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ミルクの優しさ
08 ー スイール村
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「…で?何か俺に、話があったの?」
誠は寸胴鍋を用意しながらアレクセイに聞いた。時間が勿体無いので、アレクセイには食器の準備をしてもらう。彼らに出すメニューは、簡単な方のカボチャのチーズ焼きとミルクスープにした。
「実は…」
アレクセイが、重い口を開く。
誠はその間にカボチャを風で覆い、その中でスライスし、更には簡易電子レンジを作り出して柔らかくした。隣のアレクセイはその様子を見て驚いている。
「マコト…?」
「こんな力のコントロールなんざ、簡単だろ?」
「いや…まあいい、話を戻そう」
アレクセイはわざとらしく咳払いをした。
「ライト達が来た時、オスカーが怒っていただろう」
「ああ、うん。ルイージも超怖かった。何、アイツら仲悪ぃの?」
「そんなことはないが、…いや、微妙だ。実は…ライトはルイージを狙っているんだ」
「は?え、そうなのか?」
驚きつつも、誠は手を止めない。鳥系の魔獣肉を細かく風の力で切ると、ついでとばかりに小さな穴を開ける。そして鍋に水と牛乳、そして固形のコンソメをいくつか落とし、火をかけた。
アレクセイには浅い耐熱皿を出してもらう。その間に誠は挽肉を炒めはじめた。
「オスカーはオスカーで、食事中に乱入されたり五月蝿いのは嫌いだしな」
「うっわ、チョー分かる。俺も食事中に邪魔されるのだけは無理だわ。ライト、両方当て嵌まってんじゃん」
「残念だが、そうだ。それにアイツは元々、静かな場所が好きなタイプだしな」
「マジか。レビって、ちょっと五月蝿い時があると思うんだけど」
「確かにな。だが戦力的に考えると、レビは前衛でオスカーは遊撃だろう。俺との連携を考えると、必然的に今回のように小班を組んで遠征に行くことが殆どだったんだ。だから慣れるしかなかったんだろう。まあ、レビ自体は悪い奴でもないし、注意すればしっかり聞いてくれるし」
「なるほど」
はじまりの森でオーガ亜種を倒した後で、レビは誠とアレクセイにしっかりと謝っている。誠としては別に気にしていなかったのだが、若い考えと感情が騎士団としてこれからやっていけるのかと少しだけ心配していた。
あの後レビはルイージにも怒られ、オスカーにはどうしてダメだったのかこと細かに戦中の例を出されて説明されていたし、レビはレビでしっかりと考え質問をしながら聞いていたので、今までもそうやってアレクセイもオスカーも面倒を見ていたのだろう。
素直な性格だから、少し話をすれば大抵の者はレビを気に入る。誠もいつの間にか、レビとも仲良くなっていたのだ。自分以上に付き合いの長いオスカーは、もっとだろう。
「おそらくは、レビがボーダーラインだ」
「じゃあライトって、レビより五月蝿いってことか…」
アレクセイが少し眉を顰めたのを見て、誠は彼が班を纏めることに苦労しているのを垣間見てしまった気がした。
「そう言えば、そのレビってさぁ…ルイージと付き合ってんの?」
犬系獣人だから余計に仲が良いのかと誠は思っていたが、連日あの二人のやり取りを見ていると、どうやらそれ以上の仲に見えてしまう。
食事中はそれが顕著 に出ていて、レビはせっせとあの大食い王子に給仕をしているところをよく見かけるのだ。
アレクセイは頷き、「そうだ」と言った。
「うわぁ…じゃあ向こうは今、修羅場じゃねぇか」
「かもしれんな。はぁ…頭が痛い」
「お疲れ様。つーか、騎士団って職場内恋愛は大丈夫なのか」
誠は苦笑いを浮かべながら、鍋に追加の野菜を入れた。火の通りやすいキノコ各種と、雷レンジで柔らかくしたほうれん草。仕上げには黒胡椒をガリガリと、ミルで引く。
「美味そうだな…いや、そうだな。獣人はヴォルク家のように、このヒトだと思うツガイを見つける者が多い。だから、そういう規制は設けていない」
「そうなんだ。あ、後で味見する?本当はベーコンとか燻製肉を入れるんだけど、肉の方が良いだろ」
「ああ。飯でも食って、落ち着いてくれれば良いのだがな」
「あんま五月蝿いんだったら、俺が何とかするよ」
誠はこれでも、たまに実家のカフェではフロアに出ることがある。
と言うのも、フロア兼バリスタの父では対処できない相手…つまり神やその眷属、妖怪達がごく稀に問題を起こすことがある。純度百パーセント人間の父では危険なために、そういう時は爆弾処理班のごとく、誠か兄が対処に向かうのだ。
その対処法とは、ただのお話し合いだ。もしくはボディランゲージとも言う。
「café 紺」では、他の客に迷惑をかける客は、例え神であろうと客とは言わない。邪魔者、むしろ店内に入り込んでしまった羽虫以下の存在になる。
これは始祖達が営む温泉宿でも同じ方針で、しかも向こうの方が解決方法はもっと手荒だ。
「しかし…大丈夫か?ライトと言えど、アイツは一班の中でも実力だけはあるんだ」
アレクセイは心配そうな表情で、誠の頬を撫でる。いくらアレクセイがそう言えど、誠はライト程度には負けない自信があった。
「大丈夫だって。それに、危なくなったらアレクセイが居るし」
そう言ってやると、アレクセイの動きが一瞬止まった。誠が自分を頼ってくれるとは思わなかったのだろう。銀の尾は、すぐさま勢いよく揺れだした。
誠としてはリップサービスのつもりだったが、半分は本心だ。いつもなら自分だけで片付けるのに、アレクセイなら半分背中を預けられる。
アレクセイの尾を横目に、誠は耐熱皿に挽肉を敷いて、その上にスライスしたカボチャを並べた。上からチーズをたっぷりと乗せたら、それらはオーブン行きだ。
しばらくすると、オーブンからはチーズの溶けた匂いが流れてくる。誠はスープをよそい、次々にワゴンに乗せていった。
「さて。冷めないうちに、スープを持って行こう」
「夕飯後に悪いな。ありがとう、マコト」
ワゴンを押す誠に、アレクセイが続いた。
誠は寸胴鍋を用意しながらアレクセイに聞いた。時間が勿体無いので、アレクセイには食器の準備をしてもらう。彼らに出すメニューは、簡単な方のカボチャのチーズ焼きとミルクスープにした。
「実は…」
アレクセイが、重い口を開く。
誠はその間にカボチャを風で覆い、その中でスライスし、更には簡易電子レンジを作り出して柔らかくした。隣のアレクセイはその様子を見て驚いている。
「マコト…?」
「こんな力のコントロールなんざ、簡単だろ?」
「いや…まあいい、話を戻そう」
アレクセイはわざとらしく咳払いをした。
「ライト達が来た時、オスカーが怒っていただろう」
「ああ、うん。ルイージも超怖かった。何、アイツら仲悪ぃの?」
「そんなことはないが、…いや、微妙だ。実は…ライトはルイージを狙っているんだ」
「は?え、そうなのか?」
驚きつつも、誠は手を止めない。鳥系の魔獣肉を細かく風の力で切ると、ついでとばかりに小さな穴を開ける。そして鍋に水と牛乳、そして固形のコンソメをいくつか落とし、火をかけた。
アレクセイには浅い耐熱皿を出してもらう。その間に誠は挽肉を炒めはじめた。
「オスカーはオスカーで、食事中に乱入されたり五月蝿いのは嫌いだしな」
「うっわ、チョー分かる。俺も食事中に邪魔されるのだけは無理だわ。ライト、両方当て嵌まってんじゃん」
「残念だが、そうだ。それにアイツは元々、静かな場所が好きなタイプだしな」
「マジか。レビって、ちょっと五月蝿い時があると思うんだけど」
「確かにな。だが戦力的に考えると、レビは前衛でオスカーは遊撃だろう。俺との連携を考えると、必然的に今回のように小班を組んで遠征に行くことが殆どだったんだ。だから慣れるしかなかったんだろう。まあ、レビ自体は悪い奴でもないし、注意すればしっかり聞いてくれるし」
「なるほど」
はじまりの森でオーガ亜種を倒した後で、レビは誠とアレクセイにしっかりと謝っている。誠としては別に気にしていなかったのだが、若い考えと感情が騎士団としてこれからやっていけるのかと少しだけ心配していた。
あの後レビはルイージにも怒られ、オスカーにはどうしてダメだったのかこと細かに戦中の例を出されて説明されていたし、レビはレビでしっかりと考え質問をしながら聞いていたので、今までもそうやってアレクセイもオスカーも面倒を見ていたのだろう。
素直な性格だから、少し話をすれば大抵の者はレビを気に入る。誠もいつの間にか、レビとも仲良くなっていたのだ。自分以上に付き合いの長いオスカーは、もっとだろう。
「おそらくは、レビがボーダーラインだ」
「じゃあライトって、レビより五月蝿いってことか…」
アレクセイが少し眉を顰めたのを見て、誠は彼が班を纏めることに苦労しているのを垣間見てしまった気がした。
「そう言えば、そのレビってさぁ…ルイージと付き合ってんの?」
犬系獣人だから余計に仲が良いのかと誠は思っていたが、連日あの二人のやり取りを見ていると、どうやらそれ以上の仲に見えてしまう。
食事中はそれが顕著 に出ていて、レビはせっせとあの大食い王子に給仕をしているところをよく見かけるのだ。
アレクセイは頷き、「そうだ」と言った。
「うわぁ…じゃあ向こうは今、修羅場じゃねぇか」
「かもしれんな。はぁ…頭が痛い」
「お疲れ様。つーか、騎士団って職場内恋愛は大丈夫なのか」
誠は苦笑いを浮かべながら、鍋に追加の野菜を入れた。火の通りやすいキノコ各種と、雷レンジで柔らかくしたほうれん草。仕上げには黒胡椒をガリガリと、ミルで引く。
「美味そうだな…いや、そうだな。獣人はヴォルク家のように、このヒトだと思うツガイを見つける者が多い。だから、そういう規制は設けていない」
「そうなんだ。あ、後で味見する?本当はベーコンとか燻製肉を入れるんだけど、肉の方が良いだろ」
「ああ。飯でも食って、落ち着いてくれれば良いのだがな」
「あんま五月蝿いんだったら、俺が何とかするよ」
誠はこれでも、たまに実家のカフェではフロアに出ることがある。
と言うのも、フロア兼バリスタの父では対処できない相手…つまり神やその眷属、妖怪達がごく稀に問題を起こすことがある。純度百パーセント人間の父では危険なために、そういう時は爆弾処理班のごとく、誠か兄が対処に向かうのだ。
その対処法とは、ただのお話し合いだ。もしくはボディランゲージとも言う。
「café 紺」では、他の客に迷惑をかける客は、例え神であろうと客とは言わない。邪魔者、むしろ店内に入り込んでしまった羽虫以下の存在になる。
これは始祖達が営む温泉宿でも同じ方針で、しかも向こうの方が解決方法はもっと手荒だ。
「しかし…大丈夫か?ライトと言えど、アイツは一班の中でも実力だけはあるんだ」
アレクセイは心配そうな表情で、誠の頬を撫でる。いくらアレクセイがそう言えど、誠はライト程度には負けない自信があった。
「大丈夫だって。それに、危なくなったらアレクセイが居るし」
そう言ってやると、アレクセイの動きが一瞬止まった。誠が自分を頼ってくれるとは思わなかったのだろう。銀の尾は、すぐさま勢いよく揺れだした。
誠としてはリップサービスのつもりだったが、半分は本心だ。いつもなら自分だけで片付けるのに、アレクセイなら半分背中を預けられる。
アレクセイの尾を横目に、誠は耐熱皿に挽肉を敷いて、その上にスライスしたカボチャを並べた。上からチーズをたっぷりと乗せたら、それらはオーブン行きだ。
しばらくすると、オーブンからはチーズの溶けた匂いが流れてくる。誠はスープをよそい、次々にワゴンに乗せていった。
「さて。冷めないうちに、スープを持って行こう」
「夕飯後に悪いな。ありがとう、マコト」
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