7 / 104
第一章 幸せの青い鳥?
1-7 お見合い大作戦
しおりを挟む
それから、例によってガルさんに抱かれて件の彼女のところへ向かった。
たぶん、これってガルーダが自分のまだ飛べない子供を運ぶやり方だなと思ったが、見栄を張ったって私が飛べるようにはならないので、子供抱っこスタイルで飛んでもらうしかないのだ。
「ところで、ガルさん」
「なんだ」
「お相手の方は気難しい方なのです?」
「うむ、まあそういう訳でもないが、気位が高くて雄のガルーダには少々つっけんどんなところはあるな」
「人間には?」
「彼女、人間に会った事などないのではないか?
ガルーダも雄の方が圧倒的に行動半径は広いのでな。
そもそも、この辺境で人に遭うガルーダなど滅多におらんよ」
「そうでしたか、それじゃあまったく参考になりませんねー」
これから会わねばならない相手に対して情報がないのは不安だ。
任務の内容が内容だけに。
とりあえず眼下の風景に目をやっておいた。
ガルさんの飛行は安定していて、搭乗者に対して非常に気配りのある飛び方なので、地球の飛行機よりも却って安心できるくらいなのだ。
慣れてくればそんなに疲れたりはしない。
あまり人に遭わない種族のようなので、こういう体験が出来る人も限られているのだろう。
滅多に出来ない体験で、なかなか拝む事も出来ないのだろうから、今のうちに十分に堪能しておくとしましょうか。
そもそも、私のように魔獣とお話出来る人間自体が少ないみたいだし。
今まで会った人とはどうしていたのだろうか。
身振り手振り? 魔獣自体は知能が高く、このように言葉さえ通じれば互いの利益のために協力し合えたりはするのだろうけど。
でも言葉は通じても話が通じない事も多々ありそう。
優雅な大森林と大河の流れを遡り、人が自力では拝めない光景を大型3Dシアターのように楽しんでいたが、しばらくしてガルさんが高度を落とし始めた。
「もう着くのです?」
「ああ。
だが彼女を捜さねばならん」
「一所におられない方なので?」
「それは我とて同じ事よ。
狩りに行っていたり、縄張りの見回りに行っていたりと、日中はまず巣にはおらぬ」
「なるほど、じゃあ探してみて、どこにもいなかったら夜に巣の方へお邪魔すればよいという訳ですね」
「ああ、それはそうなのだが、夜になってから急に話を切り出しても怒り出しそうだしな」
「それはまた難儀な彼女ですね。
他の女じゃ駄目なのです?」
「それくらいなら、お前さんにこんな面倒な事を頼んだりはせんよ、サヤ」
「さいですか」
私は奥手というか、のんびりしているかというか、その辺の男女の心の機微が今一つわからない。
まあ、どっちかというと異性に対しては理想が高めな方かもしれない。
一度も男と付き合った事もないくせに、まことに図々しい事この上ないですが、やはりそこは年頃の少女という事で。
しばらく二人で心当たりを捜していたのだが、どうにもお相手の雌ガルーダさんがいらっしゃらない。
「いつもなら、これくらい探せば見つかるのだがな」
「まあ、世の中なんてそういうものですよ」
「お前、言う事がいちいち婆臭いな」
「もう酷いですよ。
そこは、歳の割には落ち着いているとか言えないのでしょうかね。
もしかして、あなたのそういうデリカシーの無いところが彼女を怒らせているのではないですか?」
「う、厳しいな、お前」
「ガルさんが女心を理解出来ないガルーダだからですよ。
なんかだんだんと、もしかするとお相手の方の反応の方が正しいのかもという気がしてきました」
「い、今更それはなかろう」
「ではこれからはナイスガルーダを目指して精進してください。
ところで、これからどうします?」
「うむ、しばらく休憩するか。
今日はたまたま遠出していて、そのうちにいつものコースへ戻ってくるかもしれん。
大体、このあたりは夕方に通ると思うので、最悪はここで待機だな」
「そうですか。
それでは御飯にいたしませんか?
もうそろそろお昼頃だし」
「そうだな、そうするか……」
それから、捜索の途中で発見した新しい香草の組み合わせに腐心した。
ガルさんも食材の調達に行ったようだ。
私は熱心にあれこれやっていたので、背後に現れた気配にまったく気がついていなかった。
「それは一体何をやってらっしゃるのです?」
「え、それは香草の調合に決まっているじゃないですか。
いろいろ試したので、なんとなく香りを嗅ぐだけで上手く組合せが出来るようになりましたよ。
女性には、こういう繊細な香りが合っている気がするのです。
ガルさんとは違うのですからね」
「ガルさんというのは?」
私は呆れたように言った。
チラっと頭を巡らせた視界の隅に、あのガルさんの見間違えようもない色合いの羽根を認めたので。
「何を言っているんですか、あなたの事に決まっているでしょう。
ちゃんと食材は獲れたのです?
変な物を狩ってきたんじゃないでしょうね。
爬虫類系はお断りですよ」
だが返事はなく、なんとなく戸惑いの雰囲気が醸し出されているようだったので、私は不審に思って振り向いた。
「大体、さっきから何を女みたいな言葉遣いを……」
そして気がついたのだ。
それがどうやらガルさんではない事に。
ガルさんのように強力な雄と比べると、確かに女性(雌)だというのがわかる。
なんというか体の線が優美な感じで、なんというか柔らかいムード。
そして表情も雄のように猛々しくない。
その代わり、美しいと感じられる顔立ちをしている。
普通の鳥などとは違い、ガルーダさんは雄雌の容姿が大きく異なるようだ。
大きさもガルさんよりは一回り半ほど小さい気がする。
私は間抜けに頭をかきながら彼女に挨拶をした。
「えーと、こんにちは。
私、サヤと言います」
たぶん、これってガルーダが自分のまだ飛べない子供を運ぶやり方だなと思ったが、見栄を張ったって私が飛べるようにはならないので、子供抱っこスタイルで飛んでもらうしかないのだ。
「ところで、ガルさん」
「なんだ」
「お相手の方は気難しい方なのです?」
「うむ、まあそういう訳でもないが、気位が高くて雄のガルーダには少々つっけんどんなところはあるな」
「人間には?」
「彼女、人間に会った事などないのではないか?
ガルーダも雄の方が圧倒的に行動半径は広いのでな。
そもそも、この辺境で人に遭うガルーダなど滅多におらんよ」
「そうでしたか、それじゃあまったく参考になりませんねー」
これから会わねばならない相手に対して情報がないのは不安だ。
任務の内容が内容だけに。
とりあえず眼下の風景に目をやっておいた。
ガルさんの飛行は安定していて、搭乗者に対して非常に気配りのある飛び方なので、地球の飛行機よりも却って安心できるくらいなのだ。
慣れてくればそんなに疲れたりはしない。
あまり人に遭わない種族のようなので、こういう体験が出来る人も限られているのだろう。
滅多に出来ない体験で、なかなか拝む事も出来ないのだろうから、今のうちに十分に堪能しておくとしましょうか。
そもそも、私のように魔獣とお話出来る人間自体が少ないみたいだし。
今まで会った人とはどうしていたのだろうか。
身振り手振り? 魔獣自体は知能が高く、このように言葉さえ通じれば互いの利益のために協力し合えたりはするのだろうけど。
でも言葉は通じても話が通じない事も多々ありそう。
優雅な大森林と大河の流れを遡り、人が自力では拝めない光景を大型3Dシアターのように楽しんでいたが、しばらくしてガルさんが高度を落とし始めた。
「もう着くのです?」
「ああ。
だが彼女を捜さねばならん」
「一所におられない方なので?」
「それは我とて同じ事よ。
狩りに行っていたり、縄張りの見回りに行っていたりと、日中はまず巣にはおらぬ」
「なるほど、じゃあ探してみて、どこにもいなかったら夜に巣の方へお邪魔すればよいという訳ですね」
「ああ、それはそうなのだが、夜になってから急に話を切り出しても怒り出しそうだしな」
「それはまた難儀な彼女ですね。
他の女じゃ駄目なのです?」
「それくらいなら、お前さんにこんな面倒な事を頼んだりはせんよ、サヤ」
「さいですか」
私は奥手というか、のんびりしているかというか、その辺の男女の心の機微が今一つわからない。
まあ、どっちかというと異性に対しては理想が高めな方かもしれない。
一度も男と付き合った事もないくせに、まことに図々しい事この上ないですが、やはりそこは年頃の少女という事で。
しばらく二人で心当たりを捜していたのだが、どうにもお相手の雌ガルーダさんがいらっしゃらない。
「いつもなら、これくらい探せば見つかるのだがな」
「まあ、世の中なんてそういうものですよ」
「お前、言う事がいちいち婆臭いな」
「もう酷いですよ。
そこは、歳の割には落ち着いているとか言えないのでしょうかね。
もしかして、あなたのそういうデリカシーの無いところが彼女を怒らせているのではないですか?」
「う、厳しいな、お前」
「ガルさんが女心を理解出来ないガルーダだからですよ。
なんかだんだんと、もしかするとお相手の方の反応の方が正しいのかもという気がしてきました」
「い、今更それはなかろう」
「ではこれからはナイスガルーダを目指して精進してください。
ところで、これからどうします?」
「うむ、しばらく休憩するか。
今日はたまたま遠出していて、そのうちにいつものコースへ戻ってくるかもしれん。
大体、このあたりは夕方に通ると思うので、最悪はここで待機だな」
「そうですか。
それでは御飯にいたしませんか?
もうそろそろお昼頃だし」
「そうだな、そうするか……」
それから、捜索の途中で発見した新しい香草の組み合わせに腐心した。
ガルさんも食材の調達に行ったようだ。
私は熱心にあれこれやっていたので、背後に現れた気配にまったく気がついていなかった。
「それは一体何をやってらっしゃるのです?」
「え、それは香草の調合に決まっているじゃないですか。
いろいろ試したので、なんとなく香りを嗅ぐだけで上手く組合せが出来るようになりましたよ。
女性には、こういう繊細な香りが合っている気がするのです。
ガルさんとは違うのですからね」
「ガルさんというのは?」
私は呆れたように言った。
チラっと頭を巡らせた視界の隅に、あのガルさんの見間違えようもない色合いの羽根を認めたので。
「何を言っているんですか、あなたの事に決まっているでしょう。
ちゃんと食材は獲れたのです?
変な物を狩ってきたんじゃないでしょうね。
爬虫類系はお断りですよ」
だが返事はなく、なんとなく戸惑いの雰囲気が醸し出されているようだったので、私は不審に思って振り向いた。
「大体、さっきから何を女みたいな言葉遣いを……」
そして気がついたのだ。
それがどうやらガルさんではない事に。
ガルさんのように強力な雄と比べると、確かに女性(雌)だというのがわかる。
なんというか体の線が優美な感じで、なんというか柔らかいムード。
そして表情も雄のように猛々しくない。
その代わり、美しいと感じられる顔立ちをしている。
普通の鳥などとは違い、ガルーダさんは雄雌の容姿が大きく異なるようだ。
大きさもガルさんよりは一回り半ほど小さい気がする。
私は間抜けに頭をかきながら彼女に挨拶をした。
「えーと、こんにちは。
私、サヤと言います」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
妹とそんなに比べるのでしたら、婚約を交代したらどうですか?
慶光
ファンタジー
ローラはいつも婚約者のホルムズから、妹のレイラと比較されて来た。婚約してからずっとだ。
頭にきたローラは、そんなに妹のことが好きなら、そちらと婚約したらどうかと彼に告げる。
画してローラは自由の身になった。
ただし……ホルムズと妹レイラとの婚約が上手くいくわけはなかったのだが……。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
悪役令嬢の私は死にました
つくも茄子
ファンタジー
公爵家の娘である私は死にました。
何故か休学中で婚約者が浮気をし、「真実の愛」と宣い、浮気相手の男爵令嬢を私が虐めたと馬鹿げた事の言い放ち、学園祭の真っ最中に婚約破棄を発表したそうです。残念ながら私はその時、ちょうど息を引き取ったのですけれど……。その後の展開?さぁ、亡くなった私は知りません。
世間では悲劇の令嬢として死んだ公爵令嬢は「大聖女フラン」として数百年を生きる。
長生きの先輩、ゴールド枢機卿との出会い。
公爵令嬢だった頃の友人との再会。
いつの間にか家族は国を立ち上げ、公爵一家から国王一家へ。
可愛い姪っ子が私の二の舞になった挙句に同じように聖女の道を歩み始めるし、姪っ子は王女なのに聖女でいいの?と思っていたら次々と厄介事が……。
海千山千の枢機卿団に勇者召喚。
第二の人生も波瀾万丈に包まれていた。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」
まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。
気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。
私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。
母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。
父を断罪できるチャンスは今しかない。
「お父様は悪くないの!
お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!
だからお父様はお母様に毒をもったの!
お願いお父様を捕まえないで!」
私は声の限りに叫んでいた。
心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。
※他サイトにも投稿しています。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※タイトル変更しました。
旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」
伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる