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幼少期編
受け入れること
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きっと意味が分からなかっただろう。
それほど、私が話す未来は荒唐無稽なものだったと思う。
だって植物を育てる事など、名の通った陰陽師にもできない。
子供のたわごとだ、ただの夢だ、と切って捨ててもおかしくないような私の話を、言継は笑わなかった。
それがどんなにありがたかったか、彼は知っているだろうか。
「景子は何を怖がっているの?」
瞳を合わせて、言継が問う。
答えをすぐに見つけることが出来なかった私は「わからない」と涙声で答えた。
用意された未来は、怖いと思う。
かといって、それを変える勇気もない。
変えた先にあるだろう未来もまた、怖い。
結果、最悪の事態になったりなどしたら、目も当てられない。
堂々巡りだ。
突き詰めていけば、私は「景子である事」が怖いのだろう。
けれどそれはもう、どうしようもない事だ。
受け入れるしかない。わかっていても、怖い。
「ぜんぶ、こわいの」
手を、伸ばす。
縋るものがほしくて必死だった。
首にしがみついた私を、言継は抱きしめてくれた。
優しい手が、背中を撫でる。
「大丈夫」
落ち着きのある声が心地よかった。
「怖がる事を知っているなら、景子は大丈夫。夢で見た事を恐れているなら、同じ道は歩まないだろう?」
怖い事が起こらないように違う道を通ればいいと言う言継に、私は首を振った。
「かえてしまうことも、こわい」
「何故?」
「こわれてしまうかもしれないから」
一拍おいて、言継が笑い出した。
「景子は面白い事を言うねぇ」
声が震えている。ツボにはまったようだ。
「……にいさま」
笑い続ける彼に、思わず半眼になった。
私は、大真面目だ。本気でそう思っていたし、それを恐れていた。
けれど、そんな私の答え言継は一蹴する。
「景子が行動を変えたくらいで壊れてしまうほどに脆い未来などないよ」
陰陽師ならば星が読める。
よくない未来を回避しようとした人物など、過去にいくらでもいるのだ。
「そんなにも脆い未来など、壊して新しく作ればいいんだ」
未来がないのなら作ればいい。
描かれていないという事はつまり自由だという事。
だから何も怖がる事はないのだと言われて、目からうろこが落ちた。
「……つくる?」
ずっと、未来は決まっているものだと思っていた。
用意された道筋の通りに進むものだと。逸れてしまえば、何もないのだと。
けれど、違うのだろうか。
「景子の未来は、まだ決まっていない。これから景子が自分の手で作り上げるものだよ」
ぽんぽんと、あやすように背中をたたかれる。
伝わる体温が、ぬくもりが、あたたかい。
……生きている。
そう、感じた。
言継も、景子も、確かにこの世界に生きているのだと。
ゲームなんかじゃない。
シナリオなど存在ない。
「わたしのみらいは、わたしがつくる」
こぼれた声に、言継が同意するかのように笑った。
花のような笑顔とはこの事を言うのだろう。
きっとこの顔の前ではどんな花もかすんでしまうに違いない。
そして、そんな彼の表情を側近くで見る事が許されるのは幸せだと思った。
花が、咲いた。
桜に、山吹、桃の花。
季節外れの花々が庭に広がっていく。
不思議な光景だ。
……ああ、景子の能力だ。
そう思うのと同時に体から力が抜けていった。
驚きで目を見開く言継を最後に、私の意識は闇に沈んだ。
きっとこの時初めて、私は「景子である事」を受け入れられたのだと思う。
だから、ゲームの設定よりも早く能力が目覚めたのだ、と。
それほど、私が話す未来は荒唐無稽なものだったと思う。
だって植物を育てる事など、名の通った陰陽師にもできない。
子供のたわごとだ、ただの夢だ、と切って捨ててもおかしくないような私の話を、言継は笑わなかった。
それがどんなにありがたかったか、彼は知っているだろうか。
「景子は何を怖がっているの?」
瞳を合わせて、言継が問う。
答えをすぐに見つけることが出来なかった私は「わからない」と涙声で答えた。
用意された未来は、怖いと思う。
かといって、それを変える勇気もない。
変えた先にあるだろう未来もまた、怖い。
結果、最悪の事態になったりなどしたら、目も当てられない。
堂々巡りだ。
突き詰めていけば、私は「景子である事」が怖いのだろう。
けれどそれはもう、どうしようもない事だ。
受け入れるしかない。わかっていても、怖い。
「ぜんぶ、こわいの」
手を、伸ばす。
縋るものがほしくて必死だった。
首にしがみついた私を、言継は抱きしめてくれた。
優しい手が、背中を撫でる。
「大丈夫」
落ち着きのある声が心地よかった。
「怖がる事を知っているなら、景子は大丈夫。夢で見た事を恐れているなら、同じ道は歩まないだろう?」
怖い事が起こらないように違う道を通ればいいと言う言継に、私は首を振った。
「かえてしまうことも、こわい」
「何故?」
「こわれてしまうかもしれないから」
一拍おいて、言継が笑い出した。
「景子は面白い事を言うねぇ」
声が震えている。ツボにはまったようだ。
「……にいさま」
笑い続ける彼に、思わず半眼になった。
私は、大真面目だ。本気でそう思っていたし、それを恐れていた。
けれど、そんな私の答え言継は一蹴する。
「景子が行動を変えたくらいで壊れてしまうほどに脆い未来などないよ」
陰陽師ならば星が読める。
よくない未来を回避しようとした人物など、過去にいくらでもいるのだ。
「そんなにも脆い未来など、壊して新しく作ればいいんだ」
未来がないのなら作ればいい。
描かれていないという事はつまり自由だという事。
だから何も怖がる事はないのだと言われて、目からうろこが落ちた。
「……つくる?」
ずっと、未来は決まっているものだと思っていた。
用意された道筋の通りに進むものだと。逸れてしまえば、何もないのだと。
けれど、違うのだろうか。
「景子の未来は、まだ決まっていない。これから景子が自分の手で作り上げるものだよ」
ぽんぽんと、あやすように背中をたたかれる。
伝わる体温が、ぬくもりが、あたたかい。
……生きている。
そう、感じた。
言継も、景子も、確かにこの世界に生きているのだと。
ゲームなんかじゃない。
シナリオなど存在ない。
「わたしのみらいは、わたしがつくる」
こぼれた声に、言継が同意するかのように笑った。
花のような笑顔とはこの事を言うのだろう。
きっとこの顔の前ではどんな花もかすんでしまうに違いない。
そして、そんな彼の表情を側近くで見る事が許されるのは幸せだと思った。
花が、咲いた。
桜に、山吹、桃の花。
季節外れの花々が庭に広がっていく。
不思議な光景だ。
……ああ、景子の能力だ。
そう思うのと同時に体から力が抜けていった。
驚きで目を見開く言継を最後に、私の意識は闇に沈んだ。
きっとこの時初めて、私は「景子である事」を受け入れられたのだと思う。
だから、ゲームの設定よりも早く能力が目覚めたのだ、と。
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