上 下
10 / 10

10.これが…

しおりを挟む

「仔牛のカツレツでございます。」

変な空気が一瞬で消えた。

「フィオーラ。君こそ素晴らしい選択をしたな!」
「ほんとですよ! 薄いですよ。これ。カツが。やっぱり薄いのがおいしいですよね。」
「僕も薄い方が好きだが、厚いカツのが増えて残念だったんだ。この店もそうでは、と思っていたが、これはありがたい。」

高まる期待値。これであんまりおいしくなかったら泣いてしまう…

緊張しながら一口大にきる。
「こ、これは。」
「あぁ。これだ。」
アレンも言う。
想像していた通りの味。
サクッとあがった衣。厚すぎず薄すぎず。もちろん揚げ油特有の匂いもしない。肉も薄めだ。しっかり火がとおっている。うん。このお肉のやわらかすぎない感じもいい。上の脂身もそんなに脂っぽさがない。上品。優しく口の中でほどける。

「おいしい。アレン様も好きでしょう。多分。さっきからこれしか言っていない気がしますけど。」
「フィオーラ。もうアレンとは呼んでくれないのか?」
「え?」
「さっき呼んでくれただろ。」
「それは…つい咄嗟にでてしまっただけだから。」
「呼んでくれないの?」

うなだれたような声だった。グラスをみるとお酒が減っている。
私と同じくらい飲めないのに…
って。自分も思ったより飲んでしまっている。お肉とよくあったからつい飲んでしまっていた。いつの間に頼んだのかボトルがあいている。何杯目だろう…?
それにしても普段、しっかりとしている彼がこんなんだと不思議な気持ちがした。
というか、なんかいつもと違う…?

そうだ。目だ。糸目な彼はいつも眼が見えない。どうやって物をみているのかもよくわからないが…その目があいている。
意外と綺麗な目をしている。
ずっとみてると引き込まれそうになった。

「目を閉じてほしいな。」
「なんで?」
「なんか変な感じがするから。」
「え?目開けてると、思ってたよりイケメンだった?」
「いや、どっちのアレンもかっこいいよ。アレンはイケメンの部類に入ると思うし。というかアレンいつも目を閉じてたの?変なの。」

なんでだろう。他の人にこの目を見せたくないと思った。

「あっ。アレンってよんでくれたね。僕だけ呼び捨てで、フィオーラは様をつけるなんてやっぱりおかしいからさ。というか、僕は目を閉じてる訳じゃないよ。今は意識的に大きく目を開いてるだけさ。」
「なんでもいいけどアレン。他の所で目、開けないでね。」
「えぇ。いきなりだなぁ。」
「なんか嫌なの。お願い。」
「フィオーラのお願いは無視できないことを知ってて言ってるのかい?」
「知ってたよ。昔からアレンは約束をまもってくれるもん。」

なんかすごく変なことをいってしまった気がする。
いつもは話す前に考えるが、考えていることをそのまま話ちゃっている。

「なんか変なお願いしちゃってごめんね。」
「別にかまわない。でもかわりに、僕からもお願いしてもいいかい?」
「なに?」
「二人でいるときはため口で話して。あと、アレンってよんで。」
「2つじゃない。私が言ったのは1つなのに。」
「ため口の中に呼び捨ても含んでるってことでもだめ?」
「いいよ。」
ふっと彼は笑った。
こんな事で喜んでくれているのだろうか?
そんなに嬉しいことだろうか?


よくわからないままに店をでて、アレンと別れた。
ふいにすごく名残惜しく感じた。

「アレン。また、夕飯食べに行こうね。」

彼は驚いたようにした。
そういえば、私から誘うのは初めてだった気がする。

「あぁ。」

彼は手を振ってこたえた。
私も手をふった。

帰ってベルに今日の話を報告しよう。なんていうだろう。

彼女はこれが…恋だと、そういうのだろうか。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。

ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。 なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。 妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。 しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。 この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。 *小説家になろう様からの転載です。

【完結】王太子殿下に真実の愛だと見染められましたが、殿下に婚約者がいるのは周知の事実です

葉桜鹿乃
恋愛
「ユーリカ……、どうか、私の愛を受け止めて欲しい」 何を言ってるんだこの方は? という言葉を辛うじて飲み込んだユーリカ・クレメンス辺境伯令嬢は、頭がどうかしたとしか思えないディーノ・ウォルフォード王太子殿下をまじまじと見た。見つめた訳じゃない、ただ、見た。 何か否定する事を言えば不敬罪にあたるかもしれない。第一愛を囁かれるような関係では無いのだ。同じ生徒会の生徒会長と副会長、それ以外はクラスも違う。 そして何より……。 「殿下。殿下には婚約者がいらっしゃいますでしょう?」 こんな浮気な男に見染められたくもなければ、あと一年後には揃って社交界デビューする貴族社会で下手に女の敵を作りたくもない! 誰でもいいから助けて欲しい! そんな願いを聞き届けたのか、ふたりきりだった生徒会室の扉が開く。現れたのは……嫌味眼鏡で(こっそり)通称が通っている経理兼書記のバルティ・マッケンジー公爵子息で。 「おや、まぁ、……何やら面白いことになっていますね? 失礼致しました」 助けないんかい!! あー、どうしてこうなった! 嫌味眼鏡は今頃新聞部にこのネタを売りに行ったはずだ。 殿下、とりあえずは手をお離しください! ※小説家になろう様でも別名義で連載しています。

【完結】フェリシアの誤算

伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。 正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。

欠陥姫の嫁入り~花嫁候補と言う名の人質だけど結構楽しく暮らしています~

バナナマヨネーズ
恋愛
メローズ王国の姫として生まれたミリアリアだったが、国王がメイドに手を出した末に誕生したこともあり、冷遇されて育った。そんなある時、テンペランス帝国から花嫁候補として王家の娘を差し出すように要求されたのだ。弱小国家であるメローズ王国が、大陸一の国力を持つテンペランス帝国に逆らえる訳もなく、国王は娘を差し出すことを決めた。 しかし、テンペランス帝国の皇帝は、銀狼と恐れられる存在だった。そんな恐ろしい男の元に可愛い娘を差し出すことに抵抗があったメローズ王国は、何かあったときの予備として手元に置いていたミリアリアを差し出すことにしたのだ。 ミリアリアは、テンペランス帝国で花嫁候補の一人として暮らすことに中、一人の騎士と出会うのだった。 これは、残酷な運命に翻弄されるミリアリアが幸せを掴むまでの物語。 本編74話 番外編15話 ※番外編は、『ジークフリートとシューニャ』以外ノリと思い付きで書いているところがあるので時系列がバラバラになっています。

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです

あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」 伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?

婚約者に嫌われた伯爵令嬢は努力を怠らなかった

有川カナデ
恋愛
オリヴィア・ブレイジャー伯爵令嬢は、未来の公爵夫人を夢見て日々努力を重ねていた。その努力の方向が若干捻れていた頃、最愛の婚約者の口から拒絶の言葉を聞く。 何もかもが無駄だったと嘆く彼女の前に現れた、平民のルーカス。彼の助言のもと、彼女は変わる決意をする。 諸々ご都合主義、気軽に読んでください。数話で完結予定です。

処理中です...