上 下
33 / 107
第一章 荒神転生

1-33 三度目の襲撃

しおりを挟む
 それから数日は何事もなかった。少々無理をしてでも、なるべく早めに特別指定旅程都市へと進み、最高級宿に俺達と同じ部屋でルナを泊まらせる。

 この戦略は実にうまくいっていた。馬たちもゆっくりと休めていたし、でかい方の鳥どもなんか退屈しまくっている。

『旦那あ、こいつは暇だねえ。ねえ敵はどこ?』
『さあなあ。どこへ行っちまったもんかね』

『もうセメダルったら。そんな事を言っていると大変ですよ。敵は多分間合いというかタイミングを測っているのです。

 こういう空気には何度も覚えがあります。嫌な気配がべったり。複数の勢力が監視しているようです。監視者は常に入れ替わっています。一体何人投入しているものやら。

 皆があなたのように油断しまくった瞬間に襲撃をかけるように。相手は雑魚ではなく、一つの、あるいは二つの大国が放つ手練れなのですから』

『そういう事だ。何せ、王家の中の権力争いに、あと二つ大国が絡んでいるんだからな。真っ向から軍隊を投入できないのだから、それ以外の部分には金は惜しんでいないぞ。

 だから、アレン達のような半端じゃないプロがここにいるのだからな。へたをすれば、第二王妃派による襲撃も有り得るのだ。どいつもこいつも機を見ていやがる』

 鳥どもの上に乗っているアレンにも情報を伝えてやると、彼も激しく同意した。

「俺達がいた組は、あれでほんの一部だったらしいからな。監視に襲撃と、まだまだ結構な人数がいるらしいぞ。金に糸目をつけぬとは、まさにこの事だ。

 何しろ、この小国ではない国の中じゃ一番の大勢力なんだ。第一王妃派に媚びる貴族も多い。通る土地全てが敵の手先だと思った方がいい。もっとも、ドンパチなら他でやってくれというのが連中の本音だと思うがね。

 だが、こういう時に点数を稼いでおきたいのもまた事実なんで、いざとなったら土地の領主軍が加勢するぞ。見かけは黒装束をしてな」

「やだね~」
 俺は顔を顰めた。

 なんというかな。アメリカ映画なんかで、黒装束で顔の見えない黒マスクをしてサブマシンガンなんかで武装し、何丁もの拳銃を足なんかに括り付け、主人公のもとへ突撃してくる軍や警察の特殊部隊。

 あそこまでいくと、結構バッドエンドになる事も少なくないのだ。結構リアルな実話を元に作っている映画も多いしね。大概は多勢に無勢なのだ。

 だがルナは絶対にやらせんぞ。名義だけとはいえ、大事な大事なご主人様なんだからな。案外とフェンリルも、ベルバード並みに忠義だからな。

 俺はチラっとルナの方を見たが、馬車の窓に止まっているロイに一生懸命に話しかけている。あの笑顔を守れないなら、何が神の子だよ。世の中には神も仏もないなんて言われたら困っちまうぜ。

 そして、ついに始まった。今度は少数精鋭のようだった。その気配を感じ取ったものか、アレンの目がギラリと不敵に光り、唇の端が軽く吊り上がった。

「なかなかの奴らを集めてきたな。数は一六~一七といったところか」

『一八人です。一人、隠密に長けていて、その上、かなりの攻撃力を持つ人間が。おそらく魔法使いですが身体能力も半端じゃあないです。あれだけは誰かマンツーマンでお願いします』

 俺が通訳すると、アレンが宣言した。

「そいつは俺がやろう。グレン、先制はお前に任せる。ウォーレン、漏れた奴はお前が仕留めろ。グレンも第二派攻撃が要り用なら判断は任せる。俺を巻き込むなよ。援護が必要なら、いつもの奴で。

 スサノオの旦那は馬車を守っていてくれ。いけるとは思うが、もしも俺が倒されたらフォローを頼む。ではやれ、グレン。そのタイミングで奴が仕掛けてくるだろう」

 アレンはなかなか手際よく指示を出し、鳥どもも空気を呼んでスタンバっている。

 グレンは顔半分を隠した白髪を撫でつけると、そっと息を吐き出すように唱えた。
「死の風を」

 一体何が起きていたのかわからない。俺の魔力探査には実は一六の影しか映っていなかったのだが、その殆どが一瞬にして波打つようにして消えた。

 俺は頭の中にレーダースクリーンのような物を、算盤のシルエットや脳内将棋盤のように脳内の疑似描写として採用しているのだが、その上で揺らいで消えたのだ。

 これは相手が死んだことを意味する。どうやらグレンは魔法というか、大量の相手を一度に倒せるスキル持ちらしい。

 その代わりにある程度の技量を持つ人間なら躱されてしまうのだ。先制砲撃や支援砲撃を担当する大火力だ。

 元々、魔法使いというのはそういう職種らしいのだが、このグレンは魔法の火力による無差別な物理破壊ではなく、個々の敵に対して同時攻撃を放てる能力があるようだ。

 通常の魔法使いが榴弾砲や多連装ロケット砲による物量作戦だとすれば、グレンは対人誘導ミサイルを無制限にコントロールするような精密攻撃の持ち主だ。

 他の魔法も使えるのかもしれないし、この兄弟の事だから通常の対人戦もかなりこなすのだろうが、多分そのあたりは他の兄弟の方が勝るだろう。その辺は、やはり体付きに出る。

 激しい剣戟の音がして、突っ込んできていた敵が一人、ウォーレンに切り伏せられた。これで、俺が感じ取れた奴は終了なのだが、こいつは多分囮役。

『わかるか、ロイ』
『敵が一人いるのはわかりますが、位置が特定できません。近くにいて馬車を狙っているはずです。気をつけてください』

「ウォーレン、奴はすぐ近くにいる。早くなんとかしろ。俺にもロイにも位置がはっきり見えぬ」
「了解した。グレン兄貴、燻り出してくれ」

「おう」
 そして、次は足元が弾けた。バチバチと弾けてビリビリと来たのだ。

 俺は思わず踊ってしまった。いやダメージとしては、まったくたいした事はないのだが、あの冬にドアノブなんかで食らうようなバチっと来る奴をデリケートな肉球全部に突然食らったので。

「うおう、なんだあ~」
「すまん、スサノオの旦那。こういう時は大概地面の上で擬態しているんだ。大地っていうのはよ、こういうバチバチした奴を持っているもんでな、それを呼び出したのさ。ほら見つかった」

 突然の思わぬ奇襲に隠蔽の術が解けてしまったらしき、大柄な男がいる。かなりいいガタイをしたウォーレンを上回るのではないかという見事な体躯だ。

 そして、そこへ猛然と突っ込むベネトン。その勇猛さは羽根にしっかり勲章として刻まれている。逃げる事も、再度の隠蔽を行う事もなく、きりきり舞いでかろうじて避けたそいつに、すかさず鞍上のウォーレンが猛然と飛び掛かる。

 剣を構えた手練れな男の上に、身動き取れない空中からの態勢で突っ込むなんて普通は馬鹿のやる事なのだが、このウォーレンは馬鹿ではなく、超がつくほどの筋肉馬鹿だったのだ。

 どこの神話の英雄だよ。一応、この世界は北欧神話のテリトリーらしいのだが。

 相手の首は、手にした業物らしい真っ二つとなった大剣もろとも宙を舞った。そして自らもごろごろと地面を転がるウォーレン。

 まったく、無茶しやがるぜ。だが奴は余裕借借で起き上がると土埃を払う事さえなく、戦闘待機の状態のまま、目で長兄の姿を追った。

 彼らはなんと空中にいた。大地を蹴るかのように空中を蹴り、剣戟の音が大地に木霊し、蒼穹を響かせた。たまに足元で青白い光が煌めくのは魔法陣かスキルが過負荷の悲鳴を上げた反応か。

「なかなかやるな。兄貴と、あそこまで打ちあうなんてよ」
「だが、そこまでだな」

 その弟達の言葉を裏付けるように、アレンの剣は魔力を帯びて光り出した。今までは相手の技量を測っていたのだろう。慎重な事だ。

 だからこそ、マルーク兄弟の名はその道では鳴り響いているのだ。彼らは粗野ではあるが、別にならず者ではない。

 相手の男は燃えるような瞳で睨みつけていたが、鳶色のアレンの瞳が黄金色の輝きを帯びている。

 燃えるようなオーラに包まれたアレンを見る男の目に絶望が奔る。だが、なおも打ち込む剣、そしてそれは跳ね返され、粉々に砕け散った。すかさずアレンの魔法を帯びた炎のような剣が迫る。

「勝負あり! アレン、そいつを殺すな」
 アレンは宙に浮いたまま、相手の男の首に剣をつきつけた状態でピタリと止まった。

 こいつ本当に手練れだな。打ち合わせにないのにも関わらず、いきなりでよく対応できるものだ。俺なら間違いなく「え?」とか言いながら首を撥ねちゃっているがな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

かわいそうな旦那様‥

みるみる
恋愛
侯爵令嬢リリアのもとに、公爵家の長男テオから婚約の申し込みがありました。ですが、テオはある未亡人に惚れ込んでいて、まだ若くて性的魅力のかけらもないリリアには、本当は全く異性として興味を持っていなかったのです。 そんなテオに、リリアはある提案をしました。 「‥白い結婚のまま、三年後に私と離縁して下さい。」 テオはその提案を承諾しました。 そんな二人の結婚生活は‥‥。 ※題名の「かわいそうな旦那様」については、客観的に見ていると、この旦那のどこが?となると思いますが、主人公の旦那に対する皮肉的な意味も込めて、あえてこの題名にしました。 ※小説家になろうにも投稿中 ※本編完結しましたが、補足したい話がある為番外編を少しだけ投稿しますm(_ _)m

記憶を取り戻したアラフォー賢者は三度目の人生を生きていく

かたなかじ
ファンタジー
 四十歳手前の冴えない武器屋ダンテ。  彼は亡くなった両親の武器屋を継いで今日も仕入れにやってきていた。  その帰りに彼は山道を馬車ごと転げ落ちてしまう。更に運の悪いことにそこを山賊に襲われた。  だがその落下の衝撃でダンテは記憶を取り戻す。  自分が勇者の仲間であり、賢者として多くの魔の力を行使していたことを。  そして、本来の名前が地球育ちの優吾であることを。  記憶と共に力を取り戻した優吾は、その圧倒的な力で山賊を討伐する。  武器屋としての自分は死んだと考え、賢者として生きていくことを決める優吾。  それは前世の魔王との戦いから三百年が経過した世界だった――。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

処理中です...