神様の料理番

柊 ハルト

文字の大きさ
上 下
26 / 150
ミルクの優しさ

02.75 ー スイスかフランスか

しおりを挟む
 誠達がスイール村に到着した頃、王都騎士団の第一部隊長室には秋の遠征に行っている者達から、次々と魔獣の亜種が出現したと報告が上がってきていた。

「ミョート村だけではないとはな…」

 その書類を見ながら、長い足を組んだフレデリクはごちた。
 重厚な執務用の机は余計な飾りがない分、木目や黒く塗られた色が綺麗に出ている。まさにフレデリクが使うに相応しい机だった。

「どうしますか。追加の部隊を出しましょうか」

 報告を持って来たローゼスが、フレデリクの側で問いかける。
 こんな事態は初めてだ。ローゼスの尾は、少し膨らんでいた。

「そうだな…その前に、他の領地の様子が知りたい。見てみろ、ローゼス。報告が上がっている箇所がどこかを」
「失礼します」

 ローゼスが書類を覗き込むと、亜種が出現した地域には共通点があった。

「はじまりの森…」
「そうだ。これは偶然なのか、必然なのか」
「そうですね。気になります」
「ああ。…君の友人達の力を借りよう。どうせ第三部隊はろくに情報を下さんだろう」

 王都騎士団はいくつかの部隊に分かれており、その部隊毎の役目が違う。フレデリク率いる第一部隊は王都騎士団の花形と言われ、主に魔獣討伐を行っている。今は和平が結ばれているが、ひと昔前は国の剣として戦っていた。
 フレデリクが言う第三部隊は、いわゆるスパイ集団だ。日本の警察で言うと、公安に近い。
 当時は確執が酷かった王都騎士団だが、大々的な世代交代が行われた際に、改革が行われた。その時に部隊間の風通しが改善されたのだが、未だに旧体質に囚われている者は多い。
 それをブチ壊すのが、フレデリクの役目でもあり、目標だ。
 そのための種は、すでに蒔いている。その種の中でも一際綺麗に咲き誇っているのは、己の右腕にもなったローゼスだ。

「カージナルが戻って来ているので、聞いてみます」
「頼んだよ、私の月」
「フレデリク様…」

 フレデリクは、長い尾をスルリと隣の尾に絡める。
 孤児院から自分の側近まで上り詰めた、己の猫の反応を見やる。勤務中なので、流されまいと耐えているその表情をもっと見たくなる。この子猫は、昔からそうだ。
 ローゼスが真っ直ぐ自分を見ているからこそ、自分は自分でいられる。

「さあ、行っておいで」

 常に手中で愛でられたら、どんなに幸せなのだろうか。フレデリクはローゼスに仕事を任せる時に、いつもそう考えてしまう。
 けれど、ローゼスの願いは己の剣であり盾であり続けることだ。例えフレデリクと言えど、騎士団に、しかも自分の側近になりたいとあの日から強く願い続けている、彼の想いを潰すことはできない。
 足音を立てず、スルリと執務室を出て行ったローゼスの後ろ姿を見送ったフレデリクは、小さな溜息を吐いた。

「駒は着実に揃っている…そんなところか」

 フレデリクは引き出しの奥に隠された一冊の古い本を取り出し、目的のページを開きながら呟いたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

賢者となって逆行したら「稀代のたらし」だと言われるようになりました。

かるぼん
BL
******************** ヴィンセント・ウィンバークの最悪の人生はやはり最悪の形で終わりを迎えた。 監禁され、牢獄の中で誰にも看取られず、ひとり悲しくこの生を終える。 もう一度、やり直せたなら… そう思いながら遠のく意識に身をゆだね…… 気が付くと「最悪」の始まりだった子ども時代に逆行していた。 逆行したヴィンセントは今回こそ、後悔のない人生を送ることを固く決意し二度目となる新たな人生を歩み始めた。 自分の最悪だった人生を回収していく過程で、逆行前には得られなかった多くの大事な人と出会う。 孤独だったヴィンセントにとって、とても貴重でありがたい存在。 しかし彼らは口をそろえてこう言うのだ 「君は稀代のたらしだね。」 ほのかにBLが漂う、逆行やり直し系ファンタジー! よろしくお願い致します!! ********************

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

処理中です...