雪解ける頃、僕らは、

藤美りゅう

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 昨日の今日でさすがに今晩の晩酌は止める事にした。というよりも、昨日で酒を殆ど飲み尽くしてしまったのだ。

「お風呂先どうぞ」
 食事が済むと、タバコを燻らせている源一郎に声をかけた。
「ああ」
「下着新しいの置いてありますから、良かったら使って下さい」
「サイズ合わないだろ」
 当然、源一郎と華奢な自分ではサイズは合うはずもなく、源一郎は怪訝そうに雪明を見た。
「元彼のがあったんですよ」
「ふーん……」
「源さんと似た体系だったんで、サイズ大丈夫だと思います」
 テーブルを片付けながら雪明は言葉を続けていると、源一郎は荒っぽくタバコを灰皿に押し潰し、スクッとソファから腰を上げた。
「風呂入ってくる」
「? どうぞ」
 大股で風呂場に向かう源一郎の後ろ姿は、不機嫌なオーラを纏っているように見えた。
(さすがに、元彼の嫌だったかな? )
 少し無神経だったのかもしれない、せめてサイズを間違えて買った、くらいに言っておけば良かったと少し後悔した。

 源一郎が風呂から出ると、
「おまえが風呂から出たら、風呂場の窓直すから。忘れてたわ」
 既に機嫌は治ったようだった。
「あ、はい」
 脱衣所に入ると、見覚えのない下着がカゴに入っていた。結局、源一郎は新品の下着を履いたようだ。さすがに二日も同じ下着は気持ち悪かったのだろう。雪明は自分の汚れ物と一緒に洗濯機に放り込むと、洗濯機を回した。

(なんか、同棲してるみたいだな)
 そんな思いが浮かび、一人赤面した。
 浴室に入ると、相変わらずカタカタと小窓が鳴っている。今が低気圧のピークで、ひっきりなしに外から激しい暴風雪の音が聞こえてくる。
 体と頭を洗い湯船に浸かったが、暴風雪の音が怖くなり、早く湯船から出ようと体を起こした。

 その時、パリン! とガラスが割れる音がした。と、同時に視界が真っ暗になった。
「う、うわっー!」
 思わずその場にしゃがみ込み、目をぎゅっと閉じ耳を塞いだ。
 ドクンドクンと大きく心臓が鳴り出し、呼吸が苦しくなってくる。幼い時、祖父の家の古い蔵に入り込み、一晩閉じ込められた事があった。それ以来、暗闇がトラウマになり今でも、電気を薄っすら付けていないと不安で眠れないのだ。その時の事がフラッシュバックし息をする事すら困難になってきた。
(こ、怖い……苦しい……源さん! )

「雪! 大丈夫か!」
 源一郎の声が聞こえてくると、
「げ、源さん! 源さん!」
「雪!」
「怖い! 源さん、どこ⁈」
 雪明は這いつくばりながら、浴室を出ようした。
「動くな! 窓割れてんだろ! 怪我するぞ!」
「や、やだ! 源さん! どこにいるの⁈」
 パニックに状態になってしまった雪明は、手探りで源一郎を探した。
 パッと小さな明かりが目に入り、それが源一郎が照らす懐中電灯だと分かると、必死に手を伸ばした。
「げ、源さん!」
 源一郎の腕が伸びて来ると、ふわっと体が浮いた。源一郎にしがみついたがすぐに脱衣所の床に降ろされた。源一郎の体が離れると、雪明はすぐまた源一郎の腕を掴んだ。
「や、やだ! 行かないで! 離れないで! 怖い!」
「大丈夫だ、窓塞いでくるだけだ」
 ぽんぽんと頭を撫でられるが、雪明はその手を離そうとはしなかった。
「いやだ! 行かないで!」
 雪明は源一郎の背中に手を回し、しがみついた。
「わかった! わかったから、落ち着け」
 源一郎の胸に抱き込まれると、雪明は源一郎の胸に顔を埋めた。源一郎に優しく背中を撫でられ、雪明の呼吸が落ち着き始めた。
「大丈夫か?」
 雪明の体はまだ小さく震えている。
「濡れてんじゃねえか」
 源一郎は周囲に懐中電灯を照らし、バスタオルを見つけるとそれを手繰り寄せ、雪明の肩にかけた。次の瞬間、再び体が浮いた。源一郎に横抱きされると、雪明は源一郎の首に自分の腕をキツく絡めた。

 懐中電灯の小さな光だけを頼りに、源一郎はゆっくり歩みを進め雪明を抱えたまま、ソファに下ろした。
 カタカタと震える肩を源一郎はゆっくりと摩り、雪明の細い体を抱き込んだ。少しでも源一郎が離れるのが嫌で、雪明は必死にしがみつく。
「暗闇、ダメなのか?」
「小さい時……じいちゃんの家の古い蔵に閉じ込められた事があって…………」
 震える声でそう雪明は言った。
「服、着ないと風邪引くぞ。服取ってきてやるから、少し待ってろ」
 そう言うと源一郎の体が離れそうになるのに気付くと、首に絡めた腕を強めた。
「や、やだ! 離れないで!」
 確かに自分は全裸であったが、今は何より源一郎から離れたくなかった。
「おまえ……!」
 そんな呆れたような声が漏れたと思った瞬間、唇に柔らかい感触を感じた。一瞬混乱するが、それが源一郎の唇なのだと侵入してきた舌で悟った。
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