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第一章 孤独の果てに
1-38 再び逃避行
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「ジン、すごくお世話になったシェリルにだけは別れの挨拶をしていきたかったんだけど」
「悪いが、さすがにそいつは無理だな。
油断しているとあの男、一分後にはもう空間魔法で千人の兵隊を連れて舞い戻ってくるかもしれないぞ。
ありゃあ、何を考えているのかもわからんような、さすがの俺も手に余る、ある意味では俺達を上回る化け物のような人間だぜ」
それを聞いて、アリエスもしょぼんとして諦めたようだった。
あの野郎の親玉らしい例の将軍の事を考えると頭が痛くなる。
どうも、あの帝国って奴らはただの蛮族上がりとは思えん手強さがあるな。
どうにも調子が狂う。
今まで俺が相手にしてきたような、へっぽこな冒険者どもとは相当格が違うようだ。
「う、うん。
我儘を言ってごめんなさい、ジン」
「いいんだ、俺こそ急かして済まない。
久しぶりの街なんだ、もっとゆっくりさせてやりたかったのだが、やはり無理があったようだ。
いつかこの街でお世話になった人達にお礼の挨拶に来れるといいな」
「うん、ありがとう」
悪いが置手紙なんかをさせていく時間もない。
深夜とはいえ、さっきの立ち回りを誰かに見られていないとも限らないのだし。
あと、あいつの動向がやっぱり気にかかる。
今も転移していったと見せかけて、その辺の物陰で俺のスーパー感知すら誤魔化しながら俺達の事を密かに監視していたって不思議じゃない。
とにかく、油断も隙もあったものじゃない奴なのだから。
そしてアリエスが、そっと小声で呟いていた。
「ありがとう、この街の皆さん。本当にお世話になりました。
ご迷惑になるといけないから、私達はもう行きます。
このご恩は決して忘れません。
あなた方に天のアレスのご加護がありますように」
そしてシルバーが二人を乗せて俺の結界に入り、俺達は隠密しながらその街を去った。
俺もそっと移動したから、明確な巨人の足跡とか残していないはずだが。
まあそんな物があっても気にするのは帝国の手の者くらいだろう。
見つかったとしても、せいぜい街の七不思議に数えられるくらいのものだ。
辺境の整備の良くない街道を行く間も、アリエスは無言で俯きがちだったので、メリーベルの方が少し気にしていたようだ。
アリエスはそんな妹の髪をそっと撫でて、微笑んで安心させていた。
いかんな、年長の姉の方にストレスが溜まりつつある。
こういうのは性分というか、あの子の性格的なものなのだろう。
「しばらくは街へ行けないな。
夜は冒険者から巻き上げておいたテントで暮らすしかない。
お前達にはキツイだろうが、それで我慢してもらうしかないな」
だが、アリエスは犬上で気丈に微笑んだ。
「大丈夫よ、ジンに会う前はそんな物さえない時もあったの。
テントがあるなら上等。
今は私達も、もう王女なんかじゃない、ただの孤児なのよ」
ふと見ると、メリーベルはシルバーの上に座ったまま寝ていた。
アリエスが落ちないように支えていたし、シルバーも殆ど揺らさないように速度を抑えていた。
まだ夜中だからな、幼いメリーベルには辛かろう。
せめて、朝までベッドの上で寝かせてやりたかったものだ。
そして、夜中の行軍は続いた。
とにかく距離を稼いでおかなくてはならないが、またしても現在地がバレているため、港へ向かう事はもとより想定されているだろうから、おそらく前方には罠が待ち構えているだろう。
連中もかなりやるようなので、まともにそいつを食らうのは感心できない。
一旦、真ん中の港から東側方面の他国に紛れるのも一考の余地ありだ。
だが危険と言われる大海の旅を前に何倍もの距離を行き、遠回りをするのも考え物なので、それもまた悩みどころだ。
へたをすると、アリエス達の身柄を押さえるためだけに、帝国はこのサンマルコス王国へ侵攻してくる可能性さえある。
ただでさえ便が少なそうな西方への船に乗り損なってしまうかもしれないのだ。
何しろ海岸線に関しては、この国との国境目前の港へ、やろうと思えば東西両側から直接船団で兵力を送り込めるのだからな。
あるいはその近隣の港からそのまま駐留の地上軍が直進して港を抑えてしまえばいいのだ。
あるいは、本国から直接大船団を派遣して港本体を海軍のみで揚陸強襲する強引な手もある。
もしかしたら、先遣隊の『海兵隊』すら存在するかもしれない。
ルーゲンシュタット帝国か、なんて性質の悪い国なのだろうな。
あの転移系能力者が奴の他にもいたら非常にマズイ。
あいつは諜報部隊なので本来は少人数の特戦隊を帯同する役割だろうから、当初の俺達の追撃戦には登場していなかったようなのだが、ついに伝家の宝刀として呼ばれてきたものらしい。
そいつらに入れ代わり立ち代わりで襲撃なんかを食らった日には堪ったものではない。
また、そいつらが部下を連れて港に入り込んで占領のための破壊工作にかかるという線もある。
へたするとアリエスの国も滅ぼされた時の最初の狼煙として、宣戦布告代わりにそれを食らってしまった可能性すらあるしな。
敵の手持ちのカードや出方がよくわからないので対応するにも困る。
やはり港へは早いところ行った方が無難だな。
あらかじめ敵の襲撃がある事は予想していたつもりだったのだが、俺が思っていたよりも遥かに性質が悪かった。
「悪いが、さすがにそいつは無理だな。
油断しているとあの男、一分後にはもう空間魔法で千人の兵隊を連れて舞い戻ってくるかもしれないぞ。
ありゃあ、何を考えているのかもわからんような、さすがの俺も手に余る、ある意味では俺達を上回る化け物のような人間だぜ」
それを聞いて、アリエスもしょぼんとして諦めたようだった。
あの野郎の親玉らしい例の将軍の事を考えると頭が痛くなる。
どうも、あの帝国って奴らはただの蛮族上がりとは思えん手強さがあるな。
どうにも調子が狂う。
今まで俺が相手にしてきたような、へっぽこな冒険者どもとは相当格が違うようだ。
「う、うん。
我儘を言ってごめんなさい、ジン」
「いいんだ、俺こそ急かして済まない。
久しぶりの街なんだ、もっとゆっくりさせてやりたかったのだが、やはり無理があったようだ。
いつかこの街でお世話になった人達にお礼の挨拶に来れるといいな」
「うん、ありがとう」
悪いが置手紙なんかをさせていく時間もない。
深夜とはいえ、さっきの立ち回りを誰かに見られていないとも限らないのだし。
あと、あいつの動向がやっぱり気にかかる。
今も転移していったと見せかけて、その辺の物陰で俺のスーパー感知すら誤魔化しながら俺達の事を密かに監視していたって不思議じゃない。
とにかく、油断も隙もあったものじゃない奴なのだから。
そしてアリエスが、そっと小声で呟いていた。
「ありがとう、この街の皆さん。本当にお世話になりました。
ご迷惑になるといけないから、私達はもう行きます。
このご恩は決して忘れません。
あなた方に天のアレスのご加護がありますように」
そしてシルバーが二人を乗せて俺の結界に入り、俺達は隠密しながらその街を去った。
俺もそっと移動したから、明確な巨人の足跡とか残していないはずだが。
まあそんな物があっても気にするのは帝国の手の者くらいだろう。
見つかったとしても、せいぜい街の七不思議に数えられるくらいのものだ。
辺境の整備の良くない街道を行く間も、アリエスは無言で俯きがちだったので、メリーベルの方が少し気にしていたようだ。
アリエスはそんな妹の髪をそっと撫でて、微笑んで安心させていた。
いかんな、年長の姉の方にストレスが溜まりつつある。
こういうのは性分というか、あの子の性格的なものなのだろう。
「しばらくは街へ行けないな。
夜は冒険者から巻き上げておいたテントで暮らすしかない。
お前達にはキツイだろうが、それで我慢してもらうしかないな」
だが、アリエスは犬上で気丈に微笑んだ。
「大丈夫よ、ジンに会う前はそんな物さえない時もあったの。
テントがあるなら上等。
今は私達も、もう王女なんかじゃない、ただの孤児なのよ」
ふと見ると、メリーベルはシルバーの上に座ったまま寝ていた。
アリエスが落ちないように支えていたし、シルバーも殆ど揺らさないように速度を抑えていた。
まだ夜中だからな、幼いメリーベルには辛かろう。
せめて、朝までベッドの上で寝かせてやりたかったものだ。
そして、夜中の行軍は続いた。
とにかく距離を稼いでおかなくてはならないが、またしても現在地がバレているため、港へ向かう事はもとより想定されているだろうから、おそらく前方には罠が待ち構えているだろう。
連中もかなりやるようなので、まともにそいつを食らうのは感心できない。
一旦、真ん中の港から東側方面の他国に紛れるのも一考の余地ありだ。
だが危険と言われる大海の旅を前に何倍もの距離を行き、遠回りをするのも考え物なので、それもまた悩みどころだ。
へたをすると、アリエス達の身柄を押さえるためだけに、帝国はこのサンマルコス王国へ侵攻してくる可能性さえある。
ただでさえ便が少なそうな西方への船に乗り損なってしまうかもしれないのだ。
何しろ海岸線に関しては、この国との国境目前の港へ、やろうと思えば東西両側から直接船団で兵力を送り込めるのだからな。
あるいはその近隣の港からそのまま駐留の地上軍が直進して港を抑えてしまえばいいのだ。
あるいは、本国から直接大船団を派遣して港本体を海軍のみで揚陸強襲する強引な手もある。
もしかしたら、先遣隊の『海兵隊』すら存在するかもしれない。
ルーゲンシュタット帝国か、なんて性質の悪い国なのだろうな。
あの転移系能力者が奴の他にもいたら非常にマズイ。
あいつは諜報部隊なので本来は少人数の特戦隊を帯同する役割だろうから、当初の俺達の追撃戦には登場していなかったようなのだが、ついに伝家の宝刀として呼ばれてきたものらしい。
そいつらに入れ代わり立ち代わりで襲撃なんかを食らった日には堪ったものではない。
また、そいつらが部下を連れて港に入り込んで占領のための破壊工作にかかるという線もある。
へたするとアリエスの国も滅ぼされた時の最初の狼煙として、宣戦布告代わりにそれを食らってしまった可能性すらあるしな。
敵の手持ちのカードや出方がよくわからないので対応するにも困る。
やはり港へは早いところ行った方が無難だな。
あらかじめ敵の襲撃がある事は予想していたつもりだったのだが、俺が思っていたよりも遥かに性質が悪かった。
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