上 下
70 / 169
第一章 外れスキル【レバレッジたったの1.0】

1-70 聖なる山

しおりを挟む
 俺は自分の心の内にある聖なるイメージを思い浮かべる。

 壊れにくい安定した、低いなだらかな形。
 万人が見て美しいと思うような形。

 山頂の形は先輩に対抗して、やや歪というか形を崩すというか、それすらも美しく雅な形に設える。

 内部は乾かしやすいように少し肉抜きしておく。

「ようし、イメージはできた。
 スキル発動!
 まずは【マグナム・ルーレット】発動。

 そして【レバレッジ並行展開×4】を使用。
【冒険者金融】【神々の祝福】【祈りの力×x】【邪気の封印】発動」

【レバレッジ並行展開×4】並びに【冒険者金融】はバージョン8.0で得た能力だ。

 冒険者金融はパーティを組んだ相手の能力を自在に借りてくる力なのだ。

 先輩の、あの分解スキルのような魂のスキルは借りられないのだが、いわゆるスキルといえないような物も借りられる。

 今借りたのは本日の仲間である『工房の親方』の陶芸に関するスキルなのだった!
 究極のインチキだ。

 そして昨日の俺の信者さん? から頂いた、あの祈りの力を込めてみる。

「みんな、オラに力を貸してくれ。
 あの先輩の邪悪さを、心の闇を皆の清き心で打ち砕くのだ」

 俺の身体は昨日のように聖光を放ち、ルーレットは3の目を叩き出した。

 さあ十分クッキング、じゃあなくて粘土細工の始まりだ。

 祝福の力を浴びて粘土が虹色の日暈にちうんに輝いていた。

 まずは山の形が崩れないように軽く台座を整える。
 趣のある、敢えて少し形がやや不均一に作られた料理皿のように作ってみた。

 今の無敵モードの俺になら最高の物できるはずだ。

 俺は信念の下に、聖光を纏いながら今まで培ったパワーで、神の虹色の祝福を受けし、聖なる粘土に挑んだ。

 俺は二十四倍に増幅された力と、親方から勝手に借りた技能、神々に祝福された粘土に対し、昨日の万に達するほどの多くの人々から捧げられた時の聖なる祈りを再現した力を込めて、丹精を込めて捏ね上げた。

 それらの作業すべてに、レバレッジ8.0にルーレットの出目三をかけた二十四倍ブーストが、強烈にかかっているのだ。

 今の俺の手は、まさに神の御手にも等しい代物であった。

 みるみるうちに造形されていく粘土製の山。

 山肌にはなんというか、一本一本が異なる生命を帯びた、生きた細かい文様を再現し、その一つ一つがうねり重なり合って素晴らしい造形を見せていく。

 なだらかな曲線が尖っていく山頂はギザギザな感じに、若干斜めに切り取られた自然の厳かな調和をデザインとして象徴してみた。

 美しい、そして神々しい。この作品は肉厚を越えて完全にフルボリュームだ。

 乾燥を考えて直径八十センチくらいに抑えてみたものの、それでも乾かすのには相当の時間がかかる。

 もしかしたら上手く乾ききらずに割れてしまうかもしれないが、それでもいい。

 全身全霊をもってこれを創造し終えた俺には、何一つ些かの悔いもなかった。

 そして、仕上げを丁寧にやり終わってから時間ギリギリでスキルは霧散した。

 俺は、そのスキルがもたらした、あまりの神々しさに自分がやられてしまった感じだ。

 こいつはいけない。
 通常のクールタイムだけでは己を取り戻せそうもない。

 なんか『魂を持っていかれてしまいそうな』気がする。

 油断すると先輩と真逆の方向へと心が持ち去られ、二度と人間らしい生活には戻れないだろう。

 思わぬ自分のスキルの副作用を発見した。

 組み合わせによっては非常に有用でありながらも、これを変な事に使い過ぎると廃人になりそうな害があるな。

 だが、俺はその悟りの境地というか、神々の住まう神聖でありえないほどしずやかな気持ちに満たされていた。

 俺はもうこの理想郷、いや桃源郷の世界に骨をうずめてもいいのではないだろうか。

 そのような幻想に囚われ、顔は女神を思わせるような神々しささえ浮かべていたような気がするのだ。

 だが無粋にも、俺をくだらなく、そして穢れた現世へと呼び戻そうと言う、誰かの呼び声が聞こえてくる。

 五月蠅いなあ、誰だよ一体!

「おいリクル、おいったら。
 生きているか、このスキル馬鹿。
 俺に殺される前に、こんな事で死ぬんじゃないぞ」

 俺は恍惚として、名を呼ばれても返事をせずにその場に立ち尽くす。

 たとえ、この先輩がキスしてこようとしていても抗えまい。

 まあもし、そのような事をされていたとしたら、後で今の俺の全力をもって殺しに行くしかないのだが。

 どうせ俺に対する悪ふざけに決まっているので。

 なんかこう、いつもとあれこれと立場が逆になったような。
 まあ先輩も言っている事は相変わらず、何も変わらないのだが。

「こいつはたいしたもんじゃのう。
 おそれいったわい。
 でも何かインチキしておったようじゃが、そういう事はやり過ぎると心がもたんぞい?」

 うん、親方。
 そいつは今、物凄く実感していますよ。

 よかった、ルーレットの出目が六じゃあなくって。

 いきなり強烈過ぎる体験をすると、二度と『向こうの世界』から帰ってこれなくなっていたかもしれない。

「いや、こいつは物凄い傑作だな。
 いやはや完成作は是非王宮に飾らせてほしいものだ」

 いや王様、それは勘弁していただきたい。
 何しろインチキしまくった作品なので。

 この世界のすべての芸術家に対する冒涜以外の何物でもないわ。

「お兄ちゃん、すごーい」

「なんか見ていると心が洗われるようだね。
 でも、あたしは王子様の作品の方が好き」

 待て、そこの幼女。
 早まるな、人の道に立ち返るのだ。

 俺は崇高な使命感から強制的に現状に復帰してみせた。
 そして楽しそうに笑う子供達に言っておく。

「二人とも!
 あのお兄ちゃんの作品だけは絶対に参考にしないようにね」
「はーい」

 もしかすると、一見すると明るく振る舞っているように見えても、両親を失ったこの子達の心の傷は深い物があるのかもしれない。

 普通ならば、そうであるのが正常だといえば、それまでなのだが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

処理中です...