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第二章 バルバディア聖教国モンサラント・ダンジョン

2-16 もふもふ聖都

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 あたりには、あの蜘蛛の破片や足、魔核などの素材が散らばっており俺は歓喜した。

「やったぜ、ここのダンジョン初魔物。
 これ結構いい感じで売れそうじゃない?
 先輩、俺が貰っちゃっていいかな」

「好きにしろ。
 だが破片はなるべく全部集めておけ。
 そいつは聖女やここの連中に見せないといかんものだ」

「はいはーい」
 だが俺は気がついた。

「悪い、先輩。
 さっきの狼の霊獣の死体がねえわ。
 やっぱり仕留めそこなったか、あるいは向こうに素材が残っちまったものか」

 だが先輩は首を振って、黙って俺の後ろを指差した。

 俺が振り向くと、そこにはなんと白い不思議な輝きに満ちた狼達がいた。

 俺は慌てて槍を構えたが、先輩が槍に軽く手をやって止めた。

 なんと、よくよく見ればそいつらは一匹残らず尻尾を振っていたのだ。

 おや、こうしてみると元は白い毛皮なのが霊光でさらに白く輝いて見えていたのだ。

 一目で普通の動物ではないと知れる佇まいだった。

 こうしてみると、こいつらも結構可愛いな。
 図体は結構でかいので御飯もよく食べそうなのだが。

「あれ? もしかして俺に懐いたのかな」

「さあな。
 ふう、もう行くぞ。
 くそっ、腹が減った」

 そういや、先輩も夕べは得意のダンジョン飯だったろうしな。

 そして、ワンコどもは俺達の後をゾロゾロとついてきている。

 しかも体長が優にニメートル以上ある連中なので凄く目立つなあ。
 あの大きくて真っ黒な蜘蛛よりはマシだけど。

「なあ、先輩」

「俺に訊くな。
 こいつらに関しては、あの英雄姫に訊け」

 そう言われても、こんな物を食堂に連れていっていいのかな。
 神殿で犬(狼)のご飯も出してくれるのかね。

 俺は村にいた犬を思い出していた。

 村一番の金持ちだった村長の家にしかいなかったけど、彼は大変に人懐っこい性格で、村の子供達には凄く人気があった。

 そういや、いつか出世して犬を飼おうと思っていたんだ。

 ここは一つ『お母さん』にお伺いを立ててみるとしようかね。

「それで、お前はその子達をどうしたいのか」

「えー、この子達を飼っちゃ駄目なの?」

 やっぱり、ここは動物を拾った時の、あのお母さんの定番の台詞が出てしまうのだろうか。

「駄目とは言わんが、それは大層なものだぞ。
 しかも、普通は人には懐かないはずなのだが」

 よかった。

 そして、俺達は姐御達の元へと帰還した。
 それから連れ帰った狼どもを姐御に紹介した。

「ただいまー。
 いやあ、こいつらって霊獣みたいなんだけど」

 姐御は、そこで媚び媚びの感じで尻尾を振りながら、円らな瞳で姐御を囲んで見上げている狼どもを感慨深く眺めていた。

 そしてバニッシュも俺の方を見て訊いてくる。

「どこからそんな珍しい物を、しかも一群れも連れてきたのじゃ」

「それを俺に訊かれても。
 元々、先輩がどこかから拾ってきたんだし、俺は知らないよ」

 全員の視線が一瞬にして先輩に集中したので思わずたじろぐ先輩。

 あのマイペースで、いつでも好き放題している人にしては実に珍しい光景だった。

 まあ拾ってきたというか、単に先輩があいつらに餌にされかかっていたのだが。

 先輩がこんな間抜けというか無様な真似を晒しているのは初めて見た。

 管理魔物の時は、華麗に戦った後での名誉の負傷みたいな話だからな。

「ほお、お前がそんなに犬好きだったとは驚きだの、クレジネス」

「ぐっ……」

 俺は大神殿の俺達専用に用意された食堂の床の上で、例の荷物くもを引っ張り出した。

「あと、これどうする。
 これ、へたすると先輩より強い魔物らしいんだけど。

 今回も俺達二人でコンビじゃなかったら勝てなかったかもしれない」

「あら、それは珍しい。
 うっわあ、蜘蛛キモっ。

 何その足先のサイズは。
 朝御飯の御伴には勘弁してほしかったわね」

 姐御までが、このように揶揄していた。

「ほお、踏破者クレジネスともあろう者がか。
 そいつは珍しい事もあるものよの。
 オリハルコンの槍の雨でも降るのではないか」

「だったら皆で拾いに行かねばのう」

「リクル、これとどこで出会った」

 姐御がやや顔を顰めながら訊いてきた。

「すぐそこだよ。
 何故か大神殿の壁に扉があったんだけど、その中で。
 ワンコも一緒にね」

 それには全員が苦笑し、神官マイアがテーブルに突っ伏した。
 無理もない。

 今までは遺跡部分のダンジョンにしか発生していなかったのに、しかも敵が入っている扉が、よりにもよって大神殿内に湧いてしまったのだから。

 もう扉はダンジョンまで探しに行く必要はないのかもな。
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