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 その日、夕方から急な大雨に見舞われた。店内には、BGMをかき消すほど雨の音が響いている。

「雨、凄いっすね」
 豊橋が店内からガラス越しに外に目を向けている。
「春の嵐ってやつか」
 風も強く吹いており、店内の客も外に出たくても出れないようで、足止めを食らっているようだった。
この春の嵐で、せっかく満開になった桜は散ってしまうのだろう。

 松木はトイレに行ってくると声をかけ、用を足してトイレから出ると、風除室に駆け込んで来た客とぶつかりそうになった。
「うおっ!」
 思わず慌ててぶつかってきた客の肩を掴んでしまった。
「す、んませ……あっ、まっつん!」
 ぶつかってきた客は、昴だった。

 この急な雨に不運にも遭遇してしまったのか、びっしょりと濡れている。
「昴か! びっしょりじゃねえか! タオルあるのか?」
「大丈夫、大丈夫! あるよ」
 そう言ってブレザーを脱いでいる。
「家まであとちょっとだったんだけどなー」
 リュックから取り出したタオルで顔を拭いている。

 その時、松木は昴の胸に釘付けになった。
(ち、乳首が透けてる……)
 昴はシャツを直に着ているのか、雨で濡れたシャツがベッタリと肌に張り付いており、乳首が透けて見えてしまっていた。しかも、いやらしくぷっくりと中心は主張している。白いシャツ越しにでも、彼の乳首は綺麗なピンク色をしているのを知ってしまった。

(マジかぁ……)
 信じられない事に、自分の下半身が反応し始めている。松木は、思わず天を仰ぐ。

「お店入らないから、少しここにいてもいい?」
 そう言って昴は[[rb:縋 > すが]]るような上目遣いで松木を見つめてきた。上背のある松木を必然的に見上げる形になる。雫が滴り落ちる黒い前髪の隙間から下がった眉を覗かせ、泣きそうな困ったような目で見つめてくる昴。 

 ーードキリ

「あ、ああ……もちろん」
 そう平静を装うも、普段は見る事のない色っぽい表情の昴に、落ち着いたと思った下半身が再び反応しかけている。そのくせ松木の視線は懲りずにまた、昴の透けている乳首に視線を向けてしまう。
「ちょっと待ってろ!」
 松木は事務所に駆け込むと、椅子に掛かっているパーカーを手に取り再び昴の元に戻った。

「これ、着てろ」
 手渡そうとするも、
「いいよ! 濡れちゃうから!」
 そう言って押し返されてしまった。
 松木は無理矢理パーカーを昴の肩にかけ、ファスナーをきっちり首元まであげた。
 こんな姿を人の目に晒してはいけない、そう本能的に思った。

「まっつん……く、苦しい……」
 ミノムシ状態の昴は裾から手を伸ばし、それを捲り上げるとファスナーを大きく下げた。が、松木はそれを再び上げた。さすがに首元までは上げ過ぎだと思い今度は鎖骨辺りで止めると、ミノムシ状態の昴はモゾモゾと中で腕を動かし、器用にアームホールに腕を通した。

「止むまでここにいなさい」
「うん」
 コクリと素直に頷き、へへへ、と笑いを溢し、
「まっつんのおっきいね」
 余った袖口をブラブラとさせている。

 ーートスッ
 胸に矢でもが刺さったような感覚。

 更に、袖口を口元につけ、
「まっつんの匂いがする」
 そう言って昴は頬を染めている。

 ーートスットスッ
 再び胸に何かが刺さった。

 松木はふーっ、と大きく息を吐く。眉間を摘み、キツく目を閉じると再び天を仰いだ。
 この姿を見て、可愛くないと思う人間がいるのか? いるなら、逆に問いたい、なぜ可愛くないと思うのかをーー。

心と下半身を何とか鎮め、
「じゃ、俺、店戻るな」
昴に声をかけた。
「うん、ありがとう」
 店内に戻ろうと踵を返し、チラリと横目で昴を見た。
 相変わらず長い袖口を口元にあて、止みそうにない雨空を見上げている。その表情はいつも無邪気に笑顔を振りまいている昴よりも、少し大人っぽく見えた。
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