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第二章 バルバディア聖教国モンサラント・ダンジョン

2-73 スキルの宣告

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「何やってんのよ、リクル」

 リナから脳天チョップの挨拶をもらって、俺はハッと我に返った。

「おっす。
 いやお前がちっとも帰ってこないから、どうしたのかと思ったぞ」

「いやいや、どうしたもこうしたもないけどね。
 もう見事にこの有様よ。
 うわあ、そいつら全部、子分にしちゃったの?」

「うむ。
 山で一匹ゲットできたのでなあ。
 残りの連中も俺のコレクションに加えてみた。
 こいつらはモンスタースパイダーの略でモンスパーさ」

 そしてパーティのみんなが集まってきた。

「お帰り」

 そう言ってくれたのは、ちょっと疲れた顔をしているエラヴィス閣下だ。

「ただいま。
 悪いけど御土産の団子を買っている暇がなかったよ。
 こっちも山にいた大蜘蛛と戦闘していたんで。
 山でもあれこれあったよ」

「御土産の団子はなしか、そいつは残念ねえ」

「山にも出ていたか」

 振り向いたら、重そうなスタッフをまさかりでも担ぐかのような手付きで、肩に持たせかけている姐御がいた。

「御免、姐御。
 お使いは限定ランチ完食しか達成できませんでした」

 俺は渡せなかったお手紙を返却した。
 たぶん、もうそいつは必要ないだろう。

「お前なあ。
 それのどこがお使いだ。
 まあいい、こっちもそれどころじゃない」

「また金策用に、ダンジョンまで宝箱を漁りに行きますか。
 今度は、まだだぶついていない品をメインに捜索して」

「ああ、そうした方がいいかもしれんな。
 また聖都の被害が拡大した。
 せっかく直し始めていた修理中のところまでやられてしまった。
 お前の言い草ではないのだが、出費がマグナムブーストされている」

「あー……」

 こっちはこっちで、とんだレバレッジがかかっていたようだな。

「あ、そうだ。
 こいつらって、なんていう魔物か知らない?
 聖山で人攫いをしていたんだ。
 俺達は行方不明者の捜索を依頼されていた」

 俺は捕獲した連中を見せてやった。

「人攫い?
 私にはわからぬが、まあ『向こう側』の魔物という事だな」

「あの大きい蜘蛛はラスターの大きな物?」

「それもわからんが、強さやタフさがラスターとは桁違いだ。
 いっそ無理に倒すよりも、お前のように支配下に置いてしまう方が楽なのかもしれんな」

「姐御、こいつが真の終末の蜘蛛で、もしかして今までラスターと呼んでいた魔物なんかはそこにいる人型の奴と同じで細かい仕事をする、ただの雑兵なのかもしれないね。

 なんていうか、俺にはあの小型の蜘蛛なんて宗教書に登場する『群れ為す者』あたりであるかのように感じる。
 そうたいした奴には思えない」

「う、うむ。その可能性は否定できないが」

「今回は邪神サイドも本気出して『本命』を出してきたという事なのかもしれない。
 そもそも、終末の蜘蛛って名前がえらく御大層なのだけれど、一体何をする連中なの」

「くそ、洒落にならん。
 まったくもって洒落にならん」

「姐御?」

「いいか、リムル。
 終末の蜘蛛というものはだな」

「邪神を目覚めさせる役割りがあるのさ」

 振り向いたら先輩が『つやつやとした表情』で話に割り込んできていた。

 バニッシュやマロウスも集まってきたが、見事に上衣なども消し飛んでズタボロの有様だった。

 他にも数は少ないが冒険者、そして神官達もボロボロな感じで突かれた顔をして、あちこちで座り込んでいる。

「目覚めさせる?」

「正確には、起動したはいいが封じられたままの邪神がお外に出るためのお手伝いというか、係というかそういうものさ。
 そいつらがこの聖都を埋め尽くすほどに大挙してやってきた時は人類最後の日を迎えるという事だぞ。
 リクル、だいぶ軽快に動けているじゃないか」

「あ、ああ。
 お陰様でバージョンも上がって【レバレッジ修行の16.5】だってさ。

 あは、そのお手伝い係、また大量に横取りしてやったぜ。
 はあ、人類最後の日ねえ」

「ふん、ど根性の次は修行ときたか」

 俺はバージョンが上がったばかりのスキルを確認してみた。

【レバレッジ修行の16.0】

 基本能力は【プロレスの心得】とある。
 プロレスって一体なんだ?

 相手の技を100%受けきるスキル。
 ただし、その次に立ち上がれるかどうかは相手次第なのでわからない。

 一応どんな攻撃でも一撃では死なないスキル。
 漢が体を張るにはピッタリ。


 また、こういう類のスキルが身についてしまった。

 まるで対邪神専用みたいなスキルだ。
 やめろよな、そういうの。


 特殊技能【限界の向こうはパラダイス】

 この世とあの世の境目が見えるところまで行くと発動し、無敵モードに入る。
 邪神さえも一撃で倒せるパワー、はさすがにない。

 その代償として一日ほど休眠モードに入る、ほぼ地獄と天国の境目にあるようなスキル。


 だから、そういうのは止めてってば。

 少々不安になって、初めて選んでみた防御スキルは【勇者の痩せ我慢】

 邪神の攻撃さえも凌ぐが、所詮は痩せ我慢なので、あまりに厳しい攻撃を食らっていると十分間経つと必ず倒れる。

 まあ邪神の渾身の攻撃でも決して死ぬ事はないのが利点。


 とうとう、スキルの説明に露骨に『邪神』という名称が使われ出した。
 俺の魂は、邪神にビビりまくっているのかねえ。

 ああ、やだやだ。
 まるで、スキルによる邪神出現宣告でも受けているかのようだった。

 そして姐御が俺の腕を引っ張った。

「リクル、酷い怪我人が大勢いる。
 ルーレットのブーストスキルは使わなくていいから、例の能力を借りる奴で、私かエラヴィスの回復能力で怪我人の治療を手伝え。
 話はあとだ」

 そして、俺は眷属になったばかりの巨大蜘蛛達に呼びかけた。

「了解。
 おーい、お前達。
 お前らが壊したんだから、御片付けのお手伝いをしろ。
 マイア、そいつらは、とりあえずあんたに預けるから」

「え、これをか?」

 この人にしては珍しく、えらく微妙というか嫌そうな顔で訊き返す、姐御を捜すためにそこへやってきていたマイア。

 だが悪いが、俺は行かなくてはならんのだ。

「大丈夫。
 こいつら頭が良くって、凄く手先、いや足先が器用だからさ」

「わかった。
 もう蜘蛛の手も借りたいところだしな。

 皆、もう疲れ果てて、くたくただよ。
 ありがたく借りておこう」

「ふうん、宗教書の『群れ為す者』ねえ。
 あれ、確かレギオンっていうんだっけ。
 正体は、はっきりしないけど何かの虫みたいな奴?

 確か、物凄く数が湧いてくるんだよね。
 世界を埋め尽くすくらいに」

 そのリナの台詞を聞いて、全員がもれなく嫌な顔をした。

 だってそれは、宗教書の中の邪神が登場する物語の中で、やはり邪神の手先として働く連中の事なのだ。
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