雪解ける頃、僕らは、

藤美りゅう

文字の大きさ
上 下
7 / 13

7.

しおりを挟む
 その時、店の方からガシャンっと大きな音がした。
「なんだ?」
 二人は慌てて下に降りるとカウンターの中にガラスが散っていた。上を見ると小さな小窓が割れ、そこから雪と風が吹き込んでいた。
「あんな所に窓あったんだ」
「ヤバイな。雪が吹き込んできてる。補強で使った板あるか?」
「あ、はい。持ってきます」
 雪明は二階の物置きに使っている、押入れから板と工具を手に再び下に降りた。
 それを渡すと、源一郎は手際良く応急処置してくれる。
「外からもやらないとダメだな」
「危ないですよ!」
「ここがまたぶち抜けたら、そこにある酒がダメになる」
 窓の正面には、お客がキープしているボトルが並んでいる。
「で、でも……」
「この前、俺が入れたウィスキーのボトルもあるんだよ」
 だったら、自分のボトルだけ避ければいいはずだ。源一郎の不器用な優しさなのだと感じた。
「じゃ、俺も手伝います」
「いい、逆に邪魔だ。大人しく上で待ってろ」
 源一郎は声を荒げ、思わず源一郎のその声にびくりと肩を揺らした。
「はい……あ、あの気を付け下さい」
 源一郎は少し呆けたような表情をすると、雪明の髪をくしゃりと撫でた。
「すぐ戻る」
 そう言って、源一郎は壁に掛かっていた自分のダウンを羽織り、工具を手に店の扉を開けた。
 ビュウ! と風と雪が店に吹き込んだ。

 仕方なく雪明は源一郎に言われた通り二階で待つ事にした。手持ち無沙汰で、夕飯の用意をしようと冷蔵庫を開けた。
(大丈夫かな、源さん……)
 現在外は爆弾低気圧の最大のピークであり、立っているのもやっとのはずだ。
 源一郎がいてくれて良かったと、心底思った。源一郎にしてみれば、家に帰れず災難だっただろう。雪明は慣れない雪国で、始めて経験する爆弾低気圧に怯えていたが、源一郎がいてくれた事で随分と心強く感じ、内心酷く安心していた。
 そして、源一郎に惹かれていた。
 あんな事があって、源一郎とは距離を取った。昨日から共に過ごし、知れば知るほど源一郎の中身に惹かれていた。男らしく頼り甲斐があり、そして何より不器用ながらにも優しい源一郎。
 無意識に、首元にある痕に手を当てた。

 階下から、バタン! と大きな音がし、どうやら源一郎が戻ってきたようだ。
「源さん! 大丈夫でした……源さん! どうしたんですか⁉︎」
 戻ってきた源一郎は、顔を抑えていた。抑えた手からは血が流れている。
「木の枝みてぇの飛んできて、直撃した……」
 雪明は源一郎をソファに座らせると、タオルを渡した。一瞬にしてタオルが真っ赤に染まっていく。
「源さん……」
「何、泣きそうな顔してんだよ」
 源一郎は痛みで顔を歪めながらも、雪明の頭に手を置いた。
 タオルを少しずらし傷口を見ると、額の真ん中が三センチ程切れていた。
「病院行きますか? 結構、深いかも……」
「いい、こんな天気に行けるわけねえだろ」
 病院は諦め、雪明は救急箱を持ってくると源一郎の前に膝をついた。
「手当てさせて下さい」
 黙々と雪明は源一郎の手当てを始めると、源一郎も目を瞑り大人しくしている。
 真近で見る源一郎の顔。鼻が高く薄くて大きい口元。彫りの深さが良く分かる。時折、閉じられた瞼がピクピクと動いた。
(ホクロがある)
 源一郎の目尻の横に小さなホクロがあった。ふと、そんな事を前にも思った気がした。
 こんな至近距離で一体いつ源一郎を見たのか。

「俺に触られて、嫌じゃないですか?」
 不意にそんな言葉が出た。
「あ? あぁ……俺はゲイは嫌いだけど、おまえが嫌いなわけじゃない」
 その言葉に雪明は涙が出そうになり、源一郎が目を閉じたままで良かったと雪明は思った。
「とりあえずこれで」
 額にガーゼを貼ると、雪明は源一郎から離れる。もっと触れていたいと思ってしまい、これ以上は危険だと感じた。
「サンキュー、雪。つか、腹減った。メシくれ」
 いつもの不躾な言葉に雪明は思わず吹き出した。
「全く、源さんにシリアスな雰囲気ってないんですね」
「そんなもん、あるか」
「オムライスでいいですか?」
 雪明は源一郎の返しを予想する。
『そんな子供染みた食い物食えるか』
 だが返って来た答えは、
「好物だ」
 思わず雪明は吹き出すと、
「意外と子供舌なんですね」
 そう言うと、源一郎は顔を赤らめ、
「悪いか」
 不貞腐れたように顔を赤らめ背けてしまった。
 また一つ、意外な源一郎の一面を知った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オレたちってなんだろうね。

アキノナツ
BL
この微妙なセックスはなんなのでしょう。 恋人同士だと思ってたオレだけど、気づいてしまった。 この人、他にイイ人が出来たんだ。 近日中に別れ話があると思ったのに、無い! 週一回、義務のようにセックス。 何なのですか、コレ? プライド高いから「別れよう」の一言が言えないのか?  振られるのも嫌なんだろうな。 ーーー分かったよ! 言わせてやるよ! 振られてやろうと頑張る話。 R18です。冒頭から致しております。 なんでもありの人向けでお願いします。 「春の短編祭2022:嘘と告白」に参加した作品です。

マッサージ天国

アキノナツ
BL
仕事帰りふらりと訪れたマッサージ店。 肩が、背中まで痛いぐらいに凝っていた。 整体に行きたいが、明日になる。ここでほぐして貰って帰って寝るのは最高だな。 気持ちいいマッサージを受ける事になった。 えーと、R18仕様です。いつもの事ながら、スカ表現があったり、しますので、苦手な方は回れ右で。 いつものぐわっと湧いて来たお話ですので、ふわっと流していく感じで、よろしくお願いします。 エロ表現が頻発するのはタイトル後ろに ※ をつけます。背後にご注意下さい。 全体にエロですね( ̄▽ ̄;) ⬜︎完結しました。(2024/07/16) 後日談的なお話は、未定。 突然、お話が降りてきたら更新あるかも的な〜( ̄▽ ̄;)で、よろしくです。 更新あるかなぁ的な時は『連載中』になってますので、ご了承下さい。

友達が僕の股間を枕にしてくるので困る

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
僕の股間枕、キンタマクラ。なんか人をダメにする枕で気持ちいいらしい。

涙は流さないで

水場奨
BL
仕事をしようとドアを開けたら、婚約者が俺の天敵とイタしておるのですが……! もう俺のことは要らないんだよな?と思っていたのに、なんで追いかけてくるんですか!

高嶺の花宮君

しづ未
BL
幼馴染のイケメンが昔から自分に構ってくる話。

九年セフレ

三雲久遠
BL
在宅でウェブデザインの仕事をしているゲイの緒方は、大学のサークル仲間だった新堂と、もう九年セフレの関係を続けていた。 元々ノンケの新堂。男同士で、いつかは必ず終わりがくる。 分かっているから、別れの言葉は言わないでほしい。 また来ると、その一言を最後にしてくれたらいい。 そしてついに、新堂が結婚すると言い出す。 (ムーンライトノベルズにて完結済み。  こちらで再掲載に当たり改稿しております。  13話から途中の展開を変えています。)

君が好き過ぎてレイプした

眠りん
BL
 ぼくは大柄で力は強いけれど、かなりの小心者です。好きな人に告白なんて絶対出来ません。  放課後の教室で……ぼくの好きな湊也君が一人、席に座って眠っていました。  これはチャンスです。  目隠しをして、体を押え付ければ小柄な湊也君は抵抗出来ません。  どうせ恋人同士になんてなれません。  この先の長い人生、君の隣にいられないのなら、たった一度少しの時間でいい。君とセックスがしたいのです。  それで君への恋心は忘れます。  でも、翌日湊也君がぼくを呼び出しました。犯人がぼくだとバレてしまったのでしょうか?  不安に思いましたが、そんな事はありませんでした。 「犯人が誰か分からないんだ。ねぇ、柚月。しばらく俺と一緒にいて。俺の事守ってよ」  ぼくはガタイが良いだけで弱い人間です。小心者だし、人を守るなんて出来ません。  その時、湊也君が衝撃発言をしました。 「柚月の事……本当はずっと好きだったから」  なんと告白されたのです。  ぼくと湊也君は両思いだったのです。  このままレイプ事件の事はなかった事にしたいと思います。 ※誤字脱字があったらすみません

幸せな復讐

志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。 明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。 だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。 でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。 君に捨てられた僕の恋の行方は…… それぞれの新生活を意識して書きました。 よろしくお願いします。 fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。

処理中です...