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第二章 バルバディア聖教国モンサラント・ダンジョン
2-13 コントン・マスター
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そして出かけてすぐに戻ってきた俺達を見て、バニッシュは大笑いをしていた。
彼は神殿内にある武器の整備所にて、例の武具達と一心に語らっていたようだ。
この神殿、こんな場所があるんだな。
かなり広くて鍛冶道具から魔道具まで設備はなかなか揃っているみたいだった。
だが少し違和感を拭いきれない。
普通は、こういうところならば大概は外で専門家に任せるよな。
まあ神殿を護る兵もいるし、治安機関もあるし、冒険者協会も運営しているのだ。
なおかつ、いざとなったら邪神とも戦う機関なのだから、むしろこれが当然というものなのだろうか。
「そうか、コントンと来たか。
なるほどな。
何か異変の影響を受けて急に扉なる物が現れるようになったようじゃが、お前が出会った物に限るならば、それ自体は本来なら異変とは無関係の物であるようだのう」
「え、そうなの?
でも得体の知れないような場所だったよ」
「リクルよ、それは恐ろしい場所だったか?」
「あ、いや別にそういう事は特になかったのだけれど」
バニッシュは俺が手にした槍を検分しながら、話の続きを聞かせてくれた。
「コントンというのは、一種の秩序のない世界、お前の体験したような訳のわからないような事が起きている世界の事だ」
そして意外な事にマロウスも頷いた。
「そういう話は稀にある。
我々ビースト族も、そういう物に出会うと、何かに化かされたようだと言うらしい。
俺自身は遭った事はないのだが。
ふうむ、コントンねえ」
「おそらく盟主というものが、その扉の世界の創造主であり、その住人は盟主が気にいって連れてきた魂のような存在だ。
そして具現化したような、それらの魂が人と触れ合うような世界。
だから、そこの住人はおそらく普通の者ではなかろう。
本来の性質そのままではないはず」
「え、そんな物があるの」
「コントンか。
俺自身は出会った事がないが、親父から聞かされた事があるぞ。
親父はそれを体験してみたかったようだ。
バニッシュ、ここにある扉というものは、そのすべてがコントンという奴なのか」
だがバニッシュは首を振った。
「いや、一部に混じっておるだけなのではないか。
特別に区別して『混沌の扉』とでも呼んだ方がいいのかもしれんの。
リクルが出会ったような、人を選んで引っ張り込むような扉の話は聞いた事があるかのう?」
目線で名指しされたマイアも首を捻る。
「さあ、こんな話を聞いたのは初めてなので、私自身も非常に戸惑っていますが。
扉の出現は、それ自体が最近の事なのですしね」
「つまり、そいつは扉の中でも『レア物』っていう事なのか」
あ、また先輩にまた何か妙なスイッチが入っちゃったのかな。
ちょっと目におかしな光が宿り始めているぞ。
「まあ、そういう事になるの。
おそらく、その盟主というものはこの世に一人ではあるまい。
ここにおる盟主とやらは、そういう力を持った、いわばコントン・マスターとでもいうような者のうちの一人なのじゃ。
異変と関係があるのかどうかもわからぬが、この扉騒動に便乗して好きに妙な空間を勝手にバラまいているのかもしれんな」
それを聞いて、更に目を輝かせる先輩。
バニッシュ、あんまり焚きつけないでね。
せっかくこのクレジネスが大人しくしてくれていたのに。
「俺はもう一回ダンジョンに行ってくる」
そう言って、止める間もなく先輩は風のように行ってしまった。
「ああ、行っちゃった……もう」
「あやつならば心配はいらぬ。
むしろ心配なのはお主の方じゃ、リクル」
「え、なんで俺」
「盟主はお前に興味を持ったのかもしれん。
お前のような者は滅多におらんからのう。
そやつが愉快犯のような者ならば、何度でも呼ばれようぞ。
まあその度に良い賞品は出してくれる気はするので頑張るがよい」
「え、マジっすか。
うーん、そういうのも微妙だな」
「だが気をつけるがよい。
今回のように求道者のような相手ばかりとは限らん。
それこそ、クレジネスのような狂者が混じっておらぬとは限るまい。
また盟主の物ではない扉は完全にヤバイはずじゃから、扉を見たら十分に気をつけるがよいぞ」
「うっわ、嫌だなそれ」
「クレジネスの奴は『混沌の扉』を欲しておったようじゃが、そう簡単には出会えぬであろうな。
探し回れば、あやつの事だから、せいぜい普通の扉にばかり出会うのが落ちじゃ。
まあ十分心しておく事じゃ。
この槍は見定めて、何か付与できるようならしておこう。
探索の続きは明日にするがよい」
「お願いします」
というわけで、ここのダンジョン探索は思わぬ方向へと捻じ曲がったのだった。
その夜、先輩は戻ってこなかった。
あの人に限っては死んでいる事は絶対にないと思うので、今も血眼になって強者の待つ『混沌の扉』とやらを捜しまくっているのに違いない。
よくやるなあ。
あんな風に現場で泊り込むほど陶芸にのめりこんでいるところからみても、実は凄い凝り性な性格なのに違いない。
彼は神殿内にある武器の整備所にて、例の武具達と一心に語らっていたようだ。
この神殿、こんな場所があるんだな。
かなり広くて鍛冶道具から魔道具まで設備はなかなか揃っているみたいだった。
だが少し違和感を拭いきれない。
普通は、こういうところならば大概は外で専門家に任せるよな。
まあ神殿を護る兵もいるし、治安機関もあるし、冒険者協会も運営しているのだ。
なおかつ、いざとなったら邪神とも戦う機関なのだから、むしろこれが当然というものなのだろうか。
「そうか、コントンと来たか。
なるほどな。
何か異変の影響を受けて急に扉なる物が現れるようになったようじゃが、お前が出会った物に限るならば、それ自体は本来なら異変とは無関係の物であるようだのう」
「え、そうなの?
でも得体の知れないような場所だったよ」
「リクルよ、それは恐ろしい場所だったか?」
「あ、いや別にそういう事は特になかったのだけれど」
バニッシュは俺が手にした槍を検分しながら、話の続きを聞かせてくれた。
「コントンというのは、一種の秩序のない世界、お前の体験したような訳のわからないような事が起きている世界の事だ」
そして意外な事にマロウスも頷いた。
「そういう話は稀にある。
我々ビースト族も、そういう物に出会うと、何かに化かされたようだと言うらしい。
俺自身は遭った事はないのだが。
ふうむ、コントンねえ」
「おそらく盟主というものが、その扉の世界の創造主であり、その住人は盟主が気にいって連れてきた魂のような存在だ。
そして具現化したような、それらの魂が人と触れ合うような世界。
だから、そこの住人はおそらく普通の者ではなかろう。
本来の性質そのままではないはず」
「え、そんな物があるの」
「コントンか。
俺自身は出会った事がないが、親父から聞かされた事があるぞ。
親父はそれを体験してみたかったようだ。
バニッシュ、ここにある扉というものは、そのすべてがコントンという奴なのか」
だがバニッシュは首を振った。
「いや、一部に混じっておるだけなのではないか。
特別に区別して『混沌の扉』とでも呼んだ方がいいのかもしれんの。
リクルが出会ったような、人を選んで引っ張り込むような扉の話は聞いた事があるかのう?」
目線で名指しされたマイアも首を捻る。
「さあ、こんな話を聞いたのは初めてなので、私自身も非常に戸惑っていますが。
扉の出現は、それ自体が最近の事なのですしね」
「つまり、そいつは扉の中でも『レア物』っていう事なのか」
あ、また先輩にまた何か妙なスイッチが入っちゃったのかな。
ちょっと目におかしな光が宿り始めているぞ。
「まあ、そういう事になるの。
おそらく、その盟主というものはこの世に一人ではあるまい。
ここにおる盟主とやらは、そういう力を持った、いわばコントン・マスターとでもいうような者のうちの一人なのじゃ。
異変と関係があるのかどうかもわからぬが、この扉騒動に便乗して好きに妙な空間を勝手にバラまいているのかもしれんな」
それを聞いて、更に目を輝かせる先輩。
バニッシュ、あんまり焚きつけないでね。
せっかくこのクレジネスが大人しくしてくれていたのに。
「俺はもう一回ダンジョンに行ってくる」
そう言って、止める間もなく先輩は風のように行ってしまった。
「ああ、行っちゃった……もう」
「あやつならば心配はいらぬ。
むしろ心配なのはお主の方じゃ、リクル」
「え、なんで俺」
「盟主はお前に興味を持ったのかもしれん。
お前のような者は滅多におらんからのう。
そやつが愉快犯のような者ならば、何度でも呼ばれようぞ。
まあその度に良い賞品は出してくれる気はするので頑張るがよい」
「え、マジっすか。
うーん、そういうのも微妙だな」
「だが気をつけるがよい。
今回のように求道者のような相手ばかりとは限らん。
それこそ、クレジネスのような狂者が混じっておらぬとは限るまい。
また盟主の物ではない扉は完全にヤバイはずじゃから、扉を見たら十分に気をつけるがよいぞ」
「うっわ、嫌だなそれ」
「クレジネスの奴は『混沌の扉』を欲しておったようじゃが、そう簡単には出会えぬであろうな。
探し回れば、あやつの事だから、せいぜい普通の扉にばかり出会うのが落ちじゃ。
まあ十分心しておく事じゃ。
この槍は見定めて、何か付与できるようならしておこう。
探索の続きは明日にするがよい」
「お願いします」
というわけで、ここのダンジョン探索は思わぬ方向へと捻じ曲がったのだった。
その夜、先輩は戻ってこなかった。
あの人に限っては死んでいる事は絶対にないと思うので、今も血眼になって強者の待つ『混沌の扉』とやらを捜しまくっているのに違いない。
よくやるなあ。
あんな風に現場で泊り込むほど陶芸にのめりこんでいるところからみても、実は凄い凝り性な性格なのに違いない。
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