40 / 169
第一章 外れスキル【レバレッジたったの1.0】
1-40 北方の不穏
しおりを挟む
「おーい、アルビン。
ちょっと、おいで」
アルビンと呼ばれた使用人のおじさんが小走りでやってきた。
「なんでございましょう、奥様」
「ああ、何か北方の冒険者向きの話題は入荷していないかい」
「ああ、それならば二週間くらい前からの、ごく最近の話でございますが、遺跡の地下迷宮で凄い魔法武具が出たそうで、冒険者達が沸いておるようで。
ですが」
そこで彼は少し声を潜めた。
「そこから帰ってこない冒険者の方も同時に急増しまして、現地の冒険者協会では中級未満の初級の冒険者は当座ダンジョンに入ってはならないと、入場審査を強めたと言う話でございます」
「ほう、それはまた珍妙な。
それで?
向こうに異変が見られると言う話は、知人から早馬でもらった手紙で知っており、それで私も様子を伺いに行くところなのだが」
セラシアも眉を顰めた。
あれ、そういう話だったのか。
おそらく、長命な彼女の経験からすればこの話はあまり良くない何かの兆候なのだろう。
この俺にしても凶兆のように思える。
俺の表情の変化を彼女もチラっと見ていた。
新人ながら思慮深く、あっという間に中級になるほどとはいえ、まだペーペーの俺でさえ憂慮を示すものと認識したようだ。
こういう事は直感的なものなのだ。
その事に敏感でない冒険者は長生きできないとは、ご存知ブライアン先生の教えだった。
「それでも一攫千金を夢見て中に入りたがる初級の冒険者は後を絶たず、彼らは殆ど帰ってこないそうで。
中には上級冒険者でさえも帰ってこない方もいらしたとか」
「そいつはまた剣呑な話だな。
おい皆の者、この話についてどう思う。
私としては様子見もありという感じなのだがな。
私は現地の情勢を知りたいだけだから、現地での詳しい情報次第で探索は無しでもよい」
それについては他のメンバーも思う所はあったようで、慎重な意見が相次いだ。
「そうさな。
まあ出たとこ勝負じゃろ。
なんとも物騒な話じゃ。
なんにせよ、命あっての物種じゃわい。
わしは向こうで武器が打てれば、それでええ。
セラシアに同意する」
「そうだな。
俺はそういうのも面白いからダンジョンへ行ってみたく思うが、さすがに少し様子がおかしいようだな。
現地で情報を集めてから判断したいので、一応は探索に賛成だが、現地の情報を得るまで返事は保留だ。
途中でも情報を耳にする事もあるだろう。
どうせ向こうでも情報は錯綜しているのではないか」
「悩ましいなあ。
魔法武具の話、何がどれだけ出たのか、どういう経緯で入手されたのか。
リスクとリターンを天秤にかけて、見返りに比べて危なそうならパスしたい……ところだけど。
まあ一応は賛成にしておくかな」
あれ、エラヴィスは何か含むところがあるのだろうか。
何か、どうしても探索に行かねばならないような理由でも?
少しセラシアの方をチラっと見ながら話していた気がするのだが。
「ほお?
跳ねっ返りのお前にしては殊勝な意見じゃないか。
絶対に行きたいと言うかと思ったのだが」
「姐御、さすがにヤバイよ。
特に上級の話なんかは。
とにかく今はなんとも言えないってとこね。
別にお金に困っているっていうわけでもないんだしさ。
まあ怖い物見たさで行ってみたくはあるけれど。
これで、一応の反対派が二名、非積極的な賛成派兼様子見が二名か。
リクル、あんたはどう思う?」
おっと員数外の俺にお鉢が回ってきたか。
俺はしばし考えるような形で、少し呼吸を置いて勿体ぶってみせた。
まあ『姐御』には俺の本音などバレているんだろうけど。
「そうですね。
もしどうしても鉈で割ったように二択の回答をというのなら、俺はダンジョンへ行ってみたいです」
「ほう、そいつは何故だ」
「若者だからに決まっているじゃないですか。
まあ慎重な生き方はしていますけど。
だって、お宝ですよ。
俺達が何故冒険者と呼ばれているのか。
少なくともアドベンチャーという意味じゃない」
このメンバーの中では一番俺に歳が近く、また血気盛んそうなエラヴィスが満面の笑顔を顔に張り付けた。
「リスキーアタント。
『危険な試み』『危ない橋を渡る』でしょ。
わかっているわ、そんな事」
俺は彼女に頷いて、さらに続けた。
「かといって無用なリスクを冒すのは冒険者ではなく、ただの馬鹿者です。
危険と冒険の境目は準備がよく出来ているか、正確な情報が十分集められていて、それがきちんと整理されているかですので」
「あなた、歳の割には賢いわね。
この先も長生きできそうよ」
「ありがとうございます。
とにかく俺達は危険者ではなくて冒険者なんだから。
という訳で、俺は非積極的な賛成派兼様子見ですね」
「決まりだな。
それに私には損得以外にも行くだけの理由があるのだから。
だからこその今回の北遠征だ」
最後に笑顔で姐御が締めくくった。
「ああ、やっぱりそういう話だったんですね」
他の皆も口々に感慨を漏らしていった。
「まあそうなるわよね」
「まあ、うちのパーティの事だからな。
俺は別に構わないよ」
「ほう、あの者達からの報せもあった訳じゃな。
そいつはまた面白い風向きじゃのう」
本当はセラシアも積極的に行きたいんだな。
それはわかっていたんだ。
でもパーティの責任者たるマネージャーだからなあ。
これを言うのはパーティの外部にいる若輩たる俺の責務だったのだ。
一番渋い事を言っていたはずのバニッシュさえ笑っている。
彼が何故冒険者になったのか。
きっかけは自分が見つけたお宝で自ら鍛冶をしたかったんじゃないのだろうか。
ドワーフの中にはそれが鍛冶の醍醐味だとか言っちゃう強者も中にはいるそうだし。
それにこの人達には、なんだか他に訳がありそうな雰囲気だ。
ついでにキャナルさんも笑っていた。
「あんたら、やっぱり冒険者なんだね。
おや、次のキャラバンが来たね。
ここも手狭になるから、そろそろ行こうかね。
先に来たものは多少休憩時間が短くなるもんさ。
まあ出遅れれば余計な経費がかかるから、これで正解なのさ」
ちょっと、おいで」
アルビンと呼ばれた使用人のおじさんが小走りでやってきた。
「なんでございましょう、奥様」
「ああ、何か北方の冒険者向きの話題は入荷していないかい」
「ああ、それならば二週間くらい前からの、ごく最近の話でございますが、遺跡の地下迷宮で凄い魔法武具が出たそうで、冒険者達が沸いておるようで。
ですが」
そこで彼は少し声を潜めた。
「そこから帰ってこない冒険者の方も同時に急増しまして、現地の冒険者協会では中級未満の初級の冒険者は当座ダンジョンに入ってはならないと、入場審査を強めたと言う話でございます」
「ほう、それはまた珍妙な。
それで?
向こうに異変が見られると言う話は、知人から早馬でもらった手紙で知っており、それで私も様子を伺いに行くところなのだが」
セラシアも眉を顰めた。
あれ、そういう話だったのか。
おそらく、長命な彼女の経験からすればこの話はあまり良くない何かの兆候なのだろう。
この俺にしても凶兆のように思える。
俺の表情の変化を彼女もチラっと見ていた。
新人ながら思慮深く、あっという間に中級になるほどとはいえ、まだペーペーの俺でさえ憂慮を示すものと認識したようだ。
こういう事は直感的なものなのだ。
その事に敏感でない冒険者は長生きできないとは、ご存知ブライアン先生の教えだった。
「それでも一攫千金を夢見て中に入りたがる初級の冒険者は後を絶たず、彼らは殆ど帰ってこないそうで。
中には上級冒険者でさえも帰ってこない方もいらしたとか」
「そいつはまた剣呑な話だな。
おい皆の者、この話についてどう思う。
私としては様子見もありという感じなのだがな。
私は現地の情勢を知りたいだけだから、現地での詳しい情報次第で探索は無しでもよい」
それについては他のメンバーも思う所はあったようで、慎重な意見が相次いだ。
「そうさな。
まあ出たとこ勝負じゃろ。
なんとも物騒な話じゃ。
なんにせよ、命あっての物種じゃわい。
わしは向こうで武器が打てれば、それでええ。
セラシアに同意する」
「そうだな。
俺はそういうのも面白いからダンジョンへ行ってみたく思うが、さすがに少し様子がおかしいようだな。
現地で情報を集めてから判断したいので、一応は探索に賛成だが、現地の情報を得るまで返事は保留だ。
途中でも情報を耳にする事もあるだろう。
どうせ向こうでも情報は錯綜しているのではないか」
「悩ましいなあ。
魔法武具の話、何がどれだけ出たのか、どういう経緯で入手されたのか。
リスクとリターンを天秤にかけて、見返りに比べて危なそうならパスしたい……ところだけど。
まあ一応は賛成にしておくかな」
あれ、エラヴィスは何か含むところがあるのだろうか。
何か、どうしても探索に行かねばならないような理由でも?
少しセラシアの方をチラっと見ながら話していた気がするのだが。
「ほお?
跳ねっ返りのお前にしては殊勝な意見じゃないか。
絶対に行きたいと言うかと思ったのだが」
「姐御、さすがにヤバイよ。
特に上級の話なんかは。
とにかく今はなんとも言えないってとこね。
別にお金に困っているっていうわけでもないんだしさ。
まあ怖い物見たさで行ってみたくはあるけれど。
これで、一応の反対派が二名、非積極的な賛成派兼様子見が二名か。
リクル、あんたはどう思う?」
おっと員数外の俺にお鉢が回ってきたか。
俺はしばし考えるような形で、少し呼吸を置いて勿体ぶってみせた。
まあ『姐御』には俺の本音などバレているんだろうけど。
「そうですね。
もしどうしても鉈で割ったように二択の回答をというのなら、俺はダンジョンへ行ってみたいです」
「ほう、そいつは何故だ」
「若者だからに決まっているじゃないですか。
まあ慎重な生き方はしていますけど。
だって、お宝ですよ。
俺達が何故冒険者と呼ばれているのか。
少なくともアドベンチャーという意味じゃない」
このメンバーの中では一番俺に歳が近く、また血気盛んそうなエラヴィスが満面の笑顔を顔に張り付けた。
「リスキーアタント。
『危険な試み』『危ない橋を渡る』でしょ。
わかっているわ、そんな事」
俺は彼女に頷いて、さらに続けた。
「かといって無用なリスクを冒すのは冒険者ではなく、ただの馬鹿者です。
危険と冒険の境目は準備がよく出来ているか、正確な情報が十分集められていて、それがきちんと整理されているかですので」
「あなた、歳の割には賢いわね。
この先も長生きできそうよ」
「ありがとうございます。
とにかく俺達は危険者ではなくて冒険者なんだから。
という訳で、俺は非積極的な賛成派兼様子見ですね」
「決まりだな。
それに私には損得以外にも行くだけの理由があるのだから。
だからこその今回の北遠征だ」
最後に笑顔で姐御が締めくくった。
「ああ、やっぱりそういう話だったんですね」
他の皆も口々に感慨を漏らしていった。
「まあそうなるわよね」
「まあ、うちのパーティの事だからな。
俺は別に構わないよ」
「ほう、あの者達からの報せもあった訳じゃな。
そいつはまた面白い風向きじゃのう」
本当はセラシアも積極的に行きたいんだな。
それはわかっていたんだ。
でもパーティの責任者たるマネージャーだからなあ。
これを言うのはパーティの外部にいる若輩たる俺の責務だったのだ。
一番渋い事を言っていたはずのバニッシュさえ笑っている。
彼が何故冒険者になったのか。
きっかけは自分が見つけたお宝で自ら鍛冶をしたかったんじゃないのだろうか。
ドワーフの中にはそれが鍛冶の醍醐味だとか言っちゃう強者も中にはいるそうだし。
それにこの人達には、なんだか他に訳がありそうな雰囲気だ。
ついでにキャナルさんも笑っていた。
「あんたら、やっぱり冒険者なんだね。
おや、次のキャラバンが来たね。
ここも手狭になるから、そろそろ行こうかね。
先に来たものは多少休憩時間が短くなるもんさ。
まあ出遅れれば余計な経費がかかるから、これで正解なのさ」
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~
つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。
このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。
しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。
地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。
今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
【R18 】必ずイカせる! 異世界性活
飼猫タマ
ファンタジー
ネットサーフィン中に新しいオンラインゲームを見つけた俺ゴトウ・サイトが、ゲーム設定の途中寝落すると、目が覚めたら廃墟の中の魔方陣の中心に寝ていた。
偶然、奴隷商人が襲われている所に居合わせ、助けた奴隷の元漆黒の森の姫であるダークエルフの幼女ガブリエルと、その近衛騎士だった猫耳族のブリトニーを、助ける代わりに俺の性奴隷なる契約をする。
ダークエルフの美幼女と、エロい猫耳少女とSEXしたり、魔王を倒したり、ダンジョンを攻略したりするエロエロファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる