料レベルでもう駄目なのだ。
ここで買える飴は結構遠くの街で作られたものなのだという。高価だし、一旦在庫が切れるとなかなか届かないそうだ。辺境の村の子供達のために飴売りをする人生も悪くはないかもなあ。
そこへ突然声がした。
「ふうん、いいなあ、飴」
「誰だ⁉」
振り向いたが誰もいない。あれえ、気のせいだったのかなあ。俺は疲れているのかもしれない。無理もない、ここのところ荒野を歩き詰めだったからなあ。畜生、風呂に入りたいぜ。
「どこ見てんのさ、ここだってば、こっちこっち」
慌てて声のする方へ首を曲げたら、俺の右肩にはなんと昼間見た妖精のような奴が鎮座ましていた。
なんだあ、こいつって人間の言葉を喋れるのか。いや、それよりもいつから一緒にいたんだよ。俺の脳裏には、あの気配を消して襲ってきた三日月グリズリーの凶悪な顔が目に浮かんでいた。
「あははは。失礼しちゃうわね。いくら何でもアレと一緒にしないでよ。人間なんか襲ったりはしないよ。むしろあなたみたいな人とは仲良くしたいのですが。ねえ、異世界から召喚された勇者さん」
こいつ、俺の正体(本当は違うが)を知っているとは。それに心を読まれたのか。いつから部屋にいやがったのだ⁉
「いやね、召喚魔法が使われて物凄い魔力の流れがあったわけじゃあないですか。あたし達精霊はそういう物に目がないんで現場に駆け付けたわけですよ。
今頃、あの勇者の一行にはあたしの仲間がくっついていってるんじゃないかしら。勇者はいろいろな意味で美味しいからなあ。
もう誰かがあの勇者の少年をゲットしたのかしら、いや本当に羨ましい。それでね、出遅れたあたしが行った時にはもう石化したハズレ勇者しかいなくて、本当にがっかりだったのよ」
全部見ていやがったのか、こいつう。しかも、なんと砦からついてきていやがったのか。俺はもう宿屋のベッドに腰かけたままプルプル震える事しかできなかった。
「だーっ、ふざけるなあ。それが一体何をしに来やがったんだ。ご指摘の通り、見事なハズレ勇者っぷりですが、それが何か!」
「まあまあ。あんたについて、何か気になる感じだったのよね。なんというか精霊の嗅覚に引っかかるというかさ。収納の中からいい匂いがする気がするの」
「はあ?」
なんだこいつ。収納に仕舞った物体の匂いがわかるのだと⁉ そんな馬鹿な。まあ俺だって収納というものにそんなに詳しい訳ではないのだが。
「もしかして、これの事か?」
俺はスモモを取り出した。
「そいつも美味しそうだね。でもそれじゃあないの。あんたがこの世界に持ち込んだ物よ」
「あ」
そうだった。俺は残業の時とか、帰りに腹が減った時なんかに摘まむようにお菓子なんかを鞄に入れておく癖があったのだ。
あまりの事態にすっかり存在すら忘れていたぜ。焼き締めパンのインパクトがあまりにも大きすぎたのさ。
鞄を取り出してみると、精霊のチビが肩から降りて寄って来て、被り付きで見ている。その中にはチョコが入っていたのだから。
といっても、お洒落なチョコなどではない、なんというか非常食向けのように板チョコが箱の中にびっしりと何十枚か詰まっているタイプだ。
あとは、一箱に四個入った有名な栄養補給食品だが、これも非常袋の中身に推奨されるような奴だった。
あともう一つはタルトっぽいお菓子だが、実は有名なクラッカーで五年保存可能な災害用クラッカーとしても推奨されているクラッカーのクランチクラッカータルトという奴だ。
「あうう、俺ってば無意識のうちに鞄の中身を非常食で固めているのか。仕事の時に齧るようにという事で無意識にそうしているのかな。
俺の社畜精神がこのようなところに輝いていたとは。確かに携帯食としては、もうこの上ないチョイスなのだがなあ。
あとキャンデーもあるじゃないか。雪山遭難で威力を発揮しそうだ。あ、何故かお湯をかけるとオニギリになる非常食が二種類も入っているぞ。一体、何を考えていたんだろうか、俺。
でも箱のティッシュが入っているのはありがたいな。ポケットティッシュも入ってらあ。そういう物がなくて本当に困っていたんだ」
そういや、こっちへ来る前の日に会社帰りにパチンコへ行って貰った景品のお菓子がそのままだったんだ。
こいつが匂いの素だったのか、最後の日は残業せずに帰ろうとしたから入れっぱなしで忘れていたぜ。
キャラメルだの、ラムネだのという駄菓子系の物もパチンコの余り玉で貰ってあるんだった。まあ仕事用の鞄に入れてあった奴だからな。
そういう意味においては悪くない選択であったと言えるな。あとポカリスエットと緑茶のペットボトルも入っていた。
うーん、外回りの最中に熱中症で倒れそうだとか思っていたのだろうか。気温もかなり高くなってきていたので、会社でも外回りの際は水分補給に気を付けるように言われていたからな。
何かの景品でもらったと思われる箱ティッシュを、何故会社の鞄に入れて持ち歩いていたのかがマジで不明だった。日本でも日頃からテンパっていたんだね、俺。
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