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第二章 バルバディア聖教国モンサラント・ダンジョン

2-63 聖山デート

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「へえ、お小遣い出たんだ。
 よかったじゃない。

 あんた、あれだけいたドラゴンも全部寄付しちゃったんでしょ」


「まあね。
 なんていうのかな、値打ち物なんかも、あまり一度に出し過ぎても買い手がつかなくなって価格の暴落を招きかねないからね。

 宝箱を開け過ぎて、神殿でも希少アイテムの在庫がだぶついてきているんだ。

 中にはもう全然希少じゃなくなってしまった物まであるし」


 そういう理由で宝箱探索も一旦中止になったのだ。

「ぜ、ぜーたくな話だなあ」

「まさにそれな。
 俺も行きたいところなんかはあるんだけどな」

「へー、どこ?」

「まず、ラビワンのダンジョンなんだけど無理。

 王様が管理魔物のコアを欲しがっているみたいなんだけどさ、先輩と一緒じゃないとあそこに潜るのは駄目って言われてるから。

 あの人も今は王の勅命扱いだから、勝手に聖教国を離れられないんだ」


 もっと強くなったらラビワンにソロで潜るお許しが出るかも。

 でも行くのなら眷属勢揃いで!

 それなら大概の下層魔物相手だって大楽勝のはず(最後の番人や管理魔物除く)。

 先輩みたいな経験の深いガイドは是非欲しいのですけれど。

「他は?」

「俺の家かな。
 御土産を持って遊びに行きたいんだけど、北の異変が片付かないと長く留守にしたくないし。

 それに」


「それに?」


「今行くと畑の種撒きの季節だから、農作業の手伝いをしにいくようなもんだ。

 どうせなら収穫の時期に行きたいな。
 正確には収穫の後のお祭りの時期にね」

 まあ別に今行ったっていいんだけど、なかなか姐御からお許しが出ないんじゃないかと。

「じゃあ、聖山に行かない?
 あそこなら近いしさ」

「聖山?」

 そういや、そんな物もあったな。

 というか、自分の国の国名の由来でもあるのだが、聖地巡礼なんて生まれてこの方考えた事もない。

 生まれはただの農民だし、冒険者なのだから聖都ではダンジョンの方にどうしても目が向く。


「あそこは巡礼のコースになっているから、ほとんど観光地みたいなものよ。

 結構景色はいいらしいし。
 リクルって、高いところ好きでしょ」


 なんとかと煙とはよく言われるものだが、とにかく俺は高いところは好き。

 だって、なんといっても景色が最高じゃないか。

「へー、そいつはいいな。
 じゃあ、ちょっとだけ行ってみるかあ。

 聖山まで行ってきていいか、姐御に聞いてくる」


「あ、一緒に行くよ。
 すぐそこだしさ。
 その方が手間も省けるし」

「じゃ、一緒に行こう」

 こうして俺とリナは、碌にやる事ないコンビとして聖山への登山デートを目指す事になった。

「姐御、いる~?」

「なんだ、リクルか。
 どうした」

 姐御は聖女の執務室で手紙を書いていたようだ。
 ちゃんと、こんな部屋まであるんだな。

 既に何通も書いた物が机の上に置いてあった。
 聖女ともなると、そういう仕事も必要なものらしい。

 今は特にドラゴン被害に関しての支援要請がまだ要るのだろう。

 偉い人は大変だなあ。
 俺達がかき集めた金目のものはなるべく聖教国の運営費に回しているのだ。

 ダンジョンからの収益が目減りしていて、先の見通しが立たないからな。

 潜りっぱなしの奴らも、ちっとも帰ってこないらしいし。

 あいつら、どうなっているんだろう。

 あれだけの数の冒険者が全員死んだとは、とても思えないのだが。

 冒険者なんてみんな、結構命汚いからな。
 もちろん、その中に俺も含まれているのだが。

「ああ、今から聖山に遊びに行きたいのだけど、行ってきてもいい?

 リナと二人で」


「聖山か、まあいいぞ。
 てっきりダンジョンに行きたいとかいうのかと思ったが」

「行きたいのはやまやまだけど、行きたいのはラビワンのダンジョンに先輩と一緒にだからなあ」

「そうだな。
 例のコアの話なのだろう?」

「ああ、まあ今は仕方がないしね。

 先輩は親から頼まれているだろうから行きたいのかもな」

 そうしたら、姐御がこんな事を言い出した。

「そうだ。
 聖山まで行くのなら、ちょっとお使いを頼みたい」

「お使い?」

「ああ、聖山の入り口に、管理事務所があってな。
 そこで、そっちに異変がないか確認してきてくれ。

 うっかり、その可能性を考えていなくてな。
 今、お前に聖山と言われて思い出したところだ。

 マロウスに頼もうと思ったのだが、彼も自分の用足しに行っていて。
 エラヴィスにも別の用事を頼んであるのだ」
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