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10.これが…
しおりを挟む「仔牛のカツレツでございます。」
変な空気が一瞬で消えた。
「フィオーラ。君こそ素晴らしい選択をしたな!」
「ほんとですよ! 薄いですよ。これ。カツが。やっぱり薄いのがおいしいですよね。」
「僕も薄い方が好きだが、厚いカツのが増えて残念だったんだ。この店もそうでは、と思っていたが、これはありがたい。」
高まる期待値。これであんまりおいしくなかったら泣いてしまう…
緊張しながら一口大にきる。
「こ、これは。」
「あぁ。これだ。」
アレンも言う。
想像していた通りの味。
サクッとあがった衣。厚すぎず薄すぎず。もちろん揚げ油特有の匂いもしない。肉も薄めだ。しっかり火がとおっている。うん。このお肉のやわらかすぎない感じもいい。上の脂身もそんなに脂っぽさがない。上品。優しく口の中でほどける。
「おいしい。アレン様も好きでしょう。多分。さっきからこれしか言っていない気がしますけど。」
「フィオーラ。もうアレンとは呼んでくれないのか?」
「え?」
「さっき呼んでくれただろ。」
「それは…つい咄嗟にでてしまっただけだから。」
「呼んでくれないの?」
うなだれたような声だった。グラスをみるとお酒が減っている。
私と同じくらい飲めないのに…
って。自分も思ったより飲んでしまっている。お肉とよくあったからつい飲んでしまっていた。いつの間に頼んだのかボトルがあいている。何杯目だろう…?
それにしても普段、しっかりとしている彼がこんなんだと不思議な気持ちがした。
というか、なんかいつもと違う…?
そうだ。目だ。糸目な彼はいつも眼が見えない。どうやって物をみているのかもよくわからないが…その目があいている。
意外と綺麗な目をしている。
ずっとみてると引き込まれそうになった。
「目を閉じてほしいな。」
「なんで?」
「なんか変な感じがするから。」
「え?目開けてると、思ってたよりイケメンだった?」
「いや、どっちのアレンもかっこいいよ。アレンはイケメンの部類に入ると思うし。というかアレンいつも目を閉じてたの?変なの。」
なんでだろう。他の人にこの目を見せたくないと思った。
「あっ。アレンってよんでくれたね。僕だけ呼び捨てで、フィオーラは様をつけるなんてやっぱりおかしいからさ。というか、僕は目を閉じてる訳じゃないよ。今は意識的に大きく目を開いてるだけさ。」
「なんでもいいけどアレン。他の所で目、開けないでね。」
「えぇ。いきなりだなぁ。」
「なんか嫌なの。お願い。」
「フィオーラのお願いは無視できないことを知ってて言ってるのかい?」
「知ってたよ。昔からアレンは約束をまもってくれるもん。」
なんかすごく変なことをいってしまった気がする。
いつもは話す前に考えるが、考えていることをそのまま話ちゃっている。
「なんか変なお願いしちゃってごめんね。」
「別にかまわない。でもかわりに、僕からもお願いしてもいいかい?」
「なに?」
「二人でいるときはため口で話して。あと、アレンってよんで。」
「2つじゃない。私が言ったのは1つなのに。」
「ため口の中に呼び捨ても含んでるってことでもだめ?」
「いいよ。」
ふっと彼は笑った。
こんな事で喜んでくれているのだろうか?
そんなに嬉しいことだろうか?
よくわからないままに店をでて、アレンと別れた。
ふいにすごく名残惜しく感じた。
「アレン。また、夕飯食べに行こうね。」
彼は驚いたようにした。
そういえば、私から誘うのは初めてだった気がする。
「あぁ。」
彼は手を振ってこたえた。
私も手をふった。
帰ってベルに今日の話を報告しよう。なんていうだろう。
彼女はこれが…恋だと、そういうのだろうか。
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