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部活が終わると、幸生と太雅は一緒に学校を出た。時折、このまま太雅の家に寄る時もあり、付き合い始めてからの日常であった。
その日は土曜日で部活は午前中に終わり、いつものように幸生と太雅は歩いて帰宅していた。
太雅は午後も練習するのかもしれない、そうとも思ったが幸生は口を開いた。
「太雅は午後も練習するの?」
「ああ、山根たちとする。幸生も来るか?」
幸生は首を振ると、
「練習終わる頃、太雅の家に行ってもいい?」
「ああ、いいけど……」
太雅は少しキョトンとしている。
「三時半までまだから、四時くらいには帰れる」
「……泊まってもいい?」
その瞬間、太雅の顔が真っ赤に染まり、自分でも顔が赤いとわかるのか、右手で口を覆っている。
「それって……」
太雅は何かを言いかけたが、幸生は遮りように、
「じゃ! また、後でね!」
言い逃げするように、走って行ってしまった。
太雅はしばらくその場に立ち尽くし、小さくなっていく幸生の背中を見えなくなるまで見つめていた。
幸生は、四時ぴったりに太雅の自宅玄関のチャイムを鳴らした。
中からドタドタッと大きな音が聞こえた。
「?」
玄関が開くと、顔を抑えた太雅が姿を見せた。
「ど、どうしたの?」
抑えた顔の下、鼻あたりが赤くなっている。
「階段から落ちた」
「ちょっ……!大丈夫?!」
「大丈夫、少し顔面打っただけだから」
そう言いながらも、顔をさすっている。
中に入り階段を登り、太雅の部屋に足を踏み入れた。もう何度目も来ているのに、まるで初めて来たような緊張があり、落ち着かない。
ベッドには、トラ猫のトラ吉がちょこんと座っていた。
「来たよー、トラ吉」
トラ吉を見た瞬間、自然と笑みが溢れ幸生の緊張が解れる。幸生はトラ吉を撫で回し、トラ吉もゴロゴロと喉を鳴らすと、あげく幸生にお腹を向けた。
「デビスカップの決勝、録画してあるけど見るか?」
「あ、うん、見たい」
今年の決勝は、幸生と太雅が好きな選手の国が決勝まで残り、その選手の活躍で見事優勝に導いたのだ。
二人はソファに腰を下ろし、録画されて試合を見始めた。
幸生の右手と太雅の左手が少し触れると、太雅は幸生の手を握ってきた。二人は手を繋いだまま暫くはテレビに目を向けていたが、その試合の様子は全く頭に入ってはこない。不意に太雅の左手が外れたと思うと、肩を抱かれ、そのまま太雅の顔が近付いてくると唇を塞がれた。太雅の舌が幸生の舌を捉え、執拗に口内を犯される。キスだけで胸がじんわりと熱くなるのを感じた。
一度唇が離れると、幸生は太雅の胸に顔を埋め、
「俺……もう、ちゃんと太雅の事、好きだから」
そう言った瞬間、太雅の動きが止まった。
「太雅が好きだよ。待っていてくれて、ありがとう」
幸生は恥ずかしくて顔を上げる事ができずにいると、太雅にギュッと抱きしめられた。ぐすりと鼻がすする音が聞こえ、太雅が泣いているのだと分かった。
「本当に俺でいいの?」
幸生がそう尋ねると太雅が何度も頷いている。
「おまえが……幸生がいいんだ……俺は、半端な気持ちで男のおまえを好きになったりしない。ずっと、側にいてほしい」
幸生は顔を上げると再び太雅にキスをされた。
「じゃあ、また抱いてくれる?」
「いいのか?」
「太雅がいい」
「今日は優しくする」
言葉の通り、太雅は終始丁寧に幸生に触れきた。それは、もどかしいと思える程だった。
「太雅……好き、好き……」
「好きだ、幸生……」
(好きな人に抱かれるって、こんなにも気持ち良いんだ)
そんな事を幸生は考えると、無意識に太雅を強く抱きしめていた。
「太雅、俺、今凄く幸せだよ」
「俺もだ、幸生。俺を好きになってくれてありがとう」
その言葉に、幸生の瞳からじんわりと涙が浮かんだ。
何度も啄むキスを繰り返していたが、
「あ、いてっ!」
不意に太雅が顔をしかめた。
「な、何?」
太雅が後ろを振り返ると、トラ吉がソファの縁に座りジトッとした目で自分たちを見ていた。
「猫パンチ食らった」
「トラ吉の?」
「おまえをいじめてると思ったのかも」
トラ吉は相変わらず、じっとりとした目を向けている。
「トラ吉、大丈夫だよ」
そう言うと、トラ吉は幸生にすり寄ってきた。堪らず太雅はトラ吉を抱き上げると、
「邪魔だ、トラ吉」
そのままドアを開けて、トラ吉を廊下に放り出してしまった。
続きとばかりに太雅は幸生に覆い被さり、キスをしようとしたが──
「ぶにゃん! にゃうーん! うにゃー!」
トラ吉の抗議の声と共に、ガリガリガリとドアを引っ掻く音が聞こえ始めた。
その余りにも必死な声に、二人は思わず吹き出してしまった。
「あの、豚ネコめ!」
甘い雰囲気は一匹のトラ猫のせいで台無しだ。
仕方なく、二人は体を離すと太雅はドアを開け、トラ吉を部屋に入れると、すぐさまトラ吉は幸生の膝に乗った。
「おまえ、なんで飼い主の俺より幸生に懐いてんだよ!」
「いつも遊んであげてるからね」
そう言ってトラ吉の顎を撫でている。
不服そうにドカリと幸生の横に座る太雅に、
「夜は長いから、ね」
幸生のその綺麗な笑みに、太雅は照れたように、
「まあな」
不貞腐れた返事を返しながらも、幸生に一つキスを落とした。
(幸せをくれてありがとう、太雅)
太雅の唇を感じながら、幸生はそう心の中で呟いた。
END
その日は土曜日で部活は午前中に終わり、いつものように幸生と太雅は歩いて帰宅していた。
太雅は午後も練習するのかもしれない、そうとも思ったが幸生は口を開いた。
「太雅は午後も練習するの?」
「ああ、山根たちとする。幸生も来るか?」
幸生は首を振ると、
「練習終わる頃、太雅の家に行ってもいい?」
「ああ、いいけど……」
太雅は少しキョトンとしている。
「三時半までまだから、四時くらいには帰れる」
「……泊まってもいい?」
その瞬間、太雅の顔が真っ赤に染まり、自分でも顔が赤いとわかるのか、右手で口を覆っている。
「それって……」
太雅は何かを言いかけたが、幸生は遮りように、
「じゃ! また、後でね!」
言い逃げするように、走って行ってしまった。
太雅はしばらくその場に立ち尽くし、小さくなっていく幸生の背中を見えなくなるまで見つめていた。
幸生は、四時ぴったりに太雅の自宅玄関のチャイムを鳴らした。
中からドタドタッと大きな音が聞こえた。
「?」
玄関が開くと、顔を抑えた太雅が姿を見せた。
「ど、どうしたの?」
抑えた顔の下、鼻あたりが赤くなっている。
「階段から落ちた」
「ちょっ……!大丈夫?!」
「大丈夫、少し顔面打っただけだから」
そう言いながらも、顔をさすっている。
中に入り階段を登り、太雅の部屋に足を踏み入れた。もう何度目も来ているのに、まるで初めて来たような緊張があり、落ち着かない。
ベッドには、トラ猫のトラ吉がちょこんと座っていた。
「来たよー、トラ吉」
トラ吉を見た瞬間、自然と笑みが溢れ幸生の緊張が解れる。幸生はトラ吉を撫で回し、トラ吉もゴロゴロと喉を鳴らすと、あげく幸生にお腹を向けた。
「デビスカップの決勝、録画してあるけど見るか?」
「あ、うん、見たい」
今年の決勝は、幸生と太雅が好きな選手の国が決勝まで残り、その選手の活躍で見事優勝に導いたのだ。
二人はソファに腰を下ろし、録画されて試合を見始めた。
幸生の右手と太雅の左手が少し触れると、太雅は幸生の手を握ってきた。二人は手を繋いだまま暫くはテレビに目を向けていたが、その試合の様子は全く頭に入ってはこない。不意に太雅の左手が外れたと思うと、肩を抱かれ、そのまま太雅の顔が近付いてくると唇を塞がれた。太雅の舌が幸生の舌を捉え、執拗に口内を犯される。キスだけで胸がじんわりと熱くなるのを感じた。
一度唇が離れると、幸生は太雅の胸に顔を埋め、
「俺……もう、ちゃんと太雅の事、好きだから」
そう言った瞬間、太雅の動きが止まった。
「太雅が好きだよ。待っていてくれて、ありがとう」
幸生は恥ずかしくて顔を上げる事ができずにいると、太雅にギュッと抱きしめられた。ぐすりと鼻がすする音が聞こえ、太雅が泣いているのだと分かった。
「本当に俺でいいの?」
幸生がそう尋ねると太雅が何度も頷いている。
「おまえが……幸生がいいんだ……俺は、半端な気持ちで男のおまえを好きになったりしない。ずっと、側にいてほしい」
幸生は顔を上げると再び太雅にキスをされた。
「じゃあ、また抱いてくれる?」
「いいのか?」
「太雅がいい」
「今日は優しくする」
言葉の通り、太雅は終始丁寧に幸生に触れきた。それは、もどかしいと思える程だった。
「太雅……好き、好き……」
「好きだ、幸生……」
(好きな人に抱かれるって、こんなにも気持ち良いんだ)
そんな事を幸生は考えると、無意識に太雅を強く抱きしめていた。
「太雅、俺、今凄く幸せだよ」
「俺もだ、幸生。俺を好きになってくれてありがとう」
その言葉に、幸生の瞳からじんわりと涙が浮かんだ。
何度も啄むキスを繰り返していたが、
「あ、いてっ!」
不意に太雅が顔をしかめた。
「な、何?」
太雅が後ろを振り返ると、トラ吉がソファの縁に座りジトッとした目で自分たちを見ていた。
「猫パンチ食らった」
「トラ吉の?」
「おまえをいじめてると思ったのかも」
トラ吉は相変わらず、じっとりとした目を向けている。
「トラ吉、大丈夫だよ」
そう言うと、トラ吉は幸生にすり寄ってきた。堪らず太雅はトラ吉を抱き上げると、
「邪魔だ、トラ吉」
そのままドアを開けて、トラ吉を廊下に放り出してしまった。
続きとばかりに太雅は幸生に覆い被さり、キスをしようとしたが──
「ぶにゃん! にゃうーん! うにゃー!」
トラ吉の抗議の声と共に、ガリガリガリとドアを引っ掻く音が聞こえ始めた。
その余りにも必死な声に、二人は思わず吹き出してしまった。
「あの、豚ネコめ!」
甘い雰囲気は一匹のトラ猫のせいで台無しだ。
仕方なく、二人は体を離すと太雅はドアを開け、トラ吉を部屋に入れると、すぐさまトラ吉は幸生の膝に乗った。
「おまえ、なんで飼い主の俺より幸生に懐いてんだよ!」
「いつも遊んであげてるからね」
そう言ってトラ吉の顎を撫でている。
不服そうにドカリと幸生の横に座る太雅に、
「夜は長いから、ね」
幸生のその綺麗な笑みに、太雅は照れたように、
「まあな」
不貞腐れた返事を返しながらも、幸生に一つキスを落とした。
(幸せをくれてありがとう、太雅)
太雅の唇を感じながら、幸生はそう心の中で呟いた。
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