上 下
145 / 169
第二章 バルバディア聖教国モンサラント・ダンジョン

2-57 精霊ご指導会

しおりを挟む
「ふう」

「はい、溜息にも力入れ過ぎ。
 ていっ」

「あいたっ。
 お前のチョップって、小さいくせに何故か地味に痛いんですけど」

「そりゃあ、あんたの契約精霊ですもの!」
「それ、何か関係あるの⁉」

「特にない」
「ねーのかよ!」

「そういうものは年季、それ」

「うわ、ウインディアか。
 いやフェアリー・ビューティズ全員集合なのかよ」

「だって面白そうなんだもん。
 うちも混ぜて~」

「ほれほれ、そいやそいやだわいな~」

「あ、イタタタ。
 グランディア、お前、今スキルを使って叩いただろう。
 反則だあ」

 契約精霊全員が参加して、俺の頭はポコポコと叩かれっぱなしになっていた。

 だが、もうダンジョンへ出発の時間になった。

 馬車が待っていてくれ、俺は乗るように促された。

「リクル、遊んでいていいとは言ってないぞ」
「へーい」

 先輩から怒られちまった。
 いや頑張って力を抜く練習をしていたんだけどな。

 あまり意識すると、逆に心と体がバラバラになっていく感じでギクシャクするんだよね。

「リクルって返事だけは軽くて力が入っていないんだね」

「はん、それは前からの事よ」

「じゃあ、リクル。
 その軽い返事をするように力を抜いて」

「こうか?」

 俺は馬車に乗り込んでから、言われた通り座席で全身の力を抜いてグダっとしてダラけてみせた。

「うーん、それはちょっと違うような。

 確かに力は抜けているけど、それだと邪神どころかスライムにだってやられそう」


「くそ、難しいな」
「あそこに、いいお手本があるよ」

 そう言ってルミナスが指差したのは、向かい側で普段通りに優雅に座っている先輩だった。

 軽く窓で頬杖などをついている。


「なんていうのかな。
 物静か? 平常心?
 ただ、そこにあるとでもいうか。

 まったく力を入れていないけど、実はシャープに研ぎ澄まされている感じ」


「なんて言ったらいいかよくわからないけど、ピシっとしていながら力は入っていないにょ」

「王の息子にして貴族の貫禄でありんす?」

「お前ら、無茶を言うなよ。
 俺は農村出身だぜ。
 まだ村を出て二年と経っちゃいないっていうの」

「のーそん」
「いなかもの」
「おちついてない」
「こころえがない」
「がくがない」

「おい、最後の学は特に関係ないよな!」


「そんな事はないぞ。
 だって先輩は物静か、本とか読んでいるし。
 よく思索にも耽る。

 冷静で観察力が鋭く、無駄な事をしていない。
 日頃から無駄な力も入れていない。

 だからリクルの事まで視ていられる。
 今は一番パーティで心に余裕ある。
 逆にセラシアは余裕がない」

「うーん。確かにそうなのだが」

 先輩が俺を見ているのは、アレでアレな感じだからなのだが。

 あと、先輩は元々このパーティの人ではないのだ。
 もっとも、この俺だってそうなんだけど。

 片や王の勅命、片や指名制の勇者稼業?

 先輩の場合は勅命たって、自分でそれを出してもらったようなもんだけどなあ。

 まあ今姐御に余裕がないのは仕方がないよな。
 聖女は辛いよ?

「はは、お前ら、もうすっかり仲良くなったもんだな」

「だってセラシア、こいつ面白いよ。
 こんな奴なかなかいない」

「いたら、あちこちの関係者が困るだろうな」

 う、そうかもしれない。
 精霊達も馬車の車内を飛び回りつつ、笑いさざめいていた。

「とにかく、リクルは無理しない。
 もう下っ端で下働きばかりしていなくていい。
 大仰に構えるのも無し」

「そうは思うんだけどねえ。
 俺はまだ見習いを卒業して、あまり日が経ってないんだから。
 そいつが一番難しいねえ」

 俺は、ありとあらゆることに対して構えているのかな。

 だが、それは冒険者として生きるならば必要な事であり、あのブライアンから学んできた事なのだ。

 それが間違っているとは必ずしも思えない。

 そうしないと、冒険者として生き残っていけないだろう。

 だが、無駄な力は入っているんだろうなあ。
 一体どうしたものやら。

 力に慣れれば、時が解決してくれるのだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

処理中です...