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第二章 探索者フェンリル

2-21 バトルロワイヤル

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「さあショーの始まりだ。もう限界いっぱい、お互いにこれ以上はリングが狭すぎるところまできちまった。これで決着としようぜー」

 直後に奴らが放った物凄い鼻息は、答えてくれたものかどうなのか。凄まじい殺気を放ち、奴らはまだ出現しきっていないうちから、一斉に俺目掛けて『ブレス』を吐いた。

「おっとう、飛び道具とは卑怯なりー」
 先ほどのお返しときたもんだ。

 後ろのダンジョンの壁が溶けて穴が開いたぞ。あっという間に復元したけどさ。ここの外壁は凄く厚いはずなんだが。もしこいつが外に出ちまったら大惨事もいいところだな。

 しかし、この図体では非常に除け辛い。調子に乗り過ぎたか。だが、俺は高速で器用に避けまくり、奴らのスキャニング・ブレスを避けた。多少は掠っても屁でもなかった。

 お返しに俺のブレス風の高温プラズマ化空気放射でもくれてやろうかと思ったがやめて、ロキの鎧フェンリルマン・バージョンを装着した。だって肉が傷むだろう。

 これは優れもので、装着者の大きさに合わせて巨大化してくれるが、収納に持ち合わせた素材のベスマギルの量が足りないとそこが限界だ。幸いにして今日は足りたようだった。俺は、さっきと同様にまだ出現しきらない奴らの背後に回り、そいつでまた足を切って、全頭を大地に引き倒した。学習しない連中だな。ブレスは牽制に用いて、その間に出現しきってチームワークで戦うべきだったのだ。よっぽど頭にきてやがるな、ダンジョンの奴め。いやもう吠える吠える。牛は煩いなあ。牛蛙も煩いんだけど。
 そして一頭ずつ取り押さえて腕につけられた、巨大なフェンリルマンソードで首を落としていく。これもう牛刀扱いでいいんじゃないだろうか。

 そして間もなく解体と言うか、首を落とし終わった。みんな見てただろうなー、特に俺のこの悪魔っぽい雄姿。

 いや参ったね。今まで築いてきた好感度がすべて台無しになったんじゃないのか。だから最初は変身しないでお茶を濁したというのに。ダンジョンの奴ったら、もう聞き分けがないんだから。

 とりあえずシンディが煩いだろうから、牛は収納しておいた。いやビフテキ何人前なんだろうな、これ。

 この肉の塊がどこから湧いてくるものやら。不思議なところだぜ、このダンジョンという場所は。ついでに、まだ埋まったままの『脛肉』を十六本ほど回収しておいた。これも悪くないものよー。

 おれはフェンリルマンの変身を解くと、元の可愛い狼(当社比で)の姿に戻り、宿の方へ向けて駆けていった。

「ただいまー」

「あんた、家出してた犬が可愛く帰還の挨拶をするみたいに言うんじゃないわよ。もうえらい騒ぎだったんだからね。王都のギルマスのところまで伝令が奔ってる最中だから。きっと王国の騎士団も来ちゃうよ」

「あ、チクるなんてひどい。一生懸命に戦ったというのにさ。ギルマスから騒ぎを起こすなって言われているのに。まさか、うちの騎士団まででばってくるんじゃないだろうな」

 ありうる。そして奴らに大爆笑されるのが目に見えている。主としての面目が丸つぶれだわ。

「やかましいわ、こっちには報告義務っていうものがあるんだからね。あんたみたいに気楽な従魔稼業とは違うんだから。ああ、報告書を書かないと。なんて書こうかしら。困ったな」

「ミル、もう見たまま全部書いとけよ。どうせ、こいつがやった事なんだから誰も文句は言わないさ」

 ちょっとベルミさん、それはあんまりよ。あんたらだって牛狩りを楽しんでいたじゃないですか。

「お肉で買収しよう。それに絶対にギルマスが肉の分け前を寄越せって言うよね。もう、うちのギルドじゃあ、あの牛が獲れたらギルマスに献上するのが習わしなんだし」

 ギルマスったら、職権乱用もいいところだし。俺も何かいい言い訳でも考えておいた方がいいかな。ピンキーのお説教は確定かねえ。シンディの言う通り、肉で買収するしかねえかな。

「いやあ、あんた。無茶苦茶するねえ。そうか、これが神の子って奴なのか。ダンジョンがむきになるのもわかるわ」

「あう、神の子といっても、俺達は巨人族ですからね。どんな神の子もそうというわけでは。そういえば、うちの弟は確か世界蛇ヨルムンガンド。あれは実在しているのかな。いたら拝んでみたいものなのだが」

「見つけたらどうするんだ?」
 ちょっと警戒したようにベルミが眉を顰める。

「そりゃあもう、ロキの息子軍団を結成して世界を席巻するのさ。俺もまだまだ大きくなる予定だしな」

「やめとけ、世界を滅ぼすつもりか」
 滅ぼすのは、今世界を牛耳っている神か何かじゃないかな。俺はもう一回殺されているみたいだしな。いや、もしかすると二回。
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