4 / 13
4.
しおりを挟む
時計を見ると、六時になろうとしていた。
こんな天候だと時間の感覚がなくなり、体内時計が狂ってくる。
「ご飯食べるかな?」
雪明は冷蔵庫を開けると、中を物色し始めた。
「はあー、生き返った」
そんなオヤジ臭いセリフを吐きながら源一郎が風呂から戻って来た。先程の雪明のリアクションを見て、さすがに今はTシャツを着用していた。
部屋は半袖で居られる程暖かくしている。外が寒い分、中の気温を高くしているのだ。
「オヤジくさ……」
「うるせえ……いい匂いだな」
「お腹空いてますか? ご飯食べますよね?」
「ああ、貰う」
「鍋でいいですか?」
「いいな、鍋」
どかりとソファに腰を下ろすと、ガシガシと濡れた髪をタオルで拭いている。
「あっ、風呂場の小窓、あれもう少し補強しといた方がいいぞ」
「え? 危ないですか?」
「ああ、後でやってやるよ」
「……ありがとうございます」
「ぶっ!」
源一郎は何がツボだったのか、吹き出している。
「な、何笑ってるんですか……」
「珍しくしおらしい事言ってるから、ウケた」
さっきのお返しのつもりなのか、源一郎はそう言って笑っている。
(くそっ……!)
雪明の顔が熱くなる。
コンロをセットし、土鍋を置いた。
「何鍋?」
「ミルフィーユ鍋」
「なんだそりゃ?」
「知りません?」
そう言って土鍋を蓋を開けた。
「おおー、なんだこりゃ」
源一郎は物珍しそうに、覗き込んでいる。
「豚肉を白菜で挟んでるんです」
「美味そうじゃん」
源一郎は嬉しそうに、子供のような笑みを雪明に向けた。
ドキリと雪明の心臓が鳴る。
「ビール飲みてぇな。あるならくれよ」
そんな図々しい言葉を聞き、一瞬にして源一郎へのときめいた気持ちが遠のいていく。
「ありますけど……」
冷蔵庫から冷えたビールを持ってくると、源一郎に手渡した。
「頂きます」
源一郎はきっちり手を合わせると、鍋に箸を入れた。
その仕草は、強面な源一郎からは意外で一瞬雪明は動きが止まった。
「あ、うめぇ」
「そ、そうですか、それは良かったです」
源一郎はビールのプルタブを開けると、一気に飲み干している。
(結構、いい人ではあるんだよな……ただ、ゲイが嫌いなだけで)
気持ち悪いと言われた時を思い出すと酷く落ち込むが、気持ち悪いと言いつつも、こうして自分が作った物を口にしてくれる。
ガテン系らしい食いっぷりで、ガツガツと鍋の中身が減っていく。
鍋の中身がなくなると、
「美味かった、ごっそさん」
そう言ってまた、手を合わせた。
「他のお酒飲みます? この前、お客さんにお土産でいい日本酒もらったんです」
「たまにいいな、日本酒」
「源さんは何でも飲むんですね」
「美味いものならなんでもいい」
日本酒とお猪口を用意すると、
「俺、風呂入ってくるんで、飲んでて下さい」
「ああ、勝手にやってる」
湯船に浸かりながら、源一郎と二人きりのこの状況に思いを巡らした。
(ここまで源さんと話すの始めてだな……)
端々に憎まれ口は叩かれるが、それは全然許容範囲だ。
(あの人、俺がゲイなの忘れてる? )
それならそれで、いいのかもしれない。
カタカタと風呂場の小窓が鳴った。
(源さんに補強してもらわないと)
こんな天候だと時間の感覚がなくなり、体内時計が狂ってくる。
「ご飯食べるかな?」
雪明は冷蔵庫を開けると、中を物色し始めた。
「はあー、生き返った」
そんなオヤジ臭いセリフを吐きながら源一郎が風呂から戻って来た。先程の雪明のリアクションを見て、さすがに今はTシャツを着用していた。
部屋は半袖で居られる程暖かくしている。外が寒い分、中の気温を高くしているのだ。
「オヤジくさ……」
「うるせえ……いい匂いだな」
「お腹空いてますか? ご飯食べますよね?」
「ああ、貰う」
「鍋でいいですか?」
「いいな、鍋」
どかりとソファに腰を下ろすと、ガシガシと濡れた髪をタオルで拭いている。
「あっ、風呂場の小窓、あれもう少し補強しといた方がいいぞ」
「え? 危ないですか?」
「ああ、後でやってやるよ」
「……ありがとうございます」
「ぶっ!」
源一郎は何がツボだったのか、吹き出している。
「な、何笑ってるんですか……」
「珍しくしおらしい事言ってるから、ウケた」
さっきのお返しのつもりなのか、源一郎はそう言って笑っている。
(くそっ……!)
雪明の顔が熱くなる。
コンロをセットし、土鍋を置いた。
「何鍋?」
「ミルフィーユ鍋」
「なんだそりゃ?」
「知りません?」
そう言って土鍋を蓋を開けた。
「おおー、なんだこりゃ」
源一郎は物珍しそうに、覗き込んでいる。
「豚肉を白菜で挟んでるんです」
「美味そうじゃん」
源一郎は嬉しそうに、子供のような笑みを雪明に向けた。
ドキリと雪明の心臓が鳴る。
「ビール飲みてぇな。あるならくれよ」
そんな図々しい言葉を聞き、一瞬にして源一郎へのときめいた気持ちが遠のいていく。
「ありますけど……」
冷蔵庫から冷えたビールを持ってくると、源一郎に手渡した。
「頂きます」
源一郎はきっちり手を合わせると、鍋に箸を入れた。
その仕草は、強面な源一郎からは意外で一瞬雪明は動きが止まった。
「あ、うめぇ」
「そ、そうですか、それは良かったです」
源一郎はビールのプルタブを開けると、一気に飲み干している。
(結構、いい人ではあるんだよな……ただ、ゲイが嫌いなだけで)
気持ち悪いと言われた時を思い出すと酷く落ち込むが、気持ち悪いと言いつつも、こうして自分が作った物を口にしてくれる。
ガテン系らしい食いっぷりで、ガツガツと鍋の中身が減っていく。
鍋の中身がなくなると、
「美味かった、ごっそさん」
そう言ってまた、手を合わせた。
「他のお酒飲みます? この前、お客さんにお土産でいい日本酒もらったんです」
「たまにいいな、日本酒」
「源さんは何でも飲むんですね」
「美味いものならなんでもいい」
日本酒とお猪口を用意すると、
「俺、風呂入ってくるんで、飲んでて下さい」
「ああ、勝手にやってる」
湯船に浸かりながら、源一郎と二人きりのこの状況に思いを巡らした。
(ここまで源さんと話すの始めてだな……)
端々に憎まれ口は叩かれるが、それは全然許容範囲だ。
(あの人、俺がゲイなの忘れてる? )
それならそれで、いいのかもしれない。
カタカタと風呂場の小窓が鳴った。
(源さんに補強してもらわないと)
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
Label-less
秋野小窓
BL
『お兄ちゃん』でも『リーダー』でもない。ただ、まっさらな自分を見て、会いたいと言ってくれる人がいる。
事情があって実家に帰った主人公のたまき。ある日、散歩した先で森の中の洋館を見つける。そこで出会った男・鹿賀(かが)と、お茶を通じて交流するようになる。温かいお茶とお菓子に彩られた優しい時間は、たまきの心を癒していく。
※本編全年齢向けで執筆中です。→完結しました。
※関係の進展が非常にゆっくりです。大人なイチャイチャが読みたい方は、続編『Label-less 2』をお楽しみください。
桜の奇跡 ~赤い糸の絆~
綾月百花
BL
石垣総合病院救命救急センターに務める原晃平(はらこうへい)は医師免許を持った看護師だった。失恋を機に、医師へと転身、病院も変わり、指導医は幼なじみに加納澄人 (消化器外科医)が受け持ってくれたが、原は救命救急センターに転属願いを出して、今ではドクターヘリに乗れるほど成長した。原は前の病院で後輩の看護師(男)を好きになり同棲まで考えていたが、すっぱりと断られてしまった。二度目の失恋だ。一度目の失恋は、指導医の加納澄人。
You're a liar. ーあなたは嘘つきー
藤美りゅう
BL
体育会系隣人×苦労人の貧乏青年
苦労人の貧乏青年、白瀬涼はダメ人間の兄、明の借金の保証人になり、三百万の借金を背負うはめになる。
そんなダメ人間の明に振り回さられる中、アパートの隣室に佐川という体育会系の男が引っ越してくる。
隣人となり時折二人で過ごす日々が増え、優しい佐川から初めて人の温もりに触れた涼は次第に佐川に惹かれていく。
※この作品は、他サイトでのコンテスト応募作品になります。
Label-less 2
秋野小窓
BL
『Label-less』続編です。敬語年上攻め×元ノンケ年下受け。
※単体でも読めると思います。二人の関係性を知りたい方は前作から、全年齢長編なんてクソだるい!いいからイチャイチャしろ!という方は本作からどうぞ。
※更新は不定期です。前作に比べてスローペースになります。
※一部NL要素を含みます。苦手な方はご注意ください(NLのRシーンはなし)
※字数未定です。前作と合わせて長編という設定にしています。
代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる