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第一章 渡り人

1-12 魔物と冒険者

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 そんなある日、村に大事件が起こった。小鬼魔物ゴブリンの目撃があったのだ。もし近くに集落が作られたりしていたら大変な事になる。

 大人たちが協議した結果、領主を通して冒険者に依頼する事になった。とりあえずの費用は、村役場の資金から賄われることになった。エヘン、それには俺も微々たるものではあるが貢献しているんだぜ。

 ゴブリン、魔物。奴らは何かスキルを持っているようなものなんだろうか。そして冒険者。動物からはいろいろとスキルをいただいた。

『ウサギイヤー』
 あの長いアンテナから拾うのと同等の聴力だ。

『ウサギジャンプ』
 ウサギみたいな凄いジャンプだ。二歳児なのに大人並みのジャンプをみせる。

『ディアー・スメル』
 鹿の嗅覚さ。もともと食い意地は張っているから鼻は利くんだけどね。

 狐の奴もある。森には狼がいる。いつか狼の子供が手に入ると嬉しいな。村で犬は見かけないし、叔父さんも使っていない。

『フォックス・アイ』
 夜行性の狐の目だ。夜間性能に優れる。視力も人間を上回っているはずだ。こいつに関しては、いつかフクロウを捕まえたい。

 あいつらって猛禽だからな。まだ二歳児の手には負えないぜ。ホークアイも是非手に入れたいものだ。鷹は飼ってみたい生き物の一つだ。貴族の中には鷹狩りをする者もいるという。この世界でも、いつかチャンスはありそうだ。

『ハンターズ・パワー』
 叔父さんの猟師としての腕力。大人用の狩猟用の強力な弓を弾く力は十分あるのだが、単に手が短いのでまだ大人用が使えないだけなのだ。使うとお腹が非常に空く欠点もある。そんな事は今更だけど。

『フラッシュ』
 ライトを使い込んでいたら、何故か使えるようになった。眩しい光を浴びせて動物などの足を一時的に止められる。

 別に断じて太〇拳などではない。まだ幼児なのだからな。この年で禿げていて堪るものか。というか、やっと毛が生え揃ってきた感じなのだから。

 さすがに子供はゴブリン狩りに参加はできないだろうが、俺は射程こそ短いが重量と破壊力のある鋼鉄矢を鍛冶屋の親父さんと作っていた。自衛の必要はあるからだ。見事にぶ厚い木をぶち抜く威力があった。

 輪切りにした丸太を投げてもらい練習したが、クレー射撃は百発百中になった。村の子供は勝手に出歩けなくなったが、俺は叔父さんと一緒なら許された。自分で戦えるからだ。二歳児だけど。

 両親には腕前は見てもらって許可をもらった。弓は予備も作ってもらった。ごついが叔父さんの手作りで実戦向けのすごい弓だ。

 俺は、冒険者が到着するまで村から依頼された叔父さんの付近の哨戒に付き合って、実践訓練を兼ねて大物を狩らせてもらった。

 俺の隠密はたいしたものだった。それらは各種の野生動物達から貰ったものだからね。遠くを見通す『バードアイ』、鳥の目のスキルも持っているのだ。

 単に動物の能力をDNAに移植したものに過ぎないのだが。俺はある意味では、遺伝子工学で動物の能力を移植して作られた改造人間に等しい存在なのだ。

 そして、ある日の事だった。俺はなんとなく目が覚めたてしまった
「おしっこ」

 そう言いながら厠を目指したが、何故か弓矢を背負っていた。最近のゴブリン騒動で、武器はいつも手放さないのだ。そして、便所の窓からそいつと目が合ってしまった。

「グゲエ」
「よお」
 俺は寝ぼけていたので、夜目にも緑色とわかるそいつに挨拶してしまった。

 向こうも戸惑ったようで、しばらく顔を突き合わせていた。そして、先に事態を認識した瞬間に超速で弓に矢を番えて、速攻でぶっ放した。

 それは至近距離からの直撃だったので、小柄なそいつの頭を貫通してしまい、ちょっと慌てた。夜中だから、後ろに誰もいないだろうけど。うっかりと貴重な鋼鉄矢を使ってしまったので、矢も回収しないとな。そして、俺は思いっきり叫んだ。

「敵襲~、ゴブリンだあ」
 スキルを使用した、俺の大きな叫び声に、皆がドタバタと起き上がってきた。

 父はでかい薪割用の斧を、母はフライパンを、上の姉は何故か枕で、兄はただの棒切れだった。下の姉は起きない構えらしい。いい根性しているな。俺よりも大物だぜ。

「アンソニー! ゴブリンはどこだ」

「便所の外だよ。仕留めたはず。血飛沫を上げてふっとんだから。でも、もしかすると夜中に便所を覗いていた変態だったのかも」

「もしそうなら死んでいても仕方がない」
 そう言ってランプを灯した父や兄と一緒に見に行ったが、そこには緑色の血が大量に零れているだけだった。

 確かにゴブリンだったようだ。奴らの血は腐っており緑色だ。だから肌も緑色をしているのだ。ヘモグロビンが腐っている生き物はそうなのだ。

 緑色をした血が緑のトカゲとかいたよな。グリーンイグアナはそれとは違った気がする。あれはカメレオンみたいな保護色なんじゃあ。

「おかしいな。確かにこいつで頭を撃ち抜いていたはずなのに。ねえ、お父さん。ゴブリンはそんなに生命力が強いの?」

 頭をやられて生きているなんて、ゾンビよりも最強だろう。そんな奴らが大量に攻めてきたら冗談じゃないぜ。

 父は手の中にある俺が渡した鋼鉄矢の、異常な重みに若干驚きつつも、しっかりと首を振った。

「いや、そんな事はない。ミハエルが棍棒で叩いたって死ぬさ。仲間が連れ去ったのだろう。どうしてなのか知らないが、奴らは仲間の死体を置いていかない。

 これは斥候の部隊だな。サルが人里に出没する時は単独で斥候を寄越すが、ゴブリンは数人でやってくる。そして見つかって仲間が殺されると担いで逃げるのだという。

 まさに情報通りだ。昔もゴブリンが現れた事があってな。その時に冒険者から聞いた話だ。あの時はサラム町との共同で冒険者を頼んだ。

 大きな集落でな。退治された時は皆で胸を撫で下ろしたものさ。今回も同じように町もお金を出してくれる。もう、そろそろ冒険者が来る頃だろう」

 そうだったか、安心したぜ。何か新兵器は作れないかな。いや、ここまで来たら冒険者からスキルをもらった方が早い。

「だが、アンソニー。お手柄だぞ。これで反撃が無かったら、今夜村が襲われていたかもしれん。寝込みを襲われては反撃もままならん。早朝に村長のところに行こう。今夜はもう襲ってこないはずだ。15年前の具合からすると、また明日斥候が来るはずだ。フランコとも相談しよう」

 そして、父が寝ずの晩をする事になったので、他の家族は寝る事にしたようだ。俺は、もちろん起きていられるはずもない。こう見えて、まだほんの二歳児なんだからな。
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