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第一章 燃え尽きた先に

1-10 能力確認

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「すいません、すいません、すいません」

 アルケウスさんとやらの部下に呼ばれて、すっ飛んでやってくるなり、キャセルの奴はまるでコメツキバッタのように凄い勢いで関係者に謝っていた。

 そして俺の方を激しく睨んでいる。
「あんたはもう~。
 ちょっと目を離しただけでもうトラブルを起こしてー」

「知るかよ。
 あんたが世話係のくせに、ここに慣れていない俺をほったらかして、どこかへ行っちゃうからだろう」

「いや、そんな事を言ったってね。
 あたしだっていろいろとあってだね」

「黙れ。
 こんな帝都の、しかも宮殿の目と鼻の先の離宮か何かで皇女が襲撃されたんだぞ。
 この宮殿は実に立派だ。
 この国はさぞかし強大で広大な大帝国なのだろう。

 そこの皇女様が襲われたのだから、この余所者の俺にだってこれが異常な事態だと言うくらいの事はわかるわ。
 日頃は平和そうな感じに見えるからな。

 あんな目と鼻の先の場所に大部隊を送り込んだような敵だ、この宮殿にも奴らの仲間は確実にいるだろう。
 こういう事は必然的に発生するのだ。
 そういうのもあって、そいつが俺を付け回していたんじゃないのか」

 痛いところを突かれて押し黙るキャセル。
 あの事件は警備隊にとり不祥事もいいところだったはずだ。

 きっと、この国にいる裏切り者のような奴らが手引きし、襲撃メンバーで逃げた奴がいたのなら、そいつらがどこかに匿っているはず。

「大体、お前らって女ばかりの部隊なのは皇女様なんかの女性のための警備専門なんじゃないのかよ。
 どうして肝心な時に皇女様から離れたところにいたんだ」

「わ、我々平民は身分的にああいう王侯貴族の行事には簡単に顔を出せないのだ。
 我々のような人間は能力重視で編成されているので身分は低いのだから。

 だから我々は仕方がなく周辺で警備をしていたのだ。
 あそこで警備をしていたのは貴族の子弟からなる警備なので腕は思いっきり生温いのだ。

 まあ今までにああいう事は帝都では滅多には起きていないのもあって、そういう事もさほど問題にはならなくてな。
 少なくとも表立っては」

 あ、それでこいつ、やたらと腰が低いのか。
 その割に俺に対してはやけに尊大な態度なんだけど。

 表立っては、か。
 裏じゃ色々あるって事なのかな。

 そして俺はチラっとお坊ちゃんの方を見た。
 こいつも尾行はちょっとへただった気がするなあ。

 まあ俺はなんとなくの能力で見破ったんだけど。

 警備隊でも、使えねえ貴族の坊ちゃんなんかがポストを奪った結果があの騒動なのかよ。

 平民であるキャセル達の腕は確かだった。

 さすがにあの重装兵の相手はきつかったかもしれないが、あいつらなら皇女を速やかに逃がすくらいのことはやってのけただろう。

 そんなお花畑的な状況でも、念のためにキャセル達は配置されていたという訳だ。

 あの侍女さんもそれがわかっていたから、急ぎ馬車でキャセル達と合流するために逃走したのだ。

 可哀想に、あの少し年嵩だった侍女さんは馬鹿な貴族の坊ちゃん達のために無駄死にさせられたようなもんだ。
 多分、正規の御者も殺されていたんだろうなあ。

「それで、どうするというんだい。
 また皇帝陛下に謁見でもする気かい」

「馬鹿者、そうそう皇帝陛下がお前などに会ってくれるはずがあるまい。
 この事は警備隊としては不問に処す。

 業腹だが、こいつに関しては客人として丁重に扱えとの皇帝陛下直々のご命令だ。
 アントニウス殿もそれでよいかな」

 アントニウス殿は不承不承な御様子だったが頷いた。
 そういう訳なんで、警備の人が去ってから俺は彼に申し付けた。

「じゃあ、アントニウス殿。
 任務続行と行こうぜ」
「なんだと⁉」

「だって、お前は俺を監視するように上官から言われているのだろう?
 あんたが案内してくれよ」

「ば、馬鹿者。
 どこの世界に監視対象と行動を共にする諜報がいるか!」

「あのなあ、あんな下手な尾行をされている身にもなれよな。
 それにキャセル、あんたも本当は自分が忙しいから俺を野放しにしていたのだろう」

 またしても俺に痛いところを突かれて、たじたじとなるキャセル。

「う、先日の報告書をまとめて今日中に提出しないといけないのだが、お前の能力がよくわからなくて、あまり進んでいないんだ。
 ではアントニウス殿、そういう事なので後はお頼み申した!」

「あ、こら待て。
 逃げるな、キャセル!
 お前の仕事だろう」

 だが、俺も彼女を呼び止めた。

「待てよ、じゃあ俺の能力について解説してやるから派手な事をやっても大丈夫な場所へ連れていってくれ。
 その方があんたの苦手そうな仕事も早く終わるだろうから。

 そして、さっさと俺の面倒をみるのだ。
 アントニウス殿、あんたも付き合え。
 それがあんたの仕事なんだろう」

「う、うむ。致し方があるまい。
 いいな、キャセル」
「は、はあ」

 どうやら平民のキャセルは貴族のお坊ちゃん方が苦手のようだ。

 こいつも見た目は二十歳前後で、歳から推察して多分未婚なんだろうから貴族の子弟を攻略対象にした玉の輿でも狙ってみればいいのに。

 キャセルだって大人しくして着飾っていれば結構いけるはず。
 まあこいつじゃ窮屈な貴族の暮らしは合いそうもないのだが。

 俺は別にキャセルに親切にしてやろうというつもりで、こんな事を言い出した訳ではない。

 自分の能力の確認をしておきたかっただけなのだ。
 迂闊に変なところでやると、また警備隊に怒られそうだし。

 俺の能力は、主に電撃や静電気による発火能力のようだからな。
 こいつらに電気って言ってもよくわからないだろうけど。

 それがわかるような世界だったなら、日本と同じで俺は、それはまたそれで困った事になるのだろうが。
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