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第一章 外れスキル【レバレッジたったの1.0】

1-32 踏破者たる者

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 俺は先輩には休んでもらっておきながら、管理魔物のアイテムというか部材を拾い集めた。

 最初に約束の牙を集めて、そのうちの一本を選んでもらって先輩に渡した。

 それからまずは一番値打ち物そうな魔核を拾い、そして例のヤバイ毒爪は、まだ奴の肉がたっぷりと残っている皮にそっと包んだ。

 俺が派手にバラしてやったので、勿体ない事に素材はかなりの部分が消し飛んでいた。

 なんという強力なスキルなのだろう。
 もしかしたら、先輩のスキルは強力な物質分解性のスキルなのかもしれない。

 もしもブライアンにこんな無残な収穫物を見せたら、それはもうカンカンになって拳骨の嵐だろうな。

 まあ今回は、自分の命が最高の報酬なのだから仕方がない。

 それにどうせ綺麗に取ったところで全部は持ち帰れないからな。

 こいつの残骸もそのうち直にダンジョンの床が吸収してしまうだろう。

 冒険者だろうが管理魔物だろうが、敗者は等しくダンジョンに吸収されるだけだ。

 そして若干体が回復したらしき先輩が少しニヤついた感じに話しかけてきた。
「なあ、リクルよ」

「なんだい、先輩」
「これでお前がどういう立場になったかわかるか」

 何かこう少しニヤつくような感じで先輩が俺を眺めながら言った。

「そいつは、どういう意味だよ」
 俺は困惑した表情で訊き返す。

 この自ら狂気などと名乗るロクデナシの先輩が、その顔をして真面な事など言うはずがない。

「つまりな、お前も俺と同じような扱いになったと言う事さ」
「同じ扱い?」

「ああ、ダンジョンからな」
「だから、どういう意味なんだよ」

「わからんか?
 俺は踏破者。

 このダンジョンの最終最奥まで辿り着いた者。
 そして最後の番人を倒し、『ダンジョンコア』を暴き出した」

「それって……」
 ダンジョンコアというのは、このダンジョンを構成する心臓部というか、頭に相当する物というか、それがなくなったらここはダンジョンとして機能しなくなるというものだ。

 平たく言うと、そいつを破壊すればダンジョンは死ぬ。

「そいつは恐怖に震えた。
 破壊され存在しなくなるという無を恐れた。

 そして俺はそいつを嗤ってやったのさ。
『また来るぞ』とだけ言い残して。

 いや、震えるダンジョンコアか。
 ああ、思い出しただけでも楽しかったなあ」

「あんた、なんて事を。
 それはダンジョンに忌み嫌われるわ。
 この人でなし!」

 なんて碌でもない奴なのだ。

 何かこう、今このダンジョン自体が一瞬、碌でも無さに打ち震えたような気がするのは気のせいだろうか。

 彼は今この瞬間もきっと俺達を、ここの底にある深奥の玉座から『視て』いるのだろうしな。

 彼の手の者が滅ぼされ、その魔核が奪い去られようとしている事も。

 先輩の指摘の通り、まずい事にそれをやってしまったのは、この俺なのだった。

「ああ、普通は踏破した者には管理魔物のような特別な追手がかかる。
 ダンジョンコアのいる最奥の場所へそいつが二度とやってこないように。

 まあ、ダンジョン所払いという感じでな。
 だが何故か俺のところへは来ない。
 それに対して俺は大いに失望していた」

 やっぱり、この人おかしい!
 どこか頭の螺子が飛んでいるんだ。

「逆にそれで恐れられているから、寄越さなかったんじゃないの⁉

 大切なダンジョンコアを甚振いたぶりながら嘲笑っちゃ駄目じゃん。

 脅しちゃ駄目じゃん。
 ここは、みんなの大切なダンジョンなんだからさ!」

「だがな、普通はそのような管理魔物など倒したりはできないものなのだぞ。

 この踏破者たる俺にも倒せていなかっただろう。
 だが、お前は倒してしまった。

 お前は踏破者でもないくせに、俺以上の厄介者としてダンジョンコアから目を付けられた事だろうな」

「え、それってどういう事!」

「だから、お前も気を付けないとだな、へたをすればダンジョンコアの命令がなくても、お前と会った時のように魔物の群れが押しかけたり、管理魔物に狙われたりするかもしれんという事さ。
 どうだ、考えただけで楽しいだろう」

「ちょっとー!」
 先輩、それ殆どあんたのせいだろうが。

 いや、最後にあいつを見事に仕留めたのは確かにこの俺なのだけれども。

 そして、おそらくはあいつをスキルを用いて強引に呼び出したのも。

 俺のスキルを受けて、意味もなく興奮したバーサク状態になっていて、ダンジョンコアの命令を受け付けていなかった可能性すらある。

 あの管理魔物って、何かこう妙に人間臭くて、自分のやりたいようにやっていた気がするし。

「まあ死にたくないんだったら鍛えて強くなっておけ。
 そして、俺をもっと楽しませろ」

 こ、この人は本当にもう~。

 俺はどうやら、勝手にあっちこっちで生板まないたの上に乗せられてしまっているようだった。
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