76 / 169
第一章 外れスキル【レバレッジたったの1.0】
1-76 そして北へ(鍛練付きで)
しおりを挟む
そして王都からの旅立ちの朝。
まず見送りの筆頭が国王様だった。
もう、この時点でなあ。
そして親方と子供達。
うん、ここはいいんだ。
心が温まるような実に素晴らしいお見送りだった。
あと例のマロウスのお友達の獣人さんパーティ。
ここまでも、まあよしとしよう。
そして……この王都の『大群衆』がいたよ。
もう数万、へたすると十万を超えていないか。
「だが、お前らは駄目だあああああ」
しかも、そいつらが俺の虚しい叫びを打ち消すかのように大声で叫びやがった。
『聖女様万歳』
【勇者リクル様万歳】だとお⁉
うおおおお、これだけはラビワンに伝えられたら恥辱で死ぬ。
ダンジョンの管理魔物や、あの先輩でさえも殺せなかった俺が死ぬ。
次の特殊技能には『恥辱耐性』とか『対恥辱防御』などを希望する!
だが無情にも、何故か俺の【祈りの力×x】が起動し、俺の全身が聖光に光っている。
俺はメンバーに押し出されるようにして、姐御と一緒に前面に出されてしまった。
おい、先輩。
頼むから、その舌なめずりは止めろ。
彼に背中を向けているのが非常に心許なく思えてきた。
そして、あの王様あ!
「では聖教国の異変は任せたぞ。
勇者リクルよ」
おいあんた。
絶対に楽しんでいるよな。
あんたの不肖の息子である先輩と、俺や現聖女様との組み合わせを。
だが群衆は容赦がない。
そして始まる、俺の【出征】を称える『勇者リクル・コール』が。
笑顔で馬車の窓から手を振る聖女様を、王が率いる大群衆は盛大に見送った。
「なあ、姐御」
「なんだ?」
「ああ、いやもういいや」
「ああ見えて、うちの親父は乗りもいい方だ」
「ああ、それはなんとなくわかってた」
「よし、それでは勇者リクルを鍛錬しながらバルバディア聖教国へ向かうとするか」
「ちょっと待て、そこの脳筋ビースト族」
「鍛錬しないと死ぬぞ。
もし本当に邪神が出たらどうする?」
「う、そもそも邪神ってなんすか」
「一言で言えば、この世の終末だな」
以前に、その邪神を実際に封印した現聖女様が平然とそのようにおっしゃった。
「あのなあ。
あんたはそれを封印したんだよな」
「あんな出かかった〇〇〇みたいな物、どうという事はない」
「今、エルフの聖女が、さらっと凄い事を言った!」
だが、ドワーフの導師はこう言ったのだ。
「まあ、あやつが自由を取り戻してしまったならば、我らにもどうにもならぬ。
聖女バルバディアはその存在をかけて奴を封印し、今も奴を束縛しておる。
千年もの間な。
セラシアが奴を再封印できたのも、セラシアがバルバディアの血縁であった事も大きいのじゃ」
「うわあ、その方って結局もう死んでしまわれたので?」
そして姐御は少し目を瞑った後で、このようにおっしゃったのであった。
「いや、生きておるのじゃろう。
特殊な結界の中で、半ば時が凍結したかのように今も邪神と共にな。
だから邪神を封じていられるのだ」
俺は思わず息を飲んだ。
想像したくない。
世界はたった一人のエルフの人柱に守られて、その命を繋いでいたのだ。
俺は馬車の座席の上で膝がガクガク震えるのを感じていた。
「あのう、姐御。
もし今北で起きている異変か何かが、その封印が限界に来ているのだとしたら?
その、どうなりますんで?」
「世界が終わるな」
平然と言っちゃったよ、この人。
世界中の人達が杖とも頼む、このお方が。
「まあ、その時は私が伯母上に代わってその任につくまでだ」
このエルフが今目の前で言った事が俺にはよく理解できなかった。
だが彼女は続けてこのような台詞を口にした。
「もし、私が内から封じ切れなかった場合、リクルよ。
お前がその出鱈目なスキルで外からなんとか封じよ。
そうでなければ、貴様も貴様の家族とて共に消えてなくなろう。
この世界ごとな」
「ええーっ」
「安心しろ。
その時は私が奴を縛っておいてやる。
もし、その時に伯母上がまだ生きておれば、彼女と共に力を合わせてな」
うわあ、これはえらい事になったあ~。
だが彼女は俺の慌てようを見て笑って言った。
「そう怯えるな。
何も必ず邪神が復活すると決まった訳でもない。
異変が起きているので調査に行き、何もなければそれでよし。
それで民衆も安らかに暮らせよう」
「よし、リクル。
こうなったら修行だ。
お前も素適な魔法槍を持った事だし、この天才魔法剣士エラヴィス様が修行をつけてやろうじゃないの」
「うむ、肉体の鍛錬なら俺に任せてもらおう」
「わしは武具の手入れや、そのバージョンアップかのう」
「では魔法スキルの使いこなしをあれこれと試すのはどうか。
せっかく素晴らしいスキルで使えるのだからな。
魔法という物は奥が深い。
派手な物だけではないのだぞ」
次々と俺の修行メニューがテーブルに並べられていく。
これがレストランのメニューなら歓迎なんだけど、こいつはありがたくない。
特にマロウスの肉体の鍛練する奴が。
「あと僕と鬼ごっこはどうだい?
ただし、君が負けたら欲望に負けて食べてしまうかもしれないな」
ちょっと先輩!
そんなところで便乗しないの。
しかし!
「ああ、やるしかないんでしょうかねえ」
「「「もちろんだ!」」」
こうして俺は北のダンジョンに向かう迄に、勇者として聖女パーティ+1の、何よりも濃いスーパースパルタなメンバーより地獄の鍛錬を受ける事になったのだった。
まず見送りの筆頭が国王様だった。
もう、この時点でなあ。
そして親方と子供達。
うん、ここはいいんだ。
心が温まるような実に素晴らしいお見送りだった。
あと例のマロウスのお友達の獣人さんパーティ。
ここまでも、まあよしとしよう。
そして……この王都の『大群衆』がいたよ。
もう数万、へたすると十万を超えていないか。
「だが、お前らは駄目だあああああ」
しかも、そいつらが俺の虚しい叫びを打ち消すかのように大声で叫びやがった。
『聖女様万歳』
【勇者リクル様万歳】だとお⁉
うおおおお、これだけはラビワンに伝えられたら恥辱で死ぬ。
ダンジョンの管理魔物や、あの先輩でさえも殺せなかった俺が死ぬ。
次の特殊技能には『恥辱耐性』とか『対恥辱防御』などを希望する!
だが無情にも、何故か俺の【祈りの力×x】が起動し、俺の全身が聖光に光っている。
俺はメンバーに押し出されるようにして、姐御と一緒に前面に出されてしまった。
おい、先輩。
頼むから、その舌なめずりは止めろ。
彼に背中を向けているのが非常に心許なく思えてきた。
そして、あの王様あ!
「では聖教国の異変は任せたぞ。
勇者リクルよ」
おいあんた。
絶対に楽しんでいるよな。
あんたの不肖の息子である先輩と、俺や現聖女様との組み合わせを。
だが群衆は容赦がない。
そして始まる、俺の【出征】を称える『勇者リクル・コール』が。
笑顔で馬車の窓から手を振る聖女様を、王が率いる大群衆は盛大に見送った。
「なあ、姐御」
「なんだ?」
「ああ、いやもういいや」
「ああ見えて、うちの親父は乗りもいい方だ」
「ああ、それはなんとなくわかってた」
「よし、それでは勇者リクルを鍛錬しながらバルバディア聖教国へ向かうとするか」
「ちょっと待て、そこの脳筋ビースト族」
「鍛錬しないと死ぬぞ。
もし本当に邪神が出たらどうする?」
「う、そもそも邪神ってなんすか」
「一言で言えば、この世の終末だな」
以前に、その邪神を実際に封印した現聖女様が平然とそのようにおっしゃった。
「あのなあ。
あんたはそれを封印したんだよな」
「あんな出かかった〇〇〇みたいな物、どうという事はない」
「今、エルフの聖女が、さらっと凄い事を言った!」
だが、ドワーフの導師はこう言ったのだ。
「まあ、あやつが自由を取り戻してしまったならば、我らにもどうにもならぬ。
聖女バルバディアはその存在をかけて奴を封印し、今も奴を束縛しておる。
千年もの間な。
セラシアが奴を再封印できたのも、セラシアがバルバディアの血縁であった事も大きいのじゃ」
「うわあ、その方って結局もう死んでしまわれたので?」
そして姐御は少し目を瞑った後で、このようにおっしゃったのであった。
「いや、生きておるのじゃろう。
特殊な結界の中で、半ば時が凍結したかのように今も邪神と共にな。
だから邪神を封じていられるのだ」
俺は思わず息を飲んだ。
想像したくない。
世界はたった一人のエルフの人柱に守られて、その命を繋いでいたのだ。
俺は馬車の座席の上で膝がガクガク震えるのを感じていた。
「あのう、姐御。
もし今北で起きている異変か何かが、その封印が限界に来ているのだとしたら?
その、どうなりますんで?」
「世界が終わるな」
平然と言っちゃったよ、この人。
世界中の人達が杖とも頼む、このお方が。
「まあ、その時は私が伯母上に代わってその任につくまでだ」
このエルフが今目の前で言った事が俺にはよく理解できなかった。
だが彼女は続けてこのような台詞を口にした。
「もし、私が内から封じ切れなかった場合、リクルよ。
お前がその出鱈目なスキルで外からなんとか封じよ。
そうでなければ、貴様も貴様の家族とて共に消えてなくなろう。
この世界ごとな」
「ええーっ」
「安心しろ。
その時は私が奴を縛っておいてやる。
もし、その時に伯母上がまだ生きておれば、彼女と共に力を合わせてな」
うわあ、これはえらい事になったあ~。
だが彼女は俺の慌てようを見て笑って言った。
「そう怯えるな。
何も必ず邪神が復活すると決まった訳でもない。
異変が起きているので調査に行き、何もなければそれでよし。
それで民衆も安らかに暮らせよう」
「よし、リクル。
こうなったら修行だ。
お前も素適な魔法槍を持った事だし、この天才魔法剣士エラヴィス様が修行をつけてやろうじゃないの」
「うむ、肉体の鍛錬なら俺に任せてもらおう」
「わしは武具の手入れや、そのバージョンアップかのう」
「では魔法スキルの使いこなしをあれこれと試すのはどうか。
せっかく素晴らしいスキルで使えるのだからな。
魔法という物は奥が深い。
派手な物だけではないのだぞ」
次々と俺の修行メニューがテーブルに並べられていく。
これがレストランのメニューなら歓迎なんだけど、こいつはありがたくない。
特にマロウスの肉体の鍛練する奴が。
「あと僕と鬼ごっこはどうだい?
ただし、君が負けたら欲望に負けて食べてしまうかもしれないな」
ちょっと先輩!
そんなところで便乗しないの。
しかし!
「ああ、やるしかないんでしょうかねえ」
「「「もちろんだ!」」」
こうして俺は北のダンジョンに向かう迄に、勇者として聖女パーティ+1の、何よりも濃いスーパースパルタなメンバーより地獄の鍛錬を受ける事になったのだった。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる