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第二章 王都へ

2-2 料理長さん、いらっしゃい

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「やあ、お待たせいたしました。私をお呼びですか、坊ちゃま」

 貴族の子女に呼ばれた時に、料理長などがやってくるのは世の習わしだ。役得もあるのだし。今日は王都の伯爵と大手商会の幹部である子女に帯同されているのだ。

 綺麗な格好をして湯浴みも済ませているスイートの宿泊客なのだ。まさか向こうも俺の事を農民の子だとは思ってはいまい。

「いや、あなたの料理に感激してしまいまして、ついつい五皿もお替りをしてしまいました」

 ついでに言うならサラダとスープ、メインの前の一品である川魚のムニエルもお替り済みだ。コースが進むと、それまでの料理はお替りができなくなるからな。料理長も笑っている。しかも幼児サイズの量ではなく、大人サイズでのお替りだからな。

 俺は立ち上がると彼に握手を求め、そしていかにも感激ですという感じに握り締め、きっちりとスキルをいただいた。

 そして、彼の手を離すとその手に金貨を握らせて、いかにも上流社会の人間であるかのように優雅な礼をした。

 もちろん、そこの伯爵からパクったスキルなのだが。前世では若干品の無い人生を生きてきたし、今は農民の子供なのだ。自前でやれる芸当ではない。料理長も恭しい礼をして戻っていった。

「へえ、あんたもなかなかやるじゃない」
「さすが、いっぱいお替りをするだけあるわね。そんなにここの宿のお料理が気に入っちゃったのかな?」

 だが、我が姉はそんなやり取りを鼻で嘲笑った。
「ふ。大人はみんな甘いわね。このアンソニーが、そんな事のために金貨一枚をただで差し出したですって? 笑わせるわ。あんた、一体何を企んでいるのよ」

「ふふ、ミョンデ姉。うちに帰ったら、僕が集めた素材で、ここの料理を再現してみせるから」

 それを聞いた女性二人は顔を見合わせていたが、伯爵はやれやれといった面持ちで食事に専念していたし、ミョンデ姉はこの料理が家で食べられるならいいかという感じだ。

 その後、あれこれと料理をお替りさせていただいた。メインの子牛のステーキ、そしてデザートのケーキに至るまできっちりとお替りさせていただいた。女性二人は胸やけがしていたようだったが。

 その後、夜はスカーレット嬢と同衾させていただき、上等なベッドで寝させていただいた。満腹だし、いろいろあった一日だったので、すぐに寝付いた。

 俺達は元々農民の子なので、灯がくれたらすぐに寝る習慣がついている。俺は生前から鼾で女を困らせた事はない。その逆はあったけどね!

 俺達は朝ご飯の最中だった。例によって、もりもりと。いやあ、大きな町の飯は美味い。あちこちから王都へ向かう物資の山の中から、ここでも大量に消費されるのだ。国中から美味いものが集まっているじゃないか。まるで東京の築地だ。お替りはどんどんいただいた。

「お前は本当に遠慮っていうものがないな」
「御飯をいちいち遠慮しながら食べる二歳児なんていたら気持ち悪くない?」

「二歳児はそんなに食わねえよ!」
 俺とロザンナのコントは今日も快調だ。

「いやあ、昨日も美味しくいただきましたしね!」
 俺は朝飯前に軽く朝風呂を強請って少し泳いでみた。

 昨日はちょっと遠慮していたのだ。しっかり二人のお胸も堪能したし。食う物も食ったし、心おきない。一応、宿で用意しておいたお弁当は伯爵が持ってくれている。俺の分は大人五人前なのだが。

 そして出発し、この町の華やかな街並みも当分はお預けといったところか。しばらくしてからロザンナが言った。

「さあ頼むわよ、アンソニー。こんな事を言うのなんだけどね。荷物を降ろして油断したところへ襲ってくる連中がいるのよ。

 冒険者の馬がついていれば、そういう事もないんだけど。ここで契約を解除しちゃう人達もいるから。大概は魔法通貨だし、諦めてお金を渡すんだけどね。それで闇市場で金を引き出されちゃう場合もあるわけで。

 ここと王都との間では、身軽に動く連中が多くて。街道の往来も多いから、荷物や女は狙っていかない。単独で馬車に乗り込んだりするのさ」

「あんな風に?」
「え?」

 今、まさに前の馬車に、馬で乗りつけた賊が乗り込んで悲鳴が上がったところだ。窓を開けっぱなしだなんて不用心にもほどがあるぜ。単独犯行か。やるなあ。普通なら御者台から行くんだろうに。臨機応変って奴かな。

「お前、知っていたの」
「うん。こっちに来るようなら捕獲しようと思ってたのに。ちっ」

「もう。見て見ぬふりしたの?」
「この馬車の護衛を放っておいて?」

「う、それは」
 ロザンナもそれはできないが、警備の人間として賊が目の前でやりたい放題というのも何なのだろうな。少し困ったような顔をしていたが、スカーレット嬢はこう言ってくれた。

「アンソニー、さすがに目の前の賊を好き放題にさせておくのはあれね。なんとかできる?」
「報奨金が出るなら喜んで」

 その現金な言い草に二人は苦笑したが、スカーレット嬢は請け負ってくれた。

「捕まえてくれたら王都の警備隊に引き渡し、報奨金の交渉をしてあげるから」
「よーし、リーダー隊ハートのエース、出動」

 俺はリーダーやメイジをトランプの四種類のカードのAから10までの四十隊にわけてある。各五十体の編成だ。

 前回は初陣なのもあってゴブリンキングばかりで編成したが、今はこのリーダー・メイジ各隊セットに五名のゴブリンキングをつけてある。

 基本的に「ばあや」だけは別編成だ。本来、ばあやが組むはずのそいつらは、メスリム村の守備に回っているのだ。

 そして走行中の馬車の周りを死角から固め、奴の馬を取り押さえた。後は馬鹿がのこのこと出てくるのを待つばかりなのだが、ちっとも出てこない。

「あれ?」
「どうしたの?」

「賊の奴が馬車の旅を満喫しているのかな。馬車から出てこないんだけど」
「え? それは妙ね。普通は金を奪ってさっさと逃げていくものだけど」

「ちょっと様子を見てきます」
 俺は商用としては比較的豪華な馬車の扉を開けて、狂王を呼んだ。

「狂王、あの馬車の中を覗きたいから連れていってくれ」
「イエス・マイロード。では覗きに出発」

「そういう言い方もなんだな。けして間違っちゃいないのだが」
 彼は俺を抱えて、ドアを丁寧に締めると前の馬車の中を覗けるように体を持ってもらった。

 すると、中の声が聞こえた。くるくる巻き毛のお嬢様っぽい人がいる。さっき窓から入っていった人物と妙に服装が合っているのだが。これは、まさか。

「ふう、もう暑くなったわねえ」
「そうでございますよ、お嬢様。御転婆も大概になさいませ」
 はあ? 賊じゃないだと⁉

「あのう、もし」
「え、誰?」

「外ですよー」
 そして外を覗いた彼女は悲鳴をあげた。

「きゃあ、化け物~」
「いや、あなた。あなたが、その馬車を襲った賊ではなかったのですか」

「え、私が? 何故?」
「ああ、もういいです……騒がせましたね」
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