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第二章 世直し聖女

2-33 伝説のギルマス

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「ん-っ」

 私は自分の部屋のベッドで思いっきり伸びをしたが、ふと隣に佇んでいるチャックを見ると、相変わらず草色の奴がその上で寝こけている。

 かくいう私ももう一度寝直していたわけだが。
 しかし、こいつって本当に福を蒔いていく神獣なるものなのだろうか。

 どう見ても草色をした雪男にしか見えない。
 ほぼ天然のギリースーツだ。

「しかし、異世界で妙な人外の仲間ばっかりが増えていくな。
 そういや、青い鳥の捜索をさせるのを忘れていた。

 ここのところ、騒動に巻き込まれているか、お菓子を作っているのかのどっちかだしな。
 お蔭で、そこの妙な奴まで寄ってきてしまったわけなのだが」

 そういう訳なので、今日は冒険者ギルドにお出かけする事にした。
 生憎な事にチャックをそいつに取られてしまっているので、馬車でお出かけだ。

 朝昼兼用のご飯をアメリが用意してくれていたので、それを食べてからアメリとチュールを連れて出る事にした。

「じゃあ、チャック。
 行ってきます。
 そいつが起きたら、おやつでも与えておいて」

『本官は御覧の有様でありますので、一緒に行けませんから、それではいってらっしゃいませと聖女サヤに挨拶だけしておきます』

「はーい、よろしくね」

 福があるどころか、あやつに大事な護衛騎士兼乗物をベッド代わりにされてしまっているのですが。

 まあ、これから出入りに行くわけではありませんので、別によいのですがね。

 出入りといえば、あれからマースデン王国の連中はどうなっているものやら。

 かなり魔物部隊が充実しているようなので脅威ではあるとは思いますが、チャックの話では内実はかなりお粗末なものらしいので、へたをすると私が少し頑張るだけでも崩壊させてしまえそう。

 なんたって、そういう事を引き起こすような神獣が私のところにいるのだから。

 もし、あいつにそういう能力があるというのなら、それはたぶん微妙な状態にある部分のバランスをどうにかするような力ではないのだろうか。

 よく考えたら聖女なんかもそれに近い存在なのかもしれない。

 もし聖女に神獣を呼ぶ力があるというのなら、そういう力を聖女が元々秘めているのかもしれない。

 私自身も振り返れば、そういう微妙な部分に突っ込みを入れるような形でタイミングを合わせるかの如くにこの国を訪れ、現状に至っている。

 しかも、その私をこの世界に引き込んだ存在こそ、あの青い鳥なのだ。

 そういや、あれも精霊族のような物という説があるのだった。

 よく考えれば、あの草色の奴と近い存在なのかもしれない。
 色合いもなんとなく近いしなあ。

「まさかね~」

 とりあえず、あの鳥の情報だけでも入手したい。
 そして冒険者ギルドへメイド姿のアメリを伴っていくと、またあちこちから声がかかる。

「よお、アメリ。今日は聖女様の御伴か」
「お、メイド姿が決まっているじゃないか」
「アメリー、また一緒に飲もうよ」

 なんか結構人気者だな。
 一体、何をやらかして公爵家の御世話になんかなっているものやら。

 なんというか、それは忌み事ではなさそうな空気だ。
 全然忌避されていないというか、むしろその逆だから。

「人気者だね、アメリ」
「ふふ、まあ昔取った杵柄ですので」

「お蔭で大変に心強いのですけど。
 あの草色ゴンスときた日には、人の護衛騎士をベッド代わりにしてからに」

「でもサヤ様は、それをまた枕として使う心積もりなのでしょう?」
「まあね~」

 そしてサンドラさんを発見したので、そちらへ向かった。

「こんにちは。
 ギルマスはまだ帰ってきそうにないですか?」

「当分、無理でしょうね」

「何故、そのように留守ばかりしていらっしゃる御方がギルマスなんて役職についていらっしゃいますので?」

「それは、あのリュール様が騎士団にいるのと同じような理屈ですよ。
 彼は公爵家の血縁にして、またここでは伝説級の冒険者ですから。

 そして、それと並び立つ御方が、あなたが御世話になっているホルデム家の御当主なわけです。
 もう彼がギルマスであるという事実だけで冒険者ギルドにとっては十分なのですわ」

「な、なるほど」

 つまりプレイングマネージャーっていう奴なのかあ。
 正確には、プレイしているだけの名ばかりのマネージャーだな。

 でも冒険者ギルドのギルマス職として、名義貸しをしているだけでも凄く喜ばれてしまうような凄い人なんだなあ。

 という事は、サンドラさんは別にギルマス代理などではなくて、基本的にこのサブマスという役職こそが、ここでの実質的なギルマスなのだ。

 しかも、私の事情はよく知ってくれているありがたい存在なのだしな。

 私って、ここではギルマス預かりという名の、『サブマス預かり』の人間だったのだ。
 そんな話は、今日初めて知ったな。
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