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第二章 探索者フェンリル
2-27 楽しいピクニック
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「わーい、久々のリックちゃんだー!」
どれに乗ったってそう代わり映えしないような気もするのだが、ルナ姫は何故かこのリックがお気に入りだった。
子供から見て顔の傷が何かの主人公みたいで格好いいのであろうか。サリーがルナ姫と第四王女様と一緒に騎乗している。
セメダルは当然のように第二王妃様が乗り回しておられる。本日は乗馬ズボン着用だ。高級ブランドなのがよくわかる逸品だった。セメダルの奴、なかなか楽しそうだな。
ベネトンには第二王女様が優雅に乗り回している。羽根に大きな傷がある歴戦の勇者なのであるが。
第三王妃様は彼女用に新しくやってきた、少し可愛らしい顔をしたグリーを、アルス王子を前に乗せて一緒に巧みに乗り回していた。
もちろん、お母さんと一緒のドライブに彼も大喜びだ。なんというか、ずっと見ていたくなるようないい笑顔で俺はそれを横目で見られる位置をキープしていた。
後ろから乳母さんもグリーに乗ってついてくる。第三王妃様は、はっきり言って第二王妃親子のように力押しの、馬で習った素人くさい乗り方ではなく、洗練されたというか、妙に優雅さがある。
まるで冒険者か、マルーク兄弟のように何でも屋の仕事師でもやっていたかのようだ。見ていても、かなり余裕があるのだ。やっぱり、この人って。本当は護衛なんかいらないんじゃないの?
それらを取り囲むようにグリーに跨った、うちの眷属三人と騎士団がいた。騎士団長のバリスタ、そして騎士団員が約二十名。
本来ならば馬に乗るのが筋なのであるが、ここはグリーを使うらしい。早く塔について遊びたいという意向があるもので。
メインのメンバーであるルナ姫はもちろんの事、ハンナ様がそうおっしゃられれば、騎士団も黙る他はない。
普通の騎士はグリーなどに乗り慣れていないものなのだが、こいつらはバリスタに扱かれまくっているので、冒険者並みに乗りこなす。
ちょっと遊びに行くくらいなら、このように御大層な護衛はつけないでもよいのであるが、場所が場所だけに考慮されている。
さすがに今日は子煩悩な国王もついてきていない。今日も謁見の仕事があるのだ。そういう時には、第一王妃が公務につくので今日の面子は関係がない。
まあ、第二王妃の母国関係の人間がやってくる場合にはハンナ様も行かないといけないわけなのであるが。そうでない場合には『第一王妃を立てる』という名目で優雅に遊んでらっしゃるのが、このハンナ様だ。
いい根性しているよ、まったく。そして勇ましく先頭を切っていたハンナ様が下がってきて俺の横に出てきた。
「なかなか爽快なピクニック日和じゃないの、狼」
「そらもう。俺の狼鼻で天気は占っておいたからね。塔の中は関係ないけど行くまでがね~。それに馬車に切り替えてまで雨の中、ピクニックには行かないよね」
「でも王国の行事なんかだと、貴族王族はむきになって決行するものなのよ。あの家は天気などに臆して行事を取りやめたなどと陰口をたたかれるのが嫌なの」
なんとまあ。子供の運動会だって雨天順延するというのに。
「やだやだ、見栄っ張りな奴らは。狼だって雨の日はサボってゴロゴロしているというのにさ」
「そういう時は、大人しく私にモフられていなさいよ!」
「へいへい」
そして、そんな軽口に負けないように軽やかに俺は駆けた。湖東に建てられた王都からクイーン・アクエリア湖沿いに北周りに回ったところに塔が立っている。
この湖は相当に大きなものなのであるが、塔もまた巨大なものであるので、王宮から眺める景色は王敦美しい町並みも相まってすさまじい景観をなしている。
まるで静かな海のような湖畔の道を駆け、見上げるような塔を目指す集団は、まるで旅の詩人が楽器を弾き鳴らし、酒場で語る英雄譚であるかのようだ。
この集団で言うと、おそらく第三王妃アルカンタラ様(二人の子連れ)あたりがヒロインをお勤めされるのではないかと思うのだが、少なくともこれは英雄物語ではないため、大きな顔をしているのはハンア様なのであった。
いや、神話の物語ならば間違いなくこの俺が主人公なのであろうが、俺は従魔証を首からぶら下げて、今はハンナ様に付き従う従者のように後ろをついて走っていた。
いや、なんとなくそうしてほしいような空気を読んでさ。今、中二的な妄想に浸っておられるような雰囲気だったので。
俺は彼女の蔵書を拝見する機会があったのだが、アルカンタラ王妃が素晴らしい勉強になるような書物をコレクションしているのに比べ、あの方ったら。日本で言えば、ラノベに相当するような本しか置いていない。
もちろん、内容が中二病的なものに偏っているのは言うまでもない。タイトルは『英雄王の俺様がハーレムの王になるまで』とか、『伝説の剣を手に入れた俺が龍を倒すまでの天翔ける魔法の英雄譚』とか。
しかも、それらは実在の人物をモデルに脚色されているもののようだし。この方が俺に興味があるのは、そういう理由もあるのだ。ほんに困ったお方である。
どうやら、俺をモデルにした戯曲を書いては、同好の士で集まって行われるサロンで発表しているらしいし。
嫌な集まりもあったものだ。またそこに集まるメンツが身分的なものも含めて、どっぷりと濃いらしいのが非常に鬱だ。その発表されている内容が気になるぜ。
「ああ、旦那は内容を知らない方がいいと思うから」
グレンの野郎がそんな事を言っていやがったのが余計に気にかかる。
そうこうしている間に塔が近づいてきて、物凄い迫力だ。こいつがユグドラシルなどと大層な名前を付けられたのも、むべなるかな。
地球にあったとしたならば、世界遺産認定は間違いないレベルの存在だ。
どれに乗ったってそう代わり映えしないような気もするのだが、ルナ姫は何故かこのリックがお気に入りだった。
子供から見て顔の傷が何かの主人公みたいで格好いいのであろうか。サリーがルナ姫と第四王女様と一緒に騎乗している。
セメダルは当然のように第二王妃様が乗り回しておられる。本日は乗馬ズボン着用だ。高級ブランドなのがよくわかる逸品だった。セメダルの奴、なかなか楽しそうだな。
ベネトンには第二王女様が優雅に乗り回している。羽根に大きな傷がある歴戦の勇者なのであるが。
第三王妃様は彼女用に新しくやってきた、少し可愛らしい顔をしたグリーを、アルス王子を前に乗せて一緒に巧みに乗り回していた。
もちろん、お母さんと一緒のドライブに彼も大喜びだ。なんというか、ずっと見ていたくなるようないい笑顔で俺はそれを横目で見られる位置をキープしていた。
後ろから乳母さんもグリーに乗ってついてくる。第三王妃様は、はっきり言って第二王妃親子のように力押しの、馬で習った素人くさい乗り方ではなく、洗練されたというか、妙に優雅さがある。
まるで冒険者か、マルーク兄弟のように何でも屋の仕事師でもやっていたかのようだ。見ていても、かなり余裕があるのだ。やっぱり、この人って。本当は護衛なんかいらないんじゃないの?
それらを取り囲むようにグリーに跨った、うちの眷属三人と騎士団がいた。騎士団長のバリスタ、そして騎士団員が約二十名。
本来ならば馬に乗るのが筋なのであるが、ここはグリーを使うらしい。早く塔について遊びたいという意向があるもので。
メインのメンバーであるルナ姫はもちろんの事、ハンナ様がそうおっしゃられれば、騎士団も黙る他はない。
普通の騎士はグリーなどに乗り慣れていないものなのだが、こいつらはバリスタに扱かれまくっているので、冒険者並みに乗りこなす。
ちょっと遊びに行くくらいなら、このように御大層な護衛はつけないでもよいのであるが、場所が場所だけに考慮されている。
さすがに今日は子煩悩な国王もついてきていない。今日も謁見の仕事があるのだ。そういう時には、第一王妃が公務につくので今日の面子は関係がない。
まあ、第二王妃の母国関係の人間がやってくる場合にはハンナ様も行かないといけないわけなのであるが。そうでない場合には『第一王妃を立てる』という名目で優雅に遊んでらっしゃるのが、このハンナ様だ。
いい根性しているよ、まったく。そして勇ましく先頭を切っていたハンナ様が下がってきて俺の横に出てきた。
「なかなか爽快なピクニック日和じゃないの、狼」
「そらもう。俺の狼鼻で天気は占っておいたからね。塔の中は関係ないけど行くまでがね~。それに馬車に切り替えてまで雨の中、ピクニックには行かないよね」
「でも王国の行事なんかだと、貴族王族はむきになって決行するものなのよ。あの家は天気などに臆して行事を取りやめたなどと陰口をたたかれるのが嫌なの」
なんとまあ。子供の運動会だって雨天順延するというのに。
「やだやだ、見栄っ張りな奴らは。狼だって雨の日はサボってゴロゴロしているというのにさ」
「そういう時は、大人しく私にモフられていなさいよ!」
「へいへい」
そして、そんな軽口に負けないように軽やかに俺は駆けた。湖東に建てられた王都からクイーン・アクエリア湖沿いに北周りに回ったところに塔が立っている。
この湖は相当に大きなものなのであるが、塔もまた巨大なものであるので、王宮から眺める景色は王敦美しい町並みも相まってすさまじい景観をなしている。
まるで静かな海のような湖畔の道を駆け、見上げるような塔を目指す集団は、まるで旅の詩人が楽器を弾き鳴らし、酒場で語る英雄譚であるかのようだ。
この集団で言うと、おそらく第三王妃アルカンタラ様(二人の子連れ)あたりがヒロインをお勤めされるのではないかと思うのだが、少なくともこれは英雄物語ではないため、大きな顔をしているのはハンア様なのであった。
いや、神話の物語ならば間違いなくこの俺が主人公なのであろうが、俺は従魔証を首からぶら下げて、今はハンナ様に付き従う従者のように後ろをついて走っていた。
いや、なんとなくそうしてほしいような空気を読んでさ。今、中二的な妄想に浸っておられるような雰囲気だったので。
俺は彼女の蔵書を拝見する機会があったのだが、アルカンタラ王妃が素晴らしい勉強になるような書物をコレクションしているのに比べ、あの方ったら。日本で言えば、ラノベに相当するような本しか置いていない。
もちろん、内容が中二病的なものに偏っているのは言うまでもない。タイトルは『英雄王の俺様がハーレムの王になるまで』とか、『伝説の剣を手に入れた俺が龍を倒すまでの天翔ける魔法の英雄譚』とか。
しかも、それらは実在の人物をモデルに脚色されているもののようだし。この方が俺に興味があるのは、そういう理由もあるのだ。ほんに困ったお方である。
どうやら、俺をモデルにした戯曲を書いては、同好の士で集まって行われるサロンで発表しているらしいし。
嫌な集まりもあったものだ。またそこに集まるメンツが身分的なものも含めて、どっぷりと濃いらしいのが非常に鬱だ。その発表されている内容が気になるぜ。
「ああ、旦那は内容を知らない方がいいと思うから」
グレンの野郎がそんな事を言っていやがったのが余計に気にかかる。
そうこうしている間に塔が近づいてきて、物凄い迫力だ。こいつがユグドラシルなどと大層な名前を付けられたのも、むべなるかな。
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