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第一章 巻き込まれたその日は『一粒万倍日』
1-20 揺れる想い
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昨日は燃焼爆薬と粉塵爆薬並びに黒色火薬の原料作りと、お人形さん作りを並行してやるという変則な日になってしまったが、森のパトロールも兼ねて『松脂』の採取に入ったのだ。
楓樹液と共に松脂もあちこちで容器をくくりつけて仕掛けておいた。まるでゴムの木だな。
粘度が高いので容器には堪らないかもしれないが、一応は仕掛けておいた。松は自然に脂が漏れ出ている事もあるので、それも収納で回収していく。
狼などの魔物が湧いている事は特になさそうだった。チビが一緒に行きたがったが父親が止めたのでそれも無しだ。
何かいいお土産はないか探したのだが、薪を集めたのに留まった。カイザの話では、ここの森には蔓科のアケビのような実が生るそうなので、またそのうちに探しにこよう。
なんで松脂かというと燃焼力が高いと思うので。うろ覚えだが昔はギリシア火薬にも使われたのではないかと言われていたはずだ。
そういう可燃性が高く高火力な燃焼材を開発できないかと思ってね。あと、この世界に錬金術のようなものがあるとカイザが言っていた。
大きな街に行けば、そういう材料を扱っている店もあるというから、おそらく硫黄なんかは普通に流通していて、比較的簡単に入手できるのではないか。
そのうちに硫黄目当てで王都あたりへ行ってみたいが、カイザに聞いたら徒歩などでは相当遠いと言う。
道中休みながら行けば一ヶ月はかかるという話だから、王都へ行くのは当分無理そうだ。
王都まで行ったが最後、馬にでも乗らない限りは絶対にここまで帰ってこれないだろうな。日本生まれの俺がそこまで荒野の街道を歩けようもない。
あの王様、焼き締めパンを齧りながら本当に遠くまで来たんだな。まあその甲斐はあった訳なのだが。
まあ俺は俺で好きにやらせてもらおう。あと、この世界には魔法がある事は他の勇者もどきの連中のスキルを見れば一目瞭然だ。
もし適性があればそいつを習う事も可能なのだが、それも王都まで行かねば難しいという。なんでもかんでも王都かよ! ここは辺境の中の辺境なんだぜ。行商人すら来ない村なのだからな。
とりあえず、今日は松脂焼夷材の開発だ。あまり燃える物ばかりでもいかんのだが、強力な武器というと、どうしてもそっち系になってしまう。
魔法の才でもあればまた別なのだが。そして村の鍛冶屋に頼んでおいた剣と槍の研ぎを見にいった。
例によって子守りをしながらになったが、「とにかく切れ味を上げてくれ」と頼んである。非力な俺が近接戦闘になったら切れ味のいい武器が必須だ。
俺の場合は次々と武器を交換していけるし、収納の中では切れ味を鈍らせる脂なんかは分離できる、というか収納する際に異物として分離される。
刃毀れなどで物理的にダメージを負った場合は大人しく廃棄だ。数が多すぎて研ぎ代が勿体ないからな。剣と槍は研ぎ代をうんとはずんでおいたので、それはもうピカピカでよく切れそうな感じだ。
槍の方も振り回して切る用途にも使いたいので刃をつけてもらった。もうアリシャがそれらに触りたがってしょうがない。
「アリシャ、危ないから剣に触っちゃ駄目だよ」
「えーっ。じゃあ包丁は?」
「それも、うちのお手伝いがちゃんとできるようになってからにしような」
「ちぇえ」
鍛冶屋の親父は包丁の研ぎもおまけしてくれ、あと調理器具も磨いたり新しい物を作ったりしてくれた。
旅の準備は万端といったところだが、生憎な事に俺の心に根が生えてしまっているのだ。
ここには何もないけれど、今の俺にとって本当に心地がいい場所だ。
カイザは俺が何者なのか知った上で受け入れてくれるし、俺に懐いてくれている子達もいる。虐げられた無様で惨めな身の上が、このように心地よい暮らしを捨ててまで王都へ行く事を全力で拒んでいるのだ。
別に、どうしても王都までいかねばならない理由など俺にはない。俺が魔王と戦う義務があるわけでもない、むしろその逆なのだから。
魔王と戦う資格なしという烙印を国王自ら押してくれたのだ。
でも一介の異世界人である俺に対して、本来なら王として言ってはいけない謝罪の言葉まで何度か口にし、最後には労りの言葉までくれた、あの人間のできた王様を恨む気にはどうしてもなれないので、どうにもこうにも気持ちが中途半端だ。
王様が、いっそ糞のような悪党だったら思い切り恨めたのだろうが。むしろあいつら、一緒に来た日本人の態度の方が気になる。
あいつらの中には、俺の事を公然と物凄く見下していた連中も三分の一くらいはいたので、むしろそいつらと顔を合わすかもというのが一番行きたくない理由なのだ。
ああいう連中はどこにでもいる性根の腐ったタイプで、こちらの世界でもおそらく何らかの問題を必ず起こすだろう。
常に無用なトラブルを引き起こす言動・行動が伴う人種だからだ。まあ俺は関わらなければそう関係ないないのだが。
ただ、気にかかるのはあの二人の姉妹だ。可哀想に、特に妹の方が厳しいだろう。姉の方は一緒に仕事した仲で、懐かしい共通の話題もある昔馴染みなのだ。
あの子ってば、うちの会社でバイトしていた女子高生時代に、会社のお祭りでアニメのコスプレしていたっけなあ。あれは可愛くてなかなか萌えたぜ。
お休みにバイトに来る度におっさん達には大人気だった。三年生の夏休みからは受験で来なくなっちまったがな。まさか、このような境遇であの子と再会するとは思ってもみなかったよ。
なんというか、『会社の大人』として気になるというか、もし会社の連中がこの状態なのを知ったら叱責されそうだ。
「麦野君。みんなのアイドル・宗篤ちゃんが大変じゃないの。魔王だって? そんな物を退治する危険な仕事は君が頑張りなさいよ、君が。万が一の事があったとしても君一人なんかいなくなったって世の中は回るんだからね」とかなあ。
最後の一文はリアルでもよく言われたものだが。そんな事をみんなの前でピシャンっと言われちまっていた事すら今はただ懐かしい。
戻りたいな、会社に。もう一生叶わない望みだが。
もし日本に帰れたとしても会社に俺の席はない。無責任に残業もせずに帰り、突然失踪したとして除籍となっているだろう。
世の中にそのような感じである日突然いなくなってしまう人間など決して珍しくないのだから。
だがそのような人間と、いつもとことん仕事を頑張ってきたこの俺が一緒にされているだろう事だけが、日本での唯一の心残りだった。
今更そのような事を言っても、もうどうしようもないのだが。ここでその続きを頑張るとしますか。
本日は剣の方をスキルで増やしておいた。上から落としてやるのであれば、こちらの方が槍よりも刀身が長いので深く刺さるかもしれない。
少し大きな魔物が出た時は、この長刃の剣を更に高い位置から落としてやれば威力が高いだろう。俺が振り回すには手に余るほど重量もかなりある物なのだし。
明日は新しく作ってもらった大きめな槍を増やそう。村の鍛冶屋は何でも作らないといけないせいなのか、かなりいい腕をしている。
その次はスキルで攻撃の威力を増大できるかの実験だな。まず剣や槍を『複数同時に』スキルの対象にできるか。
何しろ一日一回しか使えないから、あれこれ確かめておく必要がある。
そして爆発・燃焼系の武器だな。まだ威力の弱いものしかないので、それがどれくらいの威力になるのか見ておきたい。いざという時の選択肢は多い方がいい。
楓樹液と共に松脂もあちこちで容器をくくりつけて仕掛けておいた。まるでゴムの木だな。
粘度が高いので容器には堪らないかもしれないが、一応は仕掛けておいた。松は自然に脂が漏れ出ている事もあるので、それも収納で回収していく。
狼などの魔物が湧いている事は特になさそうだった。チビが一緒に行きたがったが父親が止めたのでそれも無しだ。
何かいいお土産はないか探したのだが、薪を集めたのに留まった。カイザの話では、ここの森には蔓科のアケビのような実が生るそうなので、またそのうちに探しにこよう。
なんで松脂かというと燃焼力が高いと思うので。うろ覚えだが昔はギリシア火薬にも使われたのではないかと言われていたはずだ。
そういう可燃性が高く高火力な燃焼材を開発できないかと思ってね。あと、この世界に錬金術のようなものがあるとカイザが言っていた。
大きな街に行けば、そういう材料を扱っている店もあるというから、おそらく硫黄なんかは普通に流通していて、比較的簡単に入手できるのではないか。
そのうちに硫黄目当てで王都あたりへ行ってみたいが、カイザに聞いたら徒歩などでは相当遠いと言う。
道中休みながら行けば一ヶ月はかかるという話だから、王都へ行くのは当分無理そうだ。
王都まで行ったが最後、馬にでも乗らない限りは絶対にここまで帰ってこれないだろうな。日本生まれの俺がそこまで荒野の街道を歩けようもない。
あの王様、焼き締めパンを齧りながら本当に遠くまで来たんだな。まあその甲斐はあった訳なのだが。
まあ俺は俺で好きにやらせてもらおう。あと、この世界には魔法がある事は他の勇者もどきの連中のスキルを見れば一目瞭然だ。
もし適性があればそいつを習う事も可能なのだが、それも王都まで行かねば難しいという。なんでもかんでも王都かよ! ここは辺境の中の辺境なんだぜ。行商人すら来ない村なのだからな。
とりあえず、今日は松脂焼夷材の開発だ。あまり燃える物ばかりでもいかんのだが、強力な武器というと、どうしてもそっち系になってしまう。
魔法の才でもあればまた別なのだが。そして村の鍛冶屋に頼んでおいた剣と槍の研ぎを見にいった。
例によって子守りをしながらになったが、「とにかく切れ味を上げてくれ」と頼んである。非力な俺が近接戦闘になったら切れ味のいい武器が必須だ。
俺の場合は次々と武器を交換していけるし、収納の中では切れ味を鈍らせる脂なんかは分離できる、というか収納する際に異物として分離される。
刃毀れなどで物理的にダメージを負った場合は大人しく廃棄だ。数が多すぎて研ぎ代が勿体ないからな。剣と槍は研ぎ代をうんとはずんでおいたので、それはもうピカピカでよく切れそうな感じだ。
槍の方も振り回して切る用途にも使いたいので刃をつけてもらった。もうアリシャがそれらに触りたがってしょうがない。
「アリシャ、危ないから剣に触っちゃ駄目だよ」
「えーっ。じゃあ包丁は?」
「それも、うちのお手伝いがちゃんとできるようになってからにしような」
「ちぇえ」
鍛冶屋の親父は包丁の研ぎもおまけしてくれ、あと調理器具も磨いたり新しい物を作ったりしてくれた。
旅の準備は万端といったところだが、生憎な事に俺の心に根が生えてしまっているのだ。
ここには何もないけれど、今の俺にとって本当に心地がいい場所だ。
カイザは俺が何者なのか知った上で受け入れてくれるし、俺に懐いてくれている子達もいる。虐げられた無様で惨めな身の上が、このように心地よい暮らしを捨ててまで王都へ行く事を全力で拒んでいるのだ。
別に、どうしても王都までいかねばならない理由など俺にはない。俺が魔王と戦う義務があるわけでもない、むしろその逆なのだから。
魔王と戦う資格なしという烙印を国王自ら押してくれたのだ。
でも一介の異世界人である俺に対して、本来なら王として言ってはいけない謝罪の言葉まで何度か口にし、最後には労りの言葉までくれた、あの人間のできた王様を恨む気にはどうしてもなれないので、どうにもこうにも気持ちが中途半端だ。
王様が、いっそ糞のような悪党だったら思い切り恨めたのだろうが。むしろあいつら、一緒に来た日本人の態度の方が気になる。
あいつらの中には、俺の事を公然と物凄く見下していた連中も三分の一くらいはいたので、むしろそいつらと顔を合わすかもというのが一番行きたくない理由なのだ。
ああいう連中はどこにでもいる性根の腐ったタイプで、こちらの世界でもおそらく何らかの問題を必ず起こすだろう。
常に無用なトラブルを引き起こす言動・行動が伴う人種だからだ。まあ俺は関わらなければそう関係ないないのだが。
ただ、気にかかるのはあの二人の姉妹だ。可哀想に、特に妹の方が厳しいだろう。姉の方は一緒に仕事した仲で、懐かしい共通の話題もある昔馴染みなのだ。
あの子ってば、うちの会社でバイトしていた女子高生時代に、会社のお祭りでアニメのコスプレしていたっけなあ。あれは可愛くてなかなか萌えたぜ。
お休みにバイトに来る度におっさん達には大人気だった。三年生の夏休みからは受験で来なくなっちまったがな。まさか、このような境遇であの子と再会するとは思ってもみなかったよ。
なんというか、『会社の大人』として気になるというか、もし会社の連中がこの状態なのを知ったら叱責されそうだ。
「麦野君。みんなのアイドル・宗篤ちゃんが大変じゃないの。魔王だって? そんな物を退治する危険な仕事は君が頑張りなさいよ、君が。万が一の事があったとしても君一人なんかいなくなったって世の中は回るんだからね」とかなあ。
最後の一文はリアルでもよく言われたものだが。そんな事をみんなの前でピシャンっと言われちまっていた事すら今はただ懐かしい。
戻りたいな、会社に。もう一生叶わない望みだが。
もし日本に帰れたとしても会社に俺の席はない。無責任に残業もせずに帰り、突然失踪したとして除籍となっているだろう。
世の中にそのような感じである日突然いなくなってしまう人間など決して珍しくないのだから。
だがそのような人間と、いつもとことん仕事を頑張ってきたこの俺が一緒にされているだろう事だけが、日本での唯一の心残りだった。
今更そのような事を言っても、もうどうしようもないのだが。ここでその続きを頑張るとしますか。
本日は剣の方をスキルで増やしておいた。上から落としてやるのであれば、こちらの方が槍よりも刀身が長いので深く刺さるかもしれない。
少し大きな魔物が出た時は、この長刃の剣を更に高い位置から落としてやれば威力が高いだろう。俺が振り回すには手に余るほど重量もかなりある物なのだし。
明日は新しく作ってもらった大きめな槍を増やそう。村の鍛冶屋は何でも作らないといけないせいなのか、かなりいい腕をしている。
その次はスキルで攻撃の威力を増大できるかの実験だな。まず剣や槍を『複数同時に』スキルの対象にできるか。
何しろ一日一回しか使えないから、あれこれ確かめておく必要がある。
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