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幼少期編
絶望すること
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恋をした。
実る事のない恋だった。
どんなに愛しく思っていても、どんなに心を寄せても、決して報われる日は来ない。
私は、ちゃんとそれを知っていた。
けれどそれでも好きだった。
触れる事すら出来ない、次元を隔てたところにいる彼の事が。
平安時代をテーマにした乙女ゲームがあった。
どこにでもいるような女子高生がタイムスリップし、特殊な力にめざめ、神子よ天女よと祭り上げられつつも、各種イケメン達と恋に落ちるありきたりな王道ゲームだ。
西洋ものが流行している中での原点回帰、古き良き日本の雅さを全面に押し出したそれは、和が好きな女子たちに大いにウケた。
原作が乙女ゲームであるにもかかわらず、小説化や漫画化は当然として、キャラクターソングやドラマCDが次々と発売された。ついでに言うならアニメにも映画にもなったし、声優イベントもあった。
ちなみに私は全てを網羅した。
どころか、それに飽き足らず薄い本にも手を伸ばした。
オシであるキャラの島を端から端まで、机の上にある本を全種類下さいと言って回った日々が懐かしい。
そう、懐かしいのだ。
決してこれは現実逃避じゃない。私は単純に過去を思い返し、過ぎ去った日々を惜しんでいるだけだ。
例えどんなに、現在私を苛んでいる高熱がどこからともなく引っ張ってきた記憶の数々を信じたくないと思っていても、現実逃避だけは許されない。
なぜならそれをした瞬間に私の未来は詰むからだ。
今上帝が三の姫、景子。
濡羽色の髪に黒曜の瞳、紅の唇と美人の条件を併せ持ち、整った顔立ちの将来が非常に楽しみな御年2歳の姫君である。
年が明ければ3つになる彼女こそが、今の私。
どうやら私は転生をしたらしい。
前世の私が大好きだった例の乙女ゲーのライバルキャラ、悪役令嬢ならぬ悪役皇女と呼ばれる存在に。
正直、絶望した。
そのことを思い出したのは高熱に倒れた3日前だったが、わずか2歳にしてこのまま熱に任せて儚くなってしまいたいと思うほどに絶望した。
ゲームのキャラに転生したのだから大好きな攻略対象に会えるかもしれない、と考える暇もなかった。
だって、ゲームでの景子は中々にホラーな役どころなのだ。
少なくとも私は生前、彼女のアレコレに泣いた記憶がある。
大きな神通力を持っていた神子姫。それが景子だ。
人ならざる者の姿を見て、声を聴き、言葉を交わし、異能をふるう。
彼女が住まう宮の周辺には季節を問わず花が咲き乱れ、果実がたわわに実っていたらしい。
植物を育てる事の出来る彼女の能力はまさに奇跡だった。
流石は天照の後継よと持ち上げられ、景子はとても大事にされていた。
母が典侍と言う女官であるため、身分が足りず本来なら内親王宣下を受けられないはずだったが、そのたぐいまれな力によって彼女は内親王と言う地位を得た。
けれど景子の力は成長とともに衰えていく。
力によって地位を得た景子は、力を失った自分の未来を恐れた。
ゲームのヒロインが現れたのはそんな時だ。
景子は、自分が失った力を持っている、自分よりも年上のヒロインに妬心を覚える。
そうして何故か自分が力を失ったのは彼女が自分から力を奪ったからだと考えるようになるのだ。
彼女の生き血を飲めば自分は以前のように力をふるえるようになる、と。
ホラーである。
心の底から勘弁してほしい。血は、苦手なのだ。
「すぷらったは、いやぁ……」
熱と記憶にうなされながら、私は願った。
今、私の快癒を願って祈祷している陰陽師の皆様、どうか病よりこの呪われた未来を追い払ってください、と。
実る事のない恋だった。
どんなに愛しく思っていても、どんなに心を寄せても、決して報われる日は来ない。
私は、ちゃんとそれを知っていた。
けれどそれでも好きだった。
触れる事すら出来ない、次元を隔てたところにいる彼の事が。
平安時代をテーマにした乙女ゲームがあった。
どこにでもいるような女子高生がタイムスリップし、特殊な力にめざめ、神子よ天女よと祭り上げられつつも、各種イケメン達と恋に落ちるありきたりな王道ゲームだ。
西洋ものが流行している中での原点回帰、古き良き日本の雅さを全面に押し出したそれは、和が好きな女子たちに大いにウケた。
原作が乙女ゲームであるにもかかわらず、小説化や漫画化は当然として、キャラクターソングやドラマCDが次々と発売された。ついでに言うならアニメにも映画にもなったし、声優イベントもあった。
ちなみに私は全てを網羅した。
どころか、それに飽き足らず薄い本にも手を伸ばした。
オシであるキャラの島を端から端まで、机の上にある本を全種類下さいと言って回った日々が懐かしい。
そう、懐かしいのだ。
決してこれは現実逃避じゃない。私は単純に過去を思い返し、過ぎ去った日々を惜しんでいるだけだ。
例えどんなに、現在私を苛んでいる高熱がどこからともなく引っ張ってきた記憶の数々を信じたくないと思っていても、現実逃避だけは許されない。
なぜならそれをした瞬間に私の未来は詰むからだ。
今上帝が三の姫、景子。
濡羽色の髪に黒曜の瞳、紅の唇と美人の条件を併せ持ち、整った顔立ちの将来が非常に楽しみな御年2歳の姫君である。
年が明ければ3つになる彼女こそが、今の私。
どうやら私は転生をしたらしい。
前世の私が大好きだった例の乙女ゲーのライバルキャラ、悪役令嬢ならぬ悪役皇女と呼ばれる存在に。
正直、絶望した。
そのことを思い出したのは高熱に倒れた3日前だったが、わずか2歳にしてこのまま熱に任せて儚くなってしまいたいと思うほどに絶望した。
ゲームのキャラに転生したのだから大好きな攻略対象に会えるかもしれない、と考える暇もなかった。
だって、ゲームでの景子は中々にホラーな役どころなのだ。
少なくとも私は生前、彼女のアレコレに泣いた記憶がある。
大きな神通力を持っていた神子姫。それが景子だ。
人ならざる者の姿を見て、声を聴き、言葉を交わし、異能をふるう。
彼女が住まう宮の周辺には季節を問わず花が咲き乱れ、果実がたわわに実っていたらしい。
植物を育てる事の出来る彼女の能力はまさに奇跡だった。
流石は天照の後継よと持ち上げられ、景子はとても大事にされていた。
母が典侍と言う女官であるため、身分が足りず本来なら内親王宣下を受けられないはずだったが、そのたぐいまれな力によって彼女は内親王と言う地位を得た。
けれど景子の力は成長とともに衰えていく。
力によって地位を得た景子は、力を失った自分の未来を恐れた。
ゲームのヒロインが現れたのはそんな時だ。
景子は、自分が失った力を持っている、自分よりも年上のヒロインに妬心を覚える。
そうして何故か自分が力を失ったのは彼女が自分から力を奪ったからだと考えるようになるのだ。
彼女の生き血を飲めば自分は以前のように力をふるえるようになる、と。
ホラーである。
心の底から勘弁してほしい。血は、苦手なのだ。
「すぷらったは、いやぁ……」
熱と記憶にうなされながら、私は願った。
今、私の快癒を願って祈祷している陰陽師の皆様、どうか病よりこの呪われた未来を追い払ってください、と。
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