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第一章 荒神転生

1-37 狼男大暴れ

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「アンギャアアアー」
 俺は怪獣のように楽しく吠えた。

 単に日本語でカタカナのセリフを叫んでいるだけなのだが。怪獣の吠え声を口で再現するのは意外と難しいわ。

 いやあ、怪獣映画に出てくる怪獣の中の人になった気分で楽しいぜ。警備兵の詰所の入り口を体全体で破壊して進み、踏みつぶして進んだ。

 いやあ、怪獣映画はこうでなくっちゃな。巨大な鍵爪の光る邪悪な、まるで凶悪な鬼手のようにゴツイ、毛むくじゃらな手を振り回して破壊の限りを尽くす。

 そして口から吹いたのは『ブレス』だ。俺には、こういう魔法スキル系の物は使えない。だから、またしても力押しの脳筋物理系のパワーなのだ。

 肺の中で空気を大量に吸い込んで、それに魔力をかけて熱を発生させる。それを一気に圧縮しながら排出して、人工的に熱い空気を作り出すというか。

 一種のヒートポンプの排熱部分の激しい奴と言うか、吐き出すと空気がプラズマと化して凄い事になるのだ。

 凄まじい白熱した熱光線が『番所』の空を激しく旋回しながら焼いた。まるで何かの施設で宣伝用に夜空を照らすサーチライトのようだ。

 よく学校の『天体観測』の邪魔だと苦情が入って強制的に消灯させられてしまうアレだ。ここで、やられキャラである雑魚の戦闘機がいないのが実に物足りないぜ。

 よく知らない人が見たらドラゴンブレスの強烈な奴と間違えるかもしれない。まあ、さすがに人間相手に向かって吐く事はできないがな。マジで大変な事になってしまう。

 そして必殺の、神の子の遠吠え。

【ウールルルルオーン】
 こいつは魔法ではなく、狼種としての固有スキルである、『号哭』である。

 単なる咆哮ではなく、神秘的な波動を載せて、相手に神威的な畏怖の念を抱かせるもので、この世界でこのスキルを使う最高位はフェンリルであるとされる。

 つまり、俺の専用技みたいなもので、この形態であれば、いつもの狼形態に比べれば体感的に三倍くらいの威力があるようだ。

「ひいいいい」
 ただ小便をまき散らしながら、ひっくり返る兵士。お前は犬か。村娘ライナの方がまだ根性ありそうだ。

「おお、おお、おおお。神よ、我を許したまえ」
 跪き神に祈る者。この俺様に向かってたっぷりと祈るがいい、許すぜ。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、生まれてきてごめんなさい」
 もう地面に蹲って頭を抱えて謝りまくって震えあがる者。

 やっぱり、この姿と号哭のコンボは強力タッグだぜ。これが、あの大蜘蛛あたりに通用するのか試してみたいものだが、村で使っていたら子供達が一生物のトラウマになっちまうんだろうなあ。

 いや、子供には見せられない姿とは、まさにこの事だわ。今、鏡で自分を見たら、セルフサービスの悲鳴を上げる事間違いなしだ。自分自身だって見慣れちゃいないものなんだからな。

「さあて、ここから景気よく暴れるかあ!」
 だが、空気を読まない奴というものは、どこの世界にもいるものだ。

「よお、大将。派手にやってんな。どこの悪魔が出たのかと思って二度見しちまったぜ。あんたの眷属でなかったら、絶対わからなかったな」

 グレンの野郎、どさくさに紛れて脱獄してきたようだ。何の苦労もなく、ただ施錠部分を破壊しただけで、悠々と歩いてきたのだろう。

「なんだ、これからいいところだったのに。お前が捕まっていてくれないと、俺が暴れる大義名分が無くなるじゃないか。牢屋に戻れっ。やり直し!」

「おい、冗談を言っていないで、早く宿に行くぞ。まったく、宿を予約する暇もなかったし。ここは早めに予約しないと宿が無くなる街なんだから。それは他の連中も知っているから、早く行かないと、あんたの大好きな美味い飯を食い損なっちまうからな」

 確かにグレンの言う事はもっともじゃないか。
「何、そいつはいかんなあ。おい、もう馬鹿どもには構わずに、さっさと行くぞ」

 俺は、そそくさと元の狼の姿に戻ると、アレンの服の裾を咥えて引っ張り皆を急かした。
「あのなあ、あんた」

「いいから、お前ら。早く早く」
 グリー達も、嘴でぐいぐいとマルーク兄弟たちを急かした。サリーも早く乗れと言わんばかりにグリーに押し上げようとしている。

「わかった、わかった。お前ら、本当に食い意地張り過ぎだよ」

 どうやら俺達を簡単に倒せぬとみて、一人ずつ分断して足止めを図り、どこかに隙を作らせようとしたと思われる作戦は失敗した。そして、俺達はなんとか宿を取る事に成功したのだった。

「ふわあ、いいお湯だったー」
「スサノオをいっぱい洗えて満足だったー」

 いいけど、ルナ姫。本当は犬って、そうしょっちゅう洗ってしまっては駄目なのですよ。まあ、俺は全然大丈夫なんだけどね。

 あれは、ただのお遊びだからなあ。俺は仕方がないので、たくさんのワンコブラシを入手して彼女に与えておいたのだ。馬車洗車用のブラシで洗われるのが嫌だったからな。

 大型の高級犬用ブラシなどだ。使い心地がいいようで、サリーも楽しく優雅にブラシがけをしてくれる。鼻面を膝枕して耳のあたりをやられると、結構堪らん。

 なかなかエロイ展開と言えない事もないのだが、俺は正直言って人間の女とか興味ない。身も心も狼になってしまっているようだ。

 ただ優しく話しかけられて上手に愛撫されると気持ちがいいのは犬科の性なのだろう。男に愛撫されるのは、想像するだけで未だに気持ちよく思えないのもまた不思議なものだが。

 子供達はまた別なのだけれども。犬猫だって、子供相手ならなすがままなのだし。大人の男だと警戒心を露わにするけどね。今なら、彼らのその気持ちもわかるような気もする。

 また狼獣人の女性とか結構気になったりするのだ。もっとも、狼獣人の女性は変身した俺に近い容姿のお方も大変多くいらっしゃるのですがね。

 あれが果たしてスタンダードな容姿なのか、上下どちらかの基準に振れているものなのかは、今もって謎なのである。
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